58……acht und fünfzig(アハトウントフュンフツィヒ)……那岐の両親
瞬は、那岐に操作してもらい、この間のイベントのDVDを見る。
編集していないというイベントのDVDを貰ったが、貰っていいか確認をして許可を得て貰った。
「本来、こんな貴重なものを貰える人間ではないので、申し訳ないです」
と言ったところ、那岐が、
「何遠慮してんの? 瞬ちゃんは俺の妹なんだから。あ、そだ。今度、俺の両親が来るんだ。仕事関係のことで。迷惑かけたらごめんな」
「エェェェ! あの、あの……日向糺先生と、糺日向先生が!」
瞬の着替えと、瞬が寂しがってはいけないと本は無理だが、DVDやCDを持ってきていた睛は目を見開く。
「しゃ、写真も見たことありません。で、でも、那岐くんのご両親なので、素敵なご夫婦なんでしょうね」
「あー、普通の親父とおば……お姉さんだよ。うん……」
「……今なんて言った?」
背後から聞こえる声に、那岐が飛び上がった。
「おわっ、び、びびび、びっくりした! と、父さん、母さん。今日来るなんて言ってなかったじゃないか!」
「ん? 言ったぞ? すぅ? ちゃんと伝えてくれたよな?」
「うん! 今日って……あれ? あ、間違えた? あ、水曜日と木曜日間違えちゃった!」
那岐に似た丸い瞳の年齢不詳の女性が、眼鏡をかけた父より若い男性を見上げ訴える。
「ひなちゃーん! どうしよう! ホテル予約サイト、木曜日になってる〜」
「はっ? すぅ〜! だからちゃんと曜日や日付は間違えないようにと、スマホのスケジュールだけじゃなく、スケジュール帳も書いておいたのに」
「ごめんなさ〜い! ひなちゃ〜ん」
両親の初っ端からの会話に脱力する那岐に、恐る恐る睛が、
「あの……お座りになられますか? それに、何でしたら、家に泊まってください」
「あ、申し訳ない。病室で……」
男性は頭を下げると、照れ臭そうに笑う。
「先にご挨拶を。私はこの那岐の父で、雅臣の兄の一条日向と申します。こちらが妻の糺です。二人がご迷惑をおかけしています」
「初めまして。糺と言います。よろしくお願いします。……っ! ひなちゃん!」
淡いピンクのスーツがとても似合う糺が、夫のスーツを引っ張る。
「どうした? すぅ」
「どうしよう! 可愛い! 臣ちゃんに瞬ちゃんのことは聞いてたの〜! お人形さんみたいって。本当だわ、すっごく可愛い! いやぁぁ! でも、この子も可愛い〜! キャァァ。は〜ちゃんには愛来ちゃんがいるからダメよね。じゃぁ、なっちゃんのお嫁さんに……」
「なっちゃん……?」
瞬と睛は顔を背けている大柄な那岐を見る。
「那岐のことだ。すぅは後で合流する祐也は祐也くんだが、他は皆ちゃんづけだ。あぁ、祐也の兄で同級生の一平先輩と、ウェインはくんづけだが」
「やめてくれよ〜母さん。人様の前ではちゃんと名前を呼んでくれよな。瞬ちゃんや睛ちゃんの前で恥ずかしい」
「え〜と、は〜ちゃんとなっちゃんは……なんて名前だった? ひなちゃん! 私ボケだしたのかしら? どうしよう! 息子の名前覚えてないわ! 病院行かなきゃ!」
「大丈夫だ。すぅは、昔からそうだ! 病院に行く事はない」
慌てて止める。
「それに風早と那岐だろう」
「あぁ、そうだったわ。なっちゃん。ママ、おばあちゃんになりたいの!」
「はぁぁ? また急に、なったのか? 愛来に赤ん坊が?」
「ううん。無理でしょ? 遠距離ですもん。だから〜早くなっちゃんか臣ちゃんに、結婚して欲しいの!」
「臣にい……臣さんにそんな暇はない! それなら、今ここにいる」
那岐は真面目な顔で言い切る。
「仕事が立て込んでるんだよ。母さんたちも分かるだろ? 父さん達は家に絶対取材陣呼ばなかった。こっちに出てきてたじゃないか」
「仕方ないだろう。祐也と蛍に取材陣が殺到するんだ。家に侵入するんだぞ? お前が5歳になるまでに何人捕まったか」
「そうよ〜。一回なんて愛来ちゃん誘拐よ? 祐也くんキレちゃって、犯人ボコボコだもの」
那岐は思い出し、青ざめた。
小学校入学前、愛来が誘拐された。
愛来は、本当に母親や祖母に瓜二つの美少女で、田舎だけでなく、週に一回家族で出かける街の大型スーパーの買い物で、高齢の爺ちゃん婆ちゃんに可愛がられ、飴をもらったり頭を撫でてもらったりと可愛がって貰っていた。
しかし、那岐のこの目の前の両親が有名な小説家で、祐也が翻訳家だと知られると、地域は良いのだが、何故か情報を欲しがる人間が家の周囲に現れるようになった。
そして、そこでテディベアを抱っこして遊んでいた愛来を、誘拐した命知らずがいたのだ。
那岐は思う……俺だったら、親父や祐也を敵に回したくはない。
なぜなら、目の前で見たのが温厚な叔父だと思っていた祐也が、親指一本で男を引きずり、宙に吊り上げ、そしてボコボコにサンドバックのように殴り飛ばし、ついでにと蹴り上げ、坂が急な果樹園を転がり落ちたのだ。
相手は骨折したが、
『あぁん? やりすぎ? んなもんねぇよ。あのクズは、大切な可愛い俺の子供を誘拐したんだ。二度とすんなと解らせねぇと、また来るからな。俺がヒッチハイクしてた頃なんて、俺がガキだと侮りやがって。襲われる前に車の鍵を、砂漠になげて食料持って逃げる方がマシだぜ』
と、堂々と英語で言い放った。
日本語は、柔らかいと言うか普通の温厚な青年だが、彼は、生まれも育ちも海外でネイティブが基本英語。
しかも、スラングのきつい地域だったので、英語で喋る時はキレているか、本性である。
「それより、その口調、本気で蛍とあの子が泣くぞ」
と、日向が言うと、
はっ!
と我に返ったかのように、
「蛍とあの子は大丈夫ですか!」
と、立ち上がった。
愛来は叫ばないよう口を押さえられた時に、頬に擦り傷ができたのだが、それよりも、
「パパぁぁ……うあぁぁん! パパ、抱っこ〜! パパ、抱っこして〜!」
としがみつき、後で聞くと、父の悪友の醍醐が、
「子供を取り戻した直後の手負いの虎」
と言ったらしい。
「臣ちゃん、結婚しないのかしら……私と言うか、ひなちゃんなんて18で結婚よ? まぁ、子供は大学卒業してからを予定してたけど。大学辞めちゃったのよね〜。一年早かったわ」
「こら。息子やまだ若い子の前で言わない」
「一応、22の時はーちゃん、24の時になっちゃんだもの」
「母さん。年が解るぞ。俺は母さんの年齢、睛ちゃんや瞬ちゃんに言ってないぞ。臣にいもだぞ。自分で言うなよな。母さん年齢言わなきゃ、俺くらいの息子いるように見えない、若くて可愛いんだから」
「……ひなちゃん! なっちゃんが! 女たらしみたいなこと言ってる!」
糺が目を見開く。
「こう言わないと、ぶん殴られたじゃないか」
那岐は渋い顔になる。
日向は満足げに頷く。
「ちゃんと育った。祐也や醍醐の所は女の子ばかりだったが、うちだけ男ばかりで、厳しく育てて良かった」
「何言ってんだよ。祐也おじさんとこには……あー、一登がいるだろ」
「一登はまだ3歳だろう。あのヤンチャ坊主。じいちゃん婆ちゃんは大喜びだ」
「じいちゃん達、そう言えば元気?」
「まぁ、歳だからな……80だ。で、今言うのが、お前の嫁と臣の嫁だ」
那岐は叫ぶ。
「どうして、臣にいなら解るけど、俺なの? それなら、蛍姉さんの妹どもに言えばいい!」
「……言うな。蛍や蛍のお母さんの風遊さんに似たら可愛いが、皆醍醐似で16になったら空気銃、18になったら銃と檻、罠の資格を取って、あちこち行ってるぞ」
那岐は遠い目をする。
自分も一応持っているが、実家に銃を保管してもらっている。
持ってきたら、警察署だの役所に書類提出である。
しかし、幼なじみとはいえ、結構気の強い五人姉妹は、怖い存在である。
「父さん……時間があったら、冬の猟参加するよ」
五人姉妹に笑われないように、と呟いたのだった。




