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そうしてお姫様は、

リンゴの毒はキスでとかして

作者: 東亭和子
掲載日:2017/02/05

 継母が自分を嫌っている事には気づいていた。

 でも気づかぬ振りをしていた。

 本当は愛されたかったから。

「悪く思わないでくれ」

 そう言って猟師の男が森の中で私に銃を向けた時、私は絶望したのだ。

 ああ、やはり私は愛されなかった。

 悲しみに涙が溢れた。

 猟師はそんな私に同情したのか、森の奥深くへと逃がしてくれた。

「もう二度と城へは戻ってくるんじゃないよ」

 そうすれば君は生きている事ができるだろう。

 この深い森で一人で生きる?

 姫として育った私に一人で生きることが出来るわけがない。

 それでも私は猟師に感謝した。

 

 私は森を彷徨った。暗く、寂しい森を。

 いつしか私は歩く事に疲れ、気の根元に座り込んだ。

 このまま私は死んでしまうだろう。

 そうすれば継母は喜ぶだろうが、疲れきった私にはどうでも良いことだった。

 生きることを放棄するように私は目を閉じた。


 冷たい感触に私は目覚めた。

「あ、起きた?お腹減ってない?」

 ニコニコとした男が私を覗き込んでいる。

「…あなたは?」

 キコリです、と男は笑って言った。

 どうやら私は男に拾われたようだった。

 簡単に死ぬ事は出来ないようだ。

 ホッとした私はまた深い眠りに落ちた。


「美味しいリンゴはいらないかい?」

 キコリの男と暮らすようになって一ヶ月経った頃、老婆が訪ねてきた。

 いや、訪問販売か。

 私はすぐにその老婆が継母だと分かった。

 でも分からない振りをした。

「美味しそうですね。おいくらですか?」

 私がそう言うと老婆は嬉しそうに笑う。

「いや、お金はいらないよ。差し上げよう」

 赤くツヤツヤしたリンゴを私は受け取った。

「どうもありがとうございます。

 彼が帰ってきたら一緒に食べますね」

 私は老婆を追い返した。

 リンゴには毒が入っているだろうことは分かっていたのだ。


 ただいま~と陽気な声で彼が帰ってきた。

 お帰りなさい、と私は出迎える。彼の視線がリンゴへと向く。

「継母がね、毒リンゴを持ってきたのよ。

 私に死んで欲しいみたい」

 でも私が欲しいのは毒リンゴじゃないのよ、と言って私は彼に抱きつく。

 手に入れたいのは安らぎと温もり、そして愛情。

「毒リンゴがとけるほどのキスをちょうだい」


もう継母に愛されたいとは思わない。

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