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ein und vierzig(アインウントフィルツィヒ)

本編というより、キャラの声を演じる人々の日常っぽいです。

 馬を操りながら走らせるディーデリヒ……その姿勢の美しさに、


雅臣まさおみさん……じゃなかった、ディ……馬に乗ったことあるの?」


イタルは感心する。


 自分はゲーム上ではあるものの一応魔法を使って、ある程度慣れるまで訓練した。

 しかし、ディーデリヒはすぐに乗りこなした。

 ディーデリヒ本人は、小さい頃から馬に乗っているはずだが、今は一つの身体に二つの意識があるはずである。

 心配していたのだが、ニッコリと微笑む。


「ん?あぁ……高校の頃からかな?……休暇の時にはイギリスに行っていたから、そこで」

「イギリス?」

「あぁ。ウェイン兄さんの家や、イタルのイギリスの家にも行ってたし」


 兄の日向ひなたの友人であるガウェインの屋敷や、イタルの父になる一平の屋敷にホームステイもしたことがあり、二軒の屋敷には馬が当たり前のように飼われていた。

 特にガウェインやイタルの義母ヴィヴィアンは俳優であり、騎乗する役の為だけでなく、家が代々所有する荘園では車が通れない細い道を、馬で走り抜ける事もあり、何頭も飼われていた。

 そこで、夏の間滞在して世話の仕方も習ったし、乗馬も教わった。


「まぁ、俺は大丈夫だよ。獲物のさばき方も教わったからね?」

「すごいなぁ……」

「いうか、ウェイン兄さんの荘園ではこの世界と余り変わらないよ? 半分は昔からの生活だって。電気があるかないかだね」

「……えぇぇぇ! そんな生活ですか? 今度、遊びにおいでって……」

「……あははは! 冷蔵庫もあるし、キッチンは電化製品だよ? ウェイン兄さんが『近代化したなぁ』だって」


 ディーデリヒはイタルを見る。


「それに、一平さんは時々上の二人連れて、ウェイン兄さんのお母さん方の領地に行ってキャンプだよ。ここの生活とそう変わらない。イタルも行けると思うよ」

「む、無理です……ここはゲームで、リアルに狩りをするなんて考えられない……」

「……食料として、ウサギなどを狩る。一平さんの弟の祐也さんの家で、猪を狩るのと一緒。増えすぎたら荘園が荒れるから手入れしないとね。ウェイン兄さんのお母さんの家は、断絶寸前……誰かが跡を継がないと、あの事件が尾を引いて興味を持つ人間が度々入り込むんだ。本当は親族が行かなきゃいけないけど、イタルは知ってるかな? 妖精に引き寄せられる可能性があるんだって」

「あの事件……ですよね」


 イタルは口ごもる。


 異母兄の祐也が遭遇した、不可思議な事件。

 現代の妖精譚とも言われている。

 しかし、イタルは知っている。

 それは現実だったのだと……父の一平や母のヴィヴィに聞かされていた。


「……イタル。もうすぐ到着だ。話はまた後で。私は先に行って、アストリットの兄のカシミールとテオドール、そしてカサンドラに伝えておきたいことがあるから」


 そう言うと、馬の速度を上げ走り去っていった。


「何かありましたか?」


 騎士たちの一人が近づく。

 イタルは微笑み、


「いえ、ディーデリヒは、確認の為に先行すると。ヒュルヒテゴットさまが、使いの方を送ったのは存じていますが、捕まえた者たちのことは言いにくいだろうと……ですので、そのままお進み下さい」

「そうでしたか。ディーデリヒさまには申し訳ない……」

「そう思い、私が行くと伝えたのですが、私はディーデリヒとアストリット姫と旅先で出会いました。ので、こちらの領の方々とは面識がありません……頼むことになってしまいました」


申し訳なさそうに頭を下げる。


「いえいえ、エルフの貴方は本当に博識です。ディーデリヒさまやお嬢様の代わりに、私共と出向いて下さってありがたく思っております」




 エルフの一族は人を敬遠するものが多く、今回のような旅に同行するエルフは珍しい。

 その上、イタルはエルフにしては若いと言いつつ博識で、ヒュルヒテゴットもお気に入りである。

 昨日はディーデリヒと3人でお酒を飲みながら語っていて、それは政治経済や言語、歴史、エルフの伝わる伝承のことについても語るのだと言う。

 そして、アストリットのラウと言うDracheドラッヘの癒しの術に劣らぬ程の薬草を煎じる、薬師としても知られるようになっていた。


「もうすぐ、森が抜けるかと。アストリットさまの生まれた砦、ディーツ領の砦が見えてきます」

「そうなのですね」

「ここは、街の周りに砦の石積みで囲った珍しい砦です。イタルさま。ここは、道に迷いやすいですから、お気をつけ下さい」


 その言葉が終わらないうちに、森が抜け、ディーデリヒと一人の少年が会話をしていた。

 現代風の眼鏡をかけた、片方の目を布で隠した細身の少年である。


「……テオドール……どの?」


 馬を降りたイタルは愛馬の手綱を引き、ゆっくりと近づいていく。


「イタル! 早かったな」


 ディーデリヒは笑いかける。


「彼がテオドール。アストリットのすぐ上の兄。そして、テオ。彼がイタル。緑のエルフ」

「初めまして。俺……私が、この砦の領主エルンストの次男テオドール。貴方がエルフのイタルどのだね。よろしく」

「えっと、初めまして。私は、安部イタルです。父は安部一平です」

「はぁぁ? 安部一平って、祐也叔父さんの兄さんの?」

「養子です。19歳です。……一条那岐さんですね?」


 問いかけると、ニッコリと笑う。

 見た目以上に、策略家ではないらしい。


「あぁ。よろしく……ここじゃなく、普段でも会えるといいな」

「イタル、那岐はテオドールより運動神経が良くて、接近戦の猛者だよ。イタル。疲れてないかな?」

「いつもより距離はあったけれど、道はぬかるんでいないし、楽だったね。でも、すごいなぁ、あの一条那岐さんがとは……」


 愛馬を宥めながら、微笑む。


「俺が?」

「ううん、父に聞いていたんだ。君のお母さんと父さんが同級生で、弟とも仲が良くて、時々連絡取り合ってるって。その時、那岐さんは声優で、那岐さんのお兄さんは医者を目指しているんだって。会えると思っていなかったから」

「あぁ、確か、一平おじさんがうちの田舎に戻るって言ってたから、兄貴から連絡来てたんだ。それに、茜もみっちゃんと行きたいって」

「みっちゃん……?」

「私の後輩で、カシミールの声を当てている高凪光流たかなぎみつるだよ。光流の奥さんの茜は、祐也さんの奥さん、蛍さんの姪だから」


 イタルはギョッとする。

 高凪光流が結婚していた?

 聞いたことはない。

 隠していたのだろうか?


「みっちゃん、言うなと何回言えばわかるんだ? 馬鹿那岐!」


 背後から声が聞こえる。

 アストリットと顔立ちや髪、瞳の色までそっくりだが、策略家のカシミールである。


「あれ? みっちゃん。普通にゲームしてなかったっけ?」

「うるさいなぁ。那岐が僕のことをヤンデレとか言うから、気になったんだよ」

「ヤンデレじゃん」

「うるさい!」


 同じ事務所の先輩後輩は、仲がいいらしい。


 那岐は21歳、イタルは19歳。

 ちなみに、光流は25歳である。

 年が近く、気もあったらしい。

 一人だけ年の離れた雅臣は苦笑する。


「そういえば、イタルの父さんの一平伯父さんの叔父さん……めぐみ叔母さんの旦那さんの寛爾かんじ叔父さんが、柔道のオリンピック強化選手だったんだ。俺、小さい頃から習ってた。イタルは一平伯父さんに聞いたけど、歴史研究に熱心だって。すごいなぁ」

「僕は、那岐さんみたいに運動神経はないから……」

「那岐でいい。逆に俺は兄貴に馬鹿だの脳を使わない、無駄遣いだの言われてるけどな。愛叔母さんの息子の祐次ゆうじ兄ちゃんが、お父さんと同じくオリンピック強化選手で、医者だよ。確か……臣さんより幾つ下だっけ?」

「ん?俺が姉より7歳下、祐次は祐也さんの10歳下、姉は祐也さんの2歳上だから、私より5歳下だな」

「……臣さん。いい加減結婚しなよ。臣さんの甥で俺の兄貴ですら結婚してるのに。ばあちゃんに泣かれてない?」


 甥の一言に視線をそらす。

 母は孫の嫁を溺愛しているが、いつかは言ってくるだろうと覚悟している。

 父も時々心配そうな顔である。


「し、仕事が楽しかったから……」

「頼む! うちのお袋が、にいちゃんの結婚を諦めて俺に嫁とか言う前に、相手見つけて結婚してくれ!」


 手を合わせて、テオドール姿の甥に祈られるのが居心地の悪い雅臣……ディーデリヒだった。

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