sechs und zwanzig(ゼクスウントツヴァンツィヒ)
イタルは、特に厳しいリューンが、
『これ、考え方エルフ、ずれてるけど、リューンたちに害意ないよ』
と示したため、小声で話す。
「あの二人は?いつ仲間になったんだ?」
ディーデリヒは、髪を拭きながら問いかける。
「私は、一応ギルドに入って、その時に二人に出会ったのです。二人は旅をすると言っていたのですが、私が最低限教わっていた薬草の知識も罠も全く出来ない上に、貴方が仰っていた通り、馬にも全く手をかけない……料理もしない……いつのまにか、私が全てをして、二人はだらけて……いつかパーティを解消したいと……」
「しっ!」
ディーデリヒは、アナスタージウスを連れ、扉の前に向かい、
「おい、何をしているんだ」
ディーデリヒが扉を開けると、二人が立ちすくむ。
「馬の手入れもできないのか?それとも盗み聞きが仕事か?」
「あっ……」
「えっ、えぇ?キャァァ!ディーデリヒよ!ディーデリヒ・アーダルベルト・ディレンブルク!」
タクマは気まずげに視線を彷徨わせるが、エリアは前に割り込むようにして、
「私はエリア・カッチェスです。ディーデリヒですよね?」
「誰だ?」
盗み聞きをされていたのも納得がいかなかったが、見知らぬ人間に呼び捨てにされたことにも珍しく不快感をあらわにした。
キョトンとするエリアたちに、アストリットは、
「タクマさん、エリアさん。私は父たちが爵位を持っていますが、私自身は無爵です。ですが、ディーデリヒさまはご実家も伯爵家、ご本人も伯爵の位をお持ちの方です。呼び捨てはやめていただけませんか?失礼に当たります」
「何よ!急に。ツンケンと。身分をかさにきて、いい気になっている訳?」
「違います。それよりも、お二人は自己紹介もしていないのに、一方的に相手を知っているからと、呼び捨てたり、横柄な態度をとるのですか?」
「そうだよ。やめなよ。タクマ!エリア!ちゃんと自己紹介しなよ」
イタルは二人に注意し、ディーデリヒたちに頭を下げる。
「本当に申し訳ありません。ディーデリヒさま、アストリットさま」
「いや、イタル。イタルに謝られても困る……ディで構わない」
「ほら!ディでいいって!」
「私は、イタルに言った。そっちに言ったわけではない。イタル。悪いが、君の馬とわらと桶を一緒に持ってきてほしい。そのついでにこの二人の馬の餌や水、地面に敷くワラなどを確認してきてくれるか?」
「分かりました」
アナスタージウスが付いていくと、ディーデリヒは厳しい顔で二人を睨む。
「礼儀も何もなっていないな。お前たちのギルドは何処だ」
「ディさま。お茶は如何ですか?」
「あぁ……ありがとう。アスティ」
二人を放置して戻っていく。
すると、コロコロと出てきた狼の子供が、ぴょこんぴょこん飛び跳ねる。
『おとうしゃん!』
『おかいりー』
『抱っこ〜』
「はいはい。お前たちは元気だなぁ……」
アストリットが準備をした敷物に座り、狼たちの頭を撫でる。
その近くに座ろうとしたエリアの前に、アナスタージウスの兄弟バルドゥーインが牽制するように姿を見せる。
「なっ、何よ!」
「アナスタージウス……さっき出て行った狼の兄弟で、バルドゥーインです。アナスタージウスが私の側にいるので、バルドゥーインがディさまの側にいます。バルドゥーインたちは半日狩に行っていたので疲れているんです。来ないでくれと言っています」
「な、何よ!あんた、そんな獣の言うことが分かるわけ?気持ち悪い」
「どうしてですか?アナスタージウスもバルドゥーインも、馬たちだって旅の仲間です。機嫌が悪い時とか何かを聞きたい時、撫でてくれと訴えるものです。人間と同じ感情がありますから。気持ち悪いと思う方が変です」
アストリットはカップを渡すと、二人を見上げる。
「旅人だからとか言い訳をしないでください。ここにいるのならここの礼儀を守るべきです。安易に選択することで貴方方の未来はないです。と言うか、繰り返す資格はありません」
「ただのゲームだろうが!」
タクマの言葉に、アストリットはクスッと笑う。
「ゲーム?違いますよ。ここでの生活は、リアル……現実です。貴方方の本心が、醜さが暴かれる。強気で食ってかかっているつもりでも、貴方はバルドゥーインを警戒していますし……あら、お帰りなさい」
「ヒィ!」
後ろの扉が開き、姿を見せたのはアナスタージウスと、イタルが手綱を引いて入ってくる。
しかも一頭だけでなく残りの三頭の馬もである。
「すみません。私の馬は蹄が強いので蹄鉄をつけていないのですが……三頭の馬が、蹄の爪が伸びて、蹄鉄がグラグラに……それに、雨で濡れたままで……ここに入れても構いませんか?」
「あぁ、大丈夫だ。それに、蹄の手入れは私が出来るから。暖かい方がいいだろう」
「残りのわらと頂いていた炭も取ってきます」
「それは二人にやらせろ。イタル。馬の体を暖めてくれ」
立ち上がったディーデリヒは、奥に積み上げていたわらを投げ、
「アスティ。スープを作っていてくれ。リューン。アスティを」
と近づいていく。
そして、わらをほぐし下に敷き詰めると、わらを掴み、疲れ切っている馬たちの体をこする。
「寒かったな。お疲れ様。もう少し待ってくれ。栄養のあるものを口にして、足の手入れをさせてくれないか……おい、お前たち、炭と外のわらを持ってこい!その気がないなら外で過ごせ!アナスタージウス、バルドゥーイン。追い出せ!」
「わっ、わぁぁ!狼!」
タクマとエリアは逃げ出す。
そして、イタルは鍵をかけると、同じように馬たちを暖め始める。
「ごめん……気がつかなくて……」
「あ、馬さんたちのスープです。桶に入れてます」
「す、スープ?」
イタルは唖然とするが、五頭の馬の前に置くと、ディーデリヒの馬は当然のように口にし、そして次々と馬たちは口にする。
「こ、これは?」
「アスティの動物たち用の特製スープだ。料理上手なんだ」
「アナスタージウスとバルドゥーインもこっちにね。後で、エルゼたちをこっちに……」
アストリットは手際よく準備をする。
空気が回るようにし、全体的に暖かくした。
その中で、ディーデリヒは馬の足を調べ、
「この馬は炎症を起こしかけている……でも数日で治るだろう。そうしたら爪を削る。この馬とこっちのは、今のうちに爪を削らないと……」
と、慣れたように、ナイフを用い、蹄鉄を外すと爪を削り、足の様子を確認すると、
「イタル。あのバッグの中に、蹄鉄を打つ道具があるんだ。持ってきてくれないか」
「あ、わかった」
と、渡された道具で治し終えた。
時間はかかるが、馬にとっては病気の元になったり、爪が割れたりと弊害が多い。
チェックが必要なのである。
「よしよし。お疲れ様。疲れただろう?」
一頭一頭頭を撫で、1日のことを褒めるだけで、人間に懐きにくいイタルの愛馬も大人しく撫でられていた。
「凄いなぁ……ディは……」
「何がだ?ほら、それよりも、アスティの晩御飯だ。絶品だぞ」
手を洗い向かうと、ちょうど炙られた肉を串に刺し、それに何かを漬けている。
「ウサギ肉の串焼きです。鹿肉とソーセージはスープですね。後は、みんな……みんなにも炙り肉あげるから、串焼きはダメよ。みんなには辛いから」
言い聞かせる相手は周りを囲む犬や狼たち。
「川の近くだと魚を釣ってニジマスなどを焼いても美味しいでしょうね。それに鮭」
「川の近くも通るが、エルベ川は西。他にも川はあるけれど……」
「ライン川、ドナウ川とか……」
「そこはどこだ?名前が分からないぞ。地域がわかれば分かるが……」
ディーデリヒはアストリットを見ると先程座った場所に座る。
イタルは、
「……あの……アストリットさまは、旅人ですか?」
「……どうして?」
ディーデリヒの言葉に、
「ライン川もドナウ川も、私たち旅人には有名と言うか、聞いたことがある名前なので……」
「そうなのか?」
「私も場所は詳しく知らないのです……曲に『美しく青きドナウ』『ローレライ』と言う曲に出てくるので……」
笑う。
「それで知っているのかと。でも、アストリットさまはこちらの辺境伯のご令嬢でしたね」
「ローレライ……Loreleyの事か。妖精伝説……あぁ、それは聞いたことがある。サンクト・ゴアールスハウゼン近くにある岩の名前だ。その辺りは狭くなっていて水の流れが早く、船の事故が多いんだ。その為伝説が生まれたと言われている」
「そうなんですね。ディさま、イタルさんもどうぞ。これを作ったら、燻製を作りますね」
「燻製……」
「干し肉は辛いのと硬いので……。この子たちに与えられないでしょう。そして、ディさまは毛皮の処理を」
アストリットは串を渡すと、イタルは口に入れる。
噛むほどに味が染みて、最高である。
命をいただくと言うことは、粗末にしない事なのだなと思ったのだった。




