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第34話:シュヴァル、実家に帰る(おまけ付き)

「シュヴァル! 追放系主人公になるって本当なの!?」

「追放系主人公ってなに」


 ヴィオラの出頭命令をなんとか切り抜け帰宅したシュヴァルは、故郷に戻る事を工房のメンバーに伝えた。すると、何故かアナスタシアが興奮した様子で意味不明な事を言い出した。


「ヴィオラって錬金サーの姫でしょ? いちゃもん付けられて錬金術師界隈を追放されたんでしょ? それで田舎に戻って成り上がるんでしょ? 追放系主人公じゃん!」

「なんでそういう発想になるのかなぁ」


 錬金サーの姫という単語の意味も分からないし、追放系主人公の意味も分からない。そもそも追放された奴が田舎で成り上がるのも意味不明だし、第一シュヴァルは錬金術師界隈から追放されてない。


「あのね、ヴィオラ様は僕にそんなに好印象を持ってはいないだろうけど、よっぽどの事をしない限り錬金術師として追放なんかされないよ」

「ちぇっ、つまんないの」

「……なんで残念そうなの」


 アナスタシアが何故か不満げに口を尖らせる。なぜ追放されたがるのか。


「一応聞いておくけど、よっぽどの事ってどんな事?」

「色々あるけど、人体実験とか禁忌に触れる実験をしたり、能力で国家転覆を企てたりとかかな」

「そっか、それならとりあえず追放は無さそうね」


 実はその嫌疑の対象になっている事を、工房の連中はまったく理解していなかった。


「で、なんでいきなり故郷に帰るとか言い出したわけ?」

「シュヴァルさんは、ご両親に色つきになったご報告をしたいそうですよ」


 アナスタシアの疑問に対し、先に聞いていたアムリタが代弁した。


「シュヴァルさんは赤銅になってから、ギルドの依頼をこなしたりで全然時間が無かったでしょう? 立派になった姿をご両親にご報告に行きたいそうです」

「あー、そういう事かぁ」

「うん。本当はゴーレムに関する研究レポートをまとめた後にしようと思ってたんだけど、今日の招集ついでに報告義務もこなせたからね」


 色付きの錬金術師は定期的に研究報告を提出する義務があるが、期限までもう少し時間があった。だが、今日の呼び出しの際についでに出す事が出来た。


 銀のヴィオラは学院長ラウレル直属の部下であり、シュヴァルより先輩かつ格上だ。ヴィオラが文句を付けず受理したという事は、彼女を通して報告が行くだろう。


「宿題を前倒しで出来たし、時間があるうちに一度顔を見せようと思っていてね。色付きの錬金術師になれたなんて言ったら、きっと飛びあがって驚くだろうね」


 シュヴァルは愉快げにそう言った。辺境の農家出身の錬金術師が色付きになるなんて滅多にない事だ。もしかしたら、お祭り騒ぎになるかもしれない。


「なるほど。追放系主人公じゃなくて、田舎でスローライフ系だったかー」

「だから君の発想は意味が分からないよ。第一、田舎でスローライフって無理だよ」

「えっ、だって農家でしょ……? 大自然に囲まれて悠々自適に暮らせないの?」

「農家って生命を相手にする仕事なんだから、大変だし休みだって不定期なんだからそんな悠長にしてられないよ」

「ええ……じゃあなんで農家なんかやってるの?」

「農家に生まれたからだよ」


 アナスタシアの発想はシュヴァルからしたら意味不明なのだが、異世界人なので、向こうではそういう価値観なのかもしれない。間違っているのか完全に突っ込みきれないのがつらいところだ。


「貴様ら。いつまでくだらない会話をしている。もっと究極美少女錬成について語ったりしたらどうだ」

「その話題もくだらない気がするけど」


 シュヴァルとアナスタシアが噛み合わない会話をしていると、今度はハイエースが割り込んでくる。


「くだらなくなどない! 第一、貴様が田舎に行っている間、研究はどうするのだ!」

「ゴーレムの研究は実家でもするつもりだけど」

「そっちはどうでもいい。美少女! 美少女錬成の方だ!」

「確かにエロ馬の言うとおりだ。シュヴァルが田舎でスローライフを送っている間、私たちは足踏みをしてなきゃならないぞ!」

「君たち、本当に美少女好きだね」

「あったりめぇよ」


 アナスタシアとハイエースは普段はぐだぐだだが、こういう時だけ一致団結する。シュヴァルとしてはあくまでそっちはおまけなのだが。


「貴様には一刻も早く美少女研究を進めて貰わねばならん。それに万が一、道中で襲われたりしても困るからな。私も同行しよう」

「ええ……ハイエースが来たら村の人達驚くんじゃないかな」

「気にするな。魔獣使いとして堂々としていればいい」

「私も行くぞ! もしかしたら田舎でスローライフがワンチャンあるかもしれないし!」


 アナスタシアとハイエースは、揃ってシュヴァルの帰郷に同行を希望しているようだ。シュヴァルとしては、見た目だけは麗しい幼女奴隷のアナスタシアと、白銀のユニコーンを連れていくのは目立つから嫌なのだが。


(でも下手に断ると勝手に付いてきそうだしなぁ)


 ここで下手に自分一人で帰るなんて言い出したら、無駄に行動力だけはあるこいつらは独自に追跡をしかねない。それだったら、自分で監視しておけるほうがいいかもしれない。


「シュヴァルさんの故郷ですか。私も楽しみです! 帰って準備しなくっちゃ!」

「アムリタさんも来るんですか!?」


 シュヴァルは目まいがしそうになった。ただでさえめんどくさい二匹を連れていくのに、アムリタまで来たら余計ややこしくなる。


「行っちゃ駄目ですか? シュヴァルさんの故郷、私も見てみたいんです」

「別にいいですけど。侯爵令嬢が行くには汚いただのド田舎ですよ?」

「いいんです。私、お貴族様のパーティーとかよりそっちの方が好みですし」


 遠まわしに来ないでくれと言ったのだが、アムリタには伝わらなかったようだ。彼女は目をキラキラと輝かせ、大恩あるシュヴァルの故郷に思いを馳せているようだ。


「えぇ~……アムリタが行くんだったら、私も行かなきゃならないじゃん……」


 行く気満々の三人とは裏腹に、ものすごく嫌そうな声が奥の部屋から聞こえてきた。猫耳ハーフヴァンパイアのアルマだ。アルマは昼寝していたらしく、片手で目を擦り、もう片方の腕でモチョを抱いて部屋から出てきた。


「別に無理してこなくてもいいけど」

「忘れたの? アムリタは私の魔力で蘇ったんだから、あんまり離れるとまたバラバラ死体に戻っちゃうの。だからアムリタがシュヴァルの実家に行くなら、芋づる式に私も行く羽目になるじゃん」

「あー……そういえばそうだった」


 一番行きたくなさそうなアルマまで参加し、ついでにモチョも連れていく事になる。シュヴァル工房勢全員参加である。改めて並べると、まっとうな人間がシュヴァルしかいないすごい工房だ。


「……仕方ないな。じゃあ準備が出来たらみんなで僕の故郷に行こう。言っておくけど、本当に何もない田舎だよ?」


 シュヴァルは溜め息を一つ吐き、全員の要求を呑まざるをえなかった。


 色付きの錬金術師として故郷に錦を飾りながら、実家の両親に数日間だけ吉報を届けに行くだけのつもりだった。だが、蓋を開けてみれば余計な荷物が多すぎる。


「何事も起こらないといいんだけどなぁ」


 シュヴァルはぽつりとそう呟いた。アナスタシアの言葉を借りるわけではないが、頼むから故郷ではのんびりスローライフを送れますようにと願う。


 だが、ちょっと考えれば分かるが、こんな濃いメンツが一斉に押し寄せれば、何事も起こらないわけがない。シュヴァルがそれを知るのは、もう少し先の話である。

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― 新着の感想 ―
[一言] さて、今度はどれだけ恐るべき存在を配下に加えてしまうのかw
[一言] 間違いなく何か起こるでしょうね。 (読者の期待的に)
[良い点] もうハイエースの名前だけで笑ってまうw
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