ピンチになったら現れる
<side リン>
川の中から感じる数体の魔力、感じからしてツチオを狙っている魔獣だろう。影さんはツチオの治療で手が離せないし、私がここで止めなきゃいけない。ここらへんにはどんな魔獣が生息しているんだ?・・・あの川はそこそこの深さだから、泳げる水棲の魔獣か?
川の中から、魔力の持ち主の頭が出た。あれは、泥人形?所々に砂利が混ざっているから、川底の泥がゴーレムになったのか。あの大きいゴーレムの影響が、こんなところまで及んでいるみたいだ。
『またゴーレム、本当に面倒ね。材質が泥なだけ、まだマシなのかな』
私の蹄が風をまとう。空を飛ぶためにこういう風になってるけど、攻撃するのにも使える。核の場所は丸分かりだから、蹴りで何とか倒せるかな。
『影さん、とりあえず応急処置だけでいいからね!相手はゴーレムだから、私も戦い辛い。この数なら大丈夫だろうけど、あんまり増えると厳しいからね!』
こちらへ近づいてくるゴーレムたちに、空を走って近づいていく。川を歩いてツチオの方に向かうゴーレムたちは、私が来ても見向きもしない。今見えるのは頭から胸辺りまで、核があるのはお腹辺り。核さえ攻撃されなければ、問題ないとでも思っているのだろう。確かに倒せはしない、まあ、倒す必要はないんだけど。
宙を駆けながら、ゴーレムの頭を踏み潰す。果物を潰すような感触だ。川の中に泥が飛び散るが、体の中から新しい頭が蠢きながら再生される。やっぱり再生するんだ・・・結構速いし、手っ取り早く倒すにはやっぱり核を壊さなきゃ駄目か。
再生している間、ゴーレムは身動きが取れない。とりあえずの足止め、魔力を消耗させることも出来る。今のところ、他にゴーレムは来ていないけど...。
再生するたびに蹴り飛ばしていくが、こっちは1人、相手は複数。段々とツチオが寝ている岸に近づいていく。核のあるお腹も、私が攻撃出来る位置に出てきた。さすがにゴーレムも、核を攻撃されるわけにはいかない。腹を蹴り飛ばそうとするが、拳を振るって抵抗してくる。
突如、私がゴーレムと戦っている反対側、上流の方に複数の魔力が現れる。くそ、追加のゴーレムが来たか。上の山に比べれば少ないけど、それでも大量に出てきている。こっちはさっさと倒さないと、時間はかけられない!
ゴーレムたちから少し離れ、少し力を溜めて一気にゴーレムの中に突っ込む。雷は効かないけど、ゴーレムを消し飛ばすには十分過ぎる威力だ。ちゃんと全部が重なるよう位置どったから、1回で倒しきることが出来た。ふう・・・休んでいる暇はない、他のゴーレムを倒さないと。
『影さん、あとどれくらいでツチオを動かせる!?』
ゴーレムを蹴りながら、治療中の影さんに尋ねる。・・・まだしばらくかかるか。何とか持たせないと、これ以上数が増えると厄介だ。
『魔術さえ効けば、こんな奴ら一掃出来るのに・・・他の魔術が使えれば。もっと強力な、相性なんて無視出来るくらいの魔術が使えれば』
迅雷のおかげで、私は普通の魔物より強く育つことが出来た。進化の選択肢を絞って、一極に集中させたんだ。私は、とにかく攻撃に特化している。そのせいか、魔術は雷しか使えない。こんなところで、それが裏目に出るなんて...。
『・・・文句を言っても仕方ないか。ツチオだって言っていた、自分に出来ることを出来る範囲でやればいいって』
私に今出来ることは、走り回ってゴーレムを蹴り飛ばしツチオに近づかせないこと。このくらいの数なら、私が毎回走り寄って蹴れば済む。・・・よし、頑張ろう!
しばらく、川の上を走り回りゴーレムを吹き飛ばす時間が続いた。川から現れるゴーレムの数は増し、もう岸は囲まれそうだ。数が増えれば増えるほど、突進で倒せる数も増えるんだけど・・・魔力もかなり消耗している。もう十数分は経った、まだ応急処置は終わらないの!?
『早くして!数が多くて、そろそろ捌き切れなくなりそう!』
影さんも、治癒魔術を専門としているわけではない。さらに、影さんは死霊系の魔獣だ。そもそも治癒魔術なんて使わないんだ。急かしちゃいけないんだろうけど・・・早くしてもらわないと、こっちが持たないよ!
岸の近くにいたゴーレムを吹き飛ばし、ツチオの正面の川辺に立ちはだかる。次のゴーレムたちが襲い掛かってくるかと身構えていたが、川の中にいる奴らは動かない。何だ、私には敵わないと悟って諦めてくれたの?別にまだまだ全然いけるから、ドンドンかかってこいって感じなんだけどね!
『え、応急処置が終わった!?分かった、今ならゴーレムたちも来ていないし、さっさと上に戻るよ!』
ツチオを背中に乗せるため振り向こうとした直前、ゴーレムたちが動き出した。私がいる正面の川の中に、周りにいるゴーレムたちが集まりだした。どういうこと?私たちが逃げようとするのを邪魔しないの?
ゴーレムたちが何をしてくるか分からない、ツチオは出来るだけ川から遠ざけておく。影さんに守るように頼んで、私はゴーレムたちの様子を伺う。何だか変だな・・・魔力が高まってる、いや合わさっている?川の中で何が...。その答えは、すぐに私の前に示された。川の中から泥の山が顔を出し、そこへゴーレムたちがどんどん飛び込んでゆくのだ。これって、合体しているの!?数で押しても勝てないから、1体の強力な魔物になるつもり!?
そうして私の前には、先ほどの奴らの2倍以上の大きさである、巨大な泥ゴーレムが現れた。岩のゴーレムみたいにしっかりと人型はとっておらず、泥の山に腕がくっついている感じだ。動きは鈍いが、核は厚い泥の中。突進で貫くことが出来るか?・・・駄目だ、判断のしようがない。どんな行動をとるのかも分からない今、迂闊に突進なんか出来ない。この大きさじゃ、空中にいようと攻撃してくるだろう。万が一ツチオが叩き落とされでもしたら、影さんじゃ治療出来ないかもしれない。倒すとまでいかずとも、多少は弱らしてからじゃないと厳しいか。
『影さん、ツチオをちゃんと守ってね。遠距離攻撃もしてくるかもしれない、十分に注意しといてよ!』
こんなことになるなら、さっさと上に戻ればよかったよ!何とか核の場所を掴んで、あの壁を貫通出来るくらいの攻撃を食らわせないと...。最悪、ツチオを乗っけての強行突破か。あのゴーレムたちで出来てるんだ、材質は同じなはず。泥の体じゃ、私の突進は止められないよ!
<side ルウ>
「はあ!」
殴りかかってくるゴーレムの拳を腕を使って捌き、隙を見つけては体を殴りつける。腐っても竜の鱗だ、いくら力が強くても軽い殴打は全く通用しない。殴られたゴーレムの体には、私の拳の痕が残っている。これだけ強化していれば、あの金属の体でも変形するのか。これなら、爪で斬ることも出来るかも。
私が攻撃を受けている間に、ライムが歪な爪で通りがかりざまに斬りつけた。爪はしっかりとゴーレムの体を傷つけており、薄っすら白煙を上げている。ライムの溶解液、この金属まで溶かせるのか・・・末恐ろしいな。私の鱗は耐えられるかな。
岩を脱いだゴーレムと戦い始めて、そろそろ3分といったところか。既にこのようなやり取りは何度も行われており、ゴーレムの体には私たちが与えた傷が残っている。私がゴーレムの攻撃を受けて、その隙にライムが爪で斬りかかる。このゴーレム、動きが素早くなって脅威は増したものの、攻撃は単調なので避けたり弾いたりすること自体は簡単だ。本気の私たちなら、総金属製の体もちゃんと傷つけられる。ただ、やっぱり倒すには時間がかかりそうだ。傷つけられると言っても、そこまで深いわけではない。何でこんな時に、こんな魔物が出てくるんだろうね。
「そろそろ3分ですけど、ニクロムの準備は終わったのでしょうか?」
「どうだろう、終わったなら言ってくると思うけど」
「お待たせして申し訳ありません、こちらの準備は全て完了しました」
準備が終わったニクロムの腕は、先ほどの篭手とは様変わりしていた。確か、銃っていう金属球を発射する武器だっけ。今まで使ってたのより細長い金属の筒、先っぽには四角い箱みたいなものがついている。筒とくっついている面以外全てに穴が開いているみたいだ。銃から伸びている紐みたいなのが、肌が開いて中に刺さっている。痛くないのかな...。
「対大型魔物用狙撃銃、換装完了。センサーとの連動を確認、核の探知を開始します」
「もう核の場所は分かりそう?」
「まだ反応はありません、もう少し深く削る必要がありそうです」
「深くか・・・爪で抉ったほうが良さそうかな」
「私も、銃撃で援護します」
左腕は銃、右腕は人腕のニクロムがゴーレムに銃を向け、次の瞬間辺りに雷が落ちた時のような轟音が鳴り響く。あまりの音に、耳がおかしくなりそうだ。キーンって鳴ってる。
どうやら弾はゴーレムの胸に命中したみたいだ、体内にめり込んでいる。あそこまで傷をつけるなんて・・・とんでもない貫通力だ。あれが人に当たったら、どんなふうになっちゃうんだろう。想像できないや。
「命中を確認・・・思った以上の威力ですね。引き続き、銃撃を続行します」
「ちょ、ニクロム!その銃、うるさいよ!耳が潰れちゃう!」
「皆さん、重機関銃の音にも慣れました。狙撃銃の音にも、そのうち慣れるはずです。今はそんなことを言っている場合ではありません、マスターの救助に向かうのでしょう。無理矢理にでも、慣れてください」
銃の横側から円筒状の金属筒が排出され、ガシャンという音を鳴らした後、再びニクロムは銃撃を行う。今度は顔面に命中し、ゴーレムは体ごと後ろへ持っていかれている。確かにニクロムの言う通り、こいつを倒すことだけを考えないと。今聞いてみれば、連続で鳴り続ける前の銃よりは楽だ。うん、そう考えたら気にならなくなってきた。
「よし、やってやろうか。ライム、同時に仕掛けるよ。まずは切れ込みを入れて、そこから一気に削ろう」
「分かりました。私たちは胴体を攻撃するので、ニクロムは頭を狙ってください。特にあの目、潰せればかなり有利に戦えます」
「了解しました、目を集中して狙っていきます」
全員、各々の武器を構える。さあ、ここからが正念場だ!
<再びside リン>
空を駆け回り、大きな泥ゴーレムが振るう腕をすれすれのところでかわす。動きはそんなに速くないんだけど、時々泥を投げつけてくるのが面倒だ。当たったら意外に重くて痛いし、体にまとわりついて動き辛い。何とか振り払ったけど、もう食らうのは勘弁だ。自分の体を投げているみたいなので、あまりやってこないのが不幸中の幸いね。
空中でくるりと切り返し、すぐさまゴーレム目掛けて突進を仕掛ける。しっかりと核を狙って突っ込んだのに、体を通り抜けて振り返ってもそこにあるのは、穴の開いたゴーレムの体だけ。また当たらなかった・・・しかも、核の場所がさっきと変わってる。私の勘違いかと思ったけど、やはりそうではない。このゴーレム、核が動かせるのか!
どうしよう、核を動かされちゃ私だけでこのゴーレムを倒すのは難しいかも。助走をしなきゃいけないから、どうしても溜めが出来てしまう。その間に核を動かされたら、いくら突進しても無駄だ。
『私の魔力もそろそろキツいし・・・一発、大きいのに賭けてみるしかない?でも、それが効かなかったら本当にお手上げ。私もツチオも食べられちゃうか。ルウさんたちが来るまでの時間稼ぎに徹する・・・それには魔力が少なすぎ。ああもう、八方塞がりじゃない!』
色々案が浮かんでは消えていく。どうする・・・このままじゃジリジリと魔力を削られて尽きるだけ、何か打開策を打ち出さないと。
影さんはツチオの治療で結構な魔力を使っている、ゴーレムを倒せるほどの魔術は使えないだろう。私がどうにかしないと・・・そうやって、思い詰めたのがいけなかった。
『うぐぅ!?』
いつの間にか近づいてきていたゴーレムに頭を掴むまれ、体の中に突っ込まれる。ゴーレムの体は泥、当然息が出来ず生き埋め状態だ。
ジタバタ暴れ蹴り魔術を乱射するが、ゴーレムは私を離そうとしない。暴れたせいで息が苦しくなり、空気を求めるもそこにあるのは泥だけ。
呼吸が出来ず、段々と意識が朦朧となる。体から力が抜け、私はその場に膝をついてしまった。く、苦しい・・・駄目、力が入らない。私、このまま死んじゃうの?
『やだ!私はまだ死にたくないの!離せ!離しなさいよ!』
どんな暴れても、いくら体を傷つけても、ゴーレムは私を放そうとしない。それどころか、暴れさせないようにさらに体に押し込んできた。
『嫌・・・やだよ。助けて・・・助けて、ツチオ!』
私がそう叫んだ瞬間、突如後ろに大きな魔力が出現し、気が付いたら私は地面に投げ出されていた。前には、体に2つの大穴を開けたゴーレムが。かなり体を削られており、もう核が動ける場所はない。何が起こったのかは分からないけど、こいつを倒す絶好の機会。よくもやってくれたわね・・・ぶっ殺してやる!
残った魔力を角と脚に集中、一気にゴーレムの中を駆け抜ける。角に何かが刺さり、砕け散るのを感じる。私が止まるとの同時に、ゴーレムの体はドロドロに崩れ落ちていった。
再生しないのを確認すると、私はその場でへたり込んだ。今度は魔力切れで意識が朦朧とし始めた。辺りに魔獣はいないみたいだし、もう寝ちゃってもいいよね...。
気絶してしまう前に、私を助けてくれたのは誰かを確認したい。今にも沈みそうな意識を奮い立たせ、魔力があった方を見る。あれ、あそこって確かツチオを避難させておいたところじゃ...。でも、ツチオがあんなに魔力を持ってないし。
『え、嘘!?ツチオ・・・違う、すごく似てるけどツチオじゃない!誰、誰なの貴女!』
それ以上は意識を保てなかった。くそ・・・何なのよ、あのツチオにそっくりな女は!




