59……neun und fünfzig(ノインウントフュンフツィヒ)……大爆発
瞬と睛は楽しそうに見守る。
「睛ちゃん。那岐お兄さん、ご両親と楽しそうだね〜」
「うん。あ、お茶……」
持ってきていたポットからお湯を出し、お茶を淹れ、自分が作ったお菓子と共に差し出す。
「あ、すみません。お茶とお菓子をどうぞ」
「お菓子?」
「は、はい。私が作ったものなのですが、お口に合うか……甘いのがよろしければ、こちらを。ほんのりが良ければ、こちらを」
持ってきた棒状のものを切ったもの。
「普段はちゃんと作るのですが、時間がなくて、前、ネットにあったので、作ってみたのです」
「これは……」
「いただきます! うーん……美味しい!」
那岐の母、糺は頬を抑える。
「これ、ミルクレープだわ! 凄い! とっても美味しい!」
「……! 本当だ。こっちは、インスタントコーヒーを粉状にして混ぜてる。でも、これは丁度いい美味しさだ。睛さんだったね。ありがとう。うちでは、悪友が作る和菓子が多いんだ。久しぶりに食べたよ。優しい味だね」
「ありがとうございます。本当は本格的なミルクレープを作ろうと思っていたのですが、時間がかかると思って……」
「あぁ、ミルクレープは時間がかかる。でも、これなら逆にいいとおもう。こら、那岐。お礼は?」
自分より先に、瞬に食べさせていた那岐は慌てて口にして、礼を言う。
「あ、ありがとう! 睛ちゃんにはいつもご迷惑をかけてます。えっ? これは?」
渡された紙バックを受け取り、キョトンとする。
「余分に作ったから、この後、仕事ですよね? お腹が空いたら食べてください」
「エェェェ! 良いの? 本当にありがとう。嬉しいなぁ!」
目を輝かせる那岐。
那岐はいいものを口にしてきたので、味覚に敏感で、その上、作るには手間がかかることを教わって育ったので、睛が作ってくれたと聞いて本当に嬉しかった。
すると、睛は中身を開けて、
「これは生クリーム、カスタード。こちらはお父さんが言われていた、生クリームにコーヒーを混ぜたのと抹茶。最後のこれは、これから出すのの残りですが、和菓子風と言うか餡子があったので、こんなふうに」
「うわぁ……睛ちゃん! お菓子屋出来るよ。凄い」
別の袋から妹の皿、そして那岐の家族の皿に乗せていく。
「どうぞ」
「本当に凄いな。これは。醍醐にメールで送っておくか。ごめんよ、睛さん。写真を撮らせてもらえるかな?」
睛は頷くと、スマホで撮り、そして内容を簡単に書くと送る。
「これは本当に、美味しい」
「だなぁ。瞬ちゃん、はい、あーん」
那岐は食べさせている。
すると、日向は心配そうに、
「瞬ちゃんの怪我はどうだ? 臣がパニックになってたが」
「えっと……顔は無事です!」
瞬は、えへっと笑う。
まだ高校一年生だが、本当に小柄で可愛い女の子である。
「えと……父さん。両手のひら、両腕、他には、胸の上とか傷だらけなんだ」
那岐は、ストローでぬるめのお茶を飲ませ、口を拭いてやりながら答える。
「だから、この両手の包帯は、縫ってるからと言うのと、傷が深くて筋を痛めたので、動かさないように固めているんだよ。首とかは薄い傷だけど、両手は不自由になるかもしれないって……」
「……そうか……」
「だ、大丈夫ですよ! 頑張ります! えと、学校は無断欠席になっているので、留年になっちゃうんですが……学校に連絡したら、入院だけじゃなくて退院しても、手が使えない間はリモート出席になるんですけど……」
那岐はわしゃわしゃと頭を撫でる。
「無理に笑うんじゃないぞ。痛みだって酷いんだ。それに親指一本動かさないように真っ直ぐ伸ばして包帯を巻いてるのに……今でもちょっと熱があるだろう?」
「だ、大丈夫です! 一人……嫌です。那岐お兄ちゃんは仕事……だから、仕方ないけど……本当は、もうちょっと時間ゆっくりして欲しい……お話面白い。本当のお兄ちゃんだったらいいのに……」
「……!」
日向と糺は息子を見ると、那岐が固まっている。
那岐は瞬を恋愛対象外と見ているが、ゲーム上でも可愛い妹だった為、内心可愛いと悶えている。
「げ、元気になってきたら、遊びに行こうか? 大型レジャー施設より、どこか皆でドライブもいいなぁ。あぁ、車椅子はちゃんと押すから」
これから仕事と、ギリギリで慌てて出て行った那岐を見送り、ふと思い出したように聞く。
「瞬ちゃん。何を見ていたの?」
「あ、那岐お兄ちゃんがくれたんです。この間のイベントの未編集DVDです。それにこっちは、参加していた皆さんのサインです。それにこのテディベアに、ヴィヴィアンお姉さんと、ウェインお兄さんと、シェリルちゃんのサインを。私、雅臣さんにテディベアをプレゼントで貰ったんです。愛来さんって言う日本の作家さんのです。この子はヴィヴィ&フユっていう作家さんのです。腕に抱っこされてるのは、アンジュさんっていう……」
「その愛来は、那岐の兄嫁。フユさんは私達にとって姉であり、もう一人の母みたいな感じかな。愛来の祖母に当たる人で風に遊ぶと書いて風遊さんという。テディベア作家で、ヴィヴィの親友。風遊さんの長女が、声優の高凪光流の嫁の茜の母で雛菊。養女だけど。で、次女が蛍。蛍の双子の兄が穐斗。俺たちの可愛い弟だった」
日向は呟く。
「穐斗と愛来はよく似てる。愛来の祖母になる風遊さんも。愛来と蛍、穐斗は、茶っぽい金髪で、穐斗本人は隠してたけど青い目だった。蛍の異母姉妹が雛菊とウェインのお母さん。蛍はハーフ、愛来はクウォーターだから。で、茜はハーフだ」
「えっ? 茜さんのお母さん……」
「異母姉妹。母親は解らない。風遊さんが高校時代にドイツやイギリスなどに留学兼仕事をしたんだよ」
「テディベア作家って言ったでしょう? 風遊さん働きながら勉強して、ドイツのテディベア会社やその地域を回り、そしてイギリスに行ったの。で、ある有名な俳優さんの元で通訳として、娘同然に可愛がって貰ったの。そこでパーティーがあって出会った」
「それは、あの小説の……」
睛は目を見開く。
瞬も生まれていなかった頃の作品だが、父や祖母が……。
「瞬ちゃん〜! 久しぶり〜!」
突然扉が開き、入ってきたのは、瞬と睛の祖母。
顔立ちは、睛の双子の姉、瞳に似ている。
「お、おばあちゃん!」
「まぁぁぁ! なんて事! 私の可愛い瞬ちゃんがぁぁ! 信じられない! 犯人を殴り飛ばしてもいいわよね? 紀良ってば口うるさいのよ。本当に誰に似たのかしら? 私に似て欲しいわ。あのクズ男のはずはない! あっ! あのクズが再再再婚して、捨てたっていう昶って言う子を引き取りに来たけど、いいご夫婦の子供に引き取られてホッとしたわ……」
「えっ? おばあちゃん、イタルさん知ってるの?」
スタンガントークの合間に割り込んだ瞬の問いに、あっさりと答える。
「紀良の母親違いの弟よ。確か、翻訳家の安部祐也さんだったかしら? あの子とも紀良は異母兄弟ね」
爆弾を投下され、唖然とする夫婦を見て、
「あらぁ? 瞬ちゃん、睛ちゃん。この方がたは?」
と問いかけたのだった。




