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fünf und zwanzig(フュンフウントツヴァンツィヒ)

 雨が続く……。


 この前にとった獲物の皮は、湿気を避けるように広げ、毛皮とした。

 なめすのに手間がかかったこともあるし、これから寒くなる為、何かに使えたらと思ったのだった。

 本当はもう少し先に進むはずだったのだが、雨が止まない。

 晩秋であり、旅慣れていないアストリットやエッダたち子狼たちをつれ、雨の中の旅はきついとのディーデリヒの言葉もあり、まずは雨が止み、そして道のぬかるみが少しでも減るように祈りつつmアストリットの中のまどかは、せっせと付箋にメモを書き込む。

 先日から熱心にディーデリヒが読んでいる本を、訳しているのである。

 ありがたいことに、ドイツ語などほぼ聞いたことも書いたこともないのだが、アストリットのおかげか、日本語をドイツ語に訳し、注釈を入れたりしている。


 しかし、食料が物足りないと、ディーデリヒは猟犬と、アナスタージウスの家族を連れ、猟に出た。

 アナスタージウスはアストリットの護衛であるが、実はあの時の怪我のため長時間歩けるが、走ることができなくなっていた。

 猟には不向きであり、自分の命を救ってくれたアストリットの側にいることにしたのである。

 そして、アナスタージウスにはもう一つ役目が与えられていて、


「エーミール、エルマー。アナスタージウスにわがままはダメよ。雨が強いからこちらにいらっしゃい」

『お母さん。だって……』

『エルマーも……』

『まだジャマダ。遊んでろ』


アナスタージウスは鼻で二匹を押すと、コロンコロンと転がる。


「ほら、いらっしゃい。エッダとラウは暖かいところでお昼寝よ?」


 手招きをしたその時、アナスタージウスの耳が動いた。

 警戒を示す行動をする。


「どうしたの?」

『……馬とロバを奥に……。ディと違う蹄の音がする』


 この滞在用の小屋は広く、馬とロバも建物の中に入れていた。

 外にも納屋があるが、二人では何かあった時に困ると同じ建物の中に入れていたのである

 馬たちのいるところから一番近い出入り口は大きく、そしてアストリットのいるところの背には、少し小さい扉があった。

 窓は木の窓で、つっかい棒をすると空気を通すようになっている。

 馬たちを安全なところに移動させ、エッダたちを荷物と毛皮のそばに隠して、自分の背中の扉には重石を置いて開けられないようにした。

 その後、警戒したままのアナスタージウスのそばにラウを抱きしめ近づく。

 その間にそっと、窓を閉ざし鍵をかけた。


「アナスタージウス……どう?」

『馬が何頭……でも、男達の声がする……。この扉を閉ざすか?』

「そうすれば無理して入ってくるわ……。ここだけなの。ちょっとまってね。アナスタージウス。耳を抑えていて」


 瞬は元の世界で飼っていた愛犬との指示のために、犬笛を持っていた。

 ちなみに、この周波数はかなりアナスタージウスたちの耳に響くらしく悶絶する。

 だが、アナスタージウスの家族や猟犬たちに気づいてもらい、それをディーデリヒに伝われば大丈夫かと思ったのである。

 伏せをしたアナスタージウスの耳を抑え、犬笛を吹く。

 すると、アナスタージウスは、


『瞬ハ武器は無理だ。ここに私がいる。下がってくれ』

「でも……」

『大丈夫だ』


自分は武器を持てない……自覚しているアストリットは、頷き下がる。


「気をつけて……」


 すると、トントンと扉が叩かれ、


「誰かいませんか?」

「私たちは旅人です」

「……すみません。女ひとりで、出ないようにと言われています。連れを呼びましたので、お待ちいただけますか?」

「わかりました。申し訳ありませんが、納屋を、馬を休ませたいので使わせていただけますか?」

「はい。結構です。確か、あちらにはわらと桶があります。すぐにこちらでお湯を沸かします。ちょっと待ってください。ですが開けようとすると、オオカミがおりますので……」


了承したのか納屋の方に向かう音に、アストリットは火に近づき、作っていたスープとハーブティー、そして、乾いた布を準備して、薄く扉を開けた。


「まずは暖めてあげてください。それと、皆さんにスープとハーブティーです。スープは冷ますと馬も口にできます。炭の入れたバケツもどうぞ」

「ありがとうございます」


 受け取ったのを確認し扉を閉めようとした時、茂みから馬の手綱を引き、4頭の猟犬とオオカミ、そしてフードを被った頭の上にリューンを乗せたディーデリヒが姿を見せる。


「ディさま!」

「何があった?旅人のようだが……」

「あ、あの。お帰りなさい」

「ただ今。今日は大量だ。さばくから、悪いけれどそちらの誰か、シカやウサギをさばけますか?」

「あ、あぁ。何とか……教えてもらったら失敗しないと思う」


 返事がする。


「じゃぁ、手伝ってください。アスティ。薪はあるかい?濡れているが燃やすのに適したものも持って帰った。そちらで乾燥させてくれるか?」

「は、はい」


 紐でまとめた枯れ枝を受け取る。


「あの、何人の方が?」

「3人だな。それと、馬は4頭」

「じゃぁ、こちらに入っていただきましょうか。ディさま。お湯を沸かしますね」

「そうだね」


 ディーデリヒが離れると、オオカミたちが入り、アストリットを守るように丸くなる。

 入ってきたのは二人の男女。


 一人は黒髪と青い瞳の青年と、もう一人が亜麻色の髪と明るいグリーンの瞳の少女。

 アストリットは小さいので、彼女は多分頭一つ高いはずである。


「本当にすみません。私は全く旅慣れていませんので、あの方に全てお任せしているのです」

「いや、それは正しいと思う。俺は、タクマ。タクマ・フェルナンデス」

「私はエリア・カッチェスよ、よろしく」

「私は、アストリットです」

「……あの、ね?伺いたいのだけど、貴方、カシミールの妹のアストリットよね?」


 少女の言葉に、どきっとする。


「……だって、その髪と瞳珍しいもの。なんでここにいるの?」

「あ、あの……旅人と言うことは、貴方は……もしかして、ゲームの……」

「えぇ。そうよ。『GeschichteゲシヒテSpielシュピール』の旅人プレイヤーよ。なんで貴方が知ってるの?」


 アストリットは躊躇う。

 そして、


「あの、まずは濡れたマントを乾かしましょう。布をお貸ししますね。それに、干しておくのなら、そちらにロープをどうぞ」

「そうするよ。イタルの服も何とかしないとな」

「多分ディさまが洗うと思います。石けんもお渡ししましたから」

「石けん?」

「はい。私が作りました。どうぞ。疲れを癒すのと温まるハーブティです」


カップは個人が持って歩くのがルールである。

 差し出してきた木製のカップに注ぐ。


 当時はメッキやブリキはなく鉄であり、もしくは陶器か木製のカップを用いる。

 金属製のゴフレットは高級なもので、持ち出すことはしなかった。

 特に、金持ちは毒を入れられるのを恐れ、銀製のものを用いていた。


「あら、美味しい……」

「疲れを取るハーブと温まるハーブを混ぜたものです。ね?ラウ、一緒にちゃんと探したのよね」

「ラウ……?えと……」


 タクマとエリアが困惑する。

 少女の膝には子犬たちが場所を取り合い、後ろには馬とロバ、周りには犬ではなく狼らしい。


「あ、この子はアナスタージウスです。私の護衛で、そして、この子たちはエッダとエーミールとエルマーです。ラウはこの子です」


 アストリットのマントのフードに隠れ、チラッと見る。


「ブルードラゴン!」

「なんで貴方が!」

「探してたのに!」

「私が見つけたわけではありません。ディさまが拾ったんです」


 ラウが知らない人間に怯えると思ったのか、優しく撫で隠すと、狼たちに手招きする。


「いらっしゃい。雨でビショビショでしょう?」

『血が付いている』

「拭けばいいのよ」


 微笑むと、拭きながら一頭一頭頭を撫でぎゅっと抱きしめ、


「寒かったでしょう?お疲れ様。スープを飲みましょうか」

『ありがとう。アスティ』


 ぬるくなったスープを勧めるのだが、匂いで、エッダたちも割り込む。


「もう、ダメよ?エッダ、エーミール、エルマー!お母さんが作ってあげるから、お兄ちゃんたちのを取らないの」

『お腹すいた〜』

「後で。お父さんに言いなさい」

『パパ〜』


 アナスタージウスは、溜息をつく。


『私は父親じゃないだろう』

「うふふ、世話好きだけれどね」

「貴方、その犬が何か言っているの解っているの?」


 エリアの言葉に頷く。


「えぇ。と言うか、アナスタージウスは犬ではないわ。狼よ?この子たちも後ろの彼らも狼。ロバのエルゼは私の友達。馬はディさまの馬よ」

「ディさま……と言うのはあの男か?」

「ディさまが、元々ラウの主人なの」


 あれこれ何を聞きたがるのかと、内心困惑と言うよりも、気分を害しかけていたアストリットに、ラウが後ろからスリスリと頬をすり寄せる。


「私の話よりも、貴方方の話が聞きたいわ。貴方方は、どこに行こうと思っているの?」


 狼たちも頭を撫でてと寄ってくるため、順番に頭を撫でながら問い返す。


「私は……」


 話しかけるエリアを止め、タクマは、


「俺たちはドラゴン退治だよ。牙や爪が高価に取引されるんでね」

「はぁ?ドラゴン退治?この地域にはドラゴンはほとんどいないわよ」

「いるじゃないか。それが。ブルードラゴンは希少価値があってウロコも高価だ。どこで盗んできたんだ?」

「盗んでなどいないわ。失礼なこと、言わないで頂戴!それに、そんなことを言うなら……」

「死ぬか?お前たち……」


ボンと、うさぎと鹿の肉と皮を取り除いた死骸を投げつけたディーデリヒに、二人は悲鳴をあげる。


「ぎゃぁぁ!」

「それに、こいつもフレデリック並みだ。折角、アスティの帽子でもと思っていたのに」


 顎で示すのは、フードを被ったイタルと言う二人の仲間らしい。


「あれだけ血管を避けて開けと言い聞かせたのに、刃物の持ち方一つろくに出来んとは、それでよく旅に出たな。あぁ、アスティ。これがスープの材料。そして肉と血液のソーセージだ。いつもより量が少なく生臭くなってしまった。すまない」

「いいえ、ありがとうございます。ディさま。ディさまの犬たちと馬は?」

「こちらに連れてきた。おい、ここで温まっていたなら、こいつの代わりに外に出て馬の世話をしてやれ。毛艶悪い上に蹄も酷い状態だぞ。なんて主人だ」


 ディーデリヒは睨むと、二人は慌てて出て行った。

 そして、お湯を沸かしていたアスティは、雨水で温度を下げ、


「そちらで着替えてくださいね。後ろ向いています」

「あぁ、いつもありがとう。アスティ」


その間に、肉をやってきていた犬たちと狼に一部ずつ切り与える。

 そして、子供たちは燻製の肉を与えた。


「皮はなめしよりも今は毛皮ね。うさぎだからふかふかだわ……しかも冬毛だから……なめすよりも毛皮にしましょう。後の骨や筋、硬い部分はいつものように……ハーブと野菜クズで……」

「残りは燻製にしよう。干し肉は飽きた」

「そうですね。辛いし、お湯で戻してもちょっと。燻製は時間がかかりますが美味しいです」

「あ、ソーセージは?」

「茹でますよ。贅沢品です」


 マントの陰で着替えを済ませた二人は、姿を見せる。

 ディーデリヒの頭にはリューンが乗っている。

 振り向いたアストリットは料理を続けるが、イタルを見る。

 イタルはグリーンの瞳と、珍しい緑の髪をしている。

 耳が伸びているのはエルフらしい。


「……貴方はエルフですか?それと旅人ですよね?」

「えぇ。イタルです。何か……」


 ディーデリヒはアストリットに近づく。


「何かあったのか?」

「先ほどの二人は、ドラゴン退治に来たそうです。ラウをどこで見つけたと……貴方はドラゴンを……」


 真っ青になったイタルは首を振る。


「い、いいえ!僕は、エルフの術師です。まだ設定上も若く、旅をして腕を磨くようにと……彼らとは知り合ってすぐです。わ、我らは嘘偽りを告げられません。……それにドラゴンは、隣人と言えばいいのか……そのような関係です。友を隣人を捉えたり出来ません!それに、街で売られていたドラゴンの爪と言うものは全てトカゲで、一角獣のツノは一角の牙です」

「えっ!一角獣……?」

「錬金術に使われます。私たちにとっては生き物も遠縁……少しでも……殺される数が減ってほしいものです」

「あ、もしかして……そのせいで手が震えていたのか?すまない。知らなかったから」


 ディーデリヒは頭を下げる。


「俺はディーデリヒ。ディと呼んでほしい。そして、これが……」

『リューンよ』

「……喋るドラゴンは初めてです。でも、ウサギやシカを食べるのは納得しています。ただ、慣れてないだけです」

「あ、私はアストリットと言います。よろしくお願いします。イタルさん。背中にいるのが……」


 もぞもぞと顔を覗かせると、


『ラウなの。イタル。よろしくなの』

「……わぁぁ……癒しのドラゴン……。お会いできるとは!」


感激に目を潤ませるエルフに、ディーデリヒは、小声で、


「さっき、イタル。仲間はアスティにドラゴン退治と言っていたみたいだな。イタル……この付近にドラゴンの巣があるのか?」

「いいえ。感覚で、ここより北に感じますが……」

「それは……アストリットの実家だ。アストリットの兄が何故かドラゴンの卵を拾って来た」

「そうだったんですか……でも、ドラゴンに手を出すなんて……共に旅をするのが恥ずかしいです」


情けなさそうに首を振る。


「だが、今分かった。追い払えばいいんだ。いいか?アストリットもみんなもよく聞いてくれ」




 アストリットとイタル、そして獣たちが耳をそばだてたのだった。

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