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登山の途中で

 岩だらけの山道を登りつつ、その周囲にいるゴーレムたちを倒していく。今のところ、特に問題は起きていない。遠くでは、他の授業の生徒たちも戦っている。魔術が飛び交っているから、多分魔術の授業選択者たちだろう。人数が多いので、結構上まで行ってるなー。まあ、俺たちも結構先行しているんだけど。


適度にゴーレムを倒しつつも、ある程度の数はそのまま下に流している。あんまり多くは流しちゃいけないけど、倒しすぎちゃうのも実習にならないので駄目。ちょっと面倒だが、まあ出来ないほどでもない。面倒だけど。


「あれ、ツチオあいつ。色が変だよ」

「んー・・・ホントだ、鈍く光ってる。金属製?」

「金属ですか、私が殴っても効くでしょうか...?」

「どうだろ、向こうがどんだけ堅いか気になるな。何にせよ、登るにつれて魔獣が強くなっているみたいだな・・・ちょっと先生に知らせてくるね」


ルウたちにその場を任せ、先生の元へ下りていく。先生は1体のガルムを出して、生徒たちの様子を眺めていた。


「先生、少し登ったところからチラホラ金属のゴーレムが出てきています。まだ数は少ないですけど」

「そうですか、それではここらで一旦止まりましょうか。報告、ありがとうございます」


先生が全体に登るのを止めるよう言うのを尻目に、俺はルウたちの元へ戻る。そこで、ちょうどライムが金属っぽいゴーレムと戦っているところだった。ストーンゴーレムより少し動きが早いな・・・岩より重いはずなのに。

ライムの拳がゴーレムにぶつかると、ガキィーン!と甲高い音が鳴り渡る。むう、やっぱり金属か。こりゃ、ライムが相手するのはちょっと厳しいかも。ルウかニクロムに倒してもらおうか?


「問題ありません、このくらいであれば私でも十分倒せます」

「ん、そう?そんなら任せるけど、危なそうに見えたらすぐにフォローするぞ」

「分かっています。大船に乗った気持ちで見ていてください」


そう言って、ライムはゴーレムを殴り続ける。腕も変形しており、円筒状から尖がったピックになっている。大丈夫なのかな、あれ。欠けたりしないのかね。


しばらくライムは、ゴーレムの攻撃を避けつつ胴体を殴る。やがて、胴の真ん中にひびが入り、ついにライムの腕がゴーレムの体に突き刺さった。振り上げていた腕が止まり、体がガラガラと崩れ落ちる。一箇所を殴り続けて、核だけを潰したんだな。よく場所が分かったね。


「岩のゴーレムだと魔力が弱すぎて分からないのですけど、これなら何とか分かりそうです。でも、時間がかかって大変ですね。私は岩のゴーレムだけを相手にしましょうか」

「そうだな。ルウ、どんな感じだ?」

「私なら問題ないよ、強化すればちゃんと通る」

「私も問題ありません、この程度の硬度なら仕掛けを発動させるまでもありません」

「よし、金属のゴーレムが出たらルウとニクロムが相手をしてくれ。ライムは岩だけ。しばらくはここらへんに止まるらしいから、金属のゴーレムは通しちゃだめだぞ」


あれは少し荷が重いだろうしね。幸い下りてくる奴だけだから、ここでちゃんと止めれば大丈夫かな。俺やリン、影さんも討伐に参加しよう。ずっと見ているだけってのも、暇だからねー。






 それから数時間、その場に止まってゴーレムを倒し続けた。遠くの方でも、他の授業の生徒たちは同じくらいの所で止まっている。最初は少なかった金属製のゴーレムだが、段々と下りてくる数が多くなっている。ルウとニクロムはそいつらの対処にあたり、ライムと俺たちはストーンゴーレムを倒している。下の方には、まだ結構な数のゴーレムがいるな...。まったく、本当に大量発生してるんだな。


「大丈夫ですか、ずっと戦っていますが。少し休憩してはどうでしょう、昼食もまだですよね」

「そうですね。ですけど、上でゴーレムを抑えるのは誰が」

「私がやりましょう。下のほうは、大分落ち着きましたので。ガルムたちにも、暴れさせてあげたいですしね」

「それでは、お言葉に甘えて。ルウ、ニクロム!一旦引くぞー!」


ゴーレムの間引きを先生に任せ、俺たちは安全な下へ向かい弁当を食べる。リンのご飯である生肉と草は学院で大量に補充してある。いやー、本当に便利だわ影さん。いなかったら、大量の荷物を抱えて歩かなければならないんだしな。


「ふう、ごちそうさまでした。結構おいしかったな、生徒が作った弁当だけど」

「結構つかれたね・・・金属ゴーレムが出てきたら、強化しないといけないし」

「ずっと篭手で戦っていたため、銃弾の消費はありません。魔力消費も2割に抑えています」

「私もちょっと疲れましたねー・・・お父様、癒してください」

「・・・ブル?」


ライムがしなだれかかってきて、首に手を回すので押し返していると、リンが何かを発見したみたいで、俺に声をかけてくる。ライムを押しのけて見てみると、数人の生徒がこそこそと山道を外れて登っているところだった。何やってるんだあいつら・・・ここで止まれって言われたのに。まったく、やんちゃが過ぎるぞ。しかも、あいつらが向かってる方って確か崖になってたよな?ここに来る途中にあった川の上流が流れてるんだっけ。先生は上で間引いてるし、他の生徒たちは気づいていない。はあ、注意しに行くか。


「ちょっとあいつらを呼び戻してくるわ。リン、付き合ってくれ」

「ブル」

「私たちも行く?」

「いや、俺たちだけで大丈夫だよ。この後も戦わなきゃいけないから、しっかりと休んでくれ」


こんなところで単独行動なんて、何を考えているんだか。あれか、遠足の時に勝手に行動する奴らみたいなもんか?本当に、どこの世界でもやることってのは同じだな。


彼らは岩陰に隠れながら、崖沿いに山を登っていた。ゴーレムたちを振り切るためか、結構な速さで進んでいる。後ろには、ゴーレムたちが結構な数集まっていて生徒たちを追っていた。俺たちで適当に蹴散らし、先行していた生徒たちに追いついた。すぐ隣が崖なので、軽く吹き飛ばして落としていく。こんなに集めちゃって・・・トレインはマナー違反だゾ!


「おーい、そこの少年少女諸君。先生にゃあそこで止まれって言われてたろ、さっさと戻んなさい」

「は、何でお前の言うことを効かなきゃいけないんだよ。俺たちと従魔がいれば、あんなゴーレム敵じゃねぇさ!」

「そうそう、年上だからって命令するんじゃないわよ!先公のご機嫌ばかりとりやがって!」


俺に向かって、騒ぎ立てる生徒たち。まあ、確かに従魔は生徒の中じゃ強いほうだ。岩のゴーレムなら、2~3体同時に相手できるかもしれない。だからといって、勝手に動いていいわけじゃないよな。こういう相手に口で何を言っても聞かないとは思うが・・・放置しておくわけにもいかない。何とか、下に戻らせないと。


「別にご機嫌取ってるわけじゃないんだけどな・・・って、今は俺のことはどうでもいい。さっさと戻るぞ、ここに来るまでだって何体もゴーレムを倒したんだから」

「あんたには関係ないだろ。誰にも迷惑かけてないんだから、別にどう動いたっていいだろ。どうせ、そのうち登ることになってたんだ。少し予定が早まっただけだろ」

「これからかけるかもしれないだろうが。ほら、ゴーレムが来ないうちに...」


俺の言葉を無視して、大きな岩陰に隠れて進みだす生徒たち。ここまで言っても聞かないか・・・こうなったら、無理矢理にでも連れ帰るか...。そう思って生徒たちを追いかけた直後、突然地面が揺れ始める。何だいきなり、地震か!?


揺れはかなり強く、とてもじゃないが立っていられない。生徒たちも、転がってたり尻餅をついたり...。この世界じゃ地震なんて滅多に起こらないから、皆困惑している。俺も久しぶりだから驚いた、休んでいる生徒たちの様子に反応は見られない・・・地震が起こっているのはここだけ?どういうことだ...。


「お、おい!この岩、揺れてないか!?」


生徒の1人が、側にあった大きな岩を指差す。見てみると、確かに岩がブルブルと震えていた。心なしか、段々震えが大きくなっているような気がする。

地面に亀裂が入り、地面から岩が飛び出す。俺たちの目の前に現れたのは、見上げるほどの大きさのゴーレムだった。おいおい、何でこんな奴がこんなところにいるんだよ...。ただのゴーレムみたいに岩がくっついただけじゃなくて、何かより人間っぽくなってるし。


「な、何なんだよこれ!こんな奴がいるなんて聞いてねぇぞ!」

「どうするのよ、こんなのどうやって倒すっていうの!?」

「うろたえるのは後!とにかく、この場から離れろ!こいつが攻撃してくる前に...」


生徒たちに逃げるよう伝えるが、既にゴーレムは腕を引いて攻撃の構え。もう一刻の猶予もない、さっさと逃げないと・・・でも、このままじゃ生徒たちが。初めて見る強大な魔獣に、ほとんどの生徒の腰が抜けている。どうする、どうする?


「ブルル!」

「・・・っち、骨の何本かは覚悟するか。リン、生徒を持てるだけ持って逃がしてくれ」

「ブル!?」

「いいから早く!手遅れになるぞ!」


俺と生徒の間で躊躇していたリンだが、怒鳴りつけると生徒たちを背中に放り乗せて、ゴーレムから離れる。後は俺だけだが・・・今にもゴーレムの腕は振られそうだ。横に引いているから多分薙ぎ払い、縦横斜めどこに逃げても避けられない。すぐに防御を固めないと!


腕が振られるであろう方向に符で障壁を張りまくり、身体強化符を体にくっつける。猛烈な勢いでゴーレムの腕が迫り、障壁を砕き俺の体に突き刺さった。

はたから見たら、俺の体はくの字に折れ曲がっているのだろう。体に激痛が走るが、どこが痛いのかは分からない。ただただ痛いだけ、足が地面から離れるのを感じる。

視界がグルグルと回転し、空の青と地面の茶が混ざり合う。何が何だか分からないうちに、突如俺を襲う浮遊感。俺の視界は、空と地面で2分されている・・・そうか。俺、吹き飛ばされて崖から落ちたんだな。


そこで、ようやく俺の意識は落ちた。最後に見えたのは、崖から飛び降りるリンとそれを見ている生徒たちだった。





<side ルウ>


「・・・お姉様!あそこを見てください!」

「何あれ、あれもゴーレムなの?」

「恐らくそうでしょう。相当量の魔力を確認、恐らくこの大量発生の原因ではないかと」

「そんなことより、あそこはお父様が向かった辺りでは。お父様はどこにいるんです!?」


その時、大きなゴーレムの影からリンが生徒を背負って駆け出してきた。その直後、腕を振るい薙ぐゴーレム。バキィ!と何かが砕けるような音とともに、誰かが吹き飛ばされ崖から転落した。

それを見たリンは背中の生徒を振るい落とし、自ら崖から飛び降りる。リンが追いかけるってことは・・・ツチオが、あのゴーレムに殴られて崖から落ちたの!?


「ライム、リンを追いかけるよ!」

「待ってください。あのゴーレムを放置した場合、この辺りにいる生徒たちが危険です。まずは、あのゴーレムを無力化するのが最優先かと」

「他の生徒など、どうでもいいです!お父様を助けに行くことが、何よりの優先事項に決まっているではないですか!邪魔立てするのであれば、例えニクロムでも容赦はしませんよ」

「それこそ、時間の無駄以外の何物でもありません。何であの生徒たちが助かり、マスターは逃げ遅れたのか考えれば分かることです」

「・・・ライム、まずはあのゴーレムを倒そう。ツチオのことは、リンと影さんに任せて」

「ですが!」

「あの生徒たちは許せないけど、ツチオが助けたんだ。ここでゴーレムを無視して助けに行っても、ツチオはきっと喜ばない」

「・・・分かりました。あの生徒たちの処遇は後で決めるとして、まずはゴーレムを倒します。あいつらを殺させるわけにはいきませんし」

「あれもゴーレムなら、体に核があるはずです。そこを集中して狙えば、短時間での撃破も可能。ですが、何かに邪魔されているのか判断出来ません。戦っている間に、反応から場所を探るしかなさそうです」

「分かった、核を探すんだね。ライムは牽制、ニクロムは遠距離からの攻撃を。ツチオの身が心配だ、素早く仕留めるよ!」


こんなことになったのは、勝手に行動した生徒たちのせい。それについては、ライムが後で報いを受けさせるだろう。こんなゴーレムに時間を割いている暇はない、さっさと倒してツチオを助けに行かないと!


ライム 年齢不詳 見た目は10代中盤ほど メス

ツチオが学院近くの森でテイムしたスライム。名前の由来はスライムの後ろ3文字。鞘で殴ったらテイム出来た。

最弱で名高いスライムだが、ツチオたちの懸命な強化によって通常の個体よりは数段強かった。そこへ、ドラゴンの加護やらミスリルやらが加わったことで、流体金属の体を持つ人型スライムへと進化した。

従魔の中では最もルウと長く戦っているからか、それともルウを意識しているからか。戦い方はルウと同じインファイト。駆竜の腕を喰ってから、主に爪を使っている。毒液や溶解液を出したりすることも出来るが、戦闘ではあまり使わない。魔術も多少は使えるようだが、進化してからは使っていない。


ツチオのことをお父様と呼び、その愛は中々に重い。時折「病み」を垣間見せるが、今のところ問題は起きていない。昔からそんな節はあったのだが・・・蜜毒の加護が、ここまで発展させたのに一役買っているのかもしれない。


性格は言わずもがな、ツチオ第一主義。とはいっても、常識がないというわけではない。むしろ、ツチオのことさえ除けばすごくいい子。ほんと・・・ツチオが絡まなければ、いい子なのに...。見た目は、肌が銀色な少女。瞳の色は紫。


スキル・魔術など


変形・爪:駆竜の腕を喰ったことにより手に入れた。鋭い斬れ味を持つ爪を出すことが出来る。

毒生成:ツチオが毒草を喰わせまくったことにより手に入れた。様々な毒を作ることが出来る。蜜毒の加護により強化され、毒耐性もついた。

流体金属:ミスリルを喰ったことにより手に入れた。柔軟性を保ちつつ耐久性能も高い。変形させることで、武器にすることも出来る便利な体。

魔術?:魚人を喰ったことにより手に入れたっぽい?まだ弱かった頃、水の球を出していたような...。






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