学院でのんびり
ほのぼの〜
「今回の遠足は散々だったね。魔獣を倒してばっかりだったし、途中で中止になっちゃうし」
「ツチオ殿は、その上怪我まで負ったでありますものね。大丈夫なんでありますか?」
「ちゃんと治癒魔術もかけてもらったし、その後の経過も良好。影さんが思った以上に治癒魔術が上手くてさ、本職の人も驚いてたよ」
結局、あの巨大な金属ゴーレムのせいで、実習はその日で中断となってしまった。翌日の朝に、学院へと全員が帰った。あの金属ゴーレムが魔獣の大量発生の原因だったそうで、付近の魔獣も減少し始めているそうだ。
「よかったですね、大事無くて。あんまり危ないことは、しないでくださいよ」
「それにしても、その勝手に動いた生徒。ちゃんとツチオ殿に、謝ったんでありますか?」
「ああ、泣きながら謝ってきたよ。あんなことになるかもしれないから、勝手に動いちゃいけないんだよな」
「そうだね。まあ、残りの日程は全部休みになったからまだいいかな」
「休みの日まで勉強してちゃ、あんまり休みって感じはじゃないけどね」
今回の実習は2週間ほどだったのだが、大幅に予定が縮まり1週間で戻ってきた。残りの1週は全て休みなのだけど、今日は図書館で勉強している。俺の授業はほとんど実技なので、あんまり勉強する必要はないのだけど、リュカたちに数学を教えたりしている。一応、いくつか筆記の授業もあるけれど、どれも自分で勉強出来るしな。魔術史とか、ゲームの設定資料集みたいで面白いし。
「・・・ツチオ君、元気ないよ。疲れてるの?」
「え?い、いや、そんなことないよ。元気元気!」
「うーん、確かに言われてみれば、目の下にくまがありますね。昨日、ちゃんと寝ましたか?」
「あー・・・ちょっと夜更かししちゃったな。それで、疲れてるように見えたんじゃない?」
学院に帰ってきたのは、昨日の昼過ぎ。昨夜はリンの初めてだったもんなー、そりゃ寝不足にもなるわ。まあ、リンも満足してくれたろうし、頑張った価値はある。リンは変身出来るから、色んなプレイが楽しめていいよね!
「ツチオ殿ー・・・夜更かしは駄目でありますよ!背が伸びなくなっちゃうでありますよ!」
「もう伸びきってるから、何の心配もありませーん。トリスと違って、もう十分高いし!」
「腹っ立つ言い方するでありますねー!」
「はっはっは、文句があるなら先に身長を伸ばすんだな!」
リスのように頬を膨らませるトリスを撫でる。トリスは気にしているんだろうが、俺はこのままでいてほしいな。こっちのほうが、マスコットみたいで可愛いしね。
「ツチオさんは、小さい女の子が好みなんですか?」
「小さい女の子も好きだし、大きな女の子も好きだよ」
「ツチオ君って、実は女好き?」
「うーん、女好きってことになるのかな?守備範囲が少し広いだけだと思うけど。それに、女が好きじゃない男なんてあまりいないよ」
少しはいるんだろうな・・・人口の5%くらいは。そういう考えがあるっていうのは、前に確認してあるし。
「ほら、皆さん。お話するのもいいですけど、まずは勉強を終わらせちゃいましょう!まだあまり進んでいませんよ!」
「そうだね、もう少しくらいは進めとかないと。トリスは大丈夫?分からないところとかない?」
「問題ないであります!これでも、ちゃんと勉強はしてるんでありますから!」
ふんす!っと胸を張るトリス。解いている問題を見てみると、ちゃんと答えはあっていた。おお、本当に出来てる。トリスはやれば出来る子だったんだな...。
「すごいですね、トリスちゃん。苦手を克服していますよ」
「いつまでも頼りっぱなしじゃ、ないんでありますよ!」
「へー、んじゃこの問題を解いてみ」
「任せるでありますよ!」
俺が指定した問題に向かうトリス。さて、リュカたちもやってるし、待っている間自分の勉強でもしてようかな。
「よし、今日はこれくらいにしとこうか」
昼食を挟み、昼過ぎまで勉強をしていた俺たち4人。とりあえず今日やると決めていた分は終わったので、今日はここらでお開きだ。
「この後はどうするんであります?遊びに行くには、少し遅いでありますけど」
「そうだな・・・特にやることもないし、そこらへんでボーっとしてようかね」
「ボーっと、ですか?」
「うん、ボーっと」
いつもなら符の補充やら開発やらやってたんだけど・・・今回はほとんど使わなかったし、開発もちょっと前に行った。そういや、やることがないってのは珍しいな。色々騒ぎが起こってたもんね。
「いいねー。日向でのんびりお昼寝でもしよっか」
「あー、いいなーそれ。どっかに良い場所あるかね?」
「原っぱでいいんじゃない?木とかあるから、適当に寄りかかれるし」
「それじゃ、早く行くでありますよ!早くしないと、良い場所が取られちゃうであります!」
「あ、トリスちゃん!走らなくても大丈夫だって、場所なら幾らでもあるんだから!」
走りだしたトリスをファルが追いかけていく。俺もさっさと向かおうか、ルウたちも連れてこようかな。
ルウたちは、魔獣舎の前で模擬戦をやっていた。リンの強さの把握も兼ねて、ニクロムも入れて2対2のコンビで試合をやっているみたいだな。
「ツチオがお昼寝・・・誰が膝枕をするかが問題だね」
「私は液状化して地面に敷かれるので、お姉様とリンちゃんでお好きなように」
「ツチオに膝枕なんて、私もルウさんも出来ないんじゃ...」
「あ、そっか・・・リンなら、出来なくもないんじゃない?」
「そ、そんなこと誰もやりたいだなんて言ってないじゃない!そんな、ツチオの抱き枕だなんて」
「その方法があったか!私が抱き枕になって、リンが膝枕をすればいい!これで全部解決だね!」
「え、うん、まあそうだけど・・・何か、押し付けられたような?」
原っぱで昼寝をするかもって言っただけでこれだよ・・・膝枕はともかく、抱き枕を皆の前でやるのは恥ずかしいな。それより、
「ライム、地面に敷かれるってのはどういう...?」
「そのまんまの意味ですよ、お父様。治ったとはいえ、お父様は怪我を負っている身。お昼寝するのは構いませんが、硬い地面に直接寝るのは負担が大きいです。そこで、私が液状化し布のようになることで、お父様を地面からお守りしましょう。これでもスライムなので、体はプニフニ。感触には自信があります。お父様は良い感触の上で寝ることができ、私は全身でお父様を感じることが出来る。何て合理的かつ一石二鳥の案なんでしょう!」
「・・・いや、俺が乗ったらライムは重いだろ。地面には何か敷けばいいし、わざわざライムがやる必要は」
「いいのです、お父様。私がやりたくてやっているのですから、お父様は何も考えずお昼寝してください」
そりゃまあ、布団より感触は良さそうだけどさ・・・いいのかな、ライムは俺のためって言ってるし。ライムはあれで力も強いしな、俺くらいなら軽く持ち上げられるか。そんじゃ、さっさとリュカたちのところへ行こうか。
原っぱにある木陰にリュカたちは陣取っていた。俺が木陰に入ると、ライムが溶けてマットみたいになり、俺がそこに寝ころがるとリンが頭を膝に乗せ、ルウは正面から抱きついてきた。・・・身動きがとれない。つうか、リンの脚、馬っぽいけど正座も出来るんだな。
「甘やかされてますね、ツチオさん。このまま、どんどん駄目にならないといいんですけど」
「もう駄目になってるでありますよ...」
「ルウちゃんたちも、あんまりツチオ君を甘やかしちゃ駄目だよ?時には、厳しくすることも必要なんだから。愛の鞭ってやつだよ!」
「愛の鞭・・・で、私を叩くのね!?とんだ変態ね、ツチオは!」
「どうしてそうなるんだ、飛蝗もビックリの飛躍っぷりだぞ」
「そうですよ、リンちゃんはお父様の愛を受け入れられないのですか?そんなことありませんよね、昨晩はお父様に沢山可愛がってもらったのですから。お父様のことが大切なら、全てを受け入れることなんて容易いことですよね?」
マット上になっているライムが、そんなことを言い出す。この状態でもしゃべれるんだ・・・それとこれとは、全くもって無関係だと思うけど。
「あ、当たり前じゃない!」
「そうですか。ではお父様、早速リンちゃんを叩いちゃいましょう」
「いや、叩かないから。別に愛の鞭っていう鞭があるわけじゃなくて、ただの比喩表現だから。それに、愛の鞭で叩かれるのはむしろ俺のほうだし」
俺がそう言うと、皆が一斉に俺を見る。あれ、俺なんかまずいことを言ったかな?
「・・・ツチオ殿は、そういう特殊な性癖をお持ちだったのでありますか・・・驚きであります」
「最初は受けだったのには、そういう理由があったんだね」
「いや、比喩表現だって言ったろ!別にそういう趣味はないからね!」
まったく、すぐにそういう話題に絡めようとして・・・やっぱり、ゴシップっていうのはどこでも話題になるんだなー。
「まったく、眠気も覚めちまったよ・・・あれ、ニクロム。何の本を読んでるの?図鑑にしては小さいね」
「リンに小説を薦められたので。おとぎ話を、若者向けに書き直したものですね」
「へー、面白い?」
「・・・よく分かりません。そもそも、恋愛は子孫を残すために存在するものであり...」
「あー、そういうのはもういいから。分からないならそれでいいと思うよ。皆と一緒にいれば、そのうち分かるようになるさ。そういうのは置いといて、その小説は面白い?」
「面白いか面白くないかで聞かれれば、面白いと思います。寓話らしさではなく、恋愛を前面に押し出しているところが良いですね。多岐にわたる需要に対応するため登場人物を追加し、それにより三角関係も生まれ見所が増えています。全体的に見て、良作だと判断します」
「そうかそうか、ニクロムがそこまで褒めるなら俺も読んでみようかね」
「この小説はマスター向けでないと思うのですが」
「え、どうして?」
「女性向けの小説ですから。主人公は女性ですけど、他に出てくるのは男性ばかりですよ」
ああ、そういうのね。確かに俺が読んでも、あまり面白くはなさそうだ。まあ、逆ハー物も嗜んでいるけど。
「お父様、折角変形したのですから寝てくださいよー。早くしないと、冷めてしまいますよー」
「え、温めてたの?そんなに寒くないし、そんなことしなくてもいいんだぞ」
「いいのです、お父様。私が好きでやっているのですから。お父様は気にせず、のんびりとお昼寝を満喫してください」
ライムがそこまで言うなら、俺が断る理由はないな。靴を脱いで、ゴロリと寝転がってみる。・・・おお、確かにこれは気持ちいいな。ウォーターマットみたい。ひんやりフニっとしていて、肌に吸い付く感じだ。あれ、吸い付くってより吸い込まれる?段々沈んでるぞ。
「ら、ライム?これ、沈んでいる気がするんだけど...」
「こうしたほうが、体を覆われてる感じがして良いんですよ」
確かに気持ちいいけど・・・このまま呑みこまれちゃいそうで、ちょっと怖いかな。まあ、ライムがそんなこと、するわけないよね。
「あー、でもこれ気持ちいいわー。もう眠くなってきた...」
「はい、このままゆっくりとお休みください」
ライムマットは思いの他気持ち良く、俺はあっという間に眠りこけてしまった。これはいいなー、ベッドより寝易いわ。今度から、寝るときにこうしてもらおうかね...。
「・・・チオ君、ツチオ君!起きて、もう夕方だよ!」
「う・・・んー。うわ、太陽が赤い!結構寝っちゃったなー」
「ツチオ殿、ぐっすりでありましたねー。寝顔は子どもっぽかったのであります」
「そうですね、あどけないって言えばいいんでしょうか?元々の見た目と合わせて、私たちと同い年くらいに見えましたね」
「うわ、全員に寝顔見られたのか・・・結構恥ずかしいな」
「僕はもう何回も見たことあるけどねー。そろそろ夕ご飯だし、早めに戻らないと。ライムちゃんも、このままじゃ辛いだろうしね」
「え?うわ、ごめんライム!ずっと下に敷いちゃってて!」
「このくらい、大した負担ではありません。お父様が気持ち良く寝れたのなら、私はそれで幸せです」
「それならいいんだけど・・・無理はしちゃ駄目だからね。自分の身が第一だぞ」
「・・・もちろんです、お父様」
何だろうな、今の間は。まあ、そんくらい言うまでもないってことかな。今日はのんびりすごせたし、明日から何かやり始めようかね。何をしようかな・・・ちょっと出かけるか、今日みたく勉強に勤しむか...。まあ、その時の気分で変わるな。実習で戦えなかった分、ルウたちと模擬戦という選択肢もあるし。時間は十分あるし、色々やってみようか。