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妹だって来襲

○第5話:妹だって来襲


今回のエピソードはいきなりではありますが、ご主人様のチャットから始まります。

厄介な自然災害ハリケーンのように突如現れた僕の中学一年生の妹こと”ぁらяё”様は兄である僕が読み上げを担当することになりました。

すでに”まりすけ”様と”めGu☆彡”様の読み上げを担当させて頂いているので都合一人三役になります。

3種類の声を使い分けるのはさすがに難儀致しましたが、一人二役の時より逆に思い切りは良くなった気がいたします。

でわでわ、

>あさがおな:え?このゲームつくった人の妹なの

>ぁらяё :うん

>ちずリョナ:まじで

>めGu☆彡:保証する。あーちゃんと会ったことある

>あさがおな:ほー

>ちずリョナ:うほー

>あさがおな:なにかおもしろい話はないの?

>ぁらяё :え?

>あさがおな:裏話!DA!

”あさがおな ”様が裏話などと急所を直撃されましたので、これは非常にまずい危険極まりない状態です。

僕は即時に我が妹霰さんのスマートフォンに発信をしました。

>ぁらяё :兄から電話きた、おちまふ

ほう、’あ兄ちゃん’などと幼稚な言葉遣いをなさるのは身内に対してだけで、対外的にはちゃんと’兄’と言って下さっているのですね。少し安心をしました。

『あ兄ちゃん?』

「はいお兄ちゃんです。火急の用にてお電話いたしました。」

霰さんは通話中はスマートフォンを使えないためゲームができないはずです。

つまり、霰さんがチャットで何かを書き込むのを完璧に防ぐことができるのです。

『ゲームしてたのに。』

「まさにそのゲームの件でございます。実は先日僕達のゲームへ’霰さん’に限って’特別’に登録をするお約束をしたときに、うっかりと失念して伝え忘れたことが有るので御座います。」

『なによ』

「霰さんはゲームの製作者である僕達、特に兄である僕のことを比較的に申しまして良く知るお立場にいらっしゃいます。」

『たしかに』

「先ずお兄ちゃん達が営利目的でスマートフォン用のゲームを作成、提供そして運用しているのではないことを理解して頂きたいのです。」

『部活、みたいな?』

「その上でユーザー様が製作者の顔を知らないことの重要性を是非に解って頂きたい。」

『うーん?うん?』

「例えば小さなお子様にサンタクロースの正体がお父様だと伝え無い方がよろしいですよね?」

『んー別に、プレゼントさえ貰えればいーんじゃないかと』

「え?」

『えって、なに?』

「では、例えば遊園地の着ぐるみの中にいらっしゃる方は顔を見せ無い方がよろしいですよね?」

『そこはこだわらないかなー、どうせむさいおっさんだしょ』

「え?」

『ええ、あたし変なこと言ったの?』

僕は我が妹がこれほど手強いとは思いませんでした。

昨今の中学生の社会には酷い即物主義が蔓延しているのでしょうか、’童心 ’もしくは’夢’のお話が全く通じません。

僕は絶望をして、幾人もの英雄をその角で串刺しにした巨大な闘牛を前にしたマタドールのような気持ちになりました。

「わかりました。それではこういたしましょう。僕は霰さんのお願いを聞いてゲームに参加できるように取計いました。ですので霰さんも僕のお願いを一つだけ聞いてくださいな。これは公平な取引です。」

『めんどいけど、らじゃ』

「では霰さんが知る僕達の事柄を全て霰さんの胸の奥底に蔵匿して下さると、今、約束をしてください。」

『いいよ』

「お願いしましたよ。」

ここで僕と霰さんのお話は終了となり、霰さんはゲームに戻ったのです。

>あさがおな:あ、妹戻ってきた妹

>ぁらяё :ヤッフー

>あさがおな:裏話!裏話!裏話!

>ぁらяё :じゃー先日ね、兄が無断外泊したはなし

>あさがおな:イイヨ、イイヨ

>ちずリョナ:www

僕は顔面を蝋の様に白くして大慌てでスマートフォンを手にし、霰さんに発信したのでした。

『あ兄ちゃん、なに?もー怒るわよ。』

何をおっしゃっているのでしょうか、酷い憤りを感じているのは僕の方ですよ霰さん。

「霰さん。ひょっとして蔵匿という言葉の意味を理解できていませんか?」

『んー、初めて聞いたけど、なんとなく…隠すみたいな意味?』

驚きました。我が妹は僕との約束を正しく理解しておりました。では、一体何がいけなかったのでしょうか?

「霰さん。その隠すという約束の具体的な例を申し上げましょう。それでずっと理解が深まる筈です。」

『ん?んー』

「例えば隠す対象には”先日僕が無断外泊をした顛末”が含まれるます。よろしいでしょうか?」

『オーケー牧場』

非常に心配ではありますが具体的な表現で確かに約束を取り付けることは出来ましたのでここで終話としました。

>めGu☆彡:あーちゃんおかえりー

>ちずリョナ:兄ちゃんと仲いいの

>ぁらяё :なぜっすか

>ちずリョナ:電話頻繁に来るから

>あさがおな:いいから裏話

>ぁらяё :そうそう。あのね兄がこのゲームのために無断外泊して超遠くにいってたの

>ちずリョナ:へー、何処

>ぁらяё :ちょっとまって今思い出すから。なんか男同士ふたり旅で

>巻ちゃん、:興味深いわね

>ちずリョナ:でたww

DA!ME!DA!

僕は即時にスマートフォンを取り出し霰さんに発信をしました。

大変遺憾なことですが霰さんとの約束は二枚重ねのトイレットペーパーを剥がした一枚、もしくはシャボン玉の表面の様に薄く破れやすいことが判明してしまいました。

かくなる上は僕が霰さんが紳士同盟の核心に近い情報を暴露するのを露骨な手段で妨害する以外に手はありません。

僕は霰さんと電話がつながった後、ご主人様たちが全員ログアウトするまでの1時間近く、延々と霰さんに約束を守ることの大事さと個人情報の定義について説教をし続けたのです。

しかし本日の妨害工作としては十分でも、今後に大きな不安を残します。家に帰ったら時間をかけて厳重に注意をすることにいたしましょう。


霰ハリケーンとも形容すべき極地型自然災害が過ぎ去ったあと、僕達はお座敷の真中にお互い向き合って座りました。

これは霰さん問題の対策会議を執り行うためではありません。

「主席、例の買収提案を持ちかけて来た某中国企業から、またメールが来たようだね。」

「うむむ、いやはや本当に参ってしまったよ。」

「おいおい主席、君ぃ、穏やかな様子じゃあないね。いったいメールの本文には何が書いてあったんだい?」

「かのえ君、何が書いてあったかだって?それを聞いて腰を抜かしたりしないで下さいよ。」

「そんなに脅されてはかなわないね。僕達は先方に対して失礼が無いよう十分に留意してお断り申し上げたはずだろう?」

「ああさっちん、君の言う通りだよ。そして、僕達が送ったメールの内容は正しく先方に伝わり、なおかつ悪い印象は持たれていない様なんだよ。」

「はてさて主席は奇妙なことをお言いだ。それでは僕達は何に対して腰を抜かせばいいのだい?」

「うーん、うん。つまり先方は僕たち紳士同盟はビジネスができる相手だと認めてくださったんだよ。」

「奇妙だね。いよいよ奇妙だね。」

「先方の企業様は僕達を気に入り、是非とも一度顔を合わせて話し合いをしたいと、この様に考えて居なさる様なんですよ。」

「なるほど。ああ、なるほど。そういういう事でしたら確かに僕は腰を抜かしてしまいますよ。」

「そうだねかのえ君。僕も今話を聞きましてね、腰をすっこんとね抜かしてしまいましたよ。これは一般的に有難いお話ですが僕達にとっては困ったことです。さてさて主席はどうなさるおつもりなのですか?」

「それはなかなか難しいお話です。しかし僕達の意思が固いという事は今一度伝えるべきでしょうね。」

「その通りですね。あんまり簡単に手のひらを反してしまうと、それは本当に失礼な態度です。」

「先方の企業は僕たちのことを認めて下さったのですから、僕達は筋が通ってなければいけません。」

「かのえ君とさっちんからその言葉を聞けて僕はうれしく思います。でもね覚悟はしておいていただきたいのです。再びお断りをしてそれでも僕達の顔が見たいとおっしゃっていただけたなら、その時は最終的にお断りをするにせよ誠意をもって同じテーブルを挟んで椅子に座らなければいけません。」

「学生の身分でビジネスの席に座るだなんて、考えるだけで手が震えてしまい僕に自信はありませんが本当に主席の言う通りです。」

「僕達は真剣にゲームを運営しておりますから、先方と会わなければならないのでしたらそれも真剣に成すべきでしょう。」

僕はここでたお先生の表情を一瞥致しました。

たお先生は僕の視線に気づいて何時もの様に時計仕掛けのような動きで静かに頷いてくださいました。

「君たちは本当に頼もしい。それでは先日そうしたようにこれからお返事のメールを物することに致しましょう。本日は僕がまとめたお客様からのご意見とご要望についてお話をしたかったのですがまた今度に致しましょう。」

「ええ、今日はメールの本文の作成で時間を使い切ってしまいます。ご意見とご要望のお話はそのような日にやっつけるのではなく、改めてじっくり行うのがよろしかろうと思います。」

「異議無しであります。」


その日もへとへとに疲れて我が家にたどり着きます。

そして昨日の経験から、門柱の裏に僕の疲労の直接の原因になった霰さんが居ないかどうか探します。昨日はそこに隠れていなさった筈です。

車庫の車の陰などもくまなく探します。

居りません。

次に霰さんが新しい登場の仕方を考えている可能性を考慮し、玄関の鉄扉をほんの少しだけ開けて中の様子を伺います。

特に変わったことはありません。

今日は傘も外に出ておりません。

どうやら玄関までは入ってしまって安全なようです。

僕は探索中にいつの間にか乱れてしまった自分の襟元を正しつつ玄関に入り、だがしかし突然にただならぬ殺気を感じて下駄箱の扉を両の手で押さえつけたのであります。

妹が霰さんが下駄箱の扉を跳ね飛ばして出てくるという恐怖のイメージが僕の脳裏をよぎったのです。

大丈夫。

大丈夫。

そう自分に言い聞かせて僕は乱れた呼吸を整え、噴き出た脂汗を手の甲でぬぐい捨てました。

下駄箱の扉を押さえつけていた手をカタカタとふるわせながら、僕は恐る恐る体全体で後退りをするようにして僕の全身にギュウギュウと絡みついていた幻の悪魔を振り払ったのでした。

大丈夫。

大丈夫。

と、そのときです。

「あ兄ちゃん!」

「うああああああああっっっ!!!!うあーっ!あああああーっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

心臓が爆発するかと思いました。

絶対に居ないと確認済みの僕の背後から、しかも遠くではなく真後ろから霰さんの声がしたのです。

僕が軸にした右足の骨が折れるほどの勢いで180度向きをかえて声のする方を凝視するとなんということはありません、種明かしは簡単で玄関の鉄扉に妹のスマートフォンが養生テープで貼り付けてあります。

リビングの固定電話から自分の電話に発信しているのでしょう。

僕はなんだかもう、勝手に力んで霰さんの罠にまんまとはまってしまった僕自身が可笑しくなってしまいまして、やれやれ恐れいりましたと肩をすくめて今すぐに自分の部屋に行ってしまうことにしたのであります。

しかし廊下の方へ振り返るとそこにはメガフォンを構えた霰さんがすぐそこにいるのです。

「あっ!兄ちゃああああんっっ!!」

「うぎゃああああああああっっ!!!!!!!!!!」

僕は魂が抜けて千里の彼方に吹き飛ばされてしまうのではないかと思いました。

「なんで!!ゲームのっ!!邪魔したのーーっっ!!!!」

「るがあああああっっ!!!!!!!!!!」

霰さん。メガフォンを僕の耳に密着させて自らの肺活量の限界にチャレンジするのはよしにしていただけないでしょうか?僕の肉体の鼓膜という比較的に言って精密で繊細な器官が損傷をしてしまう恐れがあるのです。お分かりになりますか?

でも、先ほどの僕の電話攻勢に対して憤慨していらっしゃることは十分にわかりました。

其の件でしたら僕にも言わせていただきたいことが山ほど御座います。

「霰さん、それでは言わせていただきますよ。秘密にすると確かに約束してくださったのに、その舌の根も乾かぬうちにチャットで....」

「なんでわかるの?」

「はっ!」

これはいけません。ユーザー様、特にご主人様に対してチャットやフロントカメラの映像を僕達が参照可能であるということは完全に秘密になっていなければなりません。

「お、」僕はここで一度生唾を飲み込むのであります。

「お?」

「お兄ちゃんセンサーです。」

「あ兄ちゃん?セン、さぁ??」

「そうです。兄妹の血の繋がりというものは親子のそれより濃いのです。霰さんは我が半身と言っても過言ではありません。ですから取るに足らない些事でしたらいざしらず、大事の時は気持ちが通じあって分かってしまうのです。」

「えー、嘘っこーい。チャットをあ兄ちゃんが覗き見してたりなんじゃないのー。」

正直言って驚きました。

霰さんがいきなり真実の核心をついてきなさるとは、これは妹センサーなのでしょうか。

僕の心は大きく動揺していますが鉄面皮を貫き通すしかありません。

「いいえしません、それは僕には不可能なのです。考えてもごらんなさいな、僕達が作ったゲームをなさるユーザー様は6千人いらっしゃるのですよ。そのチャット全てをどうやって読むことができましょうか。」

「それもそっかー。じゃあ、あ兄ちゃんセンサー?」

「そう、お兄ちゃんセンサーです。」

「えへへーっ」

なぜ嬉しそうなのかさっぱりわかりませんが、どうやらうまいこと誤魔化すことが出来たようで御座います、本当にほっといたしました。


翌日、学校。

休み時間に教室の自席で一人黄昏れていた処、岡めぐみさんに声をかけられました。

「昨日、ゲームで霰ちゃんと会ったよー。」

「そうですか。霰は僕の大事な妹ですのでどうぞよろしくお願いいたします。」

「つかさー、なんかアンタとずっと電話してたっぽいんですけど。」

一難去ってまた一難とはこの様な状態を表しているのでしょうか?

本当に岡さんと霰さんのスレッドLへの侵攻を許してしまったのは我が一生の失態であります。

さてここで嘘を言うのはよろしくありません。

岡さんは今後霰さんとの会話の機会が増えますから、僕が二人にそれぞれ申し上げる内容が万が一食い違ってしまうとそれこそ岡さんに痛くもない腹を探られる事になります。いや失敬、痛くもない腹というのは虚言になりましょうか。ただ僕達紳士同盟には一つの悪気もないということだけはご理解をいただきたいのです。

「はい。岡さんにもお約束をしていただきましたが、妹にも機密保持の確約をいただくべく電話にて念押しをしていたのです。このときの霰が生返事ばかりを返してくるものですから、一寸説教じみたことまで言ってしまったのです。」

「一時間以上も?」

「はい。お話がお説教になってしまった時、日頃言おうと思いつつも心に仕舞っていた小言まで口をついて出てしまいまして、気がつけばかなりの時間になってしまいました。」

「なるほどね。でもそれじゃあ霰ちゃんかわいそくない?」

「確かに僕は一寸言いすぎてしまったようです。僕が家に帰った時、霰はメガフォンを用いて猛抗議をしてきましたので。」

「メガフォンww」

「はい。」

「あられメガフォンww」

「はい。」

なぜそんなに楽しそうなのか全く理解できませんでしたが、どうやらうまいこと誤魔化すことが出来たようで御座います、本当にほっといたしました。


放課後、今日は塾に行く日ではないのですが特に用事が御座いますので、M典駅で下車しネットカフェひまわりに向かいます。

僕が最後だったようで、皆さん既にいつもの座敷で談笑をされておりました。

「やあ主席、お待ちしておりましたよ。」

「どうやら僕は君たちを待たせてしまったようだね、すまなかったね。」

「ふふふ、そのようなことでなにも謝る必要はないじゃあありませんか。普通にお坐りなさいよ。普通にね。」

「さぁさぁ主席、真ん中においでなさいな。早速打ち合わせを始めようじゃあありませんか。」

僕は勧められるままに紳士同盟の皆の前に座りおっほんと咳払いをして本題を切り出します。

「皆さんもご存知のように、我らがご主人様4名と他2名がオフラインミーティングを企画されております。そしてそれはどうも実際にそれも近々に行われそうな状況になってまいりました。」

「僕達は紳士同盟十戒を守らなければならないから直接は何をしてもならないけどね。」

「そうだねかのえ君、直接は何もできないね。僕もそれはよく分かっているんだよ。」

「さっちん、君は今日のこの打ち合わせの肝ともいうべき核心を突いたね。つまり僕らはこれから間接的な手段と紳士同盟十戒に反しない正当な事由を考え出さなければいけないんだよ。」

「集計作業を頑張って下さった主席には申し訳ないけれど、ユーザー様のご意見とご要望についての打ち合わせはまた延期になってしまうね。」

「さっちん、君、何を言うんだい。物事には全て優先順位というものがあるんだよ。それを間違わない事が重要なんじゃあないかね。仕事の80%は段取りなんだよ、最適な手順を決めて準備を怠らないことが肝要だよ。」

「主席もさっちんも一寸話が横っちょの方へそれてしまっているようだよ。」

するとここでたお先生の手がメカニカルな動きで持ち上げられたのです。

僕はてっきりたお先生に間接的な方法に関する何らかのアイディアをお持ちかと思ったのですが、そうではないようです。

たお先生はおっしゃいます「御屋敷サーバーがDDoS攻撃を受けてる」と。

DoS攻撃ごときでしたら放置してしまってもよろしいのですが、僕達紳士の誠意として攻撃者に対して十分なおもてなしをしなければいけません。

御屋敷サーバーを預けているVPSのプロバイダーは格安ながら僕達が徹底的かつ慎重に選択した会社様で、DoS攻撃に対してはネットワークの下位レイヤーで的確な対策が講じられております。

なおかつ御屋敷は基本的にポート全閉でして、ゲームの提供と僕達のメンテナンス作業に必要な最小限のポートしか開けておりません。

特にhttpdなどというセキュリティーホールはインストールすらしておりません。ゲームのポータルサイトは別なサーバーにインフラレベルから物理的に分けておりますので好きに攻撃していただいて構いません。そちらがネットワーク回線から破裂してしまっても、ゲームの運営に一切の影響は御座いません。

DDoS攻撃は攻撃者を特定しづらいのですが、僕達にはラスボスたお先生がいらっしゃいますから、攻撃が始まった直後の今でしたら不可能ではありません。

僕達の御屋敷にDDoS攻撃を試みたい場合は、必ず踏み台になるコンピューターにウィルスを寄生させる必要があります。

たお先生は彼が作ったツールキットを用いて踏み台にされたコンピューターの中から解析可能な数台を見つけ出し、最終的にウィルスの配布元になっているホームページを探し当てました。

たお先生はマン・イン・ザ・ミドル攻撃を行うためにFTPポートに介入し攻撃者の出方をじっと待つのであります。

そしてついにFTPに応答があり、攻撃者は唯一に特定され、以降僕達の大切なお客様となったのです。

本日のお客様は御屋敷に攻撃を試みて下さっただけではなく、僕達にとって大事であるオフラインミーティングの対策会議も台無しにしてくださいました。

従いましてお客様にはIT界の聖者になっていただく他は御座いません。

幸いなことにお客様のPayPolのアカウントを乗っ取…拝借することができました。

僕達はお客様のアカウントを用いてLibleOfficeやUbumtuといった幾つかの有名なOSSプロジェクトに多額の寄付を行いました。多額を一括で寄付するとお客様の口座の残高が足りず不成立になる可能性がありますので、1万円ずつ数百回にわたりウェブサイトの寄付受付ページからオンラインで処理をしましたので大変手間がかかりました。

イヤッハーオークションのアカウントも拝借できました。

お客様のPCは既にたお先生の支配下に御座いますので、早速そのキャメラで室内の映像を取得します。

次に映像に映っているお客様の所有物、例えば電子レンジや美少女フィギュアや衣類そしてゲームや映像ソフトまでを片っ端から拾い出します。

仕上げにそのうち売れそうなものを選んで全てもれなくオークションに即決価格5円で出品いたしました。

5円とはこの度のお客様とのご縁を祝した語呂合わせで御座います。

全ての欲から解放され、何も持たず一糸まとわぬのが聖者です。

私利私欲の象徴である金品贅沢品その他米の一粒に至るまで、お客様がお持ちのものは全て世のため人のためにすっかり放出していただくことにいたしましょう。

お客様の素性は知りえませんが、おそらく先日のお客様の関係者で、僕達がして差し上げたおもてなしのお礼をされたかったのだと推察します。

僕達は曲がりなりにも紳士でありますから善行に対する見返りなど求めておりませんので、飴玉一つだって受け取るわけにはまいりません。

今回の様に一寸強引にお礼を受け渡されてしまうと、僕達も受け取った以上のお返しをさせて頂かざるを得ないのです。


今日も日がとっぷりと暮れたころに家路につきます。

玄関に入るとそこには僕の妹霰さんが待ち構えておりました。

先日のような小細工がないということは、今日は直球勝負を仕掛けてきなさると考えてよろしいのでしょうか。

その予想は的中し、霰さんは顔を真っ赤にしてふるふると震えながらも恐るべき怪力で僕を持ち上げて下駄箱の角に座らせ、雪崩式フランケンシュタイナーで僕を床にたたきつけたのです。

霰さんは「やったー!大成功!」とはしゃいでおります。

まだゲームのデビュー戦を邪魔されたことを根に持っていらっしゃるのか、単にプロレス技を誰かに試してみたかっただけなのか。

僕の意識は遠のき暗闇の深淵に落ちてゆきます。

語呂もあいまして丁度よろしいですので、これをもって第五話のオチとさせて頂きます。


次回、第六話「オフ会を迎えて」。

霰さん、勝利の鍵はあなたです。

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