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強行突破

翌日の朝、俺たちが身を潜めている建物のロビーに、多くの魔物たちが集まっていた。数はそこまで多くないものの、皆がそれなりの風格を漂わせている。それだけ、仕掛けられた魔術のレベルが高かったということなのだろう。

その中でも、特にユクリシスさんたちは別格だ。身分は隠しているはずなのに、自然とトップに立っている。きっと、王族にはカリスマ的なスキルがあるのだろうな。


「お待たせしました」

「本当に待ったぜー・・・何やってたんだよ」

「ちょっと慣れ・・・準備に手間取っていて」

「準備って、あんたは露払いでしょ?ここまで念入りな準備が必要なの?」


周りからの視線が痛い。割と人型の魔物も多いんだけど・・ミノタウロスっぽい人や、ごつい鎧を着込んだ首なしの人とか...。まさに針のむしろ、ボッチだなー俺。


「もちろん、ルウを迎えに行くんですから。いくら念入りに準備しても、足りないくらいですよ」

「昨日言いましたよね?ツチオは足手まといだから、露払いに回ってもらうと。ルウは、私たちに任せて...」

「嫌です」


周りからの視線が辛くなっていく。傍から見たら、実力もないのに我侭言ってるだけだもんな。真剣にこの事態をどうにかしようと思ってる人たちからしたら、邪魔以外の何物でもない。


「今は、我侭言っていられる場合じゃないのよ、たかだか十数年しか生きてないガキでも分かるでしょ。文句を言いたいのなら、まず実力を...」

「分かってますよ。俺はルウを取り返したいだけなんです。とりあえずは言われた通り露払いをしますけど、もしルウが出てきたら絶対に俺が戦いますから。ぶっちゃけ、ルウのことは俺が一番分かってますんで」

「随分と自信があるのね、実力ではあんたの方が圧倒的に劣っているでしょ?」

「トゥルーリーさんも知ってるでしょう。戦いっていうのは、単純な実力じゃ決まりませんよ。俺もルウの実力を完全には知っていませんが、手の内は熟知しています」

「・・・勝てますの?」

「勝ちますよ、絶対に。負けるわけにはいきませんから」

「まあ確かに、ルウの実力は絶対作戦の脅威になるしな...。普段から一緒に戦っている、ツチオたちが最も上手く立ち回れるのは確かだろう。実力ってのは、魔力量だけじゃ決まらねぇし」

「でも・・・はあ、どうします姉上」

「ルウの位置は分かるんです?」

「今は何となくとしか分かりませんが、近づけばハッキリと分かると思います」

「・・・分かりましたわ。ルウは強敵ですが、こちらも人数が少ない。あまり人数を割けませんわ。ルウの相手は、ツチオと従魔に一任します。そこまで言うなら、しっかりと勝ちなさい」

「ありがとうございます」

「まったく、ツチオはルウのことになると、普段からは考えられないほど頑固になりますのね」

「操られたのがルウじゃなくても、俺は取り返しに行きますよ。もしここで反対されてたら、勝手に動いていたところです」

「そうなると思ったから、許可したんですのよ。それでは・・・行きますわよ!」


待ってろよルウ・・・あの夜の約束通り、絶対正気に戻してやるからな!






 前と横に重装備の傭兵たちを据えた陣形で、俺たちは塔へ続く大通りを突き進んでいく。相手も俺らがここを通ってくるとふんでいたのか、大量の一般人が包丁やら丸太やらを持ってうろついている。こっちにはもう、物的にも人的にも余裕がない。2度目はない!


「一気に駆け抜けますわ!ある程度の怪我は仕方ありません、押し抜いて進みますわよ!」

『オオオオォ!!!』


前横にいる人たちには強化魔術がかけられ、多少の攻撃ではビクともしない。しかも、相手は一般市民。いくら体が重かろうと、プロの傭兵の敵ではないね。


「前から魔術が飛んできます!恐らく、塔の魔術士かと!」

「障壁を張って駆け抜けるぞ!魔術士隊、準備は...」

「俺に任せてください!全員、速度を落とさないで!」


前方から様々な魔術、火の玉・風の刃・土の槍などが雨あられと降り注いでくる。俺はリンに乗って、隊の少し前を先行。袖から大量の符を掴み取る。


「リン、ニクロム!俺が呪符で大量の壁を張る!抜けてきた魔術を、全て打ち落としてくれ!足は止めるなよ!」

「「了解!」」


両手一杯の符を空に投げる。少し離れたところで一斉にばらけ、宙を埋め尽くすほどの軽く湾曲した壁となった。

魔術が符にぶつかる。一気に符が魔術と共に弾け壁が穴だらけになるが、すぐさま符を追加して修復していく。しばらく壁は使ってなかったからな!昨日大量に書いたのと合わせて、呪符は潤沢だぜ!俺が動けば符の壁も動く、どんどんかかってこいや!


俺が魔術で受け止めたことで、速度を落とさず俺たちは進んでいく。時折壁の穴から魔術が抜けちゃうけど、リンの雷矢やニクロムの銃弾が片っ端から打ち落としていくので、被害は全く出ていない。


「・・・一般人以外にも、操られている奴はまだ沢山いますのよね?何で全然出て来ないんでしょうか」

「他の通りに配置しているんじゃ?」

「それでもですわよ。まあ、こっちにとっては都合がいいですし、構わないのですけど」

「そんなこと、絶対にあるわけないじゃないですか...。あの塔の周り、ちょっとした広場になってましたよね?そこに簡単な防壁でも築いてるんでしょう」

「その可能性が高いな・・・見事な洞察だな、ツチオ」

「いえ、ちょうど広場の様子が見えたんで」

「あ、そう...」


壁の穴からチラチラ見えてるのだが、通りの出口に馬車とかを横倒して魔術で壁を立てバリケードを作っている。その上や屋根には、射手や魔術士っぽい姿が。足止めさせられたら、周りから撃たれて蜂の巣だな。さすがに、全方位を防御するのは難しいし。


「中は?」

「傭兵さんたちが、しっかりと武装してお待ちかねですよ。一般人も結構いますし・・・乱戦に持ち込むのは危険ですかね」

「出来るだけ死傷者は出したくないですから、そうも言っていられない状況だとは分かっていますけど」

「いえ、そこは譲っちゃいけませんよ。どうします?」

「入り口まで一点突破、突入した後入り口付近で防御陣形を組んで死守します。あまり負担はかけられません、速攻で親玉を潰しますわよ!タイレス、トゥルーリー!」


前の傭兵さんたちがはけて、タイレスさんとトゥルーリーさんが前に出る。あの防壁をぶっ壊すのか?


「言った通り、塔の入り口まで一気に進みますわよ!あの壁を打ち砕きなさい!」

「任せて!」

「ツチオ、援護は頼んだぞ!」


2人の速度が上がり、俺の少し前に出る。どんな風にあの壁を破るんだろうな...。魔術で作られた壁だ、さすがに堅いと思うんだけど。

そう思っていると、2人に変化が現れる。1歩踏み出すたびに、何か距離が近づいてくるような・・・って、デカくなってる!?


みるみるうちに2人の身長は伸びていき、あっという間に倍以上のサイズへと巨大化した。どうやら見た目通り質量も増えているようで、石畳には足跡がハッキリと残っている。魔力ってすげー...。


まさに巨人と化した2人が、バリケードに突っ込む。魔術で作られた壁が硝子のように砕け散り、砕けた馬車の木片と上にいた人たちが広場へと吹っ飛ぶ。

勢いを止めることなく、2人は広場の中へ突入していく。しっかりと足元を見ているのか、吹き飛ぶ人はいても踏み潰される人はいない。通りの正面にある入り口付近まで進んで、ようやく2人は止まった。通った後は、十戒のように割れている。


「このまま突っ込みますの!」


そこを、俺たちが走っていく。後ろから魔術士たちが魔術を放ってくるが、壁の半分を後方に移して防ぐ。退路が人で埋まっていくけど・・・背水の陣と思えば、気合が入るってもんだな。


「お父様、お姉様は?」

「・・・いる、この塔の中。まだそこまで強くないから、上の方にいるんだと思う」


魔力の繋がりが絶たれてたら、どうやって取り戻すか見当もつかなくて絶望してたよ...。この繋がりは、ルウが残してくれた道標。しっかりと、俺たちを導いてくれるだろう。


「ツチオ、ルウは中にいるんですの!?」

「そうみたいですね、早速突入しましょう!」

「勿論ですのよ!突入部隊は、私に続いて中に突っ込みますわ!残った方たちは、この入り口を死守してくださいな!最悪、中まで退いても構いませんので、死人だけは極力出さないように!」


入り口は結構大きなアーチ状になっており、中の様子も伺うことが出来る。隠れるとかそういう考えはないようで、ロビーには多数の人間が見える。中はらせん状に階段があり、複数の入り口が隣接しているな。魔術士はその階段にいるので、そこから狙い撃つ算段のようだ。


「ここから入ったら、上から魔術が降り注ぐ・・・ツチオの防いでもらうにも、外より狙いをつけやすい分、さすがに厳しいですわね」

「全員で盾を上に構えて突っ込む?」

「向こうは味方に魔術が当たろうと、一向に気にしねぇしな・・。また大きくなるか?ああでも、あの階段は上れなくなるな」

「少し小さめになればいいんじゃない?」


突入隊がどうやって突っ込むか考えている中、俺たちは別に準備を進めている。ライムを俺の後ろに乗せて、しっかりと掴ませる。ニクロムは歩いてついて来ないといけないけど・・・そのための方法も、ちゃんと考えてある。


「よし、障壁の制御は任せろ。リンは、ひたすら上に走ってくれ。ニクロムは一緒に飛べないけど、ちゃんとついて来れるか?」

「問題ありません、障害は全て排除して進みます」

「殺しちゃ駄目だぞー・・・俺も出来るだけ補助する、辛いだろうけど頑張ってくれ」

「頼もしいです、マスター・・・何ですか、まるでスライムが大魔術を喰らったような顔をして」

「いや、ニクロムが頼もしいと言うなんて・・・変わったなぁって」


頼もしいってことは、俺に対してある程度の感情を持ってくれてるってことでしょ?前は、感情なんて無駄~云々言ってたのに。


「今の私に、感情を捨てることは出来ません、それなら、有効活用するべきです。マスターが補助してくれるなら、私の移動はグッと楽になります。また、心理的な面でも頼れる相手がいるのといないのとでは、ストレス値に大きな変化が...」

「うん、ニクロムがいつも通りで安心したわ。ユクリシスさん、俺らが先に突っ込みますんでついて来てください」

「ちょ、ツチオ!?1人で勝手に決めないで...」

「俺が囮になるって言ってるんですよ!下の奴らの気は引けないですから、そっちは何とか突破してください!」

「囮なんて危険過ぎる、認められれるわけないだろ!」

「そうも言ってる場合じゃないんです!こうやって話合ってる時間も惜しいんです、俺は行きますよ!」


そう言って、俺とライムを乗せたリンは障壁を張ってから塔の中へと突入した。その後から、ニクロムも続く。


「ツチオ!ああもう、勝手に動くんじゃないって言いましたのに!しょうがありませんわ、全員行きますわよ!」

「だから、外で露払いをさせといたほうがいいって言ったのに...」

「後悔してもしょうがないだろ、ツチオが囮になってくれてる間に突破するぞ!」






塔の中へ入った途端、上から降り注ぐ大量の魔術。通りを進んできた時とは違い、範囲が狭いから密度も高い。符の壁じゃ、そのうち押し込まれちゃうだろうな。

だが、今俺とライムはリンの障壁の中。俺が制御して上面に魔力を集中させているから、いくら密度が高くてもそう簡単に破れやしない。ニクロムを狙った魔術も放たれているが、敵の間を縫って移動して上手くかわしている。さて、上に向かいつつニクロムの手助けをしないとな。


「2人とも、しっかり掴まってて!これから先、揺れるわよ!」

「はい、死んでも離しません!ええ、たとえ身が滅びようとも私の魂は常にお父様の側に...」

「そういう意味じゃないわよ!べ、別にツチオの側にいたくないってことじゃないから!」


リンが円を描くように、塔の内部を駆け上る。ニクロムは銃撃で道を開けて、階段へと到達。上り始めたところで、目の前に魔術で壁を作られてしまった。よし、俺の出番だな!

ニクロムの側に符を投げ込む。すると、階段から土の柱が伸びて、斜め上反対側の階段への道が出来た。すぐさま柱に移り、そのまま上っていくニクロム。前から魔術が放たれるが、その手前で再び符を投げ入れ別のルートを作成。ニクロムは魔術を避けて、どんどん上へと向かう。柱が壊されないか心配だけど、複数枚の土柱符を1つにまとめた符だ。そう簡単には壊されないよ。


「お父様、左斜め下後ろから少々強力な魔術が!」


ライムの警告通りに、障壁の魔力を弄くる。魔術が命中するであろうところの守りを強化、軽い衝撃が俺らを襲うが障壁はビクともしない。魔力を操りながら符を飛ばすのは大変だが、ニクロムはもっと厳しい中を移動しているんだ。俺が助けてやらないと...!


「っ!ルウを見つけた!ここの直上・・・天辺だ!急げ、リン!」

「言われなくても!」


ハッキリと感じる・・・不自然に静かだけど、特に乱れてはいない。待ってろ、今助けに行くからな。


加速するリンとニクロム。ユクリシスさんたちとは完全に離れてしまっているが、ニクロムは移動しながら魔術士を撃ってたし、少しは上るのも楽だろう。そんなことより、今はルウに集中しないと。先手必勝、出会い頭に全力で叩く!


「全員、ルウとの戦闘の準備!・・・そろそろ出番だ、体を温めておけよ」


そして、俺たちは階段の終わりへと辿りついた。何故か、終わりに近づくと敵がいなくなっていたな・・・そんだけ、ルウの実力が買われているってことか。ここまで来れる奴には、そんじょそこらの奴らじゃ意味ないって感じかな。


壁と壁に挟まれた階段を、リンは歩いてゆく。やがて、視界に途切れた階段が目に入る。・・・ようやく、ルウの元まで辿りついたか。


「全員、準備は出来てるな?まずは先手必勝だ」

「私は問題ありません、最初の主役はリンちゃんですから」

「魔力は十分よ、全力の一撃を見舞ってやるわ」

「私もいけます。それより、マスターの準備は出来ているのですか?」

「・・・ああ、いつでもいけるよ。そんじゃ、暴れ姫を迎えに行くぞ。全員、覚悟は出来てるな?」

「はい。この心、お父様と共に」

「ええ。この命、ツチオの為に」

「当然。この体、お好きな様に」

『うん。この力、あなたの物に』

「・・・ありがとう。全員、生きて帰るぞ!」


皆の顔を見回してから、俺たちは階段を飛び出した。目に映るのは、大きな広間とその中央に立つ赤い人影。虚空を眺めていたその人は、俺らを見ると拳を構える。


そうして、俺たちとルウの戦いが始まる。




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