sieben und zwanzig(ズィーベンウントツヴァンツィヒ)
「ところで、外の二人はどうする?」
ディーデリヒは、串から肉を引き抜きつつ、
「美味いっ。甘辛くて柔らかいし、これは……」
「ドワイエネ・デュ・コミスと言う梨の実です。ほらこの前、ラウちゃんと見つけた……」
「あぁ、あれか。ただの実かと思っていたら、梨とは……」
「花か実の食べた跡を見たら大体わかるんですよ?でも、普通は毒があったり、えぐみが強いとか気になるんですが、食べた跡があって、少し分けてもらおうと思ったんです。沢山とるとあの木は多分、旅人さんか鳥が落とした種で成長したものだと思うので、獣たちの食事だと思って」
「ラ・フランスですね。これは美味しい……」
イタルの声に、
「ラ・フランスと言うのか?」
「ラ・フランスは西洋ナシ……ヨーロッパの梨という意味で……」
「いえ、梨の品種の一つで、確か未来の、イタルさんの住んでいる地域で呼ばれる通称です。本来は『Claude・Blanchet』という品種です。1864年にフランスでできた品種ですから、今はまだ開発されていないのです。『ドワイエネ・デュ・コミス』はこの地域で高級品種と呼ばれている梨です。とても美味ですが栽培が難しいので「幻のナシ」とも呼ばれます。秋に収穫されて年明けまで市場に出回りますが、栽培されることは少ないでしょう。野生化してこう言った道沿いに生えていることが多いかも」
「……アストリットさんも旅人ですか?」
肉を口に運ぼうとしたアストリットは微笑む。
「そうでもあり、そうでもない……難しい立場です」
「そうなんですか……」
「それより、イタル。どうする?雨が止むまで後何日かある……私たちはここで保存食を作ったり、皮の加工をして、出発するつもりだ。君は雨が止んでから近くの町のギルドまで送ってもいい。あいつらは……どんどんうるさいな」
イタルが閉めた扉を叩く音がする。
「馬たちが可哀想だから、この中に入れているし、場所もそんなに空いていないが……入れてやるか……」
「あ、お肉出しましょうか?」
「いらないいらない。スープだけでいい。自分の保存食食べさせたらいいんだ」
「あ、自分が行きますね」
イタルが串を返し、扉に向かう。
鍵を開けると、
「何で鍵を閉めるんだよ!」
「そうよ!イタル!」
「うるさいぞ!もう一回締め出してやろうか」
ディーデリヒは串から最後の肉を口に入れると、
「炭は?わらはどうした?取ってこい」
「イタル行け!」
「私はイタルに言っていない。それとももう一度締め出すぞ?」
「ひぃぃ!」
タクマとエリアは慌てて外に出て、炭の入った桶と、かき集めたわらを持ってくる。
「わらは馬たちに敷いてやれ。炭はこちらだ」
エリアが慣れない手つきで敷こうとするが、神経質な馬が苛立ち蹴りつけようとする。
「キャァァ!」
「馬鹿か。馬は賢いが臆病だ。声をかけながら世話をするのが普通。お前たちがどんな風に世話をしてきたかよく分かった」
「す、炭は……」
「これから燻製を作るので。スープをどうぞ」
アストリットは器に盛る。
野草や肉のかけらのようなものと一緒に、何か、微妙な色のソーセージが入っていた。
「こ、これは……?」
「ソーセージですよ。新鮮ですからどうぞ」
エリアと並び、焚き火のそばに座ったタクマは、スープをすすり、ソーセージをかじり、吐き出した。
「ぺっ!な、何だ?レバーか?」
「えっ……うわぁ。気持ち悪い!」
「……何が気持ち悪いんですか?それはディさまたちが狩ったウサギや鹿の血液のソーセージです。血を流し、放置していると、狼やクマが出てきます。でも、このように料理して食べると血で獣を集めず、体にいい成分を取ることができます。食べたくないのなら、返してください!」
「手間をかけてソーセージを作った私やイタル、調理したアスティに失礼だな」
腕を組むディーデリヒ。
ちなみにディーデリヒとイタルが向かい合い、奥にアストリット、彼女に向かい合うように、背に馬たちのいるタクマとエリアが座っていた。
アストリットは席を移動してもいいのだが、ディーデリヒがアストリットを守るために焚き火の向こうに座らせたのである。
「あ、イタルさん、梨のタネ、残しておいてください。植えようかと思うのです。それに、普段から食べたタネはそこか、日の当たる場所に撒くようにしています」
「あ、分かりました」
「イタルさん。あの。年下の私に敬語は良いですよ。イタルさん、長生きですよね」
「えっと、エルフでは子供だよ。まだ38だから。ありがとう。えっとアストリットって呼ぼうか?」
「アスティで大丈夫です。私は、15……もうすぐ16です」
「半分だね」
イタルは笑う。
「ディは幾つだっけ?」
「19……老けてるって言うんだろう?」
「いや、王子様ってディみたいな人間を言うんだろうなと思って」
「何だそれは。アスティの兄の一人がアスティに瓜二つだ。二人は母上にそっくりで妖精の女王と妖精王子、妖精の姫と呼ばれている。だが、カシミールは腹黒で、見た目だけだ」
「と言うか、アスティのお母さんの一族、先祖がエルフの血が混じっているからね」
一瞬ためらったものの、食べてみると案外口にあったのか、もぐもぐとソーセージを食べ、イタルは答える。
「僕は見た目通り大地や森のエルフ。アスティは水のエルフの血を引いてる。炎のエルフは暖かい地域や火山に近いところに住んでいるよ。その近くにドラゴンも住んでいることが多い。ドラゴンは基本的に知能が高い。エルフと仲が悪いドラゴンは闇のドラゴン。他のドラゴンは仲がいいと思うよ」
「私の家に、炎のドラゴンと、純白で赤い目のドラゴンの赤ちゃんがいます。それと、ドラゴンではなく黒い鱗の龍がいます」
「龍?もしかして、Japan の?」
「そうですね。炎のドラゴンと純白のドラゴンは卵を次兄が拾ってきたんです。赤い子はカミカミとしますが、おっとりとしている白い子はキューワ、キュわわーと嬉しそうに歌を歌っています。赤い子は長兄、白い子は次兄が」
「ドラゴン!」
声を上げるタクマに、ディーデリヒは、釘をさす。
「……アスティの母方の叔母が帝国皇妃さま。母上は公爵家令嬢。私の母方の伯父は宰相だ。Dracheのことはすでに便りで送っている。もし、危害を加えるようなら、これを見ておいた。伝えておくから、即捕まると思え」
ひらひらと見せたのはギルド登録証である。
青ざめる二人に、
「雨が止むまでは共にいてやろう。それからは別々だ。その時に返す」
食事を終えて、ディーデリヒはウサギの皮の加工を始める。
毛の部分は残すので、裏の身の部分をギリギリまで削ぎ落とす。
イタルは見よう見まねで同じウサギを加工し始める。
「これは……皮のなめしですか?」
「いや、なめしは渋を使う。手間がかかるから今回は毛皮にした。毛皮にするとアスティの防寒具になる」
「これは……」
「腐らないように、身があった部分と皮の間をギリギリまでしてから干すんだよ。残すと腐るから」
「そうなんですね」
二人の横で、アストリットは狼や犬達と遊んでいる。
「はい、エッダ?」
コロコロと転がるボールを待っていたエッダの横で、エーミールがくわえ、
『……お母さん。取った』
「あらあら、エーミール、お母さんにちょうだい?」
『エルマーと遊ぶ!』
「みんなで仲良くよ」
たしなめる。
「それに、燻製を作るから、仲良くね?」
「今回は?大きめの肉にするのかな?」
「大きめで、薄く削ぐのも美味しいですよね。スティック状にもしますけど」
「えっ?燻製?」
「食べますか?AleにBierにMetはありますが、Weinはありません。ディさまはビーアですか?」
アストリットは準備をする。
「何でワインはないのよ」
「……エリアとタクマにはないよ。自分の皮の水筒から飲みなよ」
イタルは冷たく告げる。
「荷物は特に水物が重いんだから。それに、ワインは高いんだよ。南部はワインが多いけど」
「ハーブティはいかがです?」
「ビールくれよ」
「嫌だ。何でくれてやらないといけない。アスティ。ビーアにエールを混ぜてくれないか。確かビーアも減っているはず」
ディーデリヒは告げる。
「イタルは?ビーアは最高だが、実はミードはアスティの仕込んだもので他のミードとも違うんだ」
「じゃぁ、ミードで割ってください」
「はい。それと、燻製です。薄く削いだものと、スティックにしていますよ」
「ありがとうございます。ん?君も食べる?」
アナスタージウスとバルドゥーインの弟狼のクルトが近づく。
クルトは兄達と一歳違いでまだ一回り小さい。
いいの?いいの?
と言いたげに首をかしげるクルトにクスッと笑う。
「いいよ。ありがとう。君たちの家族は強いね」
「アスティの側にいるアナスタージウスは長男。こちらにいるのがバルドゥーイン。アナスタージウスの双子の弟。クルトは弟狼。こちらにいるのがアナスタージウスの恋人のブリギッタ、バルドゥーインの恋人のフィーネ。アナスタージウスの両親のボニファティウスとハイデマリー」
「じゃぁ、この子達は……」
「アナスタージウスが見つけたんだ。飲んでくれ。イタル」
イタルは口にすると、
「あ、ビールのえぐみが減ってる……代わりに深みが出ている」
「エールを加えるよりも飲みやすいはずだ。でも、アスティはエールもミードも苦手なんだ」
「酔ってしまうんです。でも、なるべく飲むようにしていますよ。飲める水が手に入れられない時には」
「それに、燻製……美味しいですね!みんなが欲しがるのがわかる」
集まってくる狼や犬達に笑いかける。
「こら。イタルのをとらない」
「良いですよ。一緒に食べます」
イタルはクルトの首筋を撫でる。
その横で、
「なんで、イタルと私達と、差があるのよ!」
「なんで一緒に?じゃぁ出て行ってくれ。ちなみに馬は足の手入れを怠っていて、病気になっているぞ。歩いていくんだな。先にここに滞在していたのは私たちで、馬の怪我の手入れもしてやる。ほら出て行ってくれ」
ディーデリヒは薄く削いだ燻製を頬張り、ビーアを飲む。
「アスティ。大丈夫か?」
「えぇ。お水を。くみにいきます」
後ろの扉を開けて、アナスタージウスが先にすり抜け、出るとすぐに戻ってくる。
「……なんて酷いことをするんですか!」
唇を噛み二人を睨む。
「せっかくの空の恵みを……5つ溜めていたのに全部倒すなんて!」
「はっ?」
「馬達やロバ、犬達とアナスタージウス達の水と洗い用の水まで……貴重なものだったのに」
その言葉に、ディーデリヒは睨みつける。
「お前達、本当に旅人か?水の大事さを知らないのか!」
「せっかく溜めていたのに……。もう一度溜め直さないと」
「皆の水は足りるか?」
「大丈夫です。一回こちらにある程度溜めていたので……。でも……」
目を伏せ溜息をつく。
「馬達やアナスタージウス達をぬるま湯で拭いてあげたかったので……それは明日にと……」
「明日で大丈夫だ。アスティ。もう、休んでも良い……」
「燻製がもう少しなので……」
「それが終わったら休むと良い。鍵は?」
「かけました」
からの桶を置くと焚き火の前に戻り、アナスタージウスを抱きしめ、温めアルコールを少し飛ばしたミードを一口二口飲んだが、何度か飲んでいるととろ〜んとした顔になる。
「アナスタージウス……ふかふか〜」
『アスティ。酔ッテイルナ』
「違うよ〜あ、エッダ、エーミール、エルマーもふかふか〜」
『お母さん〜』
『こら、甘えるな』
「やーだー!ディさまは怒るし、アナスタージウスが良い!」
いつ怒ったのか……イタルがチラッと見ると、
「だから悪かった。アスティ。次の街に行ったら、何か贈る」
「いりませーん。アナスタージウスと寝る〜」
小さくあくびをし、
「あと、もう少ししたら燻製出来上がる……」
と呟きながら眠ってしまったのだった。




