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1 21歳の誕生日プレゼント

 数ある作品の中からこちらに目を向けて下さり本当にありがとうございます。


 この作品は恋愛小説になります。


 一章分ごと下書きをしてから更新する予定なので不定期投稿になりますが、更新と更新の間を空けないよう心がけています。都合で更新が遅くなる時などは活動報告にてお知らせ致します。時々、各話で加筆修正をすることがありますが、内容に変わりはありません。


 よろしくお願い致します。



「だったら、彼氏レンタルしてみなよ!そしたら、今のその気持ちがウソか本当か見極められると思う!」


「そんな、ブルーレイやコミックのノリで借りられるものじゃないよね!?」


「それがね、借りられるんだよ、ホラっ!」


 心晴こはるがこちらに向けたタブレットの画面には、レンタル彼氏なるものを取り仕切る店の情報と、その宣伝広告がアップされていた。


「見てみて!色んなタイプのイケメンがいるでしょ?」


 心晴に促されるまま、私はしぶしぶタブレットを受け取り画面を流し見た。大学内のカフェでの出来事。


 最低1時間からのデートが可能で、在籍している彼氏役タレント(とはいえ一般人)から好きなタイプを選べるシステムだとか。


 心晴が言う通り、どの人もかっこよくて優しそう。芸能人ではないにしても、モデルとか芸能活動をしていてもおかしくない容姿の人ばかり。タレントの年齢も、二十代から五十代までとバラバラだ。でも……。


「3時間のデートで一万五千円も払うの!?高っ!ぼったくり過ぎ!」


 私がこれ行く場合、何日バイトすればいいの?ファミレスのバイト代、一日分で約四千円。4日分丸々持ってかれるっ!!詐欺だ!


「冗談じゃないっ!こんなのにお金かけてらんないよ!でも、話聞いてくれてありがとう。バイトあるし、そろそろ行くね」


 押し付けるようにして心晴にタブレットを返し、席を立つ。心晴はすがるように私の前に立ちふさがった。


「ちょ、待って!最後まで聞いてっ!?」


「面白いアドバイスだけど、ごめん。私にはこんな大金払えないよ」


「違うの!私がプレゼントするから。ひなたの誕生日プレゼントだよ!」


 心晴からこんな話を持ちかけられた理由。それは、数時間前にさかのぼるーー。



 子供の頃の初恋はとても純粋で、思い出すと思わず頬が緩んでしまう、甘くて幼いものだったように思う。


 そう。自分の立場とか利益とかプライドとか気にすることなく、もっと綺麗な気持ちで恋をしていたはずだ。今の私とは正反対ーー。



 人からは、おとなしそう、純粋な感じ、優しそう、真面目だね、そう言われる。中身がそうでないとしても見た目がそういう印象を与えることで人の評価を左右するのだなと、改めて驚いた。なぜなら、私は真面目でもなければ優しくもないし純粋さなんて皆無の女だからだ。


 とはいえ、そういう女に見られることへの反発心は今のところない。


 最低限のメイクはしているけど、生まれつきクッキリした顔立ちの子のように化粧映えしないアッサリした顔。二重まぶただけど目が小さめなので濃いめのアイメイクをしても派手派手しくならない。その上、洋服はカジュアルな感じを好む。女の子らしいパステルカラーのブラウスや繊細な造りの小物なんて身につけないし、スカートも年に数回しか履かない。


 そんな私でも、一応彼氏と呼べる相手がいる。気持ちは全く伴っていないのに、互いを恋人だと認識し合う相手がーー。



 夏も終わり、秋の気配が街を寂しく感じさせる頃、私は大学生になって3回目の10月を迎えた。


 2ヶ月近くあった長い夏休みの間に21歳になった。そのことを知るのは、幼なじみの親友、三枝さえぐさ心晴こはると、彼氏の相馬そうまゆうだけだ。


 大学生になって新しい友達は何人か出来たし、映画研究会というサークルに入り合宿なんかにも参加した。毎日が楽しかった。学内を歩けば所々で顔見知りに会い、立ち話で数分盛り上がる。お昼に大学を抜け出して一緒にご飯に行ったり、お泊まりをして夜通し語り合う友達もいる。


 だけど、私にとって、自分をさらけ出し深い付き合いができる女友達は心晴だけだった。


 生まれた頃から側にいる心晴のことは、友達という枠を超えてもはや家族や身内という感じがするし、心晴の方もそう思ってくれているらしい。


 小さい頃に父親を亡くした心晴は、母親と二人で生きてきた。彼女の事情を知らない人はその境遇を同情したり心配したりしていた。私も、他人だったらそういう反応をしたかもしれない。


 心晴は、そういう過去を感じさせないほど明るく優しい心の持ち主だった。自分のことより人のことを優先する。


 小学生の頃、心晴と同じクラスになり、なりたい係がかぶったことがあった。その時も心晴は、私にその係を譲ってくれた。嫌な顔ひとつせずに。


 中学生にもなると、周りの子はみんな恋愛のことばかり話すようになった。でも、私にはそれらしい相手がいなかった。というより、男子との恋なんて必要としていなかったという方が正しいかもしれない。


 私は、心晴のことが大好きだった。


 いつも元気で、あっという間に周りを和やかにしてしまう心晴のことが。自分がつらい時も私のことを気にかけてくれる心晴のことが。彼女といると笑顔が絶えなかった。いつもいつも、私は笑っていた。


 これは私の初恋だったのかもしれないと、ひそかに思っている。でも、そうではなかったのかもしれないとも思う。


 高校生になって初めて、同じクラスの男子を好きになった。その人とは価値観や食べ物の好みが似ていたから、話していて安心したし楽しかった。だけど、その人にはすでに他校の彼女がいた。私の想いは実ることなく終わってしまったけど、今でもその人との絡みはいい思い出。


 中学生の頃心晴に対して抱いていた淡い恋のような気持ちは疑似恋愛的なもの。つまりは同性への憧れであって、片想い相手への気持ちこそが私の初恋!そう思うことにした。


 2度目の恋は大学生になってすぐ。ファミレスバイトを始めたのもその頃だった。好きになった相手はバイト先の海崎かいさきあきという同い年の男の子だった。


 昭は、年下としか思えない軽いノリと年上っぽい包容力をあわせ持つ魅力的な人だった。見た目は好みそのものだったし、同い年なのに周りをまとめる昭のリーダー的なところもかっこいいなと思った。店長やお客さんから可愛がられているのもすごいと思った。話すとチャラチャラしているのに、仕事中はそこそこ真面目でスマートに何でもこなすタイプだった。


 昭とは同じシフトに入ることが多かったので、休憩中によく話した。口下手で人見知りな性格は接客バイトを通して少しずつ克服できたものの、かっこいい男の人と二人きりで話すのは緊張して仕方なかった。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、昭は何度も気さくに話しかけてくれた。


 仕事のミスもさりげなくフォローしてくれるし、それで落ち込むと優しく励ましてくれる。そんな昭に、私はいつしか惹かれていった。雑談の中で、たまたま昭と同じ大学だということが分かった時すごく嬉しかったし、この出会いは運命かもと思った。


 昭は誰に対してもフレンドリーな感じだったので、告白するのは諦めた。素敵な人にはもう彼女がいるに決まってると、頭から決めつけていた。高校生の頃の片想いがマイナスの形で尾を引いていたのかもしれない。


 そのうち、バイト先で、昭と私が付き合っているというウワサが流れた。全然違うのに。だけど、周りから見て昭と私がそう見えることに、内心浮かれた。


 一方、昭に対して申し訳ない気持ちになることもあった。私とのウワサが原因で、昭の恋愛事情を邪魔しているかもしれないと考えたからだ。昭とは親しかったけど恋愛に関することは何も語り合わなかったので、よけい気になった。


「ごめんね、私とウワサになるの迷惑だったよね……。そのうちウワサされなくなるといいけど」


「迷惑っていうか……。ウワサ、本当のことにする?」 


 イタズラな瞳で昭にそうかれた時、燃え上がるような恋とはこのことなんだと、初めてリアルに体感した。私の返事は決まっていた。


「する!!私でよければ…!」


「ひなたがいいの!」


 運良く両思いになり、昭と本物の恋人同士になった。甘くて夢のような毎日。特に大きなケンカもなく仲良くやっていた。バイト先も大学も一緒だからいつでも会える。幸せだった。


 だけど、それから2年経った今年の7月、


「ごめん。他に好きな人ができた。もうひなたとは会えない」


 昭から別れを切り出された。いつの間にか、昭の気持ちは私から離れていたらしい。


 いつも優しい彼の変化に、全然気付けなかった。私が鈍感なのか、昭の演技が上手いのか……。どちらだとしても、昭を失った悲しみが大きいことに変わりはなかった。


 痛みから逃げたい。楽になりたい。そんな心持ちで心晴にこのことを話すと、彼女は自分のことのように腹を立て、悲しみ、泣いてくれた。


「昭君ひどい!ひなたは何にも悪くないよ!」


「ありがとう、心晴」


 心晴の励ましは胸にしみた。あたたかかった。その名前の通り、心が晴れるような優しさを持った女の子だと思う。


 今回の失恋に関してはもちろん、他のことでも、今までずっとずっと心晴の存在に救われてきた。そのはずだった。


 大人になったせい?20歳を過ぎた今、友達のなぐさめだけでは埋まらない穴があることを、知った。


 相馬そうまゆうに告白されたからだ。優は、昭や私と同じ大学に通う男子学生で、昭の親友だ。


「ひなたのこと、前から好きだった。俺は昭と違う。絶対ひなたのこと傷付けたりしない。大切にする」


「でも、私は昭のことまだ忘れてないし、私にそんなこと言ったら、優、昭と気まずくなるんじゃない?」


「ひなたを傷付けた昭なんて、もう親友だと思ってないから。それに、たとえ昭への友情があったとしても、ひなたを好きな気持ちはやめられなかったと思う」


 優の目には、今まで見たことのない強い気持ちが宿っていた。


 優とは、昭を通して何度か会ったことがある。三人で講義を受けたり、飲みに行ったこともあった。だからって彼氏の親友からそんな風に想われているとは考えてなかったので、優に告白された時は驚いた。優は昭よりモテるし、学内でも人気がある。当然、交際も断るつもりだった。


 でも、優に返事をする、まさにその時、私の中に悪魔が現れた。醜悪しゅうあくな自分の姿を隠した、その姿が。


(もし今私が優と付き合ったら、昭は絶対気を悪くする。新しい恋を見つけた私のことがしくなってヨリを戻そうと思ってくれるかもしれない!そうじゃなくても、悔しがってくれると思う!)


 浅はかだったと自分でも思う。一度離れた気持ちはそんな簡単に戻らない。それは分かっていたけど、優に告白された瞬間、失恋の悲しみは昭への復讐心に変わった。


 相手の都合で一方的にフラれた身として、少しでも相手にも痛みを返したいと考えた。


「こんな私でいいなら……」


 傷心中のはかない女を演じて、優の告白を受け入れた。昭を傷付けたい、優との関係を知った昭に動揺してほしい、そんな思いしかなかった。


 元々優しい人だったけど、付き合ってからの優はさらに優しくなった。レディーファーストは当たり前。バイト先でのちょっとしたグチも嫌な顔をせず聞いてくれる。疲れている時はさりげなく私の好物を差し入れしてくれた。彼がモテる理由が分かった。


 優のおかげで、バイト先で顔を合わせる昭とも普通に会話できるようになった。別れた直後は目も合わせられなかったのに。



 昭との別れでボロボロだった私を、優が救ってくれた。日常生活を普通に送れるほどに。


 そうして、昭との別れで傷付いた心が癒えてくると、今度は別の感情が湧いてきた。


 罪悪感。


 優の貴重な時間を奪ってしまっている。好きでもないのに付き合っている。恋人だからというだけで甘やかされ、優を昭への復讐の道具にしている。


 優は、私の本心を知らない。


 今日、大学のカフェに心晴を呼び出したのはそのためだった。優とこのまま付き合い続けていいのか別れるべきか、相談するために。


 心晴はフリーターで、今は特にしたいこともないらしく自由に暮らしてるけど、毎日のように私の家や大学に顔を出してくれる。その気安さが嬉しかった。


「優とは、純粋に好きで付き合ったとかじゃないんだ……」


「そうだったんだ。優君と付き合って2ヶ月、今の関係に迷いが出てきたんだね。あの時はひなた昭君と別れたばかりだったし、仕方なかったと思う」


「心晴……」


 本当のことを話したら軽蔑されると思っていたのに、心晴は涙目になって私に共感してくれた。そして、そのしんみりしたテンションからは無理矢理感のある明るい声音で、カバンの中から愛用のタブレットを取り出した。


「だったら、彼氏レンタルしてみなよ!そしたら、今のその気持ちがウソか本当か見極められると思う!」


「そんな、ブルーレイやコミックのノリで借りられるものじゃないよね!?」


「それがね、借りられるんだよ、ホラっ!」


 21歳になった私に贈られた親友の誕生日プレゼントは、レンタル彼氏でした。


「ひなたの誕生日プレゼントだよ!」


「いいよ、そういうのは。ただでさえ優のことで頭パンクしそうなのに、これ以上他の人と関わったら脳みそ爆発する」


「実は、もうひなた用に予約しちゃってるんだよ〜!!だから、ね?」


「まさかの予約済み!?」


 とんでもないことになった。


 「キャンセルできないの!?」とは、とても言えなかった。こういうのって、利用料金はおろか、キャンセル料もバカ高そうだから。


 私が何かに悩んだ時、心晴はいつも一生懸命になって一緒に考えてくれた。今回のレンタル彼氏うんぬんはやり過ぎだと思うけど、それも、彼女の優しさ。友情。


「自信ないけど、レンタル彼氏に会ってみる……。一回だけなら」


「もちろん!それでひなたの気分が晴れるといいね!レンタル彼氏は厳しい面接乗り越えて女性を喜ばせる術も学んだ人ばかりだから、きっと何か発見があると思う!」


「そうだね」


 心晴はいつになくぎこちない様子で笑顔を見せた。気のせいかな?


「本当に一回で済む?追加料金取られたり次回の予約強制されたりしない??」


「大丈夫!!そんな怪しい人…じゃなく、店じゃないからっ!」


「心晴、なんか様子が……」


「気のせいだよっ。当日は楽しんでねっ!」


 優のことがあるので積極的に楽しもうとは思えないけど、気持ちのこもった親友からのプレゼント。無下むげにはできないと思った。


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