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オフ会後の紳士同盟

○第7話:オフ会後の紳士同盟


ご主人様達のオフラインミーティング当日、待ち合わせの時間が過ぎても霰さんの姿を全く確認することができません。

これはゆゆしき事態なのであります。

”僕達紳士同盟のオフラインミーティングへの間接的介入計画”改め”スマートフォン用ゲーム カフェねこやしきにようこそ が小規模コミュニティーのコミュニケーションツールとしてどの程度有効に機能しているかについての調査”はその調査の協力者である霰さんなくしては成立いたしません。

いいえ、よくよく考えれば相手はあの霰さんなのですから、僕はこの程度のインシデントは想定できなければいけなかったのです。

嗚呼、愚かな自分を呪うよ。

携帯電話を用いれば霰さんと連絡が取れるでしょうが、その結果霰さんが絶望的に遠い場所におり、オフラインミーティングへの参加は不可能でござると確定したら、その様に考えてしまった僕にはいったい何ができるのでしょうか。

悪い方の予想が僕の気持ちを覆い尽くします。それを形に表わす様に自分の右手で目を覆って空を仰いでいると、タブレットでモニタリングアプリを起動していたさっちんが僕の袖をちょいちょいと引くのであります。

今日、さっちんにはOL黒スーツの上にウィンドブレーカーを羽織って頂きました。

頭部は黒髪ポニーテールとインテリ風伊達メガネで勇ましく武装されております。

彼のうなじにはたまらなく男心をそそる魅力が詰まっております。

本当にさっちんを見ていると自分に不都合なことはすべて忘れて幸せだけになってしまいそうです。

「さっちん、何か御用ですか?」

「ええ、実は主席にお伝えしたいことがあるのです。」

「ほうほう、さてそれはどの様な内容でしょうか。」

「実は僕は霰さんが意外にもこの近くにいらっしゃると考えているのです。」

「もしそうなら僥倖なことです。」

「僕が手にしているタブレットのモニタリングアプリを見ると、少なくとも霰さんが所持して居る筈の特別なカチューシャは僕達のこの位置から20m以内のどちらかに存在するのであります。」

「おお、それはなんと幸運なことでしょう。20mでしたら、そして霰さんがカチューシャをつけていなさるなら通信が可能で尚且つ本日の調査を成功させえると希望が持てます。」

僕ときたら本当に現金なもので霰さんが近くに居なさると分かった途端に気持ちが大きくなって、彼女と連絡をとろうと、すぐさまそれを実行に移したのであります。

僕はWiFiルーターを起動し、そしてスマートフォンでIP電話のアプリを起動してカチューシャに設定してあるIPアドレスを選択しました。これで霰さんと通信ができる筈です。

「CQ、CQ。霰さん僕ですお兄ちゃんです。今、どちらにいらっしゃいますか?」

数秒後、僕の携帯電話に霰さんから着信がありました。

『やほー』

「霰さん’やほー’などと如何にも呑気な声を出している場合ではありませんよ。」

『はっ、はっ、はー』

「霰さんが今、何を勝ち誇っているのか僕にはとんと理解できませんが、上野駅の近くに居なさるなら今すぐに待ち合わせ場所に向かっていただけませんか?待ち合わせの時間はとっくのとうに過ぎておりますよ。」

『ああ、しまった』

”しまった”で事が済んでしまう霰さんの脳の構造がある意味うらやましくてたまりません。

「全くあなたときたらそうなのですから、僕は大弱りなのです。因みに今はどこにいらっしゃるのですか?」

『あ兄ちゃんたちの後ろ』

僕がはっとして振り返ると少し先のガードレールの陰にしゃがんで隠れていた霰さんがさかんに手を振っております。そしてそれを見た僕は心に浮かんだ疑問をそのまま加工をせずに口に出します。

「霰さん、あなたは今その様な所で何をしていらっしゃるのですか?」

『めぐさん達を見ているあ兄ちゃん達を見ていますた』

「それは楽しかったり、もしくはためになったりする行為なのですか?」

一日は24時間しかありませんし、さらに経験的に人が全力で脳の力を発揮できるのはそのうちのわずかな時間だけなのです。ですのでその時間をどれだけ有効に使えるかどうかというのは、大変重要なことだと僕は思うのです。

ところがです霰さん。あなたがなさる行動はお兄ちゃんには難解すぎて、その貴重な時間をすっかりつぎ込んで全力で悩み切っても解析することが困難なのです。

『それがね、思ったよりつまらなくてどうしようかと思っていましたっ』

僕の胸中に残念にして解析不能な感情が現れて、ぐくっと心の外壁を内側に引き倒そうとします。

いいえ、僕は霰さんという対精神兵器に負けてはならないのです。

理論、そうです、僕には日々の勉学で得た理論という正義の武器があります。今の状況を理論的に捉え整理すればおのずと活路は得られる筈です。

「僕には霰さんが現在自分がすべきことを見失っていることが理解できました。僕にはそれをあなたに教えることができますので早速申し上げましょう。今すぐに待ち合わせ場所に向かってください。」

『わーったっ』

僕は霰さんがちょこちょこと走ってゆく後姿を彼女が待ち合わせ場所に到着するまでまんじりともせずに眺め続けておりました。

岡めぐみさんがなかなか現れない霰さんの現状を確認するために電話をしようとスマートフォンを手にした、丁度そんなころあいに霰さんが岡さんにおーいと声をかけます。

出迎え側の全員がそろったところで”ちずリョナ”様が待つ上野駅構内へと皆さまは入ってゆきました。

かのえ君が空撮のためのクアッドコプターを飛ばし、待機していただいていたハイヤーに有志4人皆乗り込んでご主人様御一行を追跡します。

そしてオフラインミーティングは滞りなく午後四時四十一分五十六秒に終了したのであります。

オフラインミーティングの描写ですか?それは一切を省かせていただきます。

可憐な美少女達の愛くるしい戯れを微に入り細を穿って説明させていただくことは、この物語の本意ではありません。

主要登場人物に美少女を4人も設定しているというのに、たいへんに申し訳ないことで御座います。

謹んでお詫び申し上げます。


さてオフラインミーティングが終わった後、僕達紳士同盟はお座敷へと直行します。

本日の為に借りたサーバーに接続すると約42GiBもの画像と動画のデータがそこにはありました。

僕達はその大量の宝物を前に一瞬まるで猥褻なDVDソフトを手にした小僧の様にしまらない表情をしてしまいました。

しかし、僕達の紳士の魂は健全ですのでたった一回咳払いなどをしてしまえばもとの凛とした顔が戻ってくるのであります。

「さて諸君。ご主人様のオフラインミーティングは無事に終了したわけですが、僕達紳士はこれからが本番なのですよ。」

僕がそう言いますとかのえ君が勢いよく拳を振り上げます。

「おおう。全くその通りだとも。やぁやぁ、たとえ今日が眠らない夜になってもサーバーにこってりと存在するダイヤの原石をすべからく磨き上げて見せようではないか。」

「ふっふっふっ、かのえ君ときたらなんと勇ましい事でしょう。僕は主席を務めさせていただいておりますから、志しでかのえ君に後れを取るわけにはちょいとゆきません。」

「そしてそういった言葉に、僕はまんまと乗せられてしまう訳であります。主席、どうでしょう、ここは一番勝負にしませんか?」

「かのえ君、それは俄然と、そうですね心臓の芯から轟々と燃えてくる、そういった提案ですね。そして紳士の勝負なのですから公平で明確なルールが必要です。」

「主席、そしてかのえ君。僕もうずうずとしてしまってね、君たちの勝負に加えてはもらえないだろうか。」

可愛らしいさっちんが、ひょっこりと僕とかのえ君の間に割り込んでいらっしゃいました。

「僕の意見を述べさせて頂くならさっちんは愛らしければそれ以上何もしなくてよろしいように思うのですが、それでも君は勝負だなんて荒々しいところに躍り込んでくるというのかい?」

「その通りです。挑戦のし甲斐がある勝負を目の前にして、自分がその第三者でしかないなんてぇことは紳士の心意気とは異なります。そしてもちろんそのような粋ではない愚行は僕の本意ではありません。」

そこまで覚悟が決まって居なさるならそれ以上申し上げることは御座いません。

「さっちん。貴方の心意気は十分僕に伝わりました。ですのでさっちんも含めたルールに致しましょう。おっと、今僕は妙案を得ました。僕達それぞれが自身のご主人様の素晴らしさを称える内容のまとめ動画を作るのです。その動画が示すご主人様への愛情の深さを競いましょう。長さは3分以内、言うまでもありませんが他のご主人様に対する誹謗中傷は厳禁であります。」

ここでかのえ君が腰に手を当ててのけぞりかえり、高笑いをしてみせるのでした。

「はっはっはっ。僕の八戸まで追いかけてしまう”ちずリョナ”様への愛の深さを主席はご存知だというのに、主席は勝負を投げだしてしまったんではないだろうね?」

僕は大きく頷いて答えます。

「ぬう、かのえ君はご主人様への情の深さも技術力も極めて高くて相手にとって不足ありません。ですのであなたに勝利をすることで僕は僕自身の”まりすけ”様への愛と忠誠を確信することができるのです。己が劣勢な条件で強者に挑んでこそ僕は紳士なのであります。」

「これは困難な戦いになりそうです。でも僕も僕の正義を持っていますので負けるわけにはゆかないのです。」

そう言って拳を握りしめるさっちんに対して僕とかのえ君は少々懐疑的な気持ちにならざるを得ないのであります。

「ううむ、本当にそうでしょうか。さっちんは貴方自身が可愛らしいことが正義なのではないでしょうか。」

「僕も主席の言いなさるとおりだと考えますよ。貴方は空手の有段者でその戦闘力はただごとではありません。しかしそれ以上にたお先生が用意なさった衣装をまとった貴方の愛らしさは至高です。他のことはおそらく地球の存亡でさえ瑣末なことだと僕は思います。」

僕はさっちんの右手をとって彼の手のひらを僕の胸にあてがいました。

かのえ君はさっちんの左手をとって彼の手のひらをかのえ君の胸にあてがいました。

さっちんは要領を得ずに只きょとんとしております。

やだもーきゃわいい。

そして数秒後、カッと強烈な意思を以って僕とかのえ君は目を見開いたのです。

「充電完了」と僕は言い放ちました。

「補給終了」とかのえ君は言い放ちました。

僕とかのえ君は向い合ってそびえ立ち、勇気と無垢な魂を示す動脈血色の闘気を身にまとい騎士が剣を構えるように利き手の拳を正面に置くのであります。

もうこうなってしまっては僕とかのえ君のどちらかの心臓が止まるまで戦いが終わることはありません。

ところがどうしたことでしょう、死が目の前にちらついているというのに僕の心は小鳥がさえずる小春日和の竹林のように静かなのであります。

僕は、嗚呼今僕はただ一つの紳士なのだなとその様に確信をいたしました。

最早僕達が戦いに臨むにあたって、ニュートリノ大の迷いもございません。

「いざ」

「尋常に」

僕とかのえ君はすちゃりとノートパソコンを取り出し、お互いがよく見えるように高くにかざします。

これは自分に不正や卑劣な気持ちがないことを表す行為であります。

「やあやあ我こそは、椿山の頂の烏天狗、圷朝ぁ。」僕はその場のノリで出鱈目を言ってしまいました。

「やあやあ我こそは、暁の丘の金剛力士、閂庚ぇ。」かのえ君も僕にのっかって出鱈目を申しております。

そして十分な時間が過ぎた後、やうやうと構えたお先生の「始め!」という一声を合図に一気呵成に画像及び動画データの確認と編集作業を行ったのです。

本当にこの約42GiBは真に宝石が詰まった宝箱なのであります。

嗚呼、”まりすけ”様がクレープを手に微笑んでいらっしゃる。

嗚呼、”ちずリョナ”様が悪戯な笑顔で”巻ちゃん、”様に抱きついていらっしゃる。

嗚呼、記念撮影のときの”まりすけ”様の笑顔がまぶしい。

嗚呼、”ちずリョナ”様がお土産を選ぶ時の真剣な表情が愛らしい。

嗚呼、歩き疲れて公園のベンチで小休止をしている時、”まりすけ”様が路上の自動販売機で飲み物を買い求められ、皆様に振る舞っていらっしゃいます。なんとお優しい。

嗚呼、人気のラーメン屋でお昼御飯をとられるご主人様たち。”ちずリョナ”様が急にしおらしくなり、一寸照れながら本日東京を案内してくれたことに対してお礼の言葉を述べられます。なんと礼儀正しい事でしょう。

嗚呼、”まりすけ”様の全てが愛おしい。

嗚呼、”ちずリョナ”様の全てが愛くるしい。

嗚呼、”まりすけ”様がっ!

嗚呼、”ちずリョナ”様がっ!

嗚呼、”まりすけ”様slj%&^$%&$&っっ!!!

嗚呼、”ちずリョナ”様nofiejo&^%GjnJ67Vgっっ!!

嗚呼、NJKHt&**##)*9っっっっっ!!!!!!!!!

嗚呼、gひH(T^*(#@T(@o90()っっっ!!!!!!!

嗚呼、嗚呼、嗚呼!嗚呼っっ!!

アッーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!!!!

さて、僕とかのえ君は動画作成の勝負を始めましたので、成果物である3分以内の動画を完成させなければなりません。

しかし、その作業は思いの外手間がかかります。

素材の選定やストーリーの推敲、特殊効果などの検討に酷く時間がかかるのであります。

そして、そのようなことを頑張っていると、今日撮りためた膨大な量の写真と動画をほんのわずかしか見ることができません。

「主席。」

「なんだいかのえ君。」

「僕達は今日、誠実な業務としての調査活動をして、今は結果集計及び検証の作業工程の筈です。ですので僕達は粛々とその作業をするべきであって、勝負をするというのは如何にも不謹慎な態度なのではないでしょうか。」

「うんかのえ君全くその通りだよ。僕達はうっかりと紳士の道を踏み外してしまうところだったよ。」

僕とかのえ君は人として当然すべきことを今思い出し、僕とかのえ君の勝負はなかったことになりました。

そして僕達は無益な戦いをやめ、有益な調査の分析作業に専念したのであります。

「うほー!ちずリョナたん!超ちずリョナたぬたぬっ!!」

「かのえ君、言葉遣いが好ましくありませんよ。」

「これは失敬。返す言葉で申し訳ありませんが、主席も表情が少々お下劣でいらっしゃいますよ。」

「ぬうう、僕としたことがはしたないことです。」

しかし”まりすけ”様の高品質動画を見る僕の表情はそう易々と引き締まらないのもまた事実です。

「かのえ君」

「はい、」

「日は既に暮れて深夜と呼称される時刻に近づきつつあります。」

「ええ、その通りです。」

「そして僕達はさらに多くの時間を今行っている作業のために必要としており、それは紳士性の限界さらには人間の限界を超えた領域にあると僕は思うのです、つまり、」

「つまり?」

「無礼講にいたしませんか?」

「御意。」

独立系ネットカフェひまわりの一室、ほかのお客様の迷惑になりますので大きな声こそ張り上げませんでしたが、夜通し品の悪い猿にも似た歓喜の吠え声が途切れることはついに無かったのであります。


翌日、徹夜で目の下に隈が出来てしまった僕の背を岡めぐみさんがぽんと気易くはたかれます。

「よっす。言われたとおり霰ちゃんのカチューシャ褒めておいたわよ。」

「それは本当にありがとうございました。感謝をいたします。」

「元気100%の霰ちゃんに似合いのカチューシャだったわよ。私のキャラだとあれわはしゃぎすぎかなー。霰ちゃんはああいうのが似合っていいなぁ、可愛いなぁ。まぁいいか、そんだけ、それじゃ、」

寝不足で僕の思考が混乱をしていたのでしょうか、いつもはそのようなことはしないのですがその時僕は立ち去ってゆく岡さんの背中に’自発的’に声をかけたのです。

「オフラインミーティングは楽しかったですか?」

岡さんはチョンの間きょとんとされたあと、笑顔でこう答えてくださいました。

「それがさー、初めて会った4人がそろいもそろって超美人でさー。あたしと霰ちゃんとかもうマジで全然引き立て役だったっつーの。でも、頭悪い話OKな仲だし、会えて良かったしさ、楽しかったよ。」

僕は岡さんの笑顔の眩しさに目をくらまされて、自席でずーんと深い眠りに落ちてゆくのでした。


”スマートフォン用ゲーム カフェねこやしきにようこそ が小規模コミュニティーのコミュニケーションツールとしてどの程度有効に機能しているかについての調査”の分析作業は同じ動画を幾度も確認したため都合3日間に及び、くたびれ果てた身体とは真逆に僕達の顔はグリスを塗ったようにてかてかと蛍光灯の光を反射しております。

その翌日の夜、お座敷に集まった僕達はユーザー様のご意見とご要望について意見を交わし合うことにしたのであります。

ユーザー様のご意見とご要望とは具体的には、カフェねこやしきにようこそのホームページのお問い合わせフォームでお問い合せ内容を”ご意見またはご要望”と選択して送信されたものを示します。

この時僕達のゲーム用に用意したメールアドレスに”ご意見またはご要望”というタイトルで送信されるのであります。

僕達はこのメールが千件以上になるまで全く気づくことなく放置してしまっていたのです。

某中国企業への対応やご主人様のオフラインミーティングに便乗した調査活動があり後回しになってしまいましたが、ついに本日より対応を開始することに相成りました。

集計を担当したのが主席である僕ですので、タブレットをかばんから取り出してPDFファイルを表示させ有志全員に提示いたしました。

「主席、これはなんとも極端な結果なのですね。」

今日のさっちんはたお先生のたっての希望で女子用スクール水着の上にセーラー服の上着だけを羽織った、荒武者のように勇ましい姿です。

男性と女性は同じ背丈でも骨格が異なりますから、男性が女性の標準的な寸法の衣服を着ようと試みても得てして胴回りや肩幅などが合わずに失敗をする筈なのですが、さっちんはどの寸法をとっても無理がなく完全に着こなしてしまいます。

僕はそのようなさっちんという存在に対してうーんとうなって降参してしまうしかありません。

おそらく可愛らしいという事実は絶対正義であり、良い悪いをすなわち究極的には神や悪魔を超越した存在なのだと僕は考えます。

「主席、言葉が無いようですがどうかなさったのですか?」

はい、君の愛らしさにどうかなっておりました。しかし、もう自分を取り戻しましたので心配は無用でございます。

「さっちん。貴方の云うとおりであります。ユーザー様のご意見とご要望のうち有効なご意見をまとめると”もっと多くのユーザーを受け入れてほしい”と”aPhoneに対応してほしい”の2つで全体の95%に達するのです。」

「すなわちユーザー様の声は明確で僕達がすべきことは悩む必要がなく決まっているということですね。」

「そうなんですよかのえ君。」

「しかしユーザー様はなんとも僕達には実現が困難な課題だけを要求してくださいました。」

「はい本当にそのとおりですねかのえ君。もっと多くのユーザー様を受け入れるにはお屋敷サーバーをより高価なプランに移行しなければいけません。しかし、僕達は完全に収入がない状態でゲームを運営しておりますのでその予算がないのであります。また、aPhoneに対応するには開発のためのPCとデバッグ実機を購入する必要がありますし、更にイニシャルコーディングとメンテナンスを行うための人材を確保しなければなりません。」

「僕達にはご主人様4人だけがいらっしゃればよろしいですので、対応しないという対応もございますが、全く実現の手段を検討せずに後ろ向きな結果を出すうことは本当に紳士の道に反します。」

「それもそのとおりでありますかのえ君。僕達は少なくとも実現の方法を脳の血管が切れてしまうほどのがんばりで検討をしなければいけないのです。」

そう申しまして、僕が偉ぶるでもなく腕を組み虚空の一点をひたすら眺めておりますとさっちんが手のひらを表にして誘ってまいります。

「主席は僕達よりずっと先に集計結果をご存知でした。そして僕達が中国企業やオフラインミーティングの対応に追われている間も、主席の能力でしたら並行してご意見とご要望への対応方法を考えることができたはずです。ですので僕は主席が何らかの答えをすでに導き出していると考えます。」

僕はその様にさっちんに質問を投げかけられたわけで御座いますが、さっちんの可愛らしさときたら、見てしまったが最後言葉を失ってしまうのであります。

「主席、言葉が無いようですがどうかなさったのですか?」

はい、君の愛らしさにどうかなっておりました。しかし、もう自分を取り戻しましたので心配は無用でございます。

「さっちん。貴方の云うとおりであります。僕は一つのソリューションをこの黄昏色の脳内に有しております。その方法を用いたならお客様の95%が望まれた要求を完全に僕達のゲームに実装することができるでしょう。」

「主席、そのような完璧なご意見をお持ちなら早速僕達に聞かせて頂きたい。」

「かのえ君の言う通りであります。主席が最終的に判断されたことに僕達が従わない理由がありましょうや?」

「それほどまでに君たちが僕のことを信頼してくれているとは思ってもおりませんでした。大変有難いことで、僕は今猛烈に感動をしております。しかし、だからこそ僕はどのように話をしたらよろしいのか考えあぐねてしまうのでございます。」

「主席、貴方はなんと水臭いお方でしょうか。僕は少々悲しい気持ちになってしまいます。」

「さっちんの云う通りであります。僕達有志は一丸となって問題に立ち向かうべきです。主席一人がその胸の中で思い悩むと僕達の立場がありません。」

「なるほど、あい解りました。それでは申し上げましょう。」

「そうです。そうこなくてはいけません。」

「我ら猫屋敷紳士同盟、たとえ地獄の底でも4人一緒です。」

「それでは申し上げます。僕が思いついたことは、僕達4人で起業をし例の中国企業の100%子会社になるという方策なのであります。」

僕の一言にかのえ君とさっちんばかりでなくたお先生も目を丸くして驚いていらっしゃいます。

このお話の続きはあえて次回第八話に送らせていただきます。


さて僕には各話の最後で絶対に行わなければならないことが御座います。

それは霰さんとの玄関での戦いに他なりません。

しかし今日は本当に疲労が限界に達しておりますので難敵霰さんとのセメントマッチは是が非でも避けたいところなのであります。

そこで僕は玄関を使わず庭から家の中に入る方法を思いつきました。

ドン!

僕は玄関の前を横切るときに何者かに背中から体当たりをさせてしまいました。

そして玄関の鉄扉に頭を痛打し僕が前後も上下も見失ったところで、その何者かは鉄扉を開けて僕を玄関に押し込んでしまったのであります。

僕が玄関の床に不甲斐なく倒れこんでしまうと、その何者かは鉄扉を閉めて鍵をかけ僕の方へとゆっくりと歩み寄ってきます。

その一歩一歩を感じるごとに僕の背中を恐怖という毒虫が這いずり上がります。

朦朧とする意識に自ら活を入れて近づいてゆく者の顔を確認すると、悪党の表情をした霰さんが足を骨折したうさぎを目の前にした狼のように近づいてきます。

僕は思わず悲鳴を上げたのでございます。

「ひっ!ひいいいいぃぃぃっっっっ!!!!!!!!来るなっ!!来るなーっっ!!」

「な、なに怯えきってるのよ。わ、わたしがドン引きよ。」

僕は霰さんから死神の気配が失せている事に気づき、ふしゅっと緊張を吐き捨てながら、今更ではありますが紳士らしくまっすぐに立ったのであります。

「申し訳ありません。玄関に入るとつい死神の気配に腰が抜けてしまうのです。」

「ちょっ!!どゆこーとー!!」

どういうことと質問をされましても、答えは僕が申したままの意味で御座いますよ玄関の死神さん。

「今日はちょっとストーカーの真似をして遊んでみただけよ。フン」

霰さんがその様におっしゃるという事はひょっとして僕が通う高校の校門からずっと、僕の背後に潜んでいたとそういう事でしょうか。

「ホラ。こっそり写真を撮ってさ、本格的でしょ?」

そういう事でありました。

しかし、この一件が後の騒動の複線もしくは嫌な冗談になっていようとは、このときは思いもよらなかったのです。

このとき、ご主人様のうちの一人が放課後ご自宅に向かう道すがら、背後に不審者の気配を感じて何度も振り返っては電柱の陰などを凝視して見えない陰に怯えていらっしゃったのであります。


次回、第八話「起業の意味」。

突然の新キャラクター登場なのであります。

8話よりもかなり硬派な展開となる9話が心配でなりません。今からぐだぐだお笑い路線で書き直すことも考えております。

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