表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/113

コアの位置

キマイラの本体、コアはどこにあるのか。それが分からなければ、いくら攻撃したとしても無意味。魔力がなくなるまで再生しつづける。それを狙うという作戦もあるけど、キマイラの魔力量はかなり多い。こっちが切羽詰ってる以上、短期決戦が理想的だ。何とか、見破れないものか・・・触れば魔力の流れから、どこにコアがあるのか分かりそうだが、さすがに難しすぎるだろう。どこにもヒントがない以上、勘で当てるしかないのか・・・いや、ヒントはある。あいつが、キマイラだということだ。


「マスター、ご命令を」


ニクロムは俺の命令を待っている。どこにコアがあるか分かるまで、皆の応援に向かわせるか?いや、万が一行動不能に陥ってしまっては、完全に詰みだ。速攻でコアを潰さないと!


考えろ...。キマイラはエキドナとテュポンの子、ケルベロスやヒュドラが兄弟とされていたな。カリアの王のペットだったが、逃げ出して宮廷内で大暴れし、確かトルコ辺りに棲み付いて、出くわした生き物を残らず貪ったんだったね。脅えた人々が退治を求め、王は英雄ベレロポンを遣わした。英雄はペガサスにまたがり、キマイラの口の中を槍で突いた。穂先の鉛が炎の息で溶けてキマイラの喉を塞ぎ、死に至らせたんだったよな。中二病で良かったと、今ほど思うときはない。神話とか調べといてよかったー。


神話の中でのキマイラの倒し方は、鉛の槍で口を突くという方法。穂先が溶けて窒息させるのだ。ここから推測すると、本体は炎の息を吐く獅子の可能性が高い。獅子を倒せばいいのか?他に有力な可能性は・・・1つだけ、あるか。


この化け物のキマイラという名前、その名はそもそも「山羊」を意味するんだ。だから、神話の中では山羊の胴体を持っている。神話の死因から考えるか、そもそもの名前の意味から考えるか・・・どっちかといえば、死因のほうが可能性は高そうだけど、名前が「山羊」というのは無視できない。蛇は除外して、獅子と山羊に絞ろうか。・・・うん、2体なら何とかいけるはず。1体の倒し方は、もう分かってるんだしね。それで倒せたら万々歳、倒せなかったら残った1体を集中攻撃すればいい。それなら、さっそくやってみよう。まずは獅子、口を槍で突く!槍は俺が用意しなきゃいけないが・・・後1発、何とかやってやるさ。


「ニクロム、あの獅子はどういう時にブレスを吐くんだ?」

「戦闘中の敵がある程度離れた時、もしくは吹き飛ばしてからの追撃だと推測されます、マスター」

「分かった、お前はリンと交代して山羊の攻撃を引きつけてくれ」

「リンとは、どちらのことでしょうか?」

「ああ、まだ分からないか...。獅子を相手にしているの竜の魔人がルウ、山羊を相手にしているユニコーンがリン、黒い影が影さん。まだ名前が決まってないから、仮称だけどね。そして、蛇を相手にしているスライムがライム。皆俺の従魔だから、覚えておいてね」

「了解、個体別名称として登録します。影に関しては、影さん(仮)と仮称として登録します。変更する際は、申しつけください」


影さん(仮)か・・・ということは、影さんは俺のガールフレンドということに!?


「変なこと考えてないで、さっさと準備して!後、私は(仮)じゃないからね!もう一線を越えてるからね!」

「・・・!」ぷる!

「ブルゥ!」


ルウたちの文句はともかく、言われたとおりさっさと準備しないと。まずはリンをこちらへ呼び戻そう、ペガサスじゃなくてユニコーンだが、俺だけで近づくのは危なすぎるし。


「よし、いけニクロム!」

「了解、実験体2107号との戦闘を開始します」


足である蛇の体をくねらせて、意外にも結構な速さでキマイラへと接近するニクロム。やっぱ蛇だけあって、敏捷性は高いみたいだな。金属だから重そうだったけど、これなら問題なさそう。


ある程度山羊にまで近づいたニクロムは、両腕を構えて銃撃を開始した。布を裂くような音を上げて、両腕の機関銃から弾丸が放たれる。魔術とは段違いの連射に、山羊もリンを弾き飛ばしてニクロムへ光弾を撃つ。

ニクロムは撃ちっぱなしながら、スルスルと動いて光弾をかわしていく。追尾性能はないのか、床に着弾し爆発を起こした。


その隙に、リンが戦線から離脱。俺の元へと賭けてくる。目立った怪我はないものの、目に見えて疲労しているし魔力量も残り3割程度といったところか。影さんがいなければ、さらに消耗していただろう。


「疲れているところ悪いが、最後に2つ付き合ってくれ」

「ブル!」

「ありがと、獅子の口に符術をぶっこむ。もしかしたら気絶するかもだから、そん時は安全な場所まで運んでくれ。もう1つは、それが終わったら説明する」

「ブルル!?」

「ああ、気絶だ。ちょっと魔力を使いすぎちゃってな・・・今も結構辛いんだよ」


さすがに、いきなりの五芒星を描くのはキツかった。しかも弐重、負担も2倍だ。あと1回が限界だろう。何とか踏ん張ってはみるつもりだが・・・まあ、キマイラを倒すまでは気絶するつもりはないよ。最悪、魔力回復薬もあるんだし。不味いしジワジワとしか回復しないけど、気絶はしないだろう。


「そういうわけだから、さっさとやっちゃおう。ルウ!俺が合図したら、獅子の攻撃に合わせてわざと吹き飛んでくれ!ブレスを吐かせる!」

「吐かせたら、どうするの!?」

「口に符術をぶち込む!それで倒せたらおしまい、倒せなかったら山羊が本命だ!」

「分かった、やってみる!」


ブレスを吐かせる前に、符の準備はしておかないと。空中に符を丸く並べ、詠唱を始める。


「今回は金か。金は水を生じ、水は木を生じ、木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生ず」


符と符が魔力でつながれ、銀色に光る五芒星が完成する。残り少ない魔力がゴッソリと持っていかれ、まるで長時間マラソンしたかのような疲れが俺を襲う。もう寝て楽になってしまいたいが、目の前のキマイラの姿がそれを妨げる。こいつを倒さなきゃ、おちおち寝れもしないっつーの!


「今だルウ!」


キマイラが腕を振るうと同時に、ルウがわざと受け流し損ねて吹き飛ばされる。それを好機と見たキマイラは、ニクロムの推測通り息を吸い始めた。よっし、今だ!


リンが床を蹴って駆け出す。まだ放っていない五芒星も、俺について宙を飛ぶ。発動するタイミングが重要、ベストは槍が口に入ったところでブレスが吐かれるくらい!


「放て、星金!」


リンが獅子の真正面に躍り出た時に、俺は符術を発動する。五芒星を形作っていた符が集まり、一振りの長槍へと変化する。鋭く尖った穂先、柄も金属製だが放つだけなら問題ないだろう。全体に魔力を帯びており、五芒星の中で回転している。

その槍が、急速に回転しながら銀色の尾を引きながら放たれた。獅子の胸が大きく膨らみ、炎が放たれる直前、槍が獅子の口へ飛び込んだ。


「GAAAAAAAA!!!!???」


深ヶと喉に槍が刺さり、炎を吐きながら悲鳴を上げる獅子。すぐさまリンは後退していたので、俺たちのダメージはない。さすがの獅子も、口の中は柔らかいみたいだ。しかし、本命はその次。喉を塞げるかどうかだ。


炎を吐き続けていた獅子だったが、しばらくすると炎の勢いが弱まりやがて止まった。何やら吐き出そうとしているようだが、何にも出てこない。段々顔色も悪くなっていき、やがて白目を向いて床へと倒れこんだ。さあ、どうなる?獅子が本体なら、自壊するか再生が止まるか・・・何かしら変化が起きるはずなんだけど。


ライムが戦っている蛇の様子を見てみる。もう蛇は毒霧を吐かないようで、ライムも落ち着いた戦いを見せている。時々攻撃が掠ってヒヤっとする場面もあるが、ライムが戦いの主導権を握っていると言っても過言じゃない。

体でプレスしてくる蛇を後退してかわし、すぐに前へ飛び出して斬りつける。切り裂かれた皮膚から血が出て、煙を上げて回復していく。再生しているってことは、獅子は本体じゃない。本体は山羊だ!


「ライムはそのまま蛇の相手、それ以外の皆は全員山羊に攻撃!一気に障壁を破るぞ!」


ルウ・影さん・ニクロムが、同時に山羊へ襲い掛かる。リンは魔力的に厳しいもう1つやってもらいたいことがあるので、俺の足となってもらっている。俺の魔力も枯渇寸前だから、戦闘にはとてもじゃないが参加できない。ここから戦闘を見て、指示を出したりするくらいだ。


山羊を囲んで攻撃している皆だが、障壁は中々堅く破れない。あの障壁を破るには・・・かなり強力な攻撃をぶつけるか、全員で同時に攻撃するか。あの障壁、1度に使える魔力は決まっているみたいだし、複数個所を同時に攻撃されたら対応し辛いだろう。それに、他の場所が疎かになるしね。


「ふう・・・よし。ルウ、影さん、ニクロム。3人で同時多重攻撃だ、タイミングは俺が取る。自分が出せる最高の攻撃を放ってくれ」

「分かった!ブレスをぶっ放すよ!」

「遠距離での最高の攻撃・・・全兵装解放の許可を」

「一々俺の判断を仰がなくていい、自分の判断で行動しろ」


俺の指示を受けられない時だってあるだろうしね。そんな時に戦えない、なんてことにはなってほしくない。


「私には、まだ戦闘データの蓄積がありません。自分の判断では、最善の行動を取れないと考えます」

「別にそれでいいよ、最善の行動を取れるのなんて、ほんの一握りの人だけなんだから。戦った後、自分の戦いを見つめなおして、どこが駄目だったとかどうすればもっと良かったとか、そういうことを考えて次に活かせばいい。ただデータを取るより、そっちのほうがずっと良いと思うぞ」

「・・・私は兵器、マスターのご命令に従います。これからの戦闘は自分の判断で行い、戦闘後にログを確認。向上させるべきところを見つけ、次の戦闘では同じ行動を取らないようにします」


いや、そうなんだけど...。そこまで畏まらなくてもいいんじゃない?まあ、それは後で伝えておけばいい。今は、さっさとキマイラを倒してしまおう。


「全員、構えろ!」


ルウは手と手を合わせて腰だめに構え、影さんは空中にいくつも黒い球を作り、ニクロムは蛇の側面を開いて小型のミサイルの発射準備。マイクロミサイルっていうのかな?小さな筒状のミサイルが、蛇の中にぎっしり敷き詰められている。


「撃てー!」


俺の合図と共に、ルウの手から熱線が放たれ、黒い球から放たれた細い光線が合わさり1つの太い光線となり、大量のミサイルが白煙を引いて障壁へ衝突する。3箇所を同時に強力な攻撃に晒され、ブレスがぶつかっている場所からひびが入っていく。もう一押し!


「巡航ミサイル、発射準備完了」


ひとしきりミサイルを撃ち終えたニクロムは、蛇の前面を開く。そこから覗くのは、先ほどの物とは比べ物にならないほど、太く長く羽のついたミサイル。え、何あれ。トマホーク?パトリオット?


「発射」


蛇の腹からミサイルが発射、障壁のど真ん中へぶつかり、大爆発を起こす。その衝撃で障壁も破壊され、ついに山羊の頭が俺たちの眼前へさらけ出された。


「リン、最後の一撃、任せた!」

「ブルルゥ!」


ルウたちが反動で動けない中、俺を下ろしたリンが雷をまとって一気に山羊の頭へ殺到する。山羊が放つ魔術を避け、帯電しランスのようになっている角を山羊へと向け、一気に最高速で突っ込み、そのまま走り抜けた。後に残っているのは、顔の中心を吹き飛ばされてUの字になっている山羊の顔。


山羊に胴体が床に倒れこみ、床へ叩きつけられた蛇がのたうち回っている。見ると、肌や肉が腐り落ちていっていた。山羊が本体で正解か・・・ここで蛇だったら、さすがにどうしようもなかったぞ。


全ての肉が腐り、その場に残ったのはキマイラの骨と腐肉と腐臭だけ。・・・もう再生しないよな。はあ、何とか怪我もせず倒せた...。


戦闘が終わったと実感し緊張の糸が切れたのか、俺は床へ倒れこむ。岩で入り口を塞いで岩蛇を出して、さらに重符で五芒星を3回・・・さすがに限界だ。


「に、ニクロム...。この部屋は安全?」

「はい。私が保管されていましたので、索敵機の索敵範囲に入っていません。他の実験体も存在しませんので、この部屋は安全だと断言します」

「そうか・・・なら、少し寝るな」


それ以上、俺は瞼を開いてはいられなかった。意識が暗闇に沈んでいく中、最後に見えたのは明るい真っ白な光だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ