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47……sieben und vierzig(ズィーベンウントフィルツィヒ)〜声優達の宴

 当日、イベント会場の裏で集まった声優陣達には、着替えなどの為の個室と、チェック室というか、休憩室と言うかメンバーの談笑室が用意されている。

 朝、いつもより早く起き、ストレッチをし、発声練習をして朝食を食べ、那岐なぎを車に乗せて一緒にやってきていた雅臣まさおみは、同じ声優仲間達に挨拶と、まだ新人の後輩を紹介していたのだが、騒がしい悲鳴とドタバタ走る音にため息をついた。


 雅臣は人に対して余り好き嫌いを見せることがないのだが、目の前で他の声優たちと違う衣装を着て、キャピキャピとコビを売りながら耳障りな声で近づいてくるのは、


「あぁぁ! おはようございますぅぅ! 臣さま。今日も本当に良い日ですわね」

「……はぁぁ? 今日雨降ってたけどなぁ……」

「誰? あんた。黙ってて。私、君と話してない」


金髪に脱色し、しかも今回の役の格好をした彼女は、舞原なつきと言い、自称『臣さまを神と仰ぐ巫女』。


 どこか?

 勘違い女じゃん。


と、今の会話だけで那岐は嫌になった。


 一応那岐は母親や叔父似なので懐の大きいタイプだが、可愛くてちんまい、素直な、シンプルメイクの女性が好きである。

 それに、母もスッピンでも那岐のような子供がいるように見えない年齢未詳の美少女だし、叔母達や兄嫁に従姉妹達も整った美貌が多く、目の前の彼女のように自分を美少女と言い張る化粧塗りたくりの下品さは許し難い。

 一気に機嫌の悪くなった甥の肩を叩くと、


「おはよう。舞原さん」


そう言い、すぐに甥を見て、


「那岐。悪いが、ちょっと気になる部分がある。チェックしたいんだが……構わないか?」

「大丈夫ですよ。臣さん。俺も気になっているところがあって、教えてください」

「あんた! 何で間に入るのよ!」

「えっ……」


 こいつ、殴るのは出来ないけど、締めていい?


と叔父を見た那岐に苦笑すると、


「私が頼んだんだけど? それに、舞原さん。向こうでスタッフさんが呼んでるよ」


 扉の方を示すと、必死の形相でスタッフが駆け寄ってくる。


「なつきちゃん! まだ、その服仕上がってないって言ったでしょう? 恥ずかしくないの? 本当に、丹生にゅうさん、一条さん、申し訳ありませんでした。ほら、なつきちゃん! 謝りなさい!」

「何で〜?」

「何考えてるの! あんなに言ったでしょう? 布が透けるのよ! ちゃんと肌色の下着を着てとおいておいたじゃないの! 下着が見えてるのよ! 恥ずかしくないの?」


 スタッフは何度も問題児の彼女に迷惑をかけられてるのか、泣きそうな顔で叱りつけると引っ張っていく。


 彼女たちが部屋を出ると、入れ替わりで入ってきた直之と未布留みふる、そして光流みつるが呆れたような顔で入ってくる。


「あぁぁ、恥ずかしいと思わないのかしら? 今回はコスプレイベントじゃないでしょ」

「だなぁ。声が良い訳じゃないし、それにCD出してても音痴だし、レッスンも真剣じゃないし、ただ自称臣オタクのアイドルだろ? 俺や先輩達の時代じゃありえないな」

「あはは……直之さんに言われたら、僕たち、これからみっちり特訓だぁ……」


 光流は苦笑う。


「でも、あの時代って、あんな格好してましたっけ? あの子は……」

「私の担当する地域の、Zigeunerツィゴイナーなどとも呼ばれる、旅を続けて女性は占いをしたり、踊りを踊ったり、吟遊詩人と共に移動する民族だな。1407年に最初に記録が残っている」

「……あれじゃ、下品すぎないかしら? 同性として、キャラクターのままのコスプレなら可愛いと思うんだけど……足出して胸や肩を出して、へそ出して……それにいつも話を聞いてくれないのよ、あの子。嫌だわ〜」

「あんなスケスケの格好で、風邪ひかねーと良いなぁ」


 那岐の一言に、なつきに対する嫌悪とこれからを心配していた人々は、笑いに包まれる。


「那岐、大物!」

「那岐くん、可愛いわ!」

「今度、一緒に遊びに行こうぜ」

「お前、最後のアテレコだったから、あんまり会ってなかったからな。話してみたかったんだ」

「臣さんの従兄弟ってマジ?」


 那岐は雅臣を見ると、2人で、


「僕の姉の息子ですね。末っ子です。二つ上の兄が、医者の卵です」

「でも戸籍上は俺の父の弟が臣さんで、臣さんの本名は一条雅臣です。叔父がお世話になっています」

「何言ってんだ。お前が迷惑かけてないか、毎日事務所から電話がこないかビクビクしてるのはこっちだぞ? それに、姉さんも兄さんも『臣に任せていたら大丈夫だな。悪いことしたら容赦なく殴り飛ばして5時間くらい正座させて、何が間違ってるか分からせろ。大丈夫だ。風早かざはやと一緒にそうやって育てた。那岐は馬鹿だが、こんこんと言い聞かせたら理解できる普通のバカだ。理解できない馬鹿は、もう、ウェインが追い出した』って」

「あぁ、ウェイン叔父さん?」

「ウェイン叔父さん〜? お前、どう言う関係だ?」


別の事務所の声優の問いかけに、雅臣は苦笑し、


「あぁ、知りませんでしたっけ? 那岐の母親は、私の実の姉で、小説家の日向糺ひなたただすです。その旦那で戸籍上の兄が、歴史小説やこのゲームの時代考証担当の一人の糺日向ただすひなた……一条日向いちじょうひなた一条糺いちじょうただすです。那岐の兄嫁のお母さんとウェインのお母さんが異母姉妹で……」

「あてのおかあはんもそうどす」


 スッと姿を見せたのは、訪問着を違和感なく着こなす、プラチナブロンドの髪と淡いブルーの瞳を結い上げた異国系美女。

 しかも、メイクはナチュラルで、全体的に淡い色を締めるために、唇はオレンジローズ。

 嫌味がなく、逆に色っぽい。


「あっ! 茜ちゃん!」


 駆け寄るのは、光流である。


「大丈夫だった? スタッフさんに頼んでおいたけど……」

「だんはんは心配性どすな……あては蛍ねえはんやおかあはんと違いますえ?」

「おい、光流……この美人は?」


 問いかけに、


「えと、僕の奥さんです。那岐の幼馴染みです」

「はぁぁ? どこの国の人だよ」

「あては生まれも育ちも京都どす。母がイングランド出身どす。父は京都の菓子舗の者どすわ。あ、ほんにすいませんなぁ。あては高凪茜と申します」


 膝を少し曲げ、ゆっくりと頭を下げる。

 その優雅な挨拶に、同性異性……夫の仕事仲間には好意的に受け入れられる。


「うわぁ……光流。すっごい美人の奥さんじゃないか」

「本当。礼儀正しいし、京言葉が美しい」

「隠してたのかよ。本当にセコいな」

「会わせたら、飲み会連れて来いって言うじゃないですか! 嫌ですよ」


 光流は茜を抱きしめる。


「茜ちゃん。じゃぁ、席に行ってくる?」

「そうどすなぁ……本番前で忙しいのに、お邪魔してしまいほんにすいません。あては、会場におりますよって……だんはんと那岐は、臣にいはんや未布留みふるねえはんに迷惑かけたらあきまへんえ?」

「大丈夫よ〜。一応、なおくんいるし」

「直之にいはん、お久しゅう。また遊びに行ってもかまいまへんか?」


 微笑むと、花が咲いたように美しい茜に、直之も、


「あぁ、いつでもこい。光流はいなくてもいいからな」

「直之さん〜!」


光流の言葉に、茜はクスクス笑い、もう一度丁寧に頭を下げると、雅臣達の事務所のスタッフが案内して行った。


「めちゃくちゃ美人で、清楚、顔ちっさい、何頭身だ? スタイルいいなぁ」

「姿は異国美女なのに、着物着慣れてる……」

「しかもあれ、加賀友禅?」

「京友禅の訪問着と西陣織の帯ですよ。後は大島紬とか……茜の実家は有名な菓子舗なんです。離れでお茶を立てたりしますしね」


 那岐が説明する。


「結構着物を着てますよ」

「詳しいな、お前」

「母の仕事で、着物について調べることになって、茜の家の櫻子さくらこさんと、その義理のお姉さんの紅葉もみじさんに教わったんです。二人とも、京都の葵祭の斎王代さいおうだいに選ばれた美女二人ですよ。紅葉さんの娘も斎王代」

「斎王代〜!」


 ある女性声優が、あるノートをペラペラめくると、ある表を見せる。


「もしかして! この年の賀茂櫻子かもさくらこさんと、翌年の栂尾とがのお紅葉さん、そしてこの、賀茂優希かもゆうきさんじゃないでしょうね?」

「そうですよ。優希姉さんの旦那は、あの野球選手の守谷主李もりやかずいにいちゃんです」

「キャァァ! 結婚してたの! ショック!」

「こらこら。本番前に疲れるぞ」


 直之の声にはっと我に返ったメンバーは、落ち着きを取り戻したのだった。

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