那岐
そうするとしばらくしてゲームが始まり、キャラクター設定に小さくあったアストリットがドアップでニコッと笑っていて、
「アナスタージウス!おやつが終わったら行きましょう」
と喋っている。
アナスタージウスは、文字が現れ、
『ヤレヤレ。主人ハマダコナイノカ……』
とぼやきつつロバに乗ったアストリットについていく。
すると、ディーデリヒが追いついて、2人は言い合いになり、
「えっと……ギルドで冒険者登録と、一緒に旅して良い旅人を探すつもりだったんです」
とアストリットが言うと、
「……一言言うが、オオカミを連れた身元不明の子供を、ギルドはすぐに登録を認めないと思うが……」
と雅臣の吹き込んだ覚えのない声が入り、
「お父様に手紙を書いてもらったのです。お母様の遠縁の子供って」
「……ますます危険だ!忘れているのか?アスティの伯母上は皇后陛下。母上の遠縁の子は皇帝陛下の子供や、中央の貴族の子供たち……こんな辺境に来るはずがない」
と答える。
アストリットやカシミールの母エリーザベトは、中央の有力公爵家出身だと話すディーデリヒ。
ついでにディーデリヒの亡くなった母は、代々宰相を排出する一族の現当主の妹だとアストリットが呟く。
そして、
「あの、都に行って、ディ様。伯父上に会われます?」
「何で?あぁ、会ってもいいが、会うと即、俺と君の結婚式だと思うぞ?で、こちらの地域に戻れなくなると思うが……行くかい?」
にっこりととんでもないことを言ったディーデリヒに、アストリットは顔を赤くして首を振る。
「キャンセル!……Abbrechen!別のところに行く!ディ様!わ、私は箱入り娘で何も分かりません。一緒に旅して下さい!お、お願いします」
「それでもいいかなと思ったんだけど……」
「良くないです!絶対、家よりも大きな屋敷の奥で、閉じ込められちゃう!せっかく旅に出たのに!」
「それもそうだな……じゃぁ確か、ここから一番近いベルリンに行って、植物や技術について聞いてみよう。でも、あまり好奇心が旺盛では、魔女狩りと言って……」
「分かってます!じゃぁ、ディ様のお付きというか、見習いでついていきます」
ぺこん頭を下げ、2人が旅に出る。
言葉がない……。
と言うよりも、自分が喋ったことのないディーデリヒに驚く。
キャラクター設定よりも、キャラが成長していると言うか……、
「ディーデリヒって、デレ属性?」
光流が呟く。
すると、那岐が、
「カシミールもヤンデレ属性発揮してたよ」
とデータ保存して、別のデータを出す。
「……特殊能力に、何で、妹を溺愛する……と弟を、排除……?」
何を見たのかアストリットが呟くと、カシミールは微笑み、
「ん?何?アストリット」
「い、いいえ。お兄様。何でも……」
見なかったことにするが、すぐ少し不満そうに、
「お兄様。どうして今回は私を連れて行くのですか?いつもなら一人で食べますと言ったら許して下さいましたのに……」
と訴える。
すると、無表情か実弟断罪の表情とは打って変わり、蕩けるような笑みを浮かべ妹を見る。
「……聞きたい?」
「聞きたいです」
「うーん、そうだねぇ……内緒」
「酷い……お兄様」
恨めしそうに上目遣いで睨むと、目を逸らし、
「……可愛すぎる……アストリット。可愛すぎる……お兄ちゃんは……」
と小声で呟く。
「お兄様?」
「あー、えっと、何でもないよ。着いたら解るからね?」
「本当ですか?」
「本当本当。あー、もう、食べちゃいたい程可愛いなぁ。アスティは」
すりすりとアストリットの頰に自分の頰を寄せる。
かなりの確率で、危険水準である。
「お腹すきましたか?下ろして下さったら、ディナーを早めるようにばあやにお願いして来ます」
「食べるならアスティを……」
「おいこら!客をほったらかしにして、お前何をしている」
ディーデリヒが登場し、舌打ちするカシミールが映った。
「……」
自分が吹き込んでいない、しかも自分と瓜二つの妹を『食べる』と呟くカシミールに、光流は珍しく魂を飛ばしている。
「やった!みっちゃんが灰になった」
光流に聞かせたかったらしく、わざわざ残しておいたのは面白がっていたのか那岐は笑う。
「……那岐……お前のキャラ崩壊はないのか……」
「ないよ。と言うか、アストリットは元々、『テオお兄ちゃん』って言ってたけど、最初からずっといるわけじゃなくて、フレデリック追放後に入れ替わりで戻ってくるでしょ。このルート、戻って日をおかずにディーデリヒとアストリットが出かけてるから。その間は普通イベントばかりだよ。声だけ。こんなの」
新たなデータを出すと、
「テオお兄ちゃん!」
「ただいまー!アスティ」
と会話が続く。
すると、立ち直った光流が、
「テオドールのことをテオ、カシミールのことはカーシュって言うのはいつも通りだけど、アストリットはディーデリヒにアストリットって呼ばれてて、ディーデリヒをディーデリヒ様って呼んでた設定のはずだけど、いつの間にディ様、アスティって呼んでるの?」
「えっと、みっちゃんのヤンデレの後すぐだったと思うよ」
「僕のじゃない!これは、カシミール!もう、僕と違う!」
「みっちゃんも近いじゃん。一緒だと思う、俺」
「だーれーがーツンデレだ!」
「ヤンデレだよ。醍醐叔父さん並みだと思う。ちなみに、ツンデレはうちの親父」
那岐は真顔で答える。
絶望したように見る光流に、雅臣は顔を背け笑いを堪える。
醍醐は、雅臣の兄であり那岐の父、日向の親友で、自分より一つ下の子供を持つシングルマザーだった清水風遊に一目惚れして、迫り倒して結婚。
一つ下の義理の娘に実の娘6人の父親である。
普通は温厚な好青年を見せていたが、かなり腹黒で、タチが悪いと日向はぼやき、
「風遊さんのお陰で一応解放された」
と言っていたが、日向は見た目は冷静沈着だが、妻の糺に振り回される。
2人の息子に恵まれたが、長男は現在医大の4回生で、二つ下が那岐である。
那岐は顔立ちは父親にそっくりだが、性格は母親似で、かなり日向を手こずらせたらしい。
「お前は天性の苛めっ子だったくせに」
「良いだろ!ちゃんと謝ったし!穐斗……じゃなくて、愛来には許してもらったし!兄貴はコエェけど」
兄の風早は、去年学生結婚で、単身赴任と言うか妻を実家に預けて、勉強している。
兄嫁がかなりの方向音痴に運動音痴で、虚弱体質もあるからである。
那岐も兄嫁のとろくささを知っており……ちなみに実家の隣家が兄嫁の実家である……兄についていくと言う兄嫁を両家総出で止めた経緯がある。
「まぁ、お前が叔父さんになるのも近いんじゃないのか?」
「愛来に似てたら可愛がる!うちの血濃く継いでたら……微妙」
遠い目をする。
「まだ、祐也叔父さんに似てたらかっこいいかも。あぁいう凛々しさとか強さ憧れる……それに、通訳なしで8ヶ国語!」
「それは羨ましいな……それにあの強さ、知識は半端じゃない」
雅臣も羨む程の天性の資質を備えた祐也は、3人の娘の父で、去年娘が結婚したが、その前の年、待望の男児が誕生した。
長女とはふた回り近く離れているが、父親にそっくりの息子に、家族は喜んだ。
「あ、そう言えば、一登もうすぐ2歳だ。なんか人見知りして、醍醐叔父さんから逃げ回って、親父が殴り飛ばすらしいよ。やっぱり腹黒って子供にも解るんだな。みっちゃん気をつけろよ」
「誰が腹黒だ!」
頭を殴る。
「いってー!みっちゃん、いい加減に結婚すれば?まぁ、みっちゃんの本性に付き合える人いないと思う」
「は?僕結婚してるけど?」
「えぇぇ!出来たの?」
「出来たのって何?もうしてんだよ!」
「えぇぇ?誰?誰と?」
那岐の問いに、突然顔を赤くする。
「良いだろ!」
「と言うか、お前、覚えてないのか?」
「何?」
「お前の幼馴染と言うか、醍醐さんのお兄さん」
「シィ叔父さん?あそこはまだ小さかったはずだけど?」
首を傾げる那岐に、
「紫野さんの長女の……」
「あ、茜。そう言えば、学生結婚してた……しかも高校って、あれ?旦那って……」
「僕だよ!悪かったね!臣さんに連れて行ってもらったんだよ。お店に!それから付き合い始めて、デキ婚じゃないからな!マスコミに察知されそうになって、もう籍入れろってなったんだよ!結婚式も出来ないし……茜のおじいさん、お父さんには申し訳ないし……」
「何で、松尾のばあちゃんと雛菊おばさんは?」
「おばあさんは、こんな結婚もよろしかろって豪快に笑ってくれたからだよ。おかあさんも素敵ー!って、おかあさんの方は結構ボケだなと思った」
義理の母にも何気に毒舌に、
「みっちゃん、一応親族として言っとく。それ、いつか、サキ叔父さんの耳に届くと思う」
「なに!」
「茜、結構アレでみっちゃんを操縦してると思う。もうそろそろ……」
と言った瞬間、光流のスマホが鳴った。
「えっ、えぇぇ!あぁぁ!ヤバい!今日は早く帰るって言ってたのに!」
「取ってやればー?」
「また臣さんのところにいるって分かったら……」
「あてがまた怒ると思いましたか?だんはん」
光流の背後に立っているのは、金髪に青い目の着物姿の美少女。
異国の人形に着物を着せた感じだが着慣れている上に、髪の結い上げも完璧である。
「わぁぁ!茜ちゃん。ごめんなさい!」
「臣兄はん、那岐もお久しぶりどす。あて、実家に帰りますよってに、よろしゅうおたのもうします。那岐、おにいはんに伝えておきますわ」
「じゃぁ、兄貴に家に帰るって伝えてくれる?一緒の方が良いし」
「わかりました。じゃぁ、臣兄はん、よろしゅう」
「わぁぁ!茜ちゃんー!待って!待ってー!じゃ、じゃぁ、僕も帰る!臣さん、那岐!また!」
歩き出した茜を追いかけるように去っていく。
鍵がかけられる音を聞いていた雅臣は、
「喧嘩……かな」
「茜の無視だと思う。あいつばあちゃんに似てるから」
「……櫻子おばさんの怒っている顔が想像できない……」
「じいちゃんとばあちゃん、恋愛結婚だし。じいちゃん口下手でもちゃんと伝えてるみたいだよ。一回も喧嘩になったことがないって」
「それは素敵だな」
後輩夫婦がどうなったかは後で聞くにして、自分のポケットからスマホを取り出した。
「……那岐」
「何?」
「さっきの電話、俺のファンの女の子の家族。……女の子がお前のしてるゲームを買った日に行方不明になった」
「えっ!」
「名前は結城瞬ちゃん。足取りは、ゲームを買って最寄駅に向かう道にあるベンチまで、嬉しそうにそわそわと早足で知人の子の横を抜けていき、座ったのは見えたそうだ。で、バッグの中身を探していた。そして、同じ駅から帰るその子たちがベンチに追いついた時には姿が見えなくなっていた」
淡々と語る雅臣に那岐は問いかける。
「誘拐?」
「解らない。その近辺の防犯カメラには、瞬ちゃんがベンチに座ってから誤作動を起こしたのか、画面が乱れ、しばらくして元に戻ると誰も、何もなかったそうだ」
「……防犯カメラを操作した……とか……でも、人が見てるのに、姿がないなんて!」
「兄さんたちに相談してみたい。でも、今のゲームも気になるんだ。俺もゲームを持っている。そのルートに行き着けるか試したい」
那岐は頷く。
「臣兄は、ゲームを。俺が親父に聞いてみる」
「頼む」
雅臣は自分のゲーム機と開いていないパッケージを剥がしながら持ってくると、ゲームを始めたのだった。




