休日、森で、魔獣を倒す
休日になったので、ライムをテイムした森にやってきた。ちょっとは魔獣を倒さないと、強くならないからな。
「さて、ライム。今日はここで強くなるぞ」
「・・・!」ぷるぷる!
「やる気があってよろしい。俺が動けなくなるくらいまで弱らせるから、そいつをライムが食べる」
「・・・?」ぷるぷる?
「まあ、少しだけど剛体らしきものも使えるし、なんとかなるだろ。ルウを連れて来たかったけど、手加減出来なさそうだしな...。それに目立つ、魔獣が出てこないかもしれない」
「・・・」ぷるぷる
「よし、じゃあ行くか!」
剣なんて、剣道の授業でしか使った事ないけど、これしか武器を持ってないからな。一応、素振りは続けているから、型にはまればちゃんと振れる。ていうか、何で刃がある剣で素振りさせるんだろうな。危ないだろ...。そのおかげで武器を手に入れられたんだから、文句は言えないか。
重さ的には、片手でも振り回すことが出来る。無理しないでいきますかね。
森に入って早々、魔獣と出くわした。でっかい芋虫だ。名前もまんま、キャタピラーだ。村人でも簡単に倒せるらしく、よく食卓にのるらしい。美味しいのかな...。タンパク質は豊富そうだけど。
俺を見て、いきなり突っ込んでくるキャタピラー。おいおい、芋虫なんだろ!?何でそんなに好戦的なんだよ!
体当たりを躱すと、背中はがら空き。勢い良く剣を抜いて、そのまま叩き込む。
深々と芋虫の身体に食い込む俺の剣。剣を戻すと、体液がぶしゃ!っと飛び出る。剣身にもべったりとついている。だが、芋虫はまだ死なない。虫なだけあって、生命力が強いな。
「おりゃあ!」
再び攻撃される前に、芋虫の頭の後ろ辺りに剣を突き刺す。頭は死んじゃいそうだからな、とどめはライムが刺さないと。
モゾモゾとしか動かなくなる芋虫。そろそろライムの出番だな。
「ライム、食っていいぞ」
「・・・♪」ぷるぷる♪
嬉しそうに跳ねていって、芋虫にのりかかるライム。身体が薄く広がっていって、芋虫を丸々覆い尽くした。消化するのに、どのくらい時間がかかるんだか...。
消化は五分ほどで終った。有機物の消化は早いみたいだな。ライムが消化している間に何体か芋虫が襲いかかってきたので、全部四分の三殺しくらいにしておいた。生命力が多いので、そう簡単には死なない。
次から次へと芋虫がやってくるので、ライムがいくら食べても芋虫がなくならない。囲まれたりはしないのでキツくはないのだけれど、少々面倒くさくなってきた。
「ふんっと!ライム、どんどん食え。早くしないと死んじゃうぞ、芋虫が」
「・・・」ぷるぷる
「頑張れ頑張れ。芋虫を食べるのがお前の仕事だ」
しばらく芋虫を倒し続けていたら、ようやく芋虫たちが来なくなった。やっと一息つけるな...。
ライムは一生懸命芋虫を食べているが、まだまだ残っている。早く食べてもらわないと。
「ライム、美味しいか?」
「・・・!」ぷるぷる!
美味しいみたいだ。頑張って剣を振り続けたかいがあったな。けど、剛体って本当にすごいな。息は上がったけど、まだまだ動けそうだ。
一時間程で、ようやく全ての芋虫を食べ終わった。さて、また芋虫を倒しに行きましょうかね。そう腰を上げた俺の耳に、「グルルル...」という低い唸り声が聞こえてきた。声がする方向を見ると、
「「グルルル...」」
茶色の毛皮の犬が二匹、そろりそろりと近づいてきた。ったく...。一難去ってまた一難だな。
「ライム、俺の後ろに隠れてろ。危ないからな」
「・・・」プルプル...
震えて俺の後ろに隠れるライム。ひどく怖がっているな・・・ライムに食わせることが出来れば、けっこう強くなりそうだな。
犬との勝負か。見た感じだと、そんなに強そうじゃないけど...。感染症さえなければ、噛まれても問題なさそうだし。犬に噛まれても、そんなに痛くはないんだよな。動脈を傷つけられなければ大丈夫。
「「グアアア!」」
左右から飛びかかってくる犬たち。俺は片方の犬を先に倒す事にし、右の方に飛び出す。出てくるとは思っていなかったのか、驚いた様子の犬。
剣を突き出し、犬の腹を貫く。左側にいた犬が飛びかかってきたので、左腕でガード。鋭い痛みが走るが、我慢して犬から剣を引き抜く。
犬が顔をブンブン振るが、傷が少し広がるだけで大したダメージにはならない。こいつも剣を突き刺して、半殺しにしておく。
俺の足下で、のたうち回っている犬たち。一応、足も切っておくか。・・・これでよし!
「ライム、こいつらを食べちまえ」
「・・・!・・・♪」ぷるぷる!ぷるんぷるん♪
歓喜に打ち震えるライム。文字通り震えながら、犬にとびかかる。傷の手当でもしておくか。とりあえず、清潔な布を巻いておこう。持ってきておいて良かったな。
ライムはあっという間に犬を食べ終え、次の犬を食べるのに夢中だ。肉は食わせてなかったからな、どんな感想が出るかなー?
「・・・。・・・!」ぷるぷる...。ぷるぷる!
もっと食べたい、だと!?そんなに美味かったのか?正直、戦うたびに怪我をしそうだから嫌なんだけど...。まあ、ちょっとは頑張ってみるけど...。あまり無理はさせないでくれよ?
それから犬を六匹程食べさせた後、ライムはようやく満足してくれたようだ。身体も一回り大きくなっている。
「・・・」ぷるぷる
「もうお腹いっぱい?それじゃ、もう帰ろうか。俺も昼飯が食いたい」
俺の両腕に合計で十六個程の傷がついたが、まあ成果は上々といったところだな。だけど、今までの狩りはメインへの前座。これからが本番だ。その前に、安全なところに戻ろう。
「ライム、帰るぞ。芋虫たちに会わないよう、気をつけよう」
「・・・」ぷるぷる
するっと学院に戻って昼食を食べた後、原っぱでライムと向き合う。
「さあ、ライム。大量の芋虫と八体の犬を食べたわけだが・・・何か身体に変化はないか?」
俺から見たら、大きくなったとしか言いようがないからな。自分から言ってもらった方が早い。
「・・・?・・・!」ぷるぷる?・・・ぷるぷる!
「お、何かあるのか。やってみせてくれよ」
俺がそう言うと、ライムが身体から糸状のものを出してくる。触ってみると全体的に柔らかいが、表面は堅い。これって・・・何の糸だ?
「なあ、ライム。この糸はどこから出てるんだ?」
「・・・」ぷるぷる
「自分の身体を、糸状にして出しているのか!・・・それって、大丈夫なのか?」
「・・・」ぷるぷる
「量はそんなに減らないから大丈夫、か...。それならいいんだけど、無理はしちゃダメだぞ」
「・・・」ぷるぷる
ライムの身体で出来た糸・・・芋虫が吐いていたな。あれと同じ奴だろう。少し堅かったのは、金属を食べさせてたからだろうな。
「ライム、身体を堅くする事は出来るか?」
「・・・?・・・」ぷるぷる?ぷるぷる...。
ライムがぷるぷるすると、表面のぷるぷるが少し小さくなる。触ってみると、ぷるぷる感がなく掴みやすい。いつもは指の間から、むにってもれちゃうんだけどな。ちょっと堅くなってるんだろう。
「もっといっぱい金属を食べて、攻撃を弾けるようにしたいな」
「・・・」ぷるぷる
「お、まだあるのか?やってみてくれ」
俺がそう言うと、いきなりライムが地面に飛びかかる。ライムが飛びかかったところは、少し抉れて茶色い土が見える。あの動きって・・・犬が爪で攻撃してきた時に似てるな...。ライムの形も、それっぽかったし。
「爪で攻撃、みたいなことができるのか?」
「・・・。・・・!」ぷるぷる。ぷるんぷるん!
合っていたようだ。爪は無いけど、身体を堅くして攻撃しているみたいだ。もっと犬を食べさせれば、再現率が高まるかもな。
「それで全部か...。明日も森に行きましょうかね」
「・・・」ぷるぷる
「グアアアア!」
聞き慣れた声が、空から聞こえてきた。上を見ると、ちょうどルウが帰ってきたところのようだ。両足には一匹ずつ、海で俺たちを襲った鳥を掴んでいる。かなりボロボロだけど、かろうじてまだ息がある。ライムの為に、お土産を持って帰ってきてくれたようだ。
「グル!」
「・・・!」ぷるぷる!
ルウが地面に鳥たちを押さえつけて、それにとびかかるライム。身体が大きくなっているので、何とか一羽丸々覆い尽くせた。
「・・・♪」ぷるぷる♪
上機嫌で鳥を消化していくライム。この調子で食っていけば、そのうち翼も作れるようになれるかね。
「ありがとな、ルウ。気を使ってくれて。あんな魔獣、俺たちじゃ絶対倒せないからな。ライムが成長するのが早まるから、これからも持ってきてくれるか?」
「グル!」
「悪いな。あとでいっぱい、撫で撫でしてやる」
「グルゥ〜」
頭を撫でてから、顎の下に手を動かす。何か一カ所だけ手触りが違うところが合ったけど、何なんだろうな。そこをなでると、妙に気持ち良さそうにするし...。
サイズは犬より大きいので、消化するのにも時間がかかる。まあ、ルウを撫でてたらすぐなんだけどな。
「・・・」ぷるぷる
「終ったか。おいしかったか?」
「・・・!」ぷるん!
「それは良かった。ルウにもお礼を言っとけよ」
ライムがルウの頭に乗って、ぽんぽんと跳ねる。あれでもお礼を言っているのか、ルウも嬉しそうにしている。
それから晩ご飯まで、ずっとルウたちとイチャイチャしていた。イチャイチャって表現があってるかどうかは分からないけど、ルウはメスだしライムは性別ないし、問題ないと思う。
それから数日たった、テイムの授業の日。前々日の武術の授業では、多くの人が最後まで素振りを続ける事が出来ていた。剛体様々だな。
その日は原っぱでの授業、全員が自分の魔獣を連れて来た。俺もルウとライムを連れて来ている。
あのピッグって豚野郎のそばには、一体の小男が佇んでいた。革の鎧を来て大剣を携えている。額に小さな角があるから、多分ゴブリンなんだとおもう。あいつだけ、雰囲気が別物だ。どうしてあの糞豚が、あんな魔獣をテイム出来たんだ?
「それでは、授業を始めます。今日はテイマーにとて基本中の基本、魔獣との『リンク』の練習です」
はて、リンクとは何ぞや?そういや、テイムのHow to本に載っていたような気がする。
「リンクとは、魔獣とその使役主の間にある、魔力の繫がりです。それを通じて、魔獣と使役主は意思の疎通をしています」
なるほどなるほど、道理でルウたちの考えが読めるわけだ。
「また、リンクを使えば自分の魔力を魔獣に送れ、強化する事が出来るのです」
んじゃ、俺がルウに魔力を送れたのは、魔手を持ってるからではないんだな。
「自分の身体から、魔獣の身体に魔力の線が伸びています。それを使って魔力を送るので、多少はロスをしてしまいます。まあ、魔手などのスキルを持っていれば、ロスしませんけどね」
ちらっと、俺の方を見るサシャ先生。こっち見んな!何もやんないぞ!
「それでは、皆さん試してみてください。自分と魔獣の間に繫がりを感じ、それに魔力を乗せてください。ちゃんとスキンシップをして、ある程度懐かせているならば、それほど難しいことではないはずです」
まあ、毎日撫でまくってるからな。スキンシップが足りないってことはないだろう。
魔力をライムに送る。今までは手を身体に当てていたけど、離れていても送ることができた。途中で、魔力が空中に溶けていくのが感じられる。やっぱり、俺は直接魔力を送ったほうがいいな。
豚もゴブリン?に魔力を送っているが、ほとんど途中でロスしている。魔獣との間に絆がなければ、あんなふうになるんだろうな。
「皆さん、出来ましたね。それでは、試しに試合でもしてみましょうか」
試合かー。まあ、俺には関係ないな。ライムならともかく、ルウじゃ格が違いすぎる。そんなふう思っていたのだが...。
「貴様、俺と試合をしろ!」
「・・・はあ」
あの糞デブ自己中豚野郎が、そんなことを言い出したのだ。