再会、精霊さん
「これでもう3回目の夏休みかー・・・年が経つのは早いもんだね」
「何婆臭いこと言ってるんだよ、まだうら若き乙女だってのに」
「婆じゃないよ、爺だよ!それに乙女じゃなくて青年だよ!もう、3年前からずっと言ってるじゃん!」
光陰矢のごとしとはまさに的を射ていると思う常頃ごろ、ツチオです。もうこの世界に来て3年の月日が流れ、無事3年生へと進級出来ました。あ、勇者はちゃんと元の世界へ帰してもらえたそうですよ。一部の貴族が何やら帰らせないために何やら画策していたようだけど、勇者たちが帰れなかったら国相手に戦争を起すかもという噂を流して、貴族たちを日和らせたらしい。何でか知らんが、帰る前に俺に礼を言いに来た時にそう言ってた。ずいぶんと逞しくなったもんだなー。召喚された直後に記憶&精神操作をしてもらって帰るらしいので、今まで通りの生活を送れるだろう。最後の問題はちゃんと帰れるかどうかだが・・・まあ、そこは秘術ってやつを信用するしかないね。勇者に暴れられても国には良いことなしだし、しっかりとやるとは思う。他国の圧力もあるしね。
ライムが人化して最初の1回以来、夜の相手はルウとライムを同時にすることとなった。俺たちが設計図を探している間に、そんなことを話し合っていたのだと。ルウの相手だけでも結構キツかったのに、そこにライムが加わったのだ。最初こそは俺がリードしていたが、次からは攻められっぱなし。スライムは駄目だって・・・マジで枯れちゃうから。そこの穴は、入れるんじゃなくて出すための穴だから。変な所刺激しないで!ルウもヤるたびに上手くなるし、俺が死ぬのも時間の問題なのかな...。精力剤とか体力強化魔術を使ってみようか。
俺が授業の間、ルウとライムは組み手をしている。授業の時間で行けるところでは、ルウたちの相手にならないからだ。リンだけは、未だに1人で出かけている。人化に対する思いは並々ではない。・・・そうだといいな。だた進化したいだけじゃないよね、きっと。最近、俺と全然話してくれないし。話そうとしても、すぐにどっか行っちゃうんだよね。ツンツンしているリンも可愛いんだけど、話せないってのは結構辛い。はあ・・・嫌われちゃったかな。リンからしたら、自分だけ仲間外れにされてるようなもんだろうし。もう暖かいし朝に早駆けに誘ってみようかな。
「リュカは今年も帰郷?」
「うん、妖精領の実家に。ツチオ君はどうするの?」
「そうだなー・・・シアノ諸島に行こうかね」
今年もキサトさんに誘われているのだが、期間が少し短い。ランディス島に行って数日滞在し、すぐに戻ってくるらしい。なので、精霊さんとも少ししか会えない。精霊さんは少しでもいいから来て!と言ってるので、会いには行くつもりだけど...。帰ってきても、まだ夏季休暇は残っている。帰ってきてから何をするかは・・・追々決めればいいかな。
「シアノ諸島かー、やっぱり魚がおいしい?」
「ああ、魚介類はおいしかったね。学院も海に近いからよく魚は食べるけど、やっぱり感じが違うね。向こうのほうが、魚料理の種類も多いし」
「へー、僕も行ってみたいな」
「結婚したら、旦那さんに連れてってもらえば?ああでも、あそこらへんは海賊も多くてお世辞にも治安が良いとは言えないんだよな...。リュカを連れてくのは危ないか?」
「僕が旦那さんなの!奥さんを連れて行くよ!もう、いい加減にしてよー!」
「ツチオ殿はリュカ殿を弄くるのが大好きでありますねー」
「リュカも気にしてるんだし、言い過ぎたら嫌われちゃいますよ?」
「・・・そうか、リュカは俺のことが嫌いなのか...」
「別に嫌いじゃないけど・・・あんまり女の子扱いするのは、止めて欲しいな。これでも、結構気にしてるんだからね」
「好きな子って苛めたくなっちゃうんだよなー、俺の悪い癖」
「歪んだ愛情表現でありますな...」
「やられるほうからしたら、とんだ災難ですね...」
「トリスにはしないくせに...」
「別にトリスにしてもいいんだぞ?」
トリスの背後に移動し、頭を撫でる。気持ちよさそうにしている、トリスに向かって一言。
「トリスはちっちゃくて可愛いなー」
「ドワーフなんだから、仕方ないんでありますよー!」
「はっはっはー、背が低いから届かないね!」
トリスが殴りかかってくるが、俺に頭を押さえられて拳は虚しく空を切る。格が違うんだよ、身長の。
「人が気にしているところを、的確に指摘するなんて...」
「トリス、大丈夫だよ!ドワーフの女性は、皆そんなものだから!」
「そうだそうだ、それ以上伸びないってことだ」
「むきー!!!」
頭を押さえてる俺の手を掴み、思いっきりぶん回すトリス。体ごと振り回されるが、ちゃんと手を握っているから問題ない。目を瞑ってれば、回ることもないしね。
「まあ落ち着け、トリス。世の中には、背が高くて悩んでいる女性だっているんだぞ。ドワーフなんだから低身長なのはしょうがない、男は格好悪いけど女なら可愛くていいじゃないか」
「そうでありますけど、やっぱり背が高くて格好いい女性には憧れるんでありますよ...」
「ツチオ君も、トリスに身長のことは言っちゃだめだからね」
「分かった、リュカだけにしとくよ」
「リュカさんのは止めないんですね...」
最早コミュニケーションの域に達しているからな、俺とリュカの女じゃないやり取りは。止めるなんてとんでもないわ!
「久っしぶりー!!!」
「おっと、お久です精霊さん」
今度は海賊に襲われることもなく、糞貴族にも会うことなくランディス島へ到着した。今回は5日しか滞在しないらしいので、あまりのんびりは出来ない。ランディス島へ着いたらすぐにダンゼ島行きの船に乗って、その日のうちに森へと入った。というわけで、宿もとっていない。どうせすぐにランディス島に戻って、騎士団の詰め所に泊まらせてもらえるし。
「ちょっとー、何でかわすのよー!2年ぶりの再会じゃない!」
「枝を使って数日に1回は話してたじゃないですか...。それに、いきなり抱きついてきたら誰でもかわしますよ」
ルウたちがガンガン気配を放っているので、あまり魔獣も襲ってこない。たまに襲ってくるカブトムシやら何やらがいるが、すべて影さんに吸収された。うーん、やっぱり北方の魔獣のほうが強いな...。さすがに王都付近の魔獣よりは強いけど、進化した影さんの敵ではないな。集団で襲ってこられたら少々厳しいが、そういう知能が高めの奴らはルウたちの気配で逃げる。サイとかにも襲われたんだが、足を切り落として頭を貫いていた。効率的だね。
「人肌が恋しいのよー、人が来ても会うわけにもいかないし」
「へー、何でですか?」
「そりゃ、精霊なんておとぎ話にしか出て来ない存在よ。見つかったら、捕まって体を調べまくられるに決まってるわ。会うのは、ちゃんと信用するに値する人だけ」
「俺の前には、ずいぶんとアッサリ出てきましたけど」
「竜の加護持ちの魔物を使役している人よ、十分に信用出来るわ。彼ら、人を見る目はあるしね」
「なるほど」
業火さんたちの恩恵は、こんなところにもあったのか。感謝してもしきれないな、今度あったら再度お礼を言っとかないとな。
「それより、王都って所のお土産!何があるの!?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。今出しますから」
影さんの中から、1冊の本を取り出す。日本で言う、風景写真集って感じのものだ。風景を紙に転写するという魔術があるらしい、スパイとかに乱用されちゃうから、あまり使える人がいないそうだ。司書さんみたいに、何とかスパイを止めた人が出したものらしい。そのためか結構なお値段だったが、外に行けない精霊さんにとって、外界の風景を見るにはこういう本しかないしね。それに...。
「つ、ツチオ!これなんなの、真っ赤な水があるわよ!山が火を噴いてる、こっちは一面真っ白!外にはこんなのがあるの!?」
「そうですよ。どこも過酷な土地ですから、見に行くのは大変ですけどね」
目を輝かせて写真集をめくる精霊さん。白黒なのかと思ってたんだが、しっかりと色がついている。まあ、スパイ用の魔術なんだから色がついてたほうがいいよな。この精霊さんの笑顔、プライスレス!
「ここらへんの海は水色だけど、緑色っぽい海もあるのねー。同じ海なのに不思議...」
「同じ南の海なんですけどね」
「あれ、こっちは森に囲まれてるわよ。これも海なの?」
「いえ、これは湖です」
「湖?海と何が違うの?」
「海は塩水ですけど、湖は淡水なんです。舐めてもしょっぱくないんですよ」
「そうなんだ・・・世界は広いね、こんな不思議な光景があるんだ...」
しみじみと呟く精霊さん。ずっとこの島にいて、島から出れないんだからな。精霊と人間の価値観は大きく違うんだろうし、同情するのはお門違いなんだろうけど...。写真集を見ている精霊さんの顔を見ると、やっぱり辛いんじゃないかと思ってしまう。
「・・・精霊さん、ずっとこの島にいて、寂しくないですか?」
「ん、寂しくなんてないわよ。精霊ってのは、そういうものだから。その土地で生まれて、その土地を統括し、その土地に縛られる。そういう存在、土地から離れた精霊なんて性質の悪い魔物よ」
「いるんですか、そういう精霊って」
「まあ、稀にだけどね。土地のバランスが狂い、そこらの力が一気に精霊に吸い上げられ、過度な力に耐え切れなくなった精霊の自我が崩壊。小さな器に多くの水を入れたら溢れるのと同じように、吸い上げられた魔力が災害という形で放出されるの。それが1番効率のいい、魔力の消費法だからねー」
「バランスが崩れるってのは、どういうことなんですか?」
「うーん、何て言えばんだろうな・・・この世界は、魔力が大きな脈となって循環しているんだけど...。大規模な自然破壊とか過度な魔力の消費とか・・・まあ色々よ。それ1番の被害は、土地の魔力が枯れること。作物が育たない、生き物は住めない、異常気象も起きまくり。そんな土地になっちゃうわけよ」
龍脈みたいなもんか・・・世界の魔力の流れが崩れちゃうんだな。精霊はその土地の意思みたいなものらしいし、土地の影響をモロに受けるのだろう。
「だから、ツチオが私のことを心配する必要は一切ないのよ。私は精霊の中でも、かなり特殊なほうだから。そもそも、精霊が外の世界に興味を持つってのがおかしいわけよ。普通の奴は、自分の土地だけしか眼中にないし」
「へー、他の精霊様に会うことが出来たんですか?」
「ちょっと、機会があってね。この周りの海の精霊に会ったのよ。そいつから、色々教えてもらったの」
「へー、この周りの海にもいるんですね...」
「大海原だもんねー」
ペラペラ写真集をめくる精霊さん。こういうものが嬉しいんだ・・・司書さんから、写真を取る魔術を習おうかな。これは自然の風景だけだから、町の風景も見せてあげたい。
「何よー、ニヤニヤして」
「いえ、喜んでくれて嬉しいなーって。もう何種類かあったし、買ってくればよかったかな...」
「・・・ツチオは優しいわね、勘違いしちゃうわよ?」
まさに聖母のような笑みで、俺を撫でる精霊さん。この人、こんな顔も出来るんだなー・・・つうか、こっちのほうが精霊っぽいぞ。
「・・・残念精霊」
「な、何よその名前!私のどこが残念だってーの!?」
「今の姿がですよ・・・はあ、もったいない。ずっとあんな感じなら良かったのに」
「そんな生意気なこと言うんなら、用意しておいた贈り物あげないわよ」
「何かあるんですか?」
「ふーん、残念なんて言う失礼なツチオには、教えてあげませーん」
俺に背中を向けて、写真集を眺める精霊さん。むう、気になるな・・・残念精霊のくせに、生意気なー。
「その風景の解説、してあげませんよ?」
「べ、別にいいもん。見てるだけで楽しいし!」
「名前、場所、環境。知らなくていいんですか?どうせ、他の精霊様じゃ分かんないでしょうし」
「・・・分かったわよ、教えてあげるわよ。その代わり、ツチオもちゃんと教えなさいよ」
「もちろん、最初からそのつもりでしたし」
「まったく・・・私の加護をあげようとしてたのよ、そっちの2人にはないでしょ?」
影さんとニクロムを指差す精霊さん。ずっとどうしようかと考えてはいたんだけどね、さすがにもらいに行くってのが図々しすぎるからどうしようもなかったんだけど...。これで、加護の問題も解決かな。
「ルウたちにはくれないんですか?」
「もう竜の加護があるじゃない、それで十分よ。何事も、やりすぎは良くないわ」
「そうですか、それではお願いします」
「分かったわ、そーれ!」
影さんとニクロムの胸に、深緑色の球が浸透する。業火さんたちみたいに、相性的なものはないのかね?
「相性が悪かったら、加護を受け付けないからね。問題ないんじゃない?」
「見たところ、特に変わったところはないですし、特に問題はないみたいですね」
「よし、これで私の用事は済んだわ。ほら、約束通り説明なさい!」
「分かってますって、どれからにしますか?」
「これ!この真っ白いの、これって何なの!?絶対に異常気象じゃない!」
「別に異常じゃないですよ、れっきとした気象です。これは雪っていって、水が凍ったものなんですよ。寒い北国でしか見れないんです」
「雪・・・水が凍ったら、氷になるんじゃなかったっけ?」
「そうですよ、雪も氷の一種です。小さな小さな氷が集まって、1つの雪つぶになるんですよ」
「ここは南だから、見れそうにないわね。氷だって、見たことはないもの。それじゃあ、このきれいな帯は?」
「ああ、これは虹ですよ。光の色が空に映っていて...」
次々に写真について、尋ねてくる精霊さん。俺は暗くなるまでずっと、写真について精霊さんにお話していた。
キャラをまとめてほしいと言われたので、今回から後書きに1人ずつ書いていきます。急遽決まったことなので短いですが、そこらへんはご了承ください。それでは、最初は主人公のツチオから。
ツチオ(本名 御門土雄) 79話時点で19歳 男
日本からこっちの世界に落ちた高校生・・・だった青年。キサトさんと知り合って、学院へ入学した。
特に容姿などの特徴はない、黒目黒髪一般的な日本人?身長は平均(日本人)より少し高いくらい。170後半?
より強くなることに余念がなく、色々と魔術を勉強している。最近では、符術で自分から攻撃することも増えてきた。そのうち、ボッコボコにされる予定。死にはしないけど。
従魔には等しく接しているつもりだが、どうしても付き合いの長いルウやグイグイ来るライムとのやりとりが目立つ。やっぱり、数が多いと上手く回すのが難しい...。
スキル・魔術など
愛撫:撫でるのが上手くなる。なお、現在は主に夜戦で活躍している模様。書かないよ!
魔手:手で触れたものの魔力を操作する。かなり手慣れており、今では空気中の魔力を僅かだが感じられる。一部に集中させることで、相手を苦しめたり内部から破裂させるということも出来る。・・・あれ、魔手って強くね?
支援魔術:主に支援を目的とした魔術に関する才能。ツチオの場合、そこまで高くはないが想像力でカバーしている。最近は符術に置き換えられているので、出番があまりない。
符術:「コスパが良く、なおかつ使いやすい魔術具」として、呪符を使っているうちに習得したスキル。マンガみたいに、手に自由に呪符を出したりできるようになった。今のところ使える符術は、投げ符・壁符・爆符・土柱・火蜂(通常・軽・重)・雀蜂・岩蛇・金蛇(ニクロムの脚)・墜落符・岩壁。これからも増えるかもしれない。
こんな感じでいいんでしょうか?前失敗したから、勝手が分からなくて大変ですね。




