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イタル

 イタル……いたるは画面に映された電話番号をメモに書き込み、じっと見つめた。


一条日向いちじょうひなた***-****-****』


 番号を見つめていると、背後から、


「どうした〜?イタル」


と声がかかった。

 一時帰国の際に、イタルと共に母方の縁戚に挨拶と、その後、イタルを連れ家族の待つ自分の実家に帰るという養父である。


「あ、父さん……えっと……」

「ん?なんだ〜一条の電話番号か。どこで知ったんだ?」

「……えっ?と、父さん、この人の名前知ってるの?」

「はぁ?お前一度会っただろ?今年の夏、父ちゃんの弟の家に遊びに行った時。一条は俺の大学の後輩で、一条の嫁さんが大学の同期だったんだ。俺も一条たちも辞めたけどな」


 ケラケラと笑う。


「で、どうしたんだ?その番号聞いたのか?」

「えっと……今してるゲームで……一条雅臣いちじょうまさおみさんに会って……」

「はぁ?おみ?」

「お、臣って……父さん知ってるの?」

「一条の弟だし、お前は会ったことなかったか?」


 ガリガリと頭をかく。


「で、一条に連絡はいいけど、どうして急にそんなことになったか、話せるか?イタル」

「えと……あ、あの……」


 言葉に詰まり俯くが、小声で告げる。


「し、清水祐也しみずゆうやさんに会いたくて……駄目だって分かってるけど……」

「……ええっと……。祐也って、あの祐也?」

「……と、父さんの後輩?」

「違うわ!祐也は俺の弟だ!嫁さんの所に婿養子に行ったんだよ!清水姓は嫁さんの姓。元は安部祐也あべゆうや二つ下の弟だ」


 祐也の兄……イタルの養父の一平いっぺいは頭を抱える。


「お前、何度か会っただろ?夏だって、この後行く実家でも。何で覚えてないんだ」

「えっと……ひめ叔母さんとシィ叔父さん、おじいちゃん、おばあちゃん……確か、蛍さん……あれ?父さん。田舎で、眼鏡をかけた叔父さんが『この馬鹿息子!』って……」

「お前、余計な方は覚えてるんだな。そっちが、一条とその息子の那岐なぎ。その後ろで大柄なのが息子抱いてただろ?」

「あ、一登かずとくん」

「そう。一登抱いてたのが祐也だ。お前、祐也に会いたいなら、明日会えるから、一条に連絡すると遠回りになるぞ。それにどうしたんだ?」


 養父の問いに、


「……えと……祐也さ……叔父さんに会いたくて……あ、謝りたくて……」

「はぁ?お前、祐也に喧嘩売ったのか?お前、全く喧嘩も口喧嘩も出来ないだろ?」

「……と、父さん。そう言えばい、今、ナギって言ったよね?ナギって一条那岐、声優の?」

「そうそう。最近声優の仕事入りだしたって言ってたな。だから、臣と那岐から送られてきたゲーム、お前に渡したんだけど……お前持ってきてなかっただろ?買ったのか?」


 イタルは目を回しそうになる。


 えっ?

 自分にゲームが送られてた?

 そう言えば、父宛で開かないまま手渡しされた箱があった。

 器械とか書かれていて確かそこの送り主に、”Masaomi Ichijo”と書かれていた。


「えっ、あれ、雅臣さんだったの?」

「ロナウドもクリスティンも、誰に似たのか脳筋族だしなぁ。下のシェリルはまだ難しいだろうしと思ってお前に渡したのに」


 ロナウドとクリスティンは、イタルと年の変わらない義兄弟で、どちらとも柔道と空手の世界的にもトップレベルの才能の持ち主である。

 末っ子のシェリルはまだ10歳で、俳優業をしている。

 実は、イタルが最初この一家に会ったのは、シェリルが映画のための勉強をすることになり、それを教える家庭教師として付き添ったのが始まりである。

 10歳の子供だがとても賢い上に、可愛らしく、熱心に問いかけるので、こんな妹がいたらいいのに思ったのを覚えている。

 そして、


「イタルお兄ちゃん。お家に遊びに来て!」


と連れていかれた先で、シェリルの兄姉、両親を紹介されて唖然とした。


 特に……。


「あの、父さん……ぼ、僕の親のこと……」

「あぁ。お母さんが亡くなって、おじいさん達に育ったんだろ?」

「ち、違う!僕のち、父親……」

「俺だろ?」

「ほ、本当の父親がっ、あの、人だって言えなくて……ご、ごめんなさい!」


頭を下げる。


「僕の、僕……き、嫌われたくなくて、それに、ロナウドやクリス、シェリルも本当にだ、大好きで……それに、父さんやお母さん大好きで……僕……と、父さんって言う存在に、あ、憧れてて……」


 涙が溢れる。


「僕、シェリルに誘われて遊びに行って、父さんが偉いぞって頭撫でてくれて、この年だけど抱き上げてくれて……すごく嬉しかった。だから……嬉しくて、でも……本当に、祐也さんのこと……」

「あぁ、全然気づいてなかったよなぁ……。お前賢いのに、俺の弟が祐也だって。それに、ヴィヴィのことも、途中まで気づいてなかっただろ?」

「えっ……あ、お母さんは、綺麗な人だなぁって思ってましたが、料理を作ったり、庭でパーティーしたり、テディベア……」

「あぁ、日本人の俺たちにはあまり聞かない習慣だが、あっちは、幼い頃に子供部屋を用意するんだ。で、寂しくないようにテディベアをプレゼントする。お前の為に、ヴィヴィが用意したのは……」


 自分の部屋の隅に置いてあるテディベアを見る。

 がっしりとした素朴なベアで、貰った時に一目で気に入って、今回も連れてきたのだが……。


「それ、な。祐也の作ったテディベアだ。祐也の嫁やそのお母さん、長女はテディベアの作家で、祐也も時々作ってる。年に一体か二体で貴重でな。オークションだと一気に値打ちが上がるんだそうだ」

「えぇぇ?ど、どれ位?」

「ん?前にヴィヴィの所にそれを買いたいって言ってきた奴は五万とか言ってたが、転売目的だったらしくて60万で売ろうとしたらしい」

「ろ、60……」

「まぁ、ヴィヴィがいつも連れているので有名だったから、そう言った切り抜きとかも一緒にだけどな。元々そいつ、転売屋だって知ってたし、ヴィヴィは自分の集めたベアは売るつもりはなかったから切って捨てたけどな」


 あはは……。

 楽しげに笑う。


「ヴィヴィは世界的にも有名なテディベア収集家。仕事よりも世界中のテディベアイベントに行くのが趣味。日本でイベントがあって、その時に知り合ったのが、祐也の嫁のお母さんだ」

「高級なベア……」

「よりも、素朴なものか、日本の作家のベアが好きだそうだ。で、イタル?イタルはお前が生まれていない時に、祐也が謂れ無い罪で退学させられた。それは誰が悪いと思う?」

「えっと……げ、原因を作った人!それに、両者の意見を聞かずに、勝手に退学させた人!」


 答える。


「そうだな。祐也は芸能人が扉を破壊して乗り込んできたのを窘めて、それを学長が自分を殴ったとか嘘ついて一方的に退学させられた。悪いのは主に二人だ。じゃぁ次は、祐也は騒動に巻き込まれたくないと友人の実家に身を寄せた。そこに脅迫まがいの電話がかかり、怖くなって近所のおっちゃんに相談した。それに親友の病気のことを調べる為に留学した。留学したことで色々勉強できたが、知らないおっさんに人前で襲いかかられた。誰が悪い?」

「きょ、脅迫した人……暴力を振るった人」

「他は?」

「ほ、他には……あれ?」

「イタル?俺たちは、全てを断罪したいわけじゃない。それに罪を本人に突きつけるのは裁判官で、俺たちは家族を……お前を含めた家族を守ることだ。お前は自分の実の父親がどうとか言ったよな?俺たちは、お前の実の親父と縁を欲しいと思ったことはない。イタルを俺の息子にしたいと思った。祐也と血が繋がっていて何が悪い。祐也は俺の弟で、お前の叔父で、兄で……大きく言えば、家族だってことだ。お前は俺が父親なのは嫌か?」


 真面目な顔で一平は息子を見る。

 イタルは一平を見上げ、今まで照れ臭くて言えなかった言葉を告げる。


「と、父さん……ぼ、僕は父さんの息子になれて、世界一幸せ。お母さんやロナウドやクリス、シェリルとも家族になれて嬉しい。あ、ありがとう。大好きだよ……」

「俺も、お前が大好きだぞ?イタル。お前は俺の自慢の息子だ。それを忘れるな」


 一平は息子を抱きしめ頭を撫でたのだった。

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