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先輩の演技力について

作者: 風呂

 例えば、だ。

 例えばテレビドラマの撮影現場に出くわしたとしよう。

 いつもテレビや映画、もしくは舞台等で見るベテランや若手俳優がそれぞれの演技をしている。

 別に性別や年齢は関係ない。好きな人達を想像すると良い。

 勿論彼ら彼女らはその物語の登場人物そのままのキャラクターではなく、それぞれ素の自分というものがある。

 だから演じる役柄に得意不得意があって当然で、演じる事が仕事なのだからそうなりきれるよう、努力するのが普通である。

 で、あるならば、目の前の光景は演技なのかどうなのか。

「へえ、それでどうしたんです?」

「ワンパンよ、ワンパン。それで惨めに泣いてやんの!」

 知り合いというか、大変お世話になった先輩が、明らかに小物臭漂ういかにもチンピラですという風体の男と、とても楽しそうに会話しながら歩いていた。

 ――ああ、これは間違いなく演技だ。

 その証拠に、時々肩が震えている。

 あれは笑う時の震えではなく、怒りに震えているものだろう。

 そもそも先輩はあんな男と付き合うような性格ではないし、初恋で酷い結末を迎えたとかで暫く恋愛はこりごりだとも言っていた。

 そんな彼女があんな男と仲良くお喋りに興じているなんて、きっとあの男は悪人なんだろうなと確信する。

 先輩は、最初に出会った時から既に色々トラブルに関わっては快刀乱麻の如く解決するという、何の漫画だと言いたくなるような事を続けている。

 どうせ今回も、男に騙されたか傷つけられたかした人の頼みで、天誅を下しに来たのだろう。いつも通りと言えばいつも通りである。

 しかし、いつもは「クールですわお姉様!」なんて下級生に慕われている(本人は知らない)先輩が、ああも分かりやすく笑顔を浮かべているなんて、よっぽど腹に据えかねる事でもあったのだろう。

 基本物静かな先輩があそこまで過剰に演技する時は、大抵静かに怒っている時である。

 ああいう時の先輩には近づいてはならないのがお約束であるので、こっそり離れようとしたのだが、

「あれ?」

 偶々男に振り返った時に視界に入ったのだろう、先輩がこちらに向き直った。

「奇遇だな、こんなところで」

「そ、そうですね、先輩」

「なんだ、知り合いか? このガキ」

「ああ、私の学校の後輩。ちょっと待っててもらっていいかな?」

「ちっ、早くしろよ?」

 そんな会話をしつつ、先輩がこちらに来て耳元で囁く。

「分かっていると思うがこの事、誰にも言うなよ?」

「勿論です。また一つ武勇伝が増えそうな気がしますが誰にも言いません」

「……もしかして、時々ばれてない筈の話が皆に出回っているの、お前の所為か?」

「いいえ! 滅相もございません!!」

 俺の言葉に、訝しげな視線を突き刺してくる先輩だった。

 実は面白がって話したことが何度かあるのだが、もうそういう事は出来なさそうである。

「……まあいい。もし今後、そういう事があったら真っ先にお前を疑う事にするよ。だからな、分かるな?」

「イエス、マム!」

 よろしい、と最後にそう言って先輩は俺から離れた。

 色々と怖い先輩である。

 そしてチンピラに冥福を。

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