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48……acht und vierzig(アハトウントフィルツィヒ)〜声優達の宴……瞬の帰還

 今日はアストリットが目を開けると、何故かドラゴンの子供達がほぼ勢ぞろいである。


「あら? リューン、ラウ、ロットにヴァイス。おはよう。桃李タオリーとキュイーヴルは、フィーちゃんとイタルさんと一緒かしら?」


『アストリット……』


 リューンが、じっと顔を見る。


『ディが、呼んでる。行く? 行くなら一回だけ力を貸す』


「皆の命と引き換えは、嫌よ?」


『……分かってる。着替えしないの?』


「あ、そうね。えっと、えっと……」


 つい最近、旅で痩せたかと思ったら、少しサイズが大きくなり、新しくドレスを仕立てたばかりである。


 胸だけでなく、身長も伸びて欲しかった……。

 ほんの少しだけサイズの変わった、ささやかな胸を隠すドレスに着替える。

 コルセットなどで絞ることもなく、袖は肘から大きく広がり、スカートは膨らんでおらず後ろが長いものである。

 それと、お金は重いので全額置いておいたものの、バッグとスマホなどを持つ。


「これでいいかしら」


『可愛い、なの』


 ラウは褒める。


「本当? 自分で着るなんて、お母様やお父様にバレたら叱られるわね」


 赤ん坊のロットは寒がりで、ラウにぴったりくっつき、ヴァイスは首を左右に振りながらご機嫌である。


「皆、一緒に行く?」


 三頭を抱き上げ、リューンは肩に乗る。


『こっちよ』


「こっち?」


 リューンに促され進んでいく。

 アストリットは朝ご飯の準備があるのにと思ったものの、まぁいいかと、いつもと違う道を歩く。


 すると次第に、暗くなっていく。

 ロットが、熱くない小さな炎の玉を作ってくれたので、それで進んでいく。


「ねぇ? リューン。ここ、何かおかしくない? どこに行くの?」


『その指輪が示してくれる。アスティは『マサオミ』に会いたいんでしょ? ディよりも』


「えっ……」


『『マサオミ』のところに行けるから、このまま進んで。私はここまで。あとは、三頭が案内していくから』


 リューンが肩から降りると翼をはためかせながら、大きく翻し元の道に戻っていく。

 アストリットはリューンを見送り、そしてためらいを捨てて歩いていく。


 しばらくして、ラウが、


『アスティ。ここまで。あのね? バイバイなの』


「えっ? ラウちゃん?」


『ラウね? リューンと一緒に残るの。バイバイ。大好き』


 その言葉に、アストリットは涙を溜めて、


「ラウちゃん、バイバイ……」


ぴょんと飛び降りると、二本足でペタペタと歩いて去っていった。


 アストリットは涙を堪えると、ロットとヴァイスを抱きしめ歩く。


 どこに行くのか分からない。

 でも、後戻りはできない。

 明かりを頼りに進んでいく。




 すると、一人の少年が姿を見せた。

 茶色の髪と瞳をした穏やかな少年は、微笑む。


「初めましてでいいかな? 僕は安部昶あべいたるです。年は19歳。大学を飛び級して、今はイングランドの大学院で研究中。宜しくね?」


「い、イタルさんですか? ど、どうして? いつもの姿は……」


「ここは、ゲームの世界じゃないんだよ。ヴァイスに呼ばれて迎えにきたんだ。ヴァイス、ありがとう。ロットと帰れるかな?」


『あい!』


「うーん、何か心配。道に迷ったら困るからこっちにおいで。ゲームの中に一時的に入って」


 ゲーム機の中に二頭を休ませると、イタルは、


「アストリット……まどかちゃんでいいかな? こっちだよ。こっちから出ていけるから」


「えっ? どこに行くんですか?」


「内緒。きっと喜ぶよ」


うやうやしく手を差し出すと、その手の上に、手袋をした小さな手を乗せる。


「じゃぁ行こうか」


と歩き出した。




GeschichteゲシヒテSpielシュピール』……『歴史ゲーム』


 このゲームは、ヨーロッパの各地に主要なキャラが数人ずつ置かれ、その世界に入り込んだ人物が、その地域の人物と恋愛したり、イベントをこなし、商人ギルドや職業ギルドでお金を稼ぎながら旅を続けたりと、比較的自由なゲームである。


 しかし、TRPGの要素があり、何か重要な選択肢を選ぶ時はサイコロを使って、その時の運で事件が起こったり、成功して盗賊から逃げ出したりと普通のRPGよりもドキドキする。


 そして、いくつかの都市や村に主要キャラがおり、そのキャラと仲良くなると特別イベントが起きる。


 その中でも人気が高いのが、丹生雅臣にゅうまさおみや、その後輩の高凪光流たかなぎみつる、新人声優の一条那岐いちじょうなぎのいるディーツ辺境伯領周辺。


 ディーツ辺境伯エルンストの長男が、光流が声を当てている長男のカシミール。

 その弟が那岐のテオドール。

 二人の友人で、隣の領の跡取りのディーデリヒが雅臣である。

 尾形未布留おがたみふるは、カシミール達の母のお気に入りの、カサンドラ役である。


 彼らは、アドリブを入れながら舞台上で生アフレコをしていた。

 すると、予定にはない一人の16世紀頃の衣装を着た少年が、小柄な同じような時代のドレスを着た少女の手を引いて裏手から現れる。


「ディ! カーシュ! テオ! アスティが道に迷ってたよ」


 ざわざわ……観客はざわめき、そして、上段にいた雅臣が飛び降りると、小柄なお姫様の元に駆けつける。


「ま……いや、アスティ! どうしてここに!」


「えと、リューンがこっちに行けと……えと、ここは? そ、それに、ディ様じゃなく、ま、雅臣さんじゃないですか!」


 アストリットの時も、童顔でくりくりとした瞳の愛らしい少女だったが、黒髪と茶色の垂れ目の少女は、可愛い。

 イタルも細身で垂れ目、それにどことなく雅臣の兄貴分の一人で、イタルの異母兄の祐也ゆうやに似ていた。


「……どうしよう、可愛い……」


「あんた、変態ですか。アストリット。兄ちゃんとこおいで」


 那岐は、アストリットを自分の前に立たせるとマイクを向けた。


「じゃぁ、アスティ。お兄ちゃんと挨拶しようね。初めまして。私はアストリットです」


「は……初めまして、わ、私は、アストリット・エリーザベトと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


「良くできました。やっぱりアスティだね。じゃぁ、兄さん達。カサンドラ、後は頼むよ。イタルはこっち」


当時の衣装を着た瞬を見せびらかせるように、軽々と抱き上げ片腕に乗せると悠然と去っていった。




「……あいつ、締める……」


「カーシュ。やめよう。続きをしよう」


 雅臣は話を戻し、二人にカサンドラを含めたアドリブで何とか乗り切ったのだった。




「ほーんと、アスティと別の意味で危険」


 那岐は軽々と抱いている。

 テオドールは最低限の身を守る術は学んだが、参謀タイプ役である。


「あの……一条さん。私、重くないですか?」


「あはははは! 一条は結構多いからやめて。俺は那岐で良いよ。臣さんも本名、一条だもん」


「は、はい。丹生にゅうは芸名だって言ってました」


「そうそう。それに、俺、柔道とか空手習っててさ、これ位軽い軽い。何ならイタルも抱こうか?」


「遠慮させて下さい。これでも兄妹に勝てないので情けなくて……でも、運動すると捻挫とか、転んで大怪我で、母に禁止させられたんです。一回父が教えてくれたんですが、父が力の加減誤って吹っ飛んで、壁に激突して一週間検査入院でした」


 その言葉に那岐は目を逸らし、


「一平おじさんやりすぎだっての。手加減できなかったのかよ」


と呟く。


 すると、直之が姿を見せる。


「おい、那岐どうしたんだ。その二人は」


「えと、彼が一平さんの息子の昶です。そしてこの子が、臣さんが探していた結城瞬ゆうきまどかちゃんです。何かあったら行けないので保護しました。臣さんが戻ってきたら、瞬ちゃんの家族に連絡しないと」


「あ、私、スマホ持ってます」


 バッグの中身を確認すると、電源を切っていたスマホの電源を入れる。

 ヒョイっと下ろした那岐は、


「そこが臣さんの控え室だから、そこで電話かけてみると良い」

「ありがとうございます。那岐さん、直之さん、イタルさん。行ってきます」


頭を下げると部屋に入っていった。


「めちゃくちゃ礼儀正しいし、可愛いし賢いし、臣が好きになるの分かるな」


 直之の呟きに二人はうなずくのだが、少女が入っていった部屋から、悲鳴が上がった。


「えっ?」


 3人は顔を見合わせると、部屋に飛び込もうとした。

 しかし、鍵かかけられており、直之はドンドンと扉を叩く。


「瞬ちゃん! どうしたの? 鍵を開けて!」

「いやぁぁ! だれか! 助けて!」


 悲鳴しか聞こえないのに痺れを切らした那岐が、悲鳴を聞いて集まってくる声優陣を離れさせると、


「瞬ちゃん! 扉のそばにいたら、横に寄っていて! いいね?」


と言うなり、力任せに体当たりして、二回で扉を開ける。


「怪力……」


「それより、瞬ちゃんは?」


 二人が入ろうとするのを止め、那岐が周囲を注意しながら入っていくと、部屋の奥に追い詰められている瞬と、瞬にナイフを突きつける舞原なつきの姿があった。


 しかも、なつきは雅臣のジャケットを着て、腕時計やお気に入りのネックレスをしている……はっきり言えば窃盗の現場である。

 それに、床には血が滴っており、瞬が怪我をしていることは明白である。


「……直之さん。警察と救急車お願いします。イタル、止血できる?」


「うん、ある程度習ってる」


「じゃぁ、あの女、捕まえるか」


 那岐は、大柄な体にしては俊敏な動きでなつきを捕まえ、ベルトで足を動かないようにし、自分の一張羅のネクタイで手首を縛り、転がしておく。

 そして、


「お前、何が臣さんのファンだ。ファンだから楽屋に勝手に入り私物を盗み、自分より小柄な女の子に怪我をさせ、それでも胸を張って臣さんの前に立てるのか?その前に、俺は半人前だが、同業者として恥ずかしい! 先輩方に謝れ! 先輩方が築き上げてきた世界をお前が壊そうとしたんだぞ!」


那岐は一喝したのだった。

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