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御近所様来襲

○第4話:御近所様来襲


猫屋敷のスレッドLは僕たち有志4名が唯一、見目麗しい乙女に相手をしていただける場所なのでございます。

僕達紳士同盟は一生女性と縁が無いのだぞよと神に約束されております。

ですのでたとえそれが仮想世界の人間と猫という歪んだ関係でも、僕達にとっては得難い場所なのでございます。

そのスレッドLに岡めぐみが来ることに対して危機感を持つものは恐らく4人の中で僕だけで御座いましょう。

そう言えば僕の自己紹介がまだでした。失礼、失礼。

僕の名前は圷朝あくつ あしたと申します。

スマートフォン用ゲーム”カフェねこやしきにようこそ”を作成した紳士同盟の主席を務めさせていただいております。

自分で言うと一寸いやらしいですが、成績は優秀で特に数学と英語を得意としております。

おっと、スレッドLの新顔に”あさがおな”様が早速お声をかけられたようです。

僕の自己紹介の続きは岡めぐみさんがログインした後のスレッドLのチャットでご覧いただくことにいたしましょう。

なお、岡めぐみさんこと”めGu☆彡”様分のチャットの読み上げは、彼女の声を知る僕が担当をさせていただきました。

”まりすけ”様と合わせて一人二役は少々手古摺り、たまに声を間違えて読み上げてしまいました。

さてさて、

>あさがおな:え、まじで。このゲームの作者の知り合いなの?

>めGu☆彡:言っとくけど薄っぺらい関係

>あさがおな:せふれ?

>めGu☆彡:じゃない意味で

>あさがおな:ぜんぜんあやしいし

>まりすけ :あさちゃんまった

>あさがおな:なに?

>ちずリョナ:w

>まりすけ :またいじるから、ちゃんと説明してもらいましょうよ

流石我が主”まりすけ”様は気配りの御姫様でなのです。四角いものを丸くしてくださいます。

>めGu☆彡:えーと、私は確かに作者の一人のご近所さんで、同級生です

>あさがおな:何もない方がおかしい設定

>めGu☆彡:ところが何もありません

>あさがおな:信じられません

>めGu☆彡:漫画の読みすぎです

>まりすけ :ゲームの作者ってどんな人なの

本当に我が愛しの”まりすけ”様はお優しい。

”あさがおな”様の関心を岡めぐみさんからゲームの作者にさり気なく変更させ、岡めぐみさんがチャットの中で追いつめられていってしまうのを阻止したのです。

>あさがおな:なにそれ、どんな人なの

>めGu☆彡:優等生

>あさがおな:まじすか

>ちずリョナ:ゲーム作れるくらいだしね

>めGu☆彡:見た目もそこそこ

>あさがおな:あじすくわっ

>ちずリョナ:スペック高まってきたわね

>めGu☆彡:だがモテない

>あさがおな:なにそれ性格最悪か?

>めGu☆彡:いや、ふつう

>ちずリョナ:じゃあ全くモテないわけないでしょ

>めGu☆彡:そいつは空気って呼ばれてます

>ちずリョナ:えww

>あさがおな:わかんない、わかんない

>めGu☆彡:なぜかだれもやつに恋心どころか関心を持てない

>めGu☆彡:居てもめんどくさくないけど、いなかったらそれでもいい

>ちずリョナ:www。あたらしい

そうなのです、僕は学校においては女子に”空気”などとあだ名されいるので御座います。

僕はこれといった汚点が無いにもかかわらず全ての女子の恋のストライクゾーンから外れたあり得ない存在なのです。

そんな奇跡的な特異点がこの世の中に存在するだなんて私はずっと存じ上げませんでしたし、存在を確信した後は自分がその特異点そのものだなんて信じたくはありませんでした。

その様な負い目と絶望とトラウマの集合体を私は持っておりますので”めGu☆彡”様のチャットを読み上げる僕の声色がかすれなおかつ震えてしまうのは詮方ないことなのであります。

>あさがおな:他の作者もしってるの

>めGu☆彡:直接話したことはないけど

>巻ちゃん、:必要な情報ね

流石”巻ちゃん、”様、男性同士の同性愛の可能性に対して過敏に反応をされます、今迄チャットには一切参加せず黙々とさっちんが操るマンチカンと戯れていらっしゃった無関心が何かの冗談のようです。

>ちずリョナ:きたわねww

>めGu☆彡:たしか共通点は勉強できるけどもてない

>巻ちゃん、:ルックスは

>めGu☆彡:悪くはなかったはず

>巻ちゃん、:具体的に

>めGu☆彡:ちょい悪イケメンと美少女系男子と虚弱系の三人だっけな?

>巻ちゃん、:ありがとう

>めGu☆彡:え、いいの?

>巻ちゃん、:はい。ごちそうさま

>ちずリョナ:ごちそうさまww

>あさがおな:なに?いまの巻ちゃんなに?

>ちずリョナ:妄想に必要な情報は十分って意味じゃん?

>めGu☆彡:もうそう

>まりすけ :大丈夫、めぐちゃんそこは流して大丈夫

>あさがおな:巻ちゃんも隠す気無いみたいだしいいんじゃね

>まりすけ :いや、いや、いや

(以下略)

岡さんが僕達の素性についてより詳しくお話をしなさりだすと、かのえ君もさっちんもたお先生も皆一様に唇を紫にして、まるで七輪に乗せられたスルメの様に恐怖に縮み上がってしまうのでした。

どうやら皆さんも、岡めぐみさんという存在の恐ろしさを理解してくださったようです。

手の早いかのえ君が「主席!リアルばれ寸前じゃあねぇか。なんでこんな奴入れたんだよ!」とかんかんに怒って僕に噛み付いてきましたが、その件については僕にも言わせていただきたいことが御座いますので、返す刀で「これかのえ君お客様を”こんな奴”と呼んではいけないよ。それにね僕は君に言った筈だよ。特定のスレッドの定員を7ユーザーに増やしてそこ…あ、」おっと、おおっとっと。

これはしたり僕は言っておりませんでした。そう言えば僕は岡さんを猫屋敷にお招きする件に関してはかのえ君に大事なことを言い漏らしていたのでした。

どうやら非は全面的に僕にあるもようです。

「本当に申し訳がない。」僕は平身低頭で謝罪をしそのうえで今一度特定のスレッドの定員を7ユーザーに増やしてそこに岡さんのユーザーIDを紐づける手口を提案しましたが、既に岡さんがスレッドLにいらしている今そのようなことを言うなんて、僕自身冷静さを欠いてるとしか言いようが御座いません。

岡めぐみさんが猫屋敷の秘密を、猫を実は僕達が操っているという秘密をご存知だとは思えません。

そこは安心してよろしいでしょう。

でも、僕達は本当に宿命として女性に縁がないのです。

ですので僕達は僕達の素性がご主人様たちに知れて彼女達が僕達に嫌悪感を感じ猫屋敷を去って行ってしまうのではないかと、そういう風に鬼胎を抱いて居るので御座います。

ご主人様を失いたくない。

絶対にです。

僕は目を剥き出して恐怖の形をあらわにし、震える手でガタガタと音をたてながらスマートフォンを取り出しました。

どうにも指の照準が定まらず一覧から連絡先を選択するのに手子摺り焦りを覚えます。

発信中も呼び出し音の一回一回が千年にも万年にも感じます。

そしてとうとう岡めぐみさんに電話がつながったのであります。

「夜分遅くに申し訳有りません、圷朝で御座います。岡めぐみさんのお電話でしょうか。」

「うん」

僕は精神を集中し、怯えて震える喉を必死で誤魔化して平静なときの声を組み上げます。

「火急の所用にてお電話させていただきました。今少々、お時間頂けますでしょうか。」

「んあ…いいよ。」

「有り難う御座います。実は先日、僕達のゲームへ’貴方’に限って’特別’に登録をするお約束をしたときに、うっかりと失念して伝え忘れたことが有るので御座います。」

「ふーん、で、なに?」

「岡さんはゲームの製作者である僕達のことを比較的に申しまして良く知るお立場にいらっしゃいます。」

「だからー、で?」

「先ず僕達が営利目的でスマートフォン用のゲームを作成、提供そして運用しているのではないことをご理解頂きたいのです。」

「ん?んーと。じゃー、わかった」

「今一度有り難う御座います。ではその上で更にゲームを楽しまれるユーザー様が製作者の顔を知らないことの重要性もどうかご理解頂きたいのです。例えば小さなお子様にサンタクロースの正体がお父様だと伝えない方がよろしい。例えば遊園地の着ぐるみの中にいらっしゃる方は顔を見せ無い方がよろしい、例え中に着ぐるみを操る方がおるのだと解っていてもです。」

「ま、そーかなー」

「はい、そうなので御座います。本当にそうなので御座います。それが夢を与えるということだと強く信じております。そして僕達4人はゲームを真剣に運営しているのです。どうにかして僕達の衷情を貴方に訴えたい。」

「わかった、わかった」

「では貴方が知る僕達に関する事柄を全て貴方の胸の奥底に蔵匿して下さると、今、お約束していただけますでしょうか?」

「んー実はもうそこそこ話しちゃったんだけど、これからでいんなら了解」

「結構でございます。そして三度御礼申し上げます。有り難う御座います。」

電話はここで終話と相成りましたが気がつくと僕は全身を玉の汗が転がり、どっと酷い疲れにおそわれたのであります。

僕がスマートフォンを仕舞うなりかのえ君とさっちんが僕に詰め寄ってきてどのような塩梅だったかと、僕が答えるまで瞬きせずに鋭い視線で刺し貫いてきます。

「まぁ一寸落ち着き給えよ。君たちには僕の不手際で随分と心配をかけてしまい、それは本当に申し訳がない。だけどねもう大丈夫さ、苦労のかいあってね岡さんは十分に分かってくれたようだよ。もし岡さんが僕に秘匿の確約をする時の声を君たちが聴けたなら、きっとね、そう、安堵を通り越して拳を振り上げて歓喜していたに違いないよ。」

この様に一寸持って回った言い回しでは逆に疑念を持たれるかもしれないと思ったのですが、それはとんだ杞憂でした。

二人は胸をなでおろして、ああよかった、ああよかったと繰り返し言うのであります。

おそらく二人は実際はどうにせよ安心をしたかったのだと僕は考えます。

ですので彼らは僕の言葉をそのまま正当化し、自分の耳に聞かせるためにああよかったと言い続けたのです。

皆様から見ればきっとそういった自分を誤魔化すような行為は滑稽なことなのでしょうが、少なくとも僕には二人を笑うことはできません。

デオキシリボ核酸から女性との交際に関する要素をひとつ残らず抹消した状態で世に生まれい出た僕達ですから、僕達にはご主人様しか居ないし、猫屋敷しかないのです。

それを失いたくないという気持ちを万人に理解していただきたいとは思っておりません。

何故なら反道徳性の利己主義でしかないからであります。

猫屋敷は僕達紳士同盟が青春の全てを捧げると覚悟を決めて作り上げ、僕達は自分の足で走っているのですから、全ての感情は僕達の輪の中で完結すればよろしいので御座います。


さて、岡さんの問題が一段落したところでたお先生が低めに手を上げて「昨晩のメール件だがね」と切り出します。

さっちんもそれを耳にしてその後の進捗について訪ねてまいりました。

僕は「うんうん、一寸たお先生と話をさせておくれよ」と急くさっちんを制してタブレットを取り出し、先ずは僕が昨晩書き起こした英文メールの和訳をたお先生に見て頂いたのです。

メールには細かい条件が記されていたのでその翻訳も相当な行数になります。

それでもたお先生は彼の頭に全てを収めておくことができますので、それをできない僕が文章を起こしてそこに彼の補足を記入していただくことにしたのです。

たお先生の作業は手早く30秒ほどで終わりました。僕は彼から返されたタブレットを横目で盗み見て修正個所を確認しながらかのえ君とさっちんの方へと向き直ったのです。

「やぁ待たせたね。かのえ君はまだ知らないと思うが実は昨晩、僕達紳士同盟宛にある中国の企業から打診があってね、どうやら猫屋敷のシステム一式を買収したいようなんだよ。」

「主席、君は今’買収’と言ったのかい?僕は驚いてしまって、口から心臓が飛び出してしまいそうになったよ。さっちん、君はどうだい?」

「実はねかのえ君、そのメールを受け取ったのは僕なのだけど、一寸難易度の高い英語でしたので全く読んでいません。ですから僕も今買収という言葉を聞いてとても驚きました。」

「うんうん、わかるよ。僕も翻訳の作業をしながらその内容をにわかには信じられない状態だったからね。突然メールの本旨を聞かされてしまっては、君、驚いて当然だよ。」

「それで主席はどうしようと考えていなさるんだい?」

「さぁそれだよ、まさにその事だよ。僕はねメールを読んでこれは一大事だと感じたんだ。そして猫屋敷は紳士同盟全員にとってまさしく和氏の璧。有志全員の意見が合致することが重要なんだよ。」

「なるほど、主席の意見はもっともなことです。でも僕とかのえ君はその大事を判断するにもなんの情報もありません。主席の手を煩わせるのは心苦しいのですが少々説明をしていただけますでしょうか?」

「ああ、もちろんだよ。僕が知っていることは全て話すとも。」

僕は先方の企業が最終的に条件を決めるために顔を突き合わせての打ち合わせを望んでいることを初めの説明に選びました。

僕はメールを読んで先方の企業様は強気でありながら実に誠実な相手であると感じましたので、それが皆に伝わるように気を付けて説明をしました。

その前置きを言い終えた後に、先方が提示した条件の詳細を簡潔に説明します。

買収金額はUSドルで3百万。

その内百万ドルがソースコードとドキュメントと全権利の買取金額。

50万ドルがゲームの運営会社変更をユーザーに告知し、サーバーを先方の企業が所有するものにリプレイスする作業料。

80万ドルが世界13ヶ国向けのローカライズ工賃。

20万ドルがソースコード受け入れ時に発生するであろう細かい修正など作業の見込みの手間賃。

50万ドルが引き渡し後3年間の技術サポート料。

僕は説明をし終えた後、先方の企業が中国の有名なコミュニケーションツールの運営会社であることを伝えました。

これを先に言うと不必要にあまりよろしくない先入観を皆に持たれてしまいますので、僕はあえてこの情報を最後に持ってきたのであります。

それが証拠に早速かのえ君が勘ぐって次のように申してまいりました。

「つまり、きっとメールには記されていないのだろうけれど、彼らは最終的に僕達の猫屋敷をそのコミュニケーションツール内で楽しめるゲームの一つにしたいのだね?いやはや、ずいぶんと安く見られたものだね。主席が和氏の璧を引用した理由がわかったよ。」

さっちんもそれに続きます。

「3百万ドルと聞くと大した金額だけれど内訳を見るとなんとも手間がかかると、僕はそう感じたよ。」

かのえ君とさっちんの意見は出ましたのでたお先生の方へと顔を向けると、彼は軽く頷かれております。

お話は全て順番を間違えずに行いましたので、どうやら話をまとめてしまってよろしいようです。

僕は一歩、前に進み出でました。

「僕達紳士同盟にとって猫屋敷は唯一無二の存在です。そしてゲームのみならずご主人様まで売り渡すなど紳士同盟十戒に違反し、なおかつ僕達の紳士としての有り様も問われる愚行です。せっかくのお申し出ですが買収の件は丁寧にお断り申し上げましょう。」

異議なしという拍手が鳴り響きます。

そして善は急げとその場でお返事のメールを作成することになったのです。

「先ずはお決まりでDear 担当者のお名前,ですかな。」

「その後はどう書くのかね?」

「調べたところによるとI am writing with regard toなどと書き出すようだね。でも今回の場合はまずThank you for yourなにがしと書き始めたほうがその後に申し出を断る一文を書きやすい気がするんだ。」

「やれやれ、気持ちをすり減らして下手にでて話をする胡麻擂りは日本だけの流儀かと思っていたよ。」

「本当に下手に出るのかはわからないけれど、調べると英語にもより丁寧な表現があるようなんだ。」

「なんと、僕達が学校で教わっている限りの英語では思いもよらないことだね。紳士同盟に主席とたお先生が居て本当に助かったよ。これから僕たちは先方の申し出を断るのだけれど、印象の悪い文面では如何にも心苦しいからね。」

「おっと、僕とたお先生だって完全に自信をもってメールの本文を書いているわけではないんですよ。何しろ初めての経験なのですから。」

「おいおい主席、謙遜をすることはないじゃあないかね。こういった時ばかりは僕達に主席を誉めさせてくれてもよいのではないかね?」

「いえいえ本当にお互い様だと考えていますよ。僕達有志は4人それぞれが得意分野を持っているだろう?だから何があっても、もうだめだと思っても4人のうちの誰かがどうにかしてしまうじゃあないですか。本当に僕達は素晴らしいチームで誇りに思っているし、僕はね信頼という2文字を君たち以外に当てはめるつもりはないんだ。おっとメールの続きを考えねばね、断る処はI’m afraid thatと書き始めることにしよう。話が一方的にならないように僕達が相手企業をよく知っていて尊敬をしているような一文を入れ、その後に一寸僕達の事情を書かせて頂こうよ。最後はSincerely yours,で締めくくりましょう。」

そうしてなんとか完成した電子メールの本文を読んださっちんが真珠色のワンピース姿で「こうして読むと、英語の場合は丁寧語でも謙譲語でも尊敬語でもなく、そう…気配り語とでもいうような印象を持ったよ」などと至高の笑顔を僕達3人に向けます。

さっちんの全身からなんらかの神秘的な光線が出て僕とたお先生とかのえ君はほわんほわんに癒されてしまいました。

さっちんが男で本当に良かった、彼が女性だったならこんなに感動的な気持ちにはなりはしないと、僕は確信したのであります。さっちんが着ると女性用の衣類は感覚的に申しまして三段階魅力が増します。ここは力を入れて説明をさせて頂きますが、女装が良いのではありません。男のままで女性用の衣類を全身、もしくは上か下かの半身に身に着けるのがよろしいのです。そうです半身だけ女性向けの衣類というのもたいへんに趣があるのです。

さて、僕達は送信した電子メールの返信を翌々日受け取ることになるのですが、それはまた少々長いお話になりますので次回に送らせていただきます。


僕達のゲーム用に用意したメールアドレスの受信箱を確認すると猫屋敷に対するご意見やご要望が千件以上あるのに気付き、思わずぎょっと目を見開きました。

スマートフォンのマーケットのレビュー欄はまめに読んでいたのですがメールの方はそれほど来ないだろうと高をくくっていて確認を怠っておりました。

千件以上ともなると何らかの対応をせざるを得ない気持ちになります。

先ずは主席である僕が引き取り傾向をまとめることにいたしました。


家に帰るとまたもや傘が出しっぱなしになっております。

ははーん、これはもう僕の中学一年生の妹が下駄箱に隠れているに違いありません。

僕は少々悪戯な気持ちを発揮させ妹を驚かせてやろうとこぼれ出そうな笑いをこらえつつ下駄箱に忍び寄り、すぱーんと勢いよく戸を開けてやったのでした。

ところがどっこい下駄箱の中はもぬけの殻で、直後に地縛霊のような声で「あにぃ…ちゃああんん」と言葉を盲腸あたりから絞り出し、いつの間にやら妹の霰が僕の背中にべったりとへばりついております。

後で本人から聞いたのですが、霰さんは門柱の横にしゃがんで隠れていて、僕が帰って来た処ですかさず死角である僕の斜め後方に回り込み、僕が下駄箱の戸を開ける瞬間を待っていたのだそうです。

僕は「わぁっ」と悲鳴を上げて、思わず廊下の方へと飛びのいてしまいました。

よく見てみますと霰さんは何やら酷くおろおろとしていて、自分はどうしたらいいのかわからないのだという気持ちがありありと見て取れました。

さらにもっとよーく見てみますと霰さんは何やら一枚の紙を胸元あたりで手にしております。

それは英語の試験の解答用紙のようで御座います。

「あ、あにいぢゃん、どどどど、どどど、ど、どーじよー。72点もとっちゃった。」

どうしようと申されましても僕は英語の試験で90点以下をとったことがありませんので、70点台を話題にされましても次は80点を目指そうとしか言いようがありません。

しかしそれは霰さんが期待する返事ではなさそうです。

「霰さんちょっと”ど”が多くはありませんか?」

僕は考える時間を稼ぐためにその様な当り障りのない台詞を選んだのですが、霰さんの表情はにわかにこわばり今にも泣きだしてしまいそうです。

「あたしがこんな神クラスの点を取るなんて、その対価で命を失うかも。」

そんなことを云うのですから、霰さんには悪魔と契約をした覚えがおありなのでしょうか?

あるわけがありませんよね?

僕はふと思い立って自室に行き、近々の英語の試験の答案用紙を3枚持ってきました。

96点

98点

100点

「まじさーせん!ちょうしぶっこいてましたあっ!!」

僕の答案用紙を見た霰さんは両方の眼を大きく見開き、そして即時に土下座をされたのです。

「霰さん。次は目指せ80点ですよ。」

「はっ、ははーっ。」

僕は猫屋敷の業務でとても疲れておりましたので、すたすたと足早に自室へ向かい、後は泥のように深く眠ってしまったので御座います。


翌日、いつもの様にネットカフェひまわりの座敷に有志4人が集います。

ご主人様4人と御近所さん1名もいつもの様にスレッドLにログインされました。

そしていつもの幸福な時間が始まると思った直後です、少なくとも僕は予想もしていなかった6人目がスレッドLに現れました。

ユーザーIDは”ぁらяё”。

「霰?霰さん!?」


次回、第五話「妹だって来襲」。

霰さん本当に勘弁してください。

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