46……sechs und vierzig(ゼクスウントフィルツィヒ)
モゾモゾと手を隠すアストリットに、両親と伯父、そして長兄のカシミールが問いかける。
「何してるのかな? 私達のお姫様は」
「えっ! えぇぇぇ? な、何でもないです……」
前に、
『お兄さまなんて、大嫌い!』
と言われたカシミールは、口を出さない。
アストリットに嫌われたくないのだ。
その為、テオドールが、
「ディ兄さんに預かっておいてくれって言われたんだよな? ディ兄さん、アスティ」
「あ、うん、そうだよ」
そうだったかな?
と言いたげなディーデリヒに、イタルが、
「渡してましたよ。えーと、アスティ、見てもいい?」
「あ、は、はい」
「……えっと、これ……Diamantだよね?」
「そうだって言ってました」
カシミールとテオドール、イタルは硬直する。
Diamant……ダイヤモンドは、一応4月生まれの誕生石である。
「えっと、アスティは何月生まれだっけ?」
「4月1日です」
「えっ! 4月1日?」
「はい」
うん、そら小さいわ〜!
と特に兄二人の声を担当する声優のキャラは、まじまじ見る。
4月1日生まれは、前年度に組み入れられるのだ。
「そう言えば2日が、那岐……誕生日だったよな?」
「あぁ。幼馴染の……今は兄貴の嫁さんが、3月31日」
ボソボソやりとりをする。
「えっと……アスティも15歳だから、そろそろ相手がいてもいいね〜」
「いや、兄さんが、全部そう言うの破棄してたじゃん」
「うっさい。本当は嫌なんだよ!」
「……シスコンめ」
「苛めっ子よりマシだ」
仲良し義兄弟の言い合いにおろおろするアスティに、イタルは真剣に、
「うわぁ、ピンクサファイアは多いけど、この大きさのピンクダイヤモンド、すごく高いよ?」
「えぇぇぇ?」
「確か、加工次第で上がるけど……石だけで、日本円で大体この大きさだったら最低400万」
「えぇぇぇ!」
「しかもこれ、結構な価値あるよね。加工は古いけど、石の透明度と単一色、淡いピンクが綺麗だから」
アストリットは慌てて指輪を外そうとするが、外れない。
「えっ? 何で? 指太くなった?」
「そんな訳ないよ。それ多分、ディーデリヒが簡単なおまじないをしたんだよ。次に戻ってくる目印に」
「えっ? 目印?」
「いや、俺のもの宣言?」
兄弟はボソボソ話す。
ディーデリヒは、
「何だ? 悪いのか?」
「と言うか、ディ。diamantの意味、分かってるのかなと思って」
イタルがクスッと笑う。
「『Rosa Diamant』は、『求婚』『恋愛』『結婚』『完全無欠の愛』と言う意味があるんだよ」
「えっ!」
ボンッ!
ディーデリヒとアストリットは顔を赤らめ、硬直する。
「ディは多分、そんな意味は理解してなかったの?」
「そ、それは……母の遺品で……」
「そうそう」
アストリットの伯父のヒュルヒテゴットが、答える。
「ディートリヒが、遠くに嫁ぐ妹……お前の母に何かあった時にはと贈ったんだ。この大きさは滅多に出ないから、凄いなと思ったよ。クズ石もあって、それが……これだ」
妹の耳に飾られる、さざれ石のピアスを示す。
「淡い方がクズ石で、濃いピンクはRosa Saphirだよ」
「ピンクサファイアは『深い愛情』『いたずら心のある可愛らしさ』『愛嬌』その一方で「誠実さ」『親しみ」と言う意味もあるよ。 サファイア自体の石言葉は『慈愛』『明晰』」
イタルは説明する。
「詳しいな〜」
「養母……母が、僕が9月生まれなので、ブルーサファイアのピアスをくれたんです」
「あぁ、あの人は詳しい」
うんうん、
テオドールは頷いた。
「で、さぁ、あのディ兄さんは、あの人抜けてるだろ? めちゃくちゃ影薄い……」
「テオも思う? 僕も思ったんだよ。臣さんいないと、あの無意識のダダ漏れ垂れ流しエロオーラがない!」
「たらしオーラだよな。男も落とすって言うもんな」
「おい、私も混ぜろ。あいつの20年前の犯罪的試験を知ってるか?」
ヒュルヒテゴットが割り込む。
「あぁ、確か、先輩の真似をしたとか……アホな失敗真似たんですか?」
「違うわ! 俺の当時の主演のキャラとか、他の数人の先輩の声の真似、呼吸、タイミングまでそっくりだったんだ。他の学生より声楽も習ってたし、詩吟とかアナウンス教室も通ってたらしい。大御所方お気に入りで、すぐテスト生すり抜けて入社だぞ」
「あぁ、言ってましたね」
「だから、半年後の発売の『アーサー王伝説』の吹き替えにすぐに入ったんだぞ。初版の吹き替えの声優……別の事務所の先輩だったけれど、その人のイメージじゃない。若くて、若さ故に様々な苦難に苦悩するランスロットを演じられる、演技力はなくて良い。純粋にランスロットを演じられる力量を持つ人を探している。と言われて、うちの社長や大御所が『臣、行ってこい』だからな」
「でも、あのランスロットは凄かったですよ。あれ聞いて僕も声優目指しましたもん」
カシミールがうなずく。
そして、チラッともじもじとするアストリットと、それを可愛いなぁ……と見ているらしいディーデリヒを見る。
そして声を落とす。
「でも、直之さん……アストリット……瞬ちゃん、まだ15ですよ?那岐や昶君なら兎も角、歳の差が……」
「そんなの、堕ちたら関係ない」
ヒュルヒテゴットの姿でアストリットの両親を見る。
「恋は恋い慕う、愛は己を相手に捧ぐ程思う……ってことだ」
それに、雅臣は、諦めることはないだろう。
そんな簡単に想いを捨てることなど出来ない……そんな軽い恋愛をできる男じゃないからだ。
3人は知っている。
だから、どうなるか見守ることにするのだった。
その為に、順番にログアウトしていったのだった。




