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dreizehn(ドライツェーン)

 まどかはうとうととする。

 瞬本人は元気そのものなのだが、耳元で聞こえる声は、


「久しぶりに熱を出されましたね……」

「そうだね。最近は、ディやフィーが来ると支度や、母上の代わりにこの城をまとめて、疲れたのかもしれないね」

「そういえば、若様」

「何だい?」

「姫様のベッドを掃除していましたら、変なもの……いえ、そこに……蛇が」


パチっと目を覚ましたアストリットは、ベッドを見る。

 そこにいるのは漆黒の蛇……ではなく、


「龍!漆黒というのは驪龍りりゅう……?何で?」


ベッドにとぐろを巻いて眠っているのは、あまり大きくはない黒龍。

 全体が艶と煌めきを帯びた鱗に覆われ、小さいツノに、ワニに似た口、ひげがあり、たてがみもある上に小さい手足には爪もある。


 パチリと目を開けた黒龍は、


『そなたがアストリットか?我は……』

「蛇が喋った!」

「お兄様。この子は蛇ではありません。『Chinesischerヒーナリッシャー Dracheドラッヘ』です。漆黒ですので、水龍になります」

「黒……さっき驪龍って」

「『Schwarzerシュバルツァー Dracheドラッヘ』黒龍の別名です。『驪龍之珠りりゅうのたま』と言って、黒龍の首にかけられているか、手にしている宝玉を『Chinesischer Drache』の特別な宝物と言うそうです。は、初めまして。驪龍様ですね?私はアストリットと申します」


兄の腕は離れなかったので、その代わり丁寧に挨拶をする。

 すると、目を閉ざしていた龍が目を開き、大欠伸をする。


『……どうも、変な感じがするのぉ。向こうの応龍おうりゅう様より、アストリットの元に行けと言われたのだが、そなたには気配がある』

「気配?」

『……我に似ていることもあり、似ていなくもある』


 すると、扉が叩かれ、


「おい、カーシュ、アスティ。大丈夫か?」


顔を覗かせたのは、ディとフィーの兄妹と……。


『あぁぁ!餌〜!』


 主人の頭を踏み台にして飛び越えたのは、リューン。


『餌〜!』

「こら!リューン!何を今度は食べるんだ!お腹を壊すからやめなさい!」

『餌ではないわ!小童こわっぱ!我を何と心得る!』

『餌〜!』


 逃げ惑う驪龍とリューンの追いかけっこになるが、すぐに、驪龍は空に逃げ、


『許さぬぞ〜〜!格を知れ!下賎なドラゴンが!我を獲物扱いとは!』


とくわっ!と口を開けた。


と、


「わぁぁ!お兄様、『Schwarzシュバルツ』……バルちゃんだぁぁ!」


目をキラキラさせ、駆け寄るのはフィーである。


「バルちゃん、どうしたのですか〜?何かお腹痛い痛い?」

『な、何をする!』


 抱き上げ、よしよしと頭を撫でる。


「いい子いい子。頭痛いのですか〜?お兄様〜?どうしましょう」


 ディは遠い目をしながら、


「フィー。その子は、痛いんじゃなくて、リューンに怒っていたんだよ」

「そうなのですか……リューン、いじめちゃめっ。バルちゃん良い子ですよ?」

「あっ、フィーちゃん!喉をくすぐるのはダメです!」


アストリットは顔色を変える。


「喉に、他の鱗とは反対の方向に、生えている鱗を『逆鱗げきりん』『Bastardバスタード』と言います。そこは、敏感な部分で……触っちゃダメです」

「……あ、ありました。じゃぁ、触らないように……そうなのです。アスティお姉様がリボンをくれたのです。バルちゃんにお揃いです。その部分を隠しましょうね、バルちゃん」


 黒い龍にピンクのリボンを結び、


「可愛い!バルちゃんはツヤツヤなので、とっても美人さんです!」

『当然じゃ。我はこれでも四本指の竜王の眷属けんぞく

「リューオーちゃんのケンゾク……すご〜い!」

『であろう?』


アストリットは意味がわかり、兄二人も何となくわかっているが、フィーは無邪気に笑う。


「じゃぁ、バルちゃんは本当にすごいのね。フィーと一緒にいてくれる?」

『うむうむ、良いぞ。そなたの名前は?』

「ニュンフェ……お兄様やお姉様はフィーって言うのよ」

『我は驪龍の桃李タオリーと申す』

「タオリ?」


 首をかしげるが、アストリットが紙に書き、桃李に示す。


「この漢字かしら?『桃李不言とうりいわざれども下自成蹊したおのずからけいをなす』からでしょう?素晴らしいわ」

『ふ、ふむっ。我の名前の意味を知っておったか!』

「どういう意味だ?」


 ディの問いかけに、


「この子の名前はこの文字が桃『Pfirsichプフィルズィッヒ』こちらがすももpflaumeプフラウメ』やあんずAprikoseアプリコーゼ』という意味です……その名前を用いたたとえ話があります。桃やすももなどの木は何も言いませんが、その実は美味しいのでその周囲には人が集まり道ができます。それと同じで、徳のある……賢く知恵のある名君の元には黙っていても人が集まる。という意味です。なので、この子は応龍さまより直々に遣わされた知恵のある龍です。応龍さまと言うのは、東洋の龍の中の龍とも言われ、姿はこちらのDracheにも似ていると言われますが、とても大きく、伝説と言われています」

「そんなに大きいのか?リューンのように、何でも食べたり……」

『応龍さまはそのような不浄なもの口にせぬわ。そして我は水龍。水より力を与えられておる。北におるが、暖かいところも大好きじゃ。ここは暖かいのぅ。近くに泉があり、時々果物を口にするので満足する。野蛮なものと同じと思うでないわ』

『ヤバン〜!むーっ。やっぱり食べる〜!』

「リューンちゃん、めっ!んーと、バルちゃん……ターちゃんは、フィーのお友達。リューンちゃん良い子するの!」


 フィーが桃李を抱きしめ、めっとする。


「良い子にしないと、リボン結ばないの。可愛いリボン、しません!良いの?」

『……ヤァダァ……』

「じゃぁ良い子。仲直り」


と、いつのまにか二頭のDracheを手なづけているフィーに驚く3人だった。

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