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雅臣

 ところで、雅臣まさおみはゲームが発売されてから、自分もゲームに参加しようとするのだが、いくつかの仕事があり忙しく、出来るようになったのがしばらく経ってからになるようだった。

 それに仕事だけでなく、


まどかちゃんが失踪?ど、どう言うことでしょうか?」


電話口で茫然とした。

 電話の主は瞬の姉の一人。


「それが……良く解らないのです。実は、7日前にあの子、丹生にゅうさんが声を吹き込んだゲームを学校の下校時に買うのだと嬉しそうに朝出て行ったのです。でも、その日からいなくなったんです。私達家族とも喧嘩などはありませんでしたし、学校でも問題なく……」

「瞬ちゃんの行きそうなところ……あ、お……いえ、こちらには連絡はありません……」

「解っていますわ。丹生さん。あの……信じていただけないかと思うのですが、最後に瞬がいたところを同じ学校の女の子が数人見ていたのだそうです。あの子、嬉しそうにお店からゲームを買って出てきて、そわそわと電車の駅に向かいかけていたそうなんです。女の子たちを追い越して。でも、ゆっくり歩いていた彼女たちの先……途中のベンチに座って、バッグの中をゴソゴソ探していたと。そして、そのベンチに近づいてみたら、瞬がいなかったと」

「いなかった……?」


 雅臣は呟く。


「えぇ……そうなんです。うちの瞬はお転婆で、ちょこまかとしているので、その時彼女たちは、自分たちが話している間に先に駅に行ったのだと思っていたそうなんです。でも、あの子改札を通ったという記録もなく、その後あの子を見たという情報も……一応監視カメラも見ていただいたのですが、あの子の座っていたベンチ辺りを写しているカメラが何故かあの子の座ってから、画面がぶれて見えなくなり、しばらくして元通りになった時には、あの子の……姿が……」


 必死に堪えて、説明していたのだろう。

 瞬の姉は涙声になり、言葉に詰まる。


「丹生さんに……お伝えしていいのか、わ、解らなかったのです……でも、母が倒れ……父も、仕事の合間を縫って瞬を探し……い、妹も私も……ど、どうしていいか……」

「いえ、教えて下さってありがとうございます。結城さん」


 慰めるように声をかける。


「私も表立っては、結城さんのお宅にご迷惑になると思います。でも、知人のつてを介して探させていただけませんか?瞬ちゃんはこの年の私がいうのはおかしいのでしょうが、新しいことにチャレンジすることを教えてくれた、大事な人です。ですから……ご家族の皆さんも……お心を強く持たれて……」

「ありがとうございます……本当に、本当に……何があったの……家出なんて考えるような子じゃないんです。はっきりと言う子ではありますが……あの子は……」


 しばらくして何度も謝罪する声とともに電話が切れ、雅臣は目を伏せた。




「どうしたの?臣さん」


 様子を伺っていた声に振り返る。


「……お前なぁ……又コンビニ弁当に飽きたとか言って来たんじゃないだろうな?那岐なぎ

「俺だって自炊するよ!でも、一人暮らしってつまんないし、やっぱり祖母ちゃんや叔母さんたちの料理が懐かしい……今度長期休暇取れたら帰る!絶対!」


 訴えるのは、一条那岐いちじょうなぎ

 先程瞬が買ったと言っていたゲーム『GeschichteゲシヒテSpielシュピール』でテオドールの声を当てている。

 ちなみに、雅臣がディーデリヒの声を当てていた。


「それより、どうしたのさ。臣さん。いつになく真剣な顔で」

「……ちょっとな……」

「何だよ。みっちゃんなら話すの……」

「違う。個人情報。と言うか……まぁいい。どうせ兄さんに相談するつもりだったし……」

「はいはーい!僕も聞くよー」


 いつの間に入り込んでいたのか、雅臣の後輩で、同じゲームのカシミールの声を担当している高凪光流たかなぎみつるが立っている。


「俺の家はお前達の遊び場か……」


 仕事と後輩を可愛がる兄貴分として、そして、甥である那岐をしばらく住まわせていたこともあり、二人には合鍵を渡していたのだが……返してもらおうかとこめかみを押さえる。


「で、どうしたの?臣さん。めちゃくちゃ顔色悪いけど」

「……ちょっと待ってろ。酒は出さないが、ハーブティーは出す」

「出た!臣さんのハーブティー攻撃」

「と言うか、那岐、さっきみっちゃんって聞こえたんだけど?」

「あははー空耳じゃねぇの?」


 2人を見送り、スマホをポケットにしまうとキッチンに立った。

 しばらくして、ハーブティーと手際よくパスタを作ってテーブルに置く。


「やったー!俺腹減ってたんだ!」

「やっぱりか……」


 雅臣がテーブルに着くと、那岐は、


「いただきます!」


と手を合わせると食べ始める。


「お前は万年腹ペコ少年か!」


 光流みつるが突っ込むが、那岐は、


「いやぁ、俺、やっぱり体動かさないとダメだなぁって思って、走ってきたんだよね。それに、空手とかは流派があるけど、ここの近くの柔道場で稽古つけて貰えないかと思って行ったら、チラチラ見られて居心地悪いんだ。なんかしたかな?」


首を傾げる。

 やんちゃ坊主ではあるものの礼儀はしっかり叩き込まれて育った那岐は、ちゃんとフォークを置いている。

 雅臣と光流は顔を見合わせ、溜息をつく。


「那岐。お前はまだ一般人と思っているだろうが、声優って言う職業柄、雑誌やテレビ、ネットでお前の顔に経歴が晒されてるんだ」

「あ、あのゲームの声優って言われてるんだよ。あれ、前評判高かったし」

「『Geschichte・Spiel』?えぇ?そうなの?でも、臣さんやみ、光流さんは中心、主役級だけど、俺、端役でしょ?」

「はぁぁ?」


 光流が後輩を見る。


「那岐?知らないの?自分のキャラの立ち位置。僕の役のカシミールの義弟テオドールだったよね?」

「うん、なんか眼鏡かけてて……でも、カシミールは、テオドールとは違って跡取りじゃん。テオドールは孤児で引き取られてて、カシミールの妹のアストリットの護衛?みたいな」

「阿呆!」


 光流のデコピンに、


「いってぇぇ!何すんの!」

「テオドールは前評判が高くて、本来サブキャラだったのが、ファンがもったいない!このキャラ出してくれ、声を吹き込んで欲しいって緊急追加されたんだよ。実際お前だけアテレコ遅かっただろう」

「あ、そう言えば、お前行ってこいって、社長に言われた」


額をさすりながら答える。


「ゲームの特別限定版のCDにDVDも3人で出たでしょ。会社の新人紹介じゃあるまいし、那岐と3人で出るわけないでしょ。主要地域のキャラ別特典とかもあって、まぁ、臣さんファンが多いと思うけど僕たちの特典がダントツで売れたらしいよ。だから今度取材があるんでしょ」

「えぇぇ!スッゲェ。臣さんファン。でも、光流さんファンも多いじゃん」

「ある程度はね。でも、ツイッターとか知らないの?『一条那岐、可愛い!』『テオドールはあんまり旅イベント無いけど、お城イベで声聴けた!』って、リツイート増えてたでしょ」

「あ、そうだ……そう言えば、ツイッターより思い出したんだけど、臣さん、光流さん、アストリットって声優いた?」


 2人は顔を見合わせる。


「はぁ?いないだろう」

「そうだよ、いない。テオドールの恋人役の子はいるけど」

「えぇ?あ、尾形未布留おがたみふるさんは知ってる。違うよ。もっとコロコロしてる声なんだ。無邪気な声でディーデリヒの可愛がってるオオカミとかと遊んでるんだ」

「無邪気……」


 2人は再び顔を見合わせる。


 アストリットは大人しく控えめで儚げだが芯は強い。

 しかし、兄であるカシミールに似た美少女ではあるが、声はなかった。

 やはり主役級ディーデリヒの婚約者候補と言うのは、かなりファンからは人気がないらしい。


「確か裏ネタでオオカミにも名前があるって聞いたけど、えっと、アナスタージウスだっけ?そのオオカミと遊んでたり、アストリットが家出した時にはアナスタージウスとロバと旅してた」

「はぁぁ?アナスタージウスは、ディーデリヒの飼っているオオカミ一家の一頭だけど、そんな単独行動は……それに家出?」

「そう。確か、じゃがいもとかさつまいもの苗を仕入れるとかで、カシミールやテオドール、ディーデリヒと言い合いになって出て行って、ディーデリヒが追いかけるイベント」

「そんなイベントはない。俺は吹き込んでない」

「えぇぇ?じゃぁ、これ何さ」


 バッグの中にゲーム機があり、電源を入れる。

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