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sieben und dreißig(ズィーベンウントドライスィヒ)

 二台あるうちの一台の馬車に案内されたアストリットは、席に着く。

 大きい方は縛られた三人を押し込め、監視の者を置いた。

 アストリットの乗る小さい馬車の中にいるのは、侍女。


 アストリットの乗るこの馬車は、田舎には勿体無い絢爛豪華なcarriageキャリッジと言う、2頭立ての四輪馬車である。

 carriageは本来短距離……王城から街にある屋敷に戻る際に用いられるもので、今でもヨーロッパの儀式に使われる、前輪と後輪が大きい車輪で、扉で中に入るタイプの馬車である。

 Privateプライベート coachコーチに似ているが、こちらは辻馬車ではなく、貴族用の長距離を走るための4頭立て大型四輪馬車である。

 coachもアストリットの屋敷にあるが、大荷物を運べるし、今回のように飾りを限りなくつけなければ、目立たずに済む。

 もう一台はcoachで、荷物を載せていたがそれを移動させ、三人を載せたのだと言う。

 しかし、こんな豪華な馬車を、何故伯父は用意させたのか……ちなみにヒュルヒテゴットは、自分や連れてきたものが疲れた時に交互に休憩を取らせる為と荷物を運ぶために用意したのだが、ほとんど侍女のみが座っているだけだった。


 昨日、彼女は宿にて久々に仕事をヒュルヒテゴットに言い渡され、荷造りしたものの中から、今日のガウンなどを取り出したのである。

 ヒュルヒテゴットは、定期的に妹夫婦に使いを送っていたため、妹夫婦の末っ子で一人娘のアストリットのサイズは大体分かっており、今日身につけたアストリットはかなり驚いた。

 しかし、それ以上に驚いたのは侍女の方で、15歳だと言うアストリットの想像以上に華奢で、ウエストも驚異の37cmを超えて細く締めたのだった。

 アストリットは苦しかったものの、これがこの時代のドレスであり、伯父から贈られたものだからと堪えていたのだが……。


「す、座れない……」


 コルセットやガウンの飾りなどで、腰を深く座れず、背もたれなどもってのほか……背中を伸ばして、腰は椅子に乗せる程度……。

 これなら昨日のように、ディーデリヒにしがみついていた方がマシだったと後悔する。


「大丈夫ですか?アストリットお嬢様」

「……えぇ。大丈夫よ。ありがとう」


 アストリットは微笑む。

 アストリットが拒否したことにより化粧はしなかったが、その分幼い印象の顔が愛らしく、侍女は内心身悶える。

 ヒュルヒテゴットの屋敷には長女がすでに嫁ぎ、後妻の娘がいるが驕慢で、何か気に入らないと物を投げ、水やお湯を浴びせて来たりと散々で、その母親で豪遊し、暴力を振るう女共々屋敷の者たちに嫌われている。

 しかし、主人の姪のアストリットは本当に愛らしく幼い。

 そして、ヒュルヒテゴットの後妻とその娘のような傲慢さが無い。


「今日は晴れて良かった……伯父様やディさま、イタルさんに皆さんが雨に濡れなくて済みそう。雨が降ると、道がぬかるんで、馬にも負担がかかるでしょう?」

「私共、護衛や騎士たちは職務ですので、お嬢様が気になさらなくて良いのですよ?」

「駄目よ。だって職務でも、大怪我や何かあったら大変ですもの」


 アストリットは真面目な顔になる。


「それに、私はあまり土地勘はないのだけれど、1日で到着できるかしら……」

「休憩時間は短くなるかと思いますが、確か旦那様は到着できるとおっしゃっておられましたわ」

「そうなのですね。ありがとう」


 普段ならラウを抱いているか、馬に乗って風を感じながら走っているのだが、今は馬車の箱の中。

 外を見つめると、当時珍しいガラスの向こうからチラチラとこちらを見るのは、伯父やディーデリヒ、仲間になったイタルではなく、伯父が連れてきた警護の者たち。

 自分を警護してくれているのはわかるが、チラチラとこちらを見ているような気がする。

 アストリットはほぼ城砦にとどまり、その地で育ち、母の手助けをしてきた、都の者からすれば田舎の貧相な娘である。

 なぜジロジロ見られるのか、そんなに変で似合わないのか、困惑するしかない。

 それ以上に、嬉しいというよりも、怖い。


「どうされましたでしょうか?お嬢様」

「えっ、あ……」


 チラッと窓越しに外を見ると、それに気がついた侍女は、


「失礼いたしますわ」


と厚いものではなく、日よけ用の薄いカーテンで覆う。


「全く……旦那様にバレたらどうなることか……」


 小声で呟く侍女に、


「あの……大丈夫ですか?」

「大丈夫ですわ。日差しが眩しゅうございましょう?」

「あ、ありがとうございます」


微笑みお礼を言う愛らしいアストリットに、再び内心身悶える。

 すると、侍女の背後、御者席の小窓が開かれ、


「何かあったのか?」

「いいえ……日差しが眩しいので、閉ざさせていただいたのです。旦那様が?」

「いや、馬鹿どもがな……。お嬢様は大丈夫か?」

「えぇ」


と、御者の隣に座る執事と小声でやり取りをする。


「では、何かあったら伝えてくれ」

「えぇ。……お嬢様、彼らがジロジロ窓から覗いていたのが怖かったみたい。……旦那様に、私のわがままと伝えてちょうだい」

「……分かった」


 窓が閉ざされ、声が聞こえていなかったアストリットは、


「えっと、先の方は……」

「執事ですわ。旦那様の命令を周囲の者に的確に伝える者です。お嬢様がお疲れでないかと言っておりましたわ」

「あ、だい、大丈夫です」

「何かございましたら、何なりとおっしゃって下さいませ」

「ありがとうございます」


ホッとしたように微笑むアストリットは、侍女から見ても年齢よりも幼く愛らしい。

 しかし、主人の姪だけあり整った顔立ち。

 妖精姫……と呼ばれるに相応しい。

 その上、素直で、お礼や挨拶もちゃんとしており、コロコロとしている声は誰からも愛されるだろうと思う。


 しばらく進み、そして広場になったあたりで一時休憩、その時に侍女は降り、しばらくしてヒュルヒテゴットが、入り口から覗き込み、


「馬車は辛くなかったかな?おいで、外の空気を吸おう」

「あ、は、はい!伯父様」


 立ち上がり、扉に向かうと、ヒュルヒテゴットの手が伸び、軽々と抱き上げられる。

 そのまま、侍女たちが準備したランチセットが広げられた場所に運ばれ、伯父の膝の上に座らされる。


「伯父様。座れますわ」

「駄目だよ。ディーデリヒ、イタル。ロバたちは大丈夫だったかな?」

「はい。ヒュルヒテゴット様」

「あの、ディさま。ア、アナスタージウスたちは……」


 二人は、ドラゴンであるリューンとラウの連れておらず、アナスタージウスたち一家もいない。

 不安そうに問いかけるアストリットに、ディーデリヒは、


「皆は、向こうにいる。馬は神経質で怯えるだろうから、先行して様子を見てきたけど戻っておくとも言っていたよ」

「そうですか……」


少し違和感を感じた。

 でも、嫌なものではなく、優しい懐かしい何か。


「あの、これは……」

「あ、アスティが作っていた保存食だよ。食べた方がいいと思って」


 イタルはにっこり笑う。

 イタルの声も少しいつもと違って明るい。


「では、ディナーを囲もうか」


 ヒュルヒテゴットの言葉に、皆は、アストリットたちの保存食に舌鼓を打ったのだった。

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