2人の決断
俺らは駅を歩き回った。
「なぁ、瑞希。ここ最初に俺らが寝てたところだよな?」
「…気のせい……だよ」
「そ、うだよな。今度あっち行ってみようぜ。」
「う、うん。」
俺らは反対側へ進んでいった。
「……やっぱり……戻ってきた!?」
「う、そだよ……こんなの……」
慌てて携帯を取り出してみる。
「……17時……」
「……58分」
「くそっ。やっぱり1分も進んでねぇのか。」
「うぅ……」
瑞希が座り込んで泣き出した。
『ようこそ"きさらぎ駅"へ。』
さっき電車の中で聞いた車掌の声だ。
でも少し声が低い。
「きさらぎ駅……!?」
「俺、聞いことある。ごくたまに着くところで人なんて誰もいなくて、一度ここに来たら2度と戻れない……とか。」
「じゃあ僕らも戻れないの!?」
「……もしかしたら、な。」
「……うっ……うわああああん……」
瑞希が子供のように泣き崩れた。
「その通りです。加藤様。」
さっき俺らを起こした車掌だ。
「お客様には2つの選択肢を与えます。」
「選択肢……?(´・ω;`)」
「戻りたいか、戻りたくないか。」
「そりゃ戻りてぇよ!」
「でしたら、試練を受けていただきます。」
『試験……?』
「この試験をクリアした者は過去1人もいません。」
「一人も……!?」
「それでも、受けますか?」
「……俺、やります。」
「そちらの方は?」
「僕も、やります。」
瑞希は涙を拭って、立ち上がった。
「お客様方は今、夢の中にいます。夢から覚めなければずっとここの駅にいることになります。」
『……。』
「夢の中から自分を起こすことがお客様方の試練です。」
「あの……1つ質問いいですか?」
「どうなさいましたか?上野様。」
「どうして僕らはここに来たのか、教えて貰えますか。」
「それは俺も気になる。」
「……お客様方は毎日をつまらなく過ごし、いっそ死んでしまえば、など考えていませんか?」
俺らは息を飲んだ。全くその通りだったから。
「私どもはそんな方たちの願いを叶え、生きたくても生きれない方達の魂を残った体へと送り届け新しい人生を過ごしていただくというサービスをしています。」
「もう一つ、いいですか。」
「どうぞ。加藤様。」
「あんたは2つ選択肢があると言った。一つは今さっきの魂の入れ替えかも知れない。もし俺らが自分を起こせなかった場合、俺らの魂と寝ている体はどうなるんだ?」
「ご自分を目覚めさせられなかった場合、お客様の魂は"きさらぎ駅"をさ迷い、体は別のお客様に差し上げることになります。」
『……』
「少し考える時間を差し上げます。考えが決まったら、呼んでください。蔭山と言います。改めて宜しくお願いします。」
車掌、いや蔭山さんは姿を消した。
「瑞希、どうする?」
「僕は戻るよ。何が何でも。こんなところ怖いもん」
「だよな。」
「もしかして……和泉は戻る気ないの?」
「……戻りたい……けど。」
「けど?」
「どうせ戻ったって俺は仲間外れだし……」
「……和泉……」
「ならいっそのこと他の人に上げた方がこの体も幸せなんじゃねぇかなーってさ。」
「……」
瑞希は俯いてしまった。
「あ、わりぃ。瑞希!ごめんな!?」
「和泉…。戻ったら、友達になろ?」
「……え?」
「こうなったのも何かの縁だよ。」
「……ありがと……な。」
俺らは蔭山さんを呼んだ。
「決まりましたか?」
「……戻ります。」
「かしこまりました。加藤様は?」
「……戻りま……」
「かしこまりました。お客様方が降りる駅まであと4駅。その間で起こせなければ戻ることは出来ません。」
「わかりました!!」
「……」
「では、車内でまた会いましょう。フフフフ、ハハハハハ……」
車掌は不気味な笑いをこぼしながら姿を消した。
「和泉、絶対戻ろうね!」
「おう…。」
瑞希……………ごめんな……………