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siebzehn(ズィープツェン)

「お帰り、テオ」

「お帰りなさい、テオくん……あら、その目の上のは……?」


 次男を居間で出迎えた夫婦は、テオの眼鏡に驚く。


「あ、ただいま帰りました。父上、母上。これは、あ、アストリットが見つけた『Drache』がくれた珍しい眼鏡なんです。とても軽いので、少し慣れるまでかけておこうと思って」

「そうなのか……しばらく見ない間に大きくなったね。テオ……この、首を左右に動かしているのは……」

「えと、父上、母上、旅の途中で拾ったたまごが、帰ってすぐ孵りまして……この子はヴァイスです。ご機嫌だと踊ってるんです。ヴァイス。俺のお父さんとお母さん。はじめまして、できるかな?」


 肩に乗せていたヴァイスに声をかけると、瞬きをして、


 きゅーわ、きゅわわっ


と言いながらジャンプしてくるんっと前転しようとして、そのままゴロゴロと墜落し……、


「どわぁぁ!ヴァイス!前転しちゃダメ!」


地面に落ちる直前、テオが拾い上げる。


「父上、母上、一応嬉しいと言いたかったらしいのです。まだ、ろくにペタペタも歩けないのですが、私が面倒を見ますので構いませんでしょうか?」

「構わないよ。それにしても小さい子だね……よろしくね?ヴァイス。おじいちゃんは厳しいなぁ……」

「こら!リューンと喧嘩するな!ロット!」


 大きさの違うドラッヘたちの中で一番大きいリューンに迎え撃つのは、ヴァイスと変わらない赤いドラッヘ。


「こら!ロット!喧嘩するなら、食事抜き!アスティの作る食事はリューンもラウも大好物だよ」


 引き剥がしたカシミールが、父親を見る。


「父上……テオが拾ってきたもう一つの卵から孵ったロットです……」

「まぁ、可愛い。良いわぁ。お母様もドラッヘ……」

「カーシュ。母上にロットは禁止だ!預けるなら、まだ赤ん坊のヴァイスかラウか、桃李タオリーだ」


 ディーデリヒは念を押す。


「突然甘噛みにしろ、噛み付いてみろ、母上に何かあっては困る!母上、テオが訓練などで離れた時には、見てやってください。まだ赤ん坊なので、はいはいとよちよちです」

「そうなの?ヴァイスちゃんは可愛いわね」


 きゅきゅきゅわ……


頭を指で撫でられ、クネクネする。

 くすぐったいのと嬉しくて照れているらしい。


「まぁ、可愛い!お利口さんだわ。ヴァイスちゃん。テオくんがいない時にはお母さんと一緒にいましょうね?」


 きゅわわー


返事をする。


「うふふ……可愛いわ。お母様夢だったのよ。ドラッヘに触るの。でも、滅多にいないでしょう?それに旦那さまも調教しているのは数頭しかいないって。なのに、ここには沢山いて、でも、ヴァイスちゃん達も可愛いけれど、タオリーちゃんだったかしら?素敵ね〜。鱗がツヤツヤしていて、たてがみも光を浴びると青みを帯びて……」

『我は先祖に青龍がいたのじゃ。ごく希に先祖帰りで青みを帯びる。この瞳もそうじゃ』


 覗き込むと中央は漆黒だが光彩は青い。


『本当は、我は水龍。水を操らねばならぬ。だが、我は平凡で……中途半端なのじゃ……そのかわり、植物の成長の助けもわずかにできる……』

「それは助かるよ……こらっ!ご飯抜き!」


 ロットを叱りつけたカシミールは桃李を見る。


「あ、桃李は人間とは違うし、人間の常識を押し付けたりはしないよ。そうじゃなくて、桃李の住んでいた……あぁ、私たちのような人間の住む街とかを教えて欲しいんだ。それに、普段はフィーちゃんと遊んでいていいからね」

『我は弱いゆえ、力も中途半端ゆえに……』

「桃李……?桃李は生まれて何年かしら?」

『……まださほど……赤ん坊同然よ……というか、力を使えるようになるにはかなりかかるゆえ』

「じゃぁ、まだ本当に本格的に術を知らないのでしょう?じゃぁ、一緒にいましょうね。私は術がどんなものかわからないけれど、桃李や皆といたいわ」


 アストリットは笑う。


「私も、中途半端だし……一緒に頑張りましょうね?」

「でも、アスティ?もうそろそろ結婚しないのか?ディ兄さんとか」


 テオの一言に、真っ赤になる。


「そ、そんな……私は、まだ15……いえ、未熟ですし……それに、お兄様たちも知ってらっしゃるでしょうが、こんなに小さいので……」

「まぁ、小柄なのは認める。でも、俺は、アスティが遠いところに嫁に行くと言うのは、カーシュ兄さんとも意見は同じなんだ。俺は、次男だし養子だから結婚はまだまだだがな」

「……お兄様、サンディお姉様は?」


 サンディ……こと、カサンドラは父の友人であり、このディーツ領の傭兵団と騎士団の団長で、騎士でもあるユストゥスの一人娘。

 年は16だが、騎士見習いである。


「なっ!お、俺よりも、兄上に言うといい!」

「そうだねぇ……。テオがサンディに告白できたら、僕も考えるよ」

「兄さん!さっきはなんて言った!なんて言った〜!」

「さーあーね!代わりに告白してあげようか?テオはお子様だなぁ。お兄ちゃんに甘えてばかりで」

「くっそー。兄さん。待てぇぇ!」


 テオは兄を追いかける。


「あはは!待てって待つほど、馬鹿じゃないよ」

「兄さん〜俺は、兄さんの片腕として支えたいってあれほど言ったじゃないか!だから、それで、サンディを悲しませたくないって!それに、この目だぞ!」

「言い訳するな〜」

「くっそー!」


 息子達が子供のように追いかけっこをしているのを、両親はくすくす笑い、


「さぁさぁ、お前達も、食事だよ。行こうか」


と声をかけたのだった。




 そして、翌日調子を崩したアストリットとフィーに付き添い、眼鏡のチェックをしているテオは、アストリットが読んでいる本にキョトンとする。


「おい、アスティ。この文字は?」

「あ、はい。アルビオンの言葉です。同じ文字でも読み方が違います。『Alexander』……この名前は、こちらでは『アレクサンダー』と読みますが、アルビオンでは濁り、『アレグザンダー』になります。『Albert』は『アルベルト』ですが向こうでは『アルバート』です」

「ふーん……法則とかあるのか?」

「『t』『d』ですね。向こうでは『t』は濁らず『d』は濁ります。私のアストリットは確かアストリッドになるはずです」

「ふーん……アスティは綺麗な文字を書くなぁ……」


 ノートに書き込む文字を見つめていたテオに、思いついたように、


「お兄様。フィーちゃんには可愛いノートとペンをあげたのです。なので、お兄様達にもと思っているのですが、これを、サンディお姉様に!」

「どうしました?」


 背後から出てきたのは軽いウェーブを描く銀髪のキリッとした銀の瞳の少女。


「サンディお姉様」

「姫様方、大丈夫ですか?ディさまやカーシュ様に伺いまして……」

「わぁぁ、来てくれた〜!お姉様」


 フィーは時々庭の散歩などについてくれる彼女が大好きである。


「フィー様。お熱は下がりましたか?」

「うんっ!アスティお姉様とお勉強してます。ほら、アスティお姉様がくださったのです!」


 アスティ……まどかのバッグは何でも入っている。


 ちなみに、フィーにあげたのは、近所の秋祭りでくじ引きして残念賞だったキャラクターのミニノートと鉛筆、消しゴムセットに、100円ショップの12色色鉛筆である。

 部活動のこともあり手持ちの鉛筆削りは入っていたので、フィーはキャァキャァと喜び、飛び跳ねた。

 そこにアスティが絵を描くとその名前を書き、色を塗っている。


「姫様?」

「あ、お姉様にもこれを」


 勉強用のノートの外側がピンク。

 ゲームを購入前に、5冊セットのノートを購入していた為、先程開けていて、ピンクと淡いブルーが残っていた。


「これは……ノートと言います。『Notizenノーティーズン』です。あ、そうでした。お姉様……」


 コソコソと耳元に囁く。


「一緒にこれを差し上げます」

「これは?」

「『Briefpapierブリッフパピアー』便箋と『Umschlagオムシュラーク』封筒です。そして、使いかけですが、私の『Ein Stiftシュティフト』ペンです」

「ペンは持って……」

「……色が付いているのです。それに持ち歩けるので……」


 アストリットは背の高いお姉様をウルウルと見上げる……いや、本人はいたって普通だが、カサンドラからすると、小柄で小動物系のアストリットには弱い。


「おい、サンディ。俺の荷物、開くの手伝ってくれないか?それも持って」

「あ、はい。テオ。姫様、本当にありがとうございました」

「じゃぁ、アスティ、フィー、またな」


 テオは幼馴染を引っ張り去っていった。


「あ、お兄様……荷物なら、私たちが……」

「お姉様……実は、サンディお姉様のお父様、とても厳しくて……リボンやドレス、他に可愛いお洋服も取り上げるのだそうです」


 フィーの言葉にえっとなる。

 ユストゥスは団長として立派な人だが、一人娘のカサンドラを生んだ奥方を亡くし、その後は共にいる為にと娘を騎士見習いにさせたのだと思っていた……。


「じゃぁ、あのノート……でも本当に普通使うものなのよ?それなのに……」


 アストリットはオロオロとするのだった。

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