zwei und dreißig(ツヴァイウントドライスィヒ)
アストリットはディーデリヒの後ろに乗り、同じく馬に乗る伯父のフュルヒテゴットを見る。
「伯父様。お仕事は大丈夫ですか?それにお従兄様やお従姉様は……」
「あぁ、三人とも元気だよ。嫁いだ娘は嫁ぎ先だが、息子たちは本邸に、あれらは別邸に押し込んでいる。所でディーデリヒ」
アストリットを乗せた知人の甥を見る。
「ディートリヒが、機嫌が悪かったが?」
「ディートリヒ……さま?」
アストリットは首を傾げる。
ディーデリヒは溜息をつくと、
「……伯父上の名前だ。母は伯父上のような人間になれと、私の名前をつけられた」
「ディートリヒは子供がいない。後継者を探している。私の次男をという話も出たが、ディーデリヒは甥。養子として引き取りたいと言っていた。ディートリヒの奥方も、ディーデリヒを実の息子のように溺愛しているからね」
「ありがたいですが……申し訳ないです」
「と言うか、ディートもお前の母のわがままを聞くのではなかったと、お前に申し訳ないと思っているのだよ。本当は私の妹夫婦が大恋愛をして、自分もとね……」
ヒュルヒテゴットも溜息をつく。
「えっ……ディ様のお母様と仲良しだったのですか?母は」
「幼馴染みだよ。私の家とディートリヒの家、そして、エルンストはね。エルンストは元々この地の領主ではない。中央の貴族の三男坊で、ついでに愛人の子供である兄達に追い出されて、遠縁のここの養子に入ったんだ。エリーザベトと恋仲だったけれど、見ず知らず同然の自分が一人行くなら構わない、幸せになってくれと別れを切り出されて、追いかけて行ったんだ。両親はすぐ戻るだろうとタカをくくっていたけれど、私もディートリヒも戻るわけはないと思った。すると、エリーザベトと離れて寂しかったのか、あのクズに手を替え品を替え……」
「すみません……ヒュルヒテゴット様」
「お前の責任ではないよ。それよりも、私もしばらく来ていなかったが、ディーデリヒ、お前の馬に乗る生き物はなんだい?」
アストリットと同乗するディーデリヒは、もう一頭馬を操る。
ちなみに、残りの二頭とロバは、ヒュルヒテゴットの護衛達が守っている。
そして、オオカミ一家は森の中から並走しつつ、ディーデリヒ達を見守っている。
「あ、GrünDracheのリューンとBlauDracheのラウです。ラウはアスティと仲良しです」
「ドラッヘ?こんなところにいるのか?」
「はい、落ちてました」
「落ち……」
「アスティの兄のテオも、旅の帰りにドラッヘの卵を二つ拾って戻って来たので」
ディーデリヒの言葉に、
「あのテオドールがね?」
「伯父様、テオお兄様……」
「あぁ、旅の途中に滞在していたのだよ。エルンストとエリーザベトが『私達の息子をどうかよろしくお願い致します』とわざわざ封書をしたためて送ってきた。やって来たテオドールは本当に真っ直ぐな子だと思ったよ。カシミールがうちの血が濃いけれど、テオドールはエルンストに似たんだね。本当なら半年だった滞在を伸ばすことを勧めたのは私の息子達で、テオドールは自分たちの従兄弟だからもっと勉強だけじゃなく、後見人を何人も探すべきだとね。ディートリヒも後見人になっている。それに、エルンストの父……アストリットの祖父もなりたがってたね」
「お祖父様ですか?……えと……お母様のお父様……お祖父様とお祖母様しかお会いしたことがありません」
アストリットは首を傾げる。
「そりゃそうだよ。エルンストは中央から去りここに来るときに、自分から縁を切ったから。すでに母上も離縁させられていて、実家の別荘に軟禁されていたんだ。エルンストにとっては実家なんてものはない。だから我が家に滞在するんだ。時々使いが来てね、追い払っているよ」
「追い払う……」
「正式な妻や嫡子を難癖つけて追い出しておいて、豪遊した挙句に借金。その上愚かな二人の息子が宮廷で問題をいくつも起こしてご覧?幾ら元王族でも追放、宮廷立ち入り禁止になるから。しかもクズ同然と思っていたまだ幼かったエルンストがディーツ領を治め采配し、衰え始めていたと言われた地を見事に復興させ、繁栄させてご覧?金を送れだの、愚息が送ったと聞いた父親がようやく目が覚め、愛人達を追い出したのは5年前かな?今じゃ、跡取りもいない家。賢いふりをした縁者が出入りして金目の物も持ち出され、泣きつきに来るよ。家に。こちらに送ろうとするのは全部握りつぶした」
ヒュルヒテゴットはニヤッと笑う。
「だが、一応テオドールを連れてパーティに出向いた先で、偶然会って、後見人になりたいと言ってきたが、テオドール自身が拒否したね。『私の祖父母はあちらにおります。なのに祖父だと言い突然腕を掴み、連れ去ろうとするのは誘拐ではありませんか?離してください!』とね。追いかけ回すあの話を聞かない老人を拒絶して、帰ってきたよ」
「テオは知ってましたっけ?」
「いや、テオドール曰く、フレデリックに似ていて気持ち悪かったらしい。掴まれた腕が気持ち悪いとしかめっ面していたよ。年相応の顔だったね」
思い出したのかクスクス笑う。
「しかし、テオドールはあれだけ賢いのに、フレデリックは……。本当なら連れて帰るものじゃないね。エリーザベトも調子が悪いのだろう?」
「でも、外で悪事を働かれるより、良いのではないでしょうか」
「あぁ、エルフのイタル殿だったかな?」
「はい、イタルと申します。イタルとお呼びください」
「では、イタル。君はどう思うかな?」
イタルは真面目に、
「話しを伺っていると、一度ではなく何度も問題行動を起こしているようですね。それが公になると、ヒュルヒテゴット様方にも問題になるかと思います。一度、自分の事を考え直せと言われていたフレデリック殿をこれ以上外に出すわけにはいかないかと思います。それに、アスティの前で言うのは失礼ですが、女性だったら即離婚です。そして、領地の辺境で閉じ込められてもおかしくないですね。男ですが、辺境に閉じ込める、もしくは修道院に送る方がいいかと思います」
「そんなに細かい話をしたのかい?」
二人は首を振る。
「アスティは話したくないでしょうし、私も話しませんよ。カーシュやテオの事なら話しますが」
「まぁねぇ……アストリットは聞かないほうがいいよ」
アストリットは自分がしがみついているディーデリヒや伯父、イタルを見る。
「さて、この途中に宿があるはずだ。そこで一泊しよう」
ヒュルヒテゴットの言葉に、
「私は、ドラッヘやオオカミ達もいますので、街を越えたところで野宿します」
「私もそうさせてもらいます。ヒュルヒテゴットさま」
ディーデリヒとイタルに、
「じゃぁ、私も……」
「アストリット。お前は私と宿に泊まりなさい。久しぶりに話がしたいしね」
「あ、はい」
アストリットは頷いた。
そして、街を抜け野宿をするディーデリヒ達と宿の前で別れたのだった。




