vierzig(フィルツィヒ)
「アナスタージウス。乗っても大丈夫?」
『……こういうものに乗り慣れていないが……』
『何?』
『なぁに?』
子狼のエッダとエーミール、エルマーとラウとリューンはソファに乗っている中に、窮屈そうに床にアナスタージウスが丸くなる。
すると、エッダがもぞもぞと冬毛のお腹に潜り込む。
続いて4頭も、もふもふの中に入っていく。
「まぁ……この狼殿は慕われているのですね」
「はい、とても強くて優しいのです」
アストリットは微笑む。
「とても賢くて、それに、私の話す言葉を理解してくれる……本当は、ディ様の一番信頼する存在だったそうです。でも、大怪我をして……私の傍にいてくれるようになったんです。長距離は走れなくても、一番私も大好きです」
手を伸ばし、頭を撫でる。
「あのね?アナスタージウス。家に帰ったら、少しリハビリ……体調が楽になるようにマッサージしましょうね」
『まぁ……子育て父親で良いぞ。今度、生まれるし……』
「えっ?」
『ブリギッタのお腹に子供がいる。バルドゥーインの嫁のフィーネはどうかは聞いていないから解らない。でも母もいるかもしれない』
「まぁ!それじゃ、家に帰って皆で子育てする方がいいわね。おめでとう」
その言葉に目を細める。
アナスタージウス自身、とても嬉しかったらしい。
『本当は子供ができたら独立だが、私達は家族で行動する。それに、こんな父親では子供の世話位しか難しいだろう。父と母には許可を得ている』
ちなみに、アナスタージウスの両親がボニファティウスとハイデマリー。
ハイデマリーに毛色が似たのが長男のアナスタージウス、父親似の為兄にあまり似ていないが、双子の弟がバルドゥーイン。バルドゥーインを一回り小さくした感じが三兄弟の末っ子クルト。
三兄弟は仲が良く、狩に出かけ、不審者に追われていたディーデリヒを助けたのがきっかけで時々森で会うようになった。
そして、アナスタージウスの恋人がブリギッタ、バルドゥーインの恋人がフィーネ。
ブリギッタはほっそりとした美少女系の穏やかな子で、フィーネはお転婆である。
アナスタージウスが言ったように、狼は親を頂点に家族で行動する。
新しく家族になったエーミールとエルマー、エッダも、ボニファティウス一家の子供として皆、可愛がっている。
まだ幼いので猟を教えることはないが、時々ディーデリヒに言って、甘やかすアストリットから離し、身を隠す術を教えたり、生肉の味を教えたりさせているらしい。
「いいお父さんになりそうね」
『おとうしゃん?』
ピョコっと頭を出したエーミールの声に、
『エーミール!何度も言うが、お前の父はディーデリヒだ』
アナスタージウスの唸り声に首をすくめる。
「アナスタージウス。怒らないで。私は大丈夫だけどびっくりしちゃうわ」
『悪かった……』
最近、やんちゃな三頭の子狼と二頭のドラゴン達の世話を任され、お疲れ気味である。
「帰ったら少し休みましょうね。アナスタージウス」
自分も甘えている自覚もある。
しかし、気になっていることがあり尋ねる。
「ねぇ、アナスタージウス。ディさまの様子がいつもと違う気がするの。ずっと一緒の貴方から見てどう思う?」
アストリットの眼差しに、アナスタージウスは視線をそらす。
彼はディーデリヒはディーデリヒだが、アナスタージウスとずっといた普段のディーデリヒは若くまだ血気盛んで真っ直ぐな性格の騎士だが、今のディーデリヒはその騎士達をまとめ上げる司令官兼騎士団長と言った印象がある。
声は同じだが、深みのある声には何かがある。
アストリットやアナスタージウス達を害するのではない。
深みのある甘い声が求めるのは……。
『……まぁ、良いのではないか?私には関係ない』
「えっ?アナスタージウス、知ってるの?教えて?」
『さあな』
アナスタージウスは狭い床に丸くなり、アストリットの家までの道を走らずに済むのがありがたいと思い、目を閉じたのだった。




