51……ein und fünfzig(アインウントフュンフツィヒ)……瞬の姉二人
昶と那岐について貰いながら、病院に向かう。
止血して貰っているので、昶に、
「あの。イタルさん。スマホに電話番号があるので、あいちゃんと書いてあるのでかけて貰えませんか?」
「あいちゃん……? えっと……」
操作するが、出てこない。
「えと、瞬ちゃん。あいちゃんの漢字は?」
那岐が問いかけると、思い出したように目をくるくるさせる。
「そうでした! 瞳って書いて、瞳ちゃんです」
「あった! じゃぁ、かけますね」
イタルはかけると、2コールで電話が繋がった。
「あ、あの……」
「まーちゃん! まーちゃん! あいちゃんよ? 分かる? 分かるよね? どこにいるの!」
「あの! すみません! 僕は……」
「まーちゃん声出しなさい! 返事できないの? 睛ちゃん! 睛ちゃん! 車よ! 警察呼びなさい! ついでに、パパとママと……」
スマホから響く声と、温厚な昶がまごまごしている様子に、スマホを奪った那岐が、
「おい! ちゃんと話聞けよ! 瞳ちゃんだっけか? 俺は一条那岐だ。丹生雅臣の代理で瞬ちゃんについて病院に向かってる。警察にはちゃんと雅臣さんが出向いてる! まずは落ち着いて、話を聞け!」
「えっ! 病院! 睛ちゃん! 病院ですって!」
「おいこら! 聞けっての! 瞬ちゃんは保護した。雅臣さんと俺、俺の従兄弟が保護したんだ。でも、その前に襲われて、掌とかに怪我を負った。だから救急車で病院に向かってる。結城瞳さん、あんたの家はどこだ?」
「えっと……」
「そうなのか……じゃぁ、こっちは、〇〇県の救急病院……あぁ、あそこに向かってる。傷は深すぎはしてないが、手を数カ所切られているから縫わなくちゃいけない。それに、スマホも持てないから、代わりに第一発見者の俺の従兄弟のイタルが電話をかけようとしたんだ。あんたも本当シスコンだな」
ため息をつく。
パニックになり、キャンキャン言う相手には、大人しく語りかけても聞こえていない。
逆に大きい声を出して、状況を簡単に説明すると落ち着くのだ。
「えっと、すみませんでした。父がそちらの県に勤めてまして……連絡します。あのっ、あの、まーちゃんは、まーちゃんは……」
「怪我以外は見た所何ともない。ただ、襲われた衝撃や恐怖で震えている。手当てをしたら数日入院かもしれないが、来たら会えると思う。だから、落ち着いて着替えとかを持って、会いにきて欲しい」
電話を切った那岐はため息をつく。
「元気なお姉さんだな。うちのお袋並みだ……瞬ちゃんとこは何人兄弟だっけ?」
「えっと、瞳ちゃんと睛ちゃん。二人は双子です。私が末っ子です」
「まぁ、双子の姉さんたち……うん、瞬ちゃんみたいな妹いたら、可愛いだろうな」
「那岐さんは、二人兄弟ですよね?」
「そうそう。二つ上の兄貴。風早って言うんだ」
痛み止めを点滴された瞬は落ち着いたように、横になっている。
「当て字ですか?」
「いや。地名にあるんだよ。風に早いで風早。俺も那岐は地名とか伊邪那岐命からとられてるな」
「瞳ちゃんは、今塾の英語講師である母が、目の英単語『eye』をそのまま文字を当てて、睛ちゃんは母方の祖父が書画の先生で『画竜点睛を欠く』から、そう言うそそっかしいことのないようにしっかりしなさいという意味で睛。で、3人目の私は、父が瞬間の瞬から……まどかと」
「いい名前だな。瞬ちゃん……」
もう寝てていいよと言いかけた那岐だが、自分のスマホに電話が入っているのに気づいた。
周囲に許可を取り、電話を取ると、
「那岐! どこにいるんだ?」
焦った声の雅臣である。
直之が瞬の怪我の件の目撃者として残り、雅臣は自分のロッカーや楽屋を荒らされ、服や大事な時計とネックレスを盗まれた被害者として、今まで現場検証に立ち会っていた。
イベントの最後に参加できなかっただけでなく、瞬に付き添えなかったのが心苦しい。
「あぁ、病院に向かってる。救急車の中。瞬ちゃんの家族に連絡したよ」
「あ、そうか……ありがとう」
「で、臣さん。瞬ちゃん結構傷が酷そうで、入院っぽい。掌が縫うし、腕も傷が長いけど縫っておくんじゃないかな。まだ止まっていないから止血してるし」
「……すぐにそっちに行く。よろしく頼む」
「ハイハイ」
電話を切ると首を竦める。
「全く、普段は余りそんなに執着とか薄いんだけどなぁ……」
痛み止めや、気が抜けたのかうとうととする瞬に、
「まぁ、お人形みたいに可愛いよな」
と呟いたのだった。
そして、こちらは瞳と睛。
瞳は双子の姉だがお転婆で落ち着きのない方。
睛は双子の妹で、冷静沈着で、先日臣に電話で相談した方である。
睛は、慌てふためく姉を放置して、瞬の部屋から一応何かあった時の為に用意していた、数日分の着替えや下着などをバッグに詰めてくると、
「あいちゃん。パパとママには言った? 車で行くから、途中ママ拾えるよ?」
「あーそうだった!」
声が響き、慌てて父の元に電話をかける。
そして、
「早退する!」
という声を聞き、電話を切ると母に電話をする。
母は共働きなので、パートである。
仕事中かもしれないが、我が家は瞬優先である。
「もしもし! ママ?」
「もう〜、二十歳も過ぎた子が、電話でママは辞めなさい」
愚痴る母に、
「あのね、ママ。まーちゃんが見つかったの! まーちゃん殺されそうになってて、助けて貰ったんだけど、怪我をしてるから救急車で病院に行ってるんだって」
「えっ……瞬? まーちゃんって……瞬よね?」
「そうだよ、ママ。パパの勤めてる会社の近くの病院に、救急車で向かってるって。だからね、睛ちゃんが荷物を整理して、車運転するからね。ママも迎えに行こうかと思ってるんだ。まってて?」
長女の声の向こうから、低いもののれっきとした女性の睛の声が響く。
「あいちゃん。置いてくよ。早く車乗って。家の鍵は全部閉めたから」
「はーい! じゃぁ、ママ。後でね!」
電話が切れ、瞬たちの母は目に涙を溜め、慌てて上司に早退の連絡をしに行くのだった。
結城瞳……二卵性双生児の姉。年は22歳。顔はとても凛々しく、キリッとした眉につり目。男装がよく似合う小さい劇団に所属している俳優の卵。なのだが、声が逆にハイトーンで、それがコンプレックスで何度か潰そうとしたが、瞬に大泣きされ、睛に瞬を泣かせたと数時間正座の刑をされ、やめた。妹達が大好き。シスコン姉。好きな俳優は、ヴィヴィアン・マーキュリー。好きな声のタイプは優しい声。
結城睛……二卵性双生児の妹。顔は妹の瞬にそっくりでクリクリお目目で可愛いのだが、声がロートーン。テンションは低く、物静か。小説家の卵。瞳の劇団に台本を幾つか出している。そして、投稿を続けている。好きな小説家は安部祐也……数カ国語を理解して若手小説家の作品を翻訳したりしているらしく、自分の作品をいつか目に止めてもらえたらとネタ探しに奔走中。でも現在は最愛の妹の行方不明に、小説は何故か瞬のことだけになっている。好きな声のタイプは一条那岐。会えたらサインが欲しいと思っている。




