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トゥルーリーさんとの模擬戦

トゥルーリーさんが斧を振るうと、俺が放った火蜂たちは全てかき消されてしまった。それと同時に周囲から土柱を突き出すが、腕の一振りで全て砕かれてしまった。

そのまま、こちらへと飛び出してくるトゥルーリーさん。近づかれたら一瞬で詰んでしまうので、ある程度の距離は絶対に取らないといけない。すぐさま後方へ土柱を出し、天辺に手をかけて一気に後退する。


下がりつつ、重い火蜂で弾幕を張る。最初は軽い火蜂を使っていたのだが、肌に直撃してもまったく効き目がなかった。腐っても魔術の火だぞ、熱さすら感じないってどういうことなんだよ...。


「逃げるな、正々堂々戦うって自分で言ったでしょう!」

「正々堂々ですよ、符術士なんですから!」


再生した岩蛇たちが、囲みつつタイミングをずらして攻撃を仕掛けるが、斧の一回しで全て砕かれる。足止め出来ただけでも上々、いくつか符を仕掛けられた。時間をかけても勝てる相手じゃないし、一気に畳み掛けないと。


「そっちが来ないなら・・・はあ!」

「っちょ!?」


トゥルーリーさんが斧を横薙ぐと、透明な何かが見えたかと思うと吹き飛ばされる。腹に感じる鈍い痛み・・・斬撃に魔力を乗せたのか。切れていないのは、トゥルーリーさんの良心だろうか。あんだけ勢いのある斬撃をまともに食らったのに、思ったより痛みはない。ライムが何かやってるんかね。


すぐさま立ち上がり、トゥルーリーさんの位置を確認。今ので倒したと思っていたのか、立った俺を見て驚いた様子の彼女。よし、ちょうどいい位置だな。足元の呪符には目もくれていない。


「閉じろ、岩壁!」


地面から岩塊がせり上がり、トゥルーリーさんを閉じ込める。やっぱり、他に追随を許さない強さを元から備えている魔人は、こういう仕掛けには無頓着だ。戦争の時の魔人もだけど、面白いように引っかかってくれる。


「こんなもので、私を止められると思うな!」


だが、トゥルーリーさんの力は前戦った奴より遥かに上だ。数度斧で壁を殴ると、あっけなく崩されてしまう。予想はしていたけど、想像以上に早い。間に合うか!?


「墜落ちよ!」


鉄板のコンボ、岩壁で時間を稼いで墜落符をお見舞する。時間がなかったので、溜めを短縮した。威力は落ちるけど、火蜂や土柱に比べたら全然高い。どんくらい効き目があるんだ...。


「しゃらくさい!」


壁から出てきたトゥルーリーさんが、真上から落ちてくる墜落符を迎撃する。刃と符が衝突し火花を散らし、少しだが斧を押し込んでいるように見える。いけるかと思ったのだが、トゥルーリーさんの魔力が高ぶると筋肉が一気に膨れ上がり、符を切り裂いた。ああ、あれ高級紙の符なのに!


「まあ、人間なんてやっぱりこんなものよね」

「俺を人間代表みたいにしないでください!もっと化け物みたいな人も、いるにはいるんですよ!」

「そんなの極稀にでしょ」


くそ、蜂も蛇も効かない。重符を詠唱してる暇もないし、頼みの綱の墜落符も効かなかった。やっぱり、絡め手を使わないと勝負にならない。残るは雀蜂のみだし、もうどうしようも...。


「・・・あるか、1つだけ。墜落符も切られちゃったんだし、どんだけ威力があるのかも確認してないから未知数。ここで見ておいたほうがいいな」

「?何言って...」


ちょうど5枚あるからな、偶然の一致だね。狙っていたわけではないよ。これが効かなかったら、今のところ打てる手は重符だけ。とりあえず、やってみっかな。


空中に5枚の符を円形に並べる。トゥルーリーさんが身構えるが、構わず準備を続ける。距離を詰めようとしても、多分俺が符術を放つほうが早い。

空中に円形に並べるといったら重符だが、今回は違う。五行に沿って威力を上げるのではなく、5枚の符を同時に使うんだ。円形にこだわる必要はないけど、いつもこうしてるからね。慣れてるほうがやり易い。


「とりあえず、この状態では最後の大仕事だ。合体、女王火蜂」


並べた雀蜂の符が燃え上がり、炎が合わさって燃え盛る巨大な蜂が完成する。雀蜂よりさらに大きい、さすが女王蜂は貫禄があるね。


「突っ込め!」


俺の号令で、巨大な女王蜂が羽を広げ素早くトゥルーリーさんへ迫る。斧で斬ろうとするが、元々炎の上にこの大きさだ。かき消すことなど出来ない。

女王蜂を消すのは諦め、斧を盾にし防御の構えのトゥルーリーさん。そこに正面から女王蜂が突っ込み、次の瞬間大きな火柱が訓練場内に立ち上った。


「これが雀蜂たちの全力か・・・また作ってやらないとね。さてと、トゥルーリーさんは...」


しばらく立ち続けていた火柱だが、数分もしないうちに消えた。中からは、斧で防御している状態のトゥルーリーさんが。肌は煤けてるし所々爛れているけど、未だに健在か。これでも駄目、詠唱が間に合わないこと前提で重符をやるしかないか。


「熱い・・・あんた、模擬戦でなんてもの出してるのよ。火傷しちゃったじゃない」

「すいませんね、遠慮なんてしている場合じゃないので。後で影さんに治療させますよ」

「こっちが遠慮してるっていうのに・・・いいわ、もう決めてやる」


そう言うと、腰を落として何やら力を溜めるトゥルーリーさん。今のうちに詠唱しちゃおう、そう思って重符を並べ詠唱をし始めたその時。彼女が床を蹴ったかと思うと、一気に俺の目の前に詰め寄った。そして、そのままの勢いで斧を振るい、俺の腹へぶち込む。何かを感じる間もなく、俺の意識は一発で刈り取られた。






「うーん・・・痛ってぇ」

「目覚めたわね、まったくいつまで寝てるの」

「あ、トゥルーリーさん...」


殴られた腹をさすりつつ、俺は身を起す。トゥルーリーさんは、斧の柄を肩にかけて座り、訓練場の中央を眺めている。


「はあ、結局負けちゃいました...」

「・・・腹は大丈夫なの、結構強めに吹き飛ばしたけど」

「特におかしなところはないですし、大丈夫でしょう。影さんどう?・・・あ、治してくれたんだ。ありがと」

「それならいいけど。それと、これ。ルウたちが、ツチオが起きたら渡してくれって」


そう言って手渡してきたのは、真っ二つに切られた墜落符と、黒く焼け焦げて今にも崩れそうな雀蜂の符だ。雀蜂の符が原型を止めているとは思わなかったな・・・でも、これじゃもう雀蜂を出すことは出来ないな。出した途端、あっという間に燃え尽きちゃうだろうし。


「それって、さっきの魔術で使ったやつ?そんなボロボロの呪符、もう使えないじゃない」

「そうですね・・・墜落符はもう駄目ですけど、雀蜂は少しくらいなら使えるかも...」


符に魔力を込めると、弱弱しく符が光り小さめの雀蜂たちが現れた。火の勢いも弱く、まるで風に揺れる蝋燭の炎のようだ。・・・自爆しても符が燃え尽きないなんて。


「・・・ご苦労様、次はもっと良い紙で符を作ってやるからな」


俺がそう伝えるのを見計らったかのように、雀蜂たちの符は焼失し灰となって散っていった。雀蜂5体を合わせたのに、大きなダメージは与えられなかったとか・・・やっぱ、凹むなぁ。


「それって魔術でしょ。何で魔術に話かけてるのよ・・・あんた、頭おかしいんじゃない?」

「長年使った道具には愛着が湧くでしょう。使った期間は短いですけど、こいつらがいてくれたから今があるんです。感謝するのは当然ですよ」

「ふーん、やっぱり人間ってのはよく分からないわね。魔術は魔術、使ってなんぼよ」

「それは否定しませんけどね。それで、俺が気絶している間に皆はどこ行ったんです?」

「向こうよ」


トゥルーリーさんが指差したほうでは、ユクリシスさんとルウ&リン、タイレスさんとライム&ニクロムがコンビを組んで戦っていた。皆は皆で、模擬戦は始めてたんだな・・・トゥルーリーさんはやらないのか?1対2じゃ不公平だし。


「別に不公平じゃないわよ、あのくらいでちょうどいいわ。私はしばらく動けないし」

「え、どうしてです?」

「この巨体であの距離を一気に詰めたのよ、足への負担も大きいに決まってるじゃない。普通に戦う分には大丈夫だろうけど、姉上やルウたちにはついていけないわ」

「そうなんですか。トゥルーリーさんから、ルウたちはどんな風に見えます?」

「・・・強いと思うわよ。2人でやってるとはいえ、姉上とタイレスとまともにやり合えているし」


ここから見たところ、ユクリシスさんは徒手空拳と魔術を組み合わせて戦っていて、タイレスさんは多くの手で大量の武器を振るっている。ルウはユクリシスさんと殴り合っているが、実力はユクリシスさんの方が上みたいだ。リンが援護して、何とか殴り合えているって感じだな。ライムもタイレスさん相手に苦戦しており、攻撃を避けるのに精一杯で自分から仕掛けられていない。ニクロムが銃を撃って妨害しているけど、多くの武器が邪魔で中々苦戦している。どちらもこのままではジリ貧、流れを変える一手を打ちたいところだな。


「ホント、あんたにはもったないわ。彼女ら、騎士団に入れば即部隊長になれるくらいよ。しかも成長の余地あり、騎士団長も夢じゃないわ。うん、やっぱりあんたの従魔にしとくには惜しすぎる人材よ」

「・・・そうですか」

「何よ、何にも言い返せないわけ?自分が釣り合っていないって、自覚はあるみたいね」

「そりゃ、俺はしがない学生ですからね。釣り合わないのなんて、最初っからですよ。そもそも、ルウは偶然たまたま幸運にもテイム出来たんですし。ルウがいなけりゃ、今頃海の藻屑になって魚の餌になってましたよ」


いやホント、ルウの上に落ちれたのは俺の人生最大のラッキーだよ。あそこでルウの上に落ちれなかったら、海面に叩きつけられて死んでたね。生きていたとしても、溺死するか魔獣に食われて死ぬか・・・どっちにしろ、デッドエンド直行ルートだったのは間違いない。


「そんな分かりきったことは置いといて。俺と模擬戦をしてみて、どうでしたか?直すべき所とかあれば、教えてもらいたいんですけど...」

「・・・1人での戦闘について評価すればいいの?」

「そうですね。支援として評価するには、ルウたちと一緒に戦わないと分からないでしょうし」

「1人の魔術士としての評価なら、まあ並だと思うわよ。魔力量はそこまで多くないけど、符を使って補っているし。ある程度の魔物相手なら、しのぎ切ることも出来るでしょ」


お、思ってたより高評価だな。てっきり「全然駄目、こんなのお話にならないわ」とか言ってくると思ってたんだけど...。


「でも、一定の強さを超えた魔物相手には、全く通用しないわ。私がその良い例ね。魔術が直撃しても、傷一つつけられない。魔力で強化された肌は、下手な鎧より堅牢よ」

「・・・でしょうね。一応、そういう相手用の技もあるんですけど、溜めが長くて中々使えません。ルウたちが前で戦ってくれてれば、溜め時間を作れるんですけど...」

「1人での評価っていったでしょう。そもそも、ああいった強化をしている相手には、直接攻撃したほうが遥かに効率がいいのよ。魔力による強化を抜くには、それ以上の魔力を込めた攻撃をすればいいんだから」

「そんなこと言われても、どうしようもないじゃないですか。俺が肉弾戦なんて、命がいくつあっても足りませんよ」

「分かってるわよ、人間は貧弱だもの。魔術を強化して威力を上げるか、時間を稼ぐ方法を考える。今出来るのは、この2つくらいじゃない」


まあ、そうなるな。新しい紙で作った呪符なら、さらに魔力を込められるから威力も上がると思う。時間を稼ぐ方法か・・・支援する時にも使えそうだし、幾つか考えといたほうがいいかな。そういや、トゥルーリーさんには煙幕を試してなかったな。1回しか通用しないだろうけど、時間を稼ぐことは出来そうだ。


「新しいやつを考えてきたら、また模擬戦に付き合ってくれますか?」

「姉上やタイレスに頼めばいいじゃない」

「いや、1度戦ったトゥルーリーさんの方が、前との比較も出来るでしょう?これから帝国観光に行っちゃいますけど、何度か王城には戻ってくるそうです。時間があればでいいですから」

「・・・まあ、仕事の憂さ晴らしにちょうどいいし、時間があったら1回くらいやってやるわよ」


トゥルーリーさんくらい強い人に戦った感想までもらえるんだ、喜んでサンドバックになるさ。まあ、ただやられるわけにもいかない。指摘されたことを踏まえて、新しい呪符を作ろうか。


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