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そうしてお姫様は、

リンゴの毒はキスでとかして

作者: 東亭和子

 継母が自分を嫌っている事には気づいていた。

 でも気づかぬ振りをしていた。

 本当は愛されたかったから。

「悪く思わないでくれ」

 そう言って猟師の男が森の中で私に銃を向けた時、私は絶望したのだ。

 ああ、やはり私は愛されなかった。

 悲しみに涙が溢れた。

 猟師はそんな私に同情したのか、森の奥深くへと逃がしてくれた。

「もう二度と城へは戻ってくるんじゃないよ」

 そうすれば君は生きている事ができるだろう。

 この深い森で一人で生きる?

 姫として育った私に一人で生きることが出来るわけがない。

 それでも私は猟師に感謝した。

 

 私は森を彷徨った。暗く、寂しい森を。

 いつしか私は歩く事に疲れ、気の根元に座り込んだ。

 このまま私は死んでしまうだろう。

 そうすれば継母は喜ぶだろうが、疲れきった私にはどうでも良いことだった。

 生きることを放棄するように私は目を閉じた。


 冷たい感触に私は目覚めた。

「あ、起きた?お腹減ってない?」

 ニコニコとした男が私を覗き込んでいる。

「…あなたは?」

 キコリです、と男は笑って言った。

 どうやら私は男に拾われたようだった。

 簡単に死ぬ事は出来ないようだ。

 ホッとした私はまた深い眠りに落ちた。


「美味しいリンゴはいらないかい?」

 キコリの男と暮らすようになって一ヶ月経った頃、老婆が訪ねてきた。

 いや、訪問販売か。

 私はすぐにその老婆が継母だと分かった。

 でも分からない振りをした。

「美味しそうですね。おいくらですか?」

 私がそう言うと老婆は嬉しそうに笑う。

「いや、お金はいらないよ。差し上げよう」

 赤くツヤツヤしたリンゴを私は受け取った。

「どうもありがとうございます。

 彼が帰ってきたら一緒に食べますね」

 私は老婆を追い返した。

 リンゴには毒が入っているだろうことは分かっていたのだ。


 ただいま~と陽気な声で彼が帰ってきた。

 お帰りなさい、と私は出迎える。彼の視線がリンゴへと向く。

「継母がね、毒リンゴを持ってきたのよ。

 私に死んで欲しいみたい」

 でも私が欲しいのは毒リンゴじゃないのよ、と言って私は彼に抱きつく。

 手に入れたいのは安らぎと温もり、そして愛情。

「毒リンゴがとけるほどのキスをちょうだい」


もう継母に愛されたいとは思わない。

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