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第18話:無理難題

 工房の一角で、シュヴァルは頭を抱えていた。


 ハイエースとのトラブルで偶然思いついた、使い捨てアームゴーレムの実験を繰り返しているのだが、なかなか上手くいかないのだ。


「うーん……発想は悪くないと思うんだけど」


 着脱に時間が掛かるアームゴーレムを即座に外すという点はいい。

 だが、当然ながら毎回壊れるので都度作りなおすという欠点がある。


「一番いいのは、一部分だけ壊れるようにして、そこだけ取り換えられるような作りなんだけど……」


 ボディの部分は頑強に作り、留め具の部分だけに魔力を通す。そして魔力が無くなって脆くなって自壊するシステムはどうだろうか。そう思いつくも、シュヴァルはかぶりを振る。


「駄目だ。それだとボディの部分にお金が掛かりすぎる。もともと僕は田舎の農家の人が簡単に使える物を目指してるんだから、本末転倒だ」

「何をぶつぶつわめいている」


 工房の机で設計図を描いているシュヴァルの横に、ハイエースがぬっ、と顔を出す。

 シュヴァルは特に驚かない。もう見慣れた光景だからだ。

 馬の癖にハイエースは馬小屋ではなく工房内の一室に住みついているし、寝る時はあおむけになって布団をかけて寝る。


「ああ、ちょっとゴーレム錬成の件で悩んでてね。パージするタイプの奴を考えてるんだけど、実験するにしても資金が足りなくてね」

「お前のその人形遊びをやめ、究極美少女作成計画を進めるというなら協力してやらんこともないぞ? 魔獣討伐などは危険なので報酬もいいだろう。私がいれば大体の奴は何とかなる」

「あのね、その美少女なんとかはおまけだから。僕の専門はゴーレム錬成だからね?」

「いいや、お前の才能は美少女の肉体錬成にある。あの小娘オヤジを一発で作りあげたのだ。お前の美的センスは目を(みは)るものがある。とりあえずそこらのおっさんからアナスタシアのような脱法美少女を作り、そいつらを奴隷として売っぱらって稼いだ金でゴーレムとやらを作ればよいのでは?」

「君、ものすごい事言ってない?」


 美少女に優しいと言いつつ自分の事しか考えていないハイエースを無視し、シュヴァルは再び黙考する。いずれにせよ、今までと違うアプローチが必要だろう。


 美少女うんぬんはさておき、別の物を売った金で研究費を稼ぐというのは悪くない。

 先ほど思いついた高級版アームゴーレムを作り、それを貴族などに売るというのはどうだろうか。

 しかし、問題は素材の入手だ。


 今までは土をメインで作成してきたが、これが金属になると値段は跳ね上がる。

 さらに、軽くて頑丈となると魔力を含んだ金属という事になるが、こうなると試作品を作るだけで今の研究費用が吹っ飛んでしまう。


「色付きの錬金術師とかいうのは割とレアなのだろう? もっと研究費用を出させられんのか?」

「だって僕が赤銅になったのつい最近だし、今の所、新しい研究結果とか出せてないし……国立研究所(ラボ)に抜擢されればまた別なんだろうけど」

国立研究所(ラボ)?」

「うん。錬金術師は独立すると工房を持てるけど、その中でも特に優れたメンバーは国から召集されるんだ。そこには色々な優秀な研究者がいて、ゴーレム研究家専門のプロもたくさんいるんだ。いいなあ」


 シュヴァルは恍惚の表情で天井を仰ぎ見た。

 ゴーレム研究の中でもエリート中のエリートが集う、シュヴァルにとって理想の地である。

 もちろん、自分が入れるとは思っていない。

 というか、色付きになれるとすら思っていなかったので、まさに雲の上の話だ。


「グラナダ様やヴィオラ様はそっちにも籍を持ってるんだ。まあ、最低でも銀以上じゃないと絶対行けないけどね」

「ふむ、で、美少女研究部門はあるのか?」

「あるわけないでしょ。しいて言うなら魔法生物研究だけど……あれは品種改良も兼ねてて、ヴィオラ様も研究してたはずだよ」

「何!? ヴィオラとはあの美しい錬金術師の事だろう!? つまり貴様と同じメンバーになるわけだな? 早速そのラボとやらに入るぞ」

「いや、実績があって、銀以上じゃないと無理だから」

「ならば実績を作ればいいだろう。……で、実績とは何だ?」

「もちろん研究成果……と言いたいところだけれど、それ以外にもあるよ。国にどれだけ貢献したかっていうのも評価点に入るから、ギルドの依頼なんかも難易度が高い奴は評価される」

「よし、では高難易度を受けようではないか」

「簡単に言わないでよ。高難易度っていうのは単純に強い魔物を百匹倒せばいいってものじゃないんだ」

「む、そうなのか?」

「そりゃそうだよ。そんな事したら腕っぷしが強いだけの冒険者だって錬金術師になっちゃうじゃないか」


 未だに納得がいかなそうに鼻を鳴らすハイエースに、シュヴァルは簡単に説明をした。

 基本的に錬金術師は研究者であり、ギルドの依頼などでも評価対象になるのはごく一部だ。

 そのどれもが「無理難題」と言えるレベルの物である。


「例えば、神薬(エリクサー)の開発とかかな。飲めば死人でも生き返るっていう伝説上の薬なんだけど」

「ほう、ではそれを作ればいいではないか」

「そんなものがあったら医者はいらないよ。死んだものを生き返らせるなんて、出来るわけがないじゃないか」


 街のギルドは手数料さえ払ってもらえれば、一応受付はしてくれる。

 受けつけられた依頼はギルドに掲示され、ハイエースの時のような魔獣討伐から、子守りや迷子の子猫探しまで様々だ。


 そして、その中には「とりあえず出してみるか」という無茶苦茶な物が存在する。

 それをクリアできれば、間違いなく国からは評価されるだろう。なにせ無茶苦茶なのだから。

 そこまで説明すると、ハイエースはしぶしぶといった感じで納得した。


「そうか……仕方が無いな。まあ、私の寿命は長いからな。気長に貴様の究極美少女作成計画の進行を待つしかないな」

「それは多分実現しないと思うけど、まあ、出て行きたかったら好きな時に出て行ってもいいからね」


 別にシュヴァルは美少女を作成したい訳ではないのだが、あからさまにしょんぼりしたハイエースを見ていると、何だか自分が悪い事をしている気になってきた。


 その時、工房の入口から、ぱたぱたと軽い足音が聞こえて来た。


「シュヴァル! ギルドで依頼受けて来たぞ!」


 息を弾ませてシュヴァルとハイエースの元に駆け寄って来たのは、プラチナの髪を輝かせた美少女もどきアナスタシアである。例によって奴隷ちゃんっぽく見える首輪を嵌めており、両手でモチョを抱えていた。


「ああ、どうもありがとう。ちゃんと戦闘以外の奴にしてくれたよね?」

「もちろん!」


 アナスタシアは自信たっぷりの表情で笑う。

 お金はいくらあっても足りないので、シュヴァルはギルドの依頼も副業で受けたいと思っていた。

 だが、ハイエースの件以来、何故か自分には魔獣討伐だの未開の地の探索に同行などという物騒なものしか来なくなり、全部突っぱねていたので困っていたのだ。


 というわけで、アナスタシアにギルドに毎日通ってもらい、非戦闘系で危険が無い物が無いか探して貰っていたのだ。シュヴァルが得意とするのは代筆業などだが、田舎と違い同業が多数いるので早めに受けないとすぐ埋まってしまう。


「はい。これ依頼書」

「ありがとう。ええと、どれどれ……」


 簡素な丸められた羊皮紙を開くと、そこには、一行だけこう書かれていた。


『私の最愛の娘を生き返らせて下さい』


 シュヴァルは沈黙した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] おかしい、ぶっ飛んではいても同時に常識も備えた オ ジ サ ン だったはずなのにこんな依頼を取ってくるなんて。 まさか、脳が小さくなったから?! [一言] おいウマ、仰向けになんか寝て…
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