52……zwei und fünfzig(ツヴァイウントフュンフツィヒ)……睛ちゃんのくどくてウザい人
母の美稚子を途中で拾い、そして、瞳と睛は、病院の最寄りの駅で父の紀良と待ち合わせていた。
結城紀良……瞬達三姉妹の父親である。
紀良は、シングルマザーで育ててくれた母が、宝塚やグループサウンズから、フォークソンググループに燃え上がる世代で、生まれた息子に今で言うキラキラネームをつけた。
しかも本当は、綺羅と言う名前を出生届に書いて出そうとしたのを、名しか知らない父親がすり替えたらしい。
一応、父は結婚したかったらしいが、父本人の度々の浮気と、最後に地元の名士の娘との見合い話が持ち上がったと聞き、すぐに別れるわよね? と母が聞いても、すぐに返答がなかったので殴り飛ばし、蹴りを入れ骨を数本折って追い出したのだと言う。
そして即、生まれた紀良を連れ、海外を転々とした。
大学を卒業して紀良は日本で就職するから、帰るつもりだと伝えた時に、
「私は好きなように生きるわ〜」
と、超マイペースな生活をしている。
しかし、息子が結婚した美稚子を可愛がり、そして、娘達を溺愛しており、先程一応見つかったと連絡を入れたら、
「……キラ。良かったわぁ。丁度私も、日本にいるのよ。まーちゃんに会いに行くわ」
と超ご機嫌だった。
犯人がその場にいないことを祈るばかりである。
「あ、ここだよ」
「じゃぁ、パパ、ママ。先に行って。駐車場、結構込み入ってるみたいだし、瞳ちゃん方向音痴だから、私が見てる」
睛の言葉に、二人は、
「睛。頼むよ?」
「瞳ちゃん。荷物お願いね!」
と、忙しげに車を降りた。
二人は受付に向かうと、
「申し訳ありません。私達は結城瞬の両親です。あの、先程連絡を頂きまして……」
話しかけていると、近くに立っていた長身でがっしりとした青年が近づいてくる。
しかし、右腕を三角巾で吊っている。
「すみません。結城瞬ちゃんのご家族でしょうか?」
ハキハキとしているが丁寧な話し方である。
「私は一条那岐と申します。上のお嬢さんに電話をかけたのが私です。瞬ちゃんはまだ治療中です。多分、ここに来られていると思いましたので……」
「あ、あの、私どもは結城瞬の父の紀良、妻で母の美稚子です。一条さん。わざわざありがとうございます。あの、その怪我は……」
「あ、えっと……」
苦笑する。
「私は昔から格闘技を習っていたので……瞬ちゃんが、犯人と共に部屋に閉じ込められたので、鍵のかかった扉を急いで開けようと……でも、結果的には怪我を負わせる形になってしまい、本当に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる。
二人は、目を見開き首を振る。
「な、何をおっしゃるんですか! 現場は、状況は分かりませんが、一条さんがその時、扉を破って下さらなかったら、瞬はどうなっていたか……」
「本当に、本当にありがとうございます」
3人が話していると、
「何してるの? ママ、パパ」
「まーちゃんは?」
那岐は完璧にそっくりすぎる一卵性双生児を見たことはあるが、瞬の姉達は全く似ていない双生児だった。
少々吊り目で少年ぽい顔立ちなのに、声は可愛いハイトーンボイス……声優界でも垂涎の如く欲しがる鈴の音のような声の持ち主……あぁ、この声は瞬の声だ。
そして、童顔で垂れ目で可愛らしい日本人形のような顔をした美少女……声は落ち着いたアルトボイス。
二人は、個性がしっかりしている。
その個性のいいとこ取りが、瞬のようだ。
那岐は軽く頭を下げ、
「先程は。一条那岐です。瞳さんと睛さんですね。こちらです」
「……え、エェェェ! い、一条那岐……一条那岐って、あのぉぉ?」
指を突きつける瞳に、睛がその指を握り、
「すみません、瞳ちゃんアホなんで。一条さん。お願いがあるんですけど、サイン下さい!」
「サイン?」
バッグをゴソゴソし、差し出したものを見て絶句する。
前に、光流が、
「お前のファンってつき始めてるんだぞ」
と言っていた後、雅臣と3人で受けたインタビューのである。
「えっ? 臣さんとか……じゃなく俺?」
「だって、まーちゃんの部屋に、サイン色紙やあれこれあるのに、それ以上いるかなぁ?」
「あぁ、ポスターとか貼りまくりはしないけど、まーちゃん、すごいもんね」
「それに、あまり高凪光流は、好きな声じゃない。『あんたの声ってクドくてうざっ! さらっと言えないの?』とか思う」
無表情に近い瞬を成長させた顔で、
「クドイのうざっ!」
などの毒舌を聞き、何となく光流が哀れになった。
言わないでおこう……、
「じゃぁ、サインは向こうで書くので、先に行きませんか?」
と、治療室に案内したのだった。




