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sechs und dreißig(ゼクスウントドライスィヒ)

 馬から降りて周囲を見回す。

 怪訝そうな狼一家と向き合う。

 そして雅臣まさおみはゆっくりと話しかける。

 声のトーンはあえて普段通りの軽めの声で……。


「皆、不思議そうだね。それもそうか。俺はディーデリヒの声を担当した人間。雅臣……おみと言う」

『でぃハイナイノカ?』

「ディーデリヒは俺の中にいる。俺は一旦、この体を借りているんだ。アストリット……アスティの中にいる少女と同じ。でも、ディの考えることは伝わるし……」


 言葉を止め、そして普段の癖……髪をかきあげながら溜息をつくと、


「……『全く、これだから実家ここにいるのは嫌なんだ。フィーがいるからここにいるだけで、次何かあったら出て行ってやる……と言いたいが、そうすると伯父上に問答無用で都に連れて行かれるな。……それも堅苦しいし、お前達家族と離れたくないから……何とか居座ってみせるとも。……アナスタージウス。狩に行くか?』」


狼たちの中で一番大きいアナスタージウスを見る。

 表情は作ったものではなく、ディーデリヒがいつも向ける優しい笑顔である。


『演ジテイルノカ?』

「……それも一応あるけれど、それ以上にディーデリヒの感情の方が強い。俺は声でその人物になりきる人間だが、口先だけじゃなく、ディーデリヒの性格、立場、アナスタージウスたちとの距離、全て想像ではあるけれど考え、なりきるようにしている。今の状態は、一応表には俺、でも内側はディーデリヒ。何かあるとすぐ入れ替わると思う」

『何カ?』

「そうだな……ディーデリヒの感情を乱すもの、それに……俺が苦手とする人……だな」

『苦手?』


 首をすくめる。


「アスティの伯父のヒュルヒテゴット様かな。多分、俺が苦手とするタイプだよ。それに声をされているのが、俺の職場の先輩だからね」

「何か言ったかな?」


 姿を見せたヒュルヒテゴットに、にっこりと笑う。


「いえ、何でもありません。おはようございます。ヒュルヒテゴット様」

「この声で言われると気持ち悪い……」


 ボソッと小声で言ったヒュルヒテゴットに、ピンときた雅臣は、


「ヒュルヒテゴット様、早く行きたいのですか?確か……」

「ディーデリヒ、何が言いたい?」


ヒュルヒテゴットに耳打ちする。


「奥さんがあてたカサンドラは、レアキャラですからね。お会いできるでしょうか?」

「なっ!お前、臣か!」

「えぇ。ありがとうございます。入れましたよ」


 久我直之くがなおゆきの妻は、尾形未布留おがたみふるである。

 公式には二人とも一般の人と結婚したとか、偶然同じマンションと発表しているが、二人には3人の子供がいる。

 雅臣の周囲は愛妻家が多い。

 そして、未布留は臣の後輩だが、サバサバとした姉御肌である。

 その為年上だが、臣を弟扱いする。


「ところで、まどかちゃん……じゃないアストリット、アスティは?」

「連れてきた侍女達が、この格好じゃ駄目だと、着せ替えさせている。男装でも可愛かったがな」

「お、おお、伯父様!」


 パタパタと走ってきたアストリットに目を見張る。

 一応ディーデリヒは自分の身長と然程変わらないが、アストリットは確か、15歳にしてはかなり小柄だった筈。

 走ってきた少女は首を上げ、背伸びをして必死に訴える。


「伯父様!どうしてですか?いつもの格好でいいです。それに、この姿じゃ馬に乗れません」


 身にまとっているのは、後世にはフランス式ガウンと呼ばれた、コルセットの上にブラウスに下にはジュップと呼ばれるペチコートを二枚重ね、淡いブルーのガウンを羽織ったもの。

 ウエストはかなり絞られているのだが、それよりも、


「可愛い……」


 小柄で顔も小さいのだが、瞳が大きく、ヨーロッパ系の彫りの深い顔立ちではない童顔……北欧系の顔立ち。

 化粧はしていないらしいが、滑らかそうな白にほんのり桜の色が肌に宿り、瞳は淡いブルー、髪はプラチナのような淡い金……。


 ディーデリヒ攻略の為にこの少女は声をあてられていないが、それが勿体無いほど愛らしい少女である。


「はいはい、ディ。そこで何言ってるの」


 一緒にいるイタルが苦笑する。


「いつも一緒にいるのに」

「えっと、じゃぁ……普段も可愛いけれど、今日のガウンはアスティにとてもよく似合ってる。アスティ、本当に可愛いよ」


 不審がられないように言い直し微笑むと、みるみる頰を赤らめ、


「え、と……あ、ありがとうございます。ディ様」

「こらこら……私の前で告白合戦しないでくれないか?私がエルンストやカシミールに怒られる」

「こ、告白……!お、伯父様!そんな……」

「告白じゃないですよ。本当のことを言ったまでです。ヒュルヒテゴット様」

「きゃぁぁ!それ以上言わないで!」


 アストリットは今度はディーデリヒに近づき、必死に背伸びをして手を伸ばすが、ディーデリヒはその手を取り、唇を寄せる。


「愛おしい我が妖精姫に……」

「うっきゃぁぁ!」

「ディーデリヒ、それ以上は禁止だよ」


 ヒュルヒテゴットは姪を引き寄せ、侍女に命じ馬車に案内させる。

 主だった者が消えてから、


「臣!お前は表向きの光流みつるのように、チャラチャラしてないと思ったんだが?」

「アストリットの姿より、仕草が可愛かったので、つい……」

「ついじゃないわ!お前、そのディーデリヒは19だが、実年齢三十路後半!しかも、アストリットの父親のエルンストと変わらんだろ?」

「そうですね……でも、瞬ちゃんが可愛いから良いんです」

「アホか!ここで言うな!現実で言え!……って、まだ高校生だろう?」


 それを聞き、イタルは遠い目をする。

 高校生と30代男性の恋愛……この世界なら政略結婚もあり得るが、現実では、犯罪者になるだろう。


「大丈夫です。光流も結婚した時、ギリギリあかね17になったばかりですから」

「はぁぁ?み、光流って、高凪光流たかなぎみつるさん、結婚してるんですか?」

「あ、内緒だった。でも良いか。イタルの遠縁だから」

「はっ?イタルはどこの人間だ?」


 ヒュルヒテゴットは問いかける。


「直之さんはご存知でしょ?茜のお父さんの弟の醍醐だいごさんの家の娘婿……祐也ゆうやさんの弟です」

「はぁぁ?えっと、祐次ゆうじは知ってるが……お兄さんは一平さんで……」

「えっと……実は僕、養子縁組で中原から安部昶あべいたるになります。養父が一平と言います」

「一平さんの息子か……意外な縁もあるもんだ」


 感心する。

 すると、側近のアルノーが、


「旦那様。カミルにエルンスト様の城塞に使者として先行させました。そろそろ出発のご命令を……」

「あぁ、分かった。では、ディーデリヒ、イタル。今日中に到着する。よろしく頼むよ」

「はい」

「初めてのところなのでついていくので精一杯ですが、よろしくお願いします」


馬に乗り、早駆けよりも少しゆっくりとした速度で、馬車を守るように走り出したのだった。

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