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キマイラ

前話の後書きで書いた映画、スターシップ・トゥルーパーズという映画でした。シロウさん、わざわざ感想を送っていただきありがとうございました。

「ルウ、そいつの頭は炎を吐く!気をつけろ!」

「どの頭!?」

「多分獅子、他のも何かやってくるはずだ!」

『第2966号の所有権は空白。第2966号の所有権は空白』


遺跡の地下の研究所で、巨大なキマイラと対峙した俺たち。かなりの大きさで、天井近くに頭が届きそう。4~5mはあるんじゃないか...。この魔力でこの巨体、マジで洒落にならないぞ。だけど、まだキマイラだったのは幸いだな。まったく見たことのない、初見の魔物だったらどうしようもなかったし。昔、本で読んだはず・・・確か、ギリシャ神話やローマ神話に登場する怪物だ。


「GYAAAAAA!!!」


キマイラの咆哮によって、俺の意識は思考から引きずり出される。考えるのは戦いながらだ、ボーっとしてたら殺される!


殺意にまみれたギラギラとした目で、俺たちを睥睨するキマイラ。目的は侵入者の排除、それを果たすべくキマイラが動き出した。


獅子の前脚が振り上げられ、山羊の眼が光り、蛇が大きく息を吸う。頭は別々に動くのか!?くっそ、それぞれ別に対処しないと!


「ルウは獅子の注意を引いて、攻撃を集めろ!ライムは蛇だ、何か吐かれる前に口を無理矢理閉じて!リンは山羊、多分魔術だ。撃ち落してくれ!」

『第2966号の所有権は空白。第2966号の所有権は空白』


それぞれに命令を出しつつ、キマイラを半円で囲むように岩蛇を作り出す。ここなら広さは十分ある、しっかりと活躍してくれるはずだ。


俺たち目掛けてて振られた獅子の前脚を、ルウが体全体を使って受け止める。地面が陥没するほど力を込めているが、それでもルウの力は及ばない。一気に腕を振りぬくキマイラ、宙へと弾き飛ばされたかのように見えたルウだったが、どうやら自分から飛んだらしい。すぐさま空中で体勢を整え、獅子の頭を真上から殴りつける。


山羊は青い光弾をいくつも放ってくるが、リンは雷の矢で1つずつ的確に潰していく。山羊の眼が点滅するたび、数を増やしていく光弾。リンも矢の量を増やすがこのままでは魔力で負けると分かっているからか、矢を撃ちながら山羊へと突進する。山羊の頭が半透明の壁に覆われ、リンの角を受け止め火花を散らす。山羊はやっぱり魔術戦闘だな、頭しかないのだから当然っちゃ当然か。


蛇が吐いたのは。毒々しい紫色の霧だ。どうやら毒のブレスらしいが、ライムに触れると見る見るうちに体の中へと吸い込まれていった。ライムの体色は紫へと変化し、腕や足へ濃い紫の線が走っている。

霧を吸収し切ったライムは、蛇の頭へ飛び乗り爪を頭に突き刺す。そして、そのまま体を走り蛇へ斬撃を刻んでいく。蛇は噛み付いたり体で締め上げようとするのだが、ライムは細やかに体を変形させてすり抜ける。特に問題はなさそうだけど・・・1歩間違ったらライムは瞬殺されるような化け物相手だ。普段のライムなら、相手の攻撃がギリギリ届く位置で待ち受けて、相手が攻撃してきたところにカウンターを入れていくだろうに...。ブレスを吸収したことで、魔力が高ぶって興奮しているのか?岩蛇たちにフォローさせとこう。


「ツチオ、こいつおかしい!ちゃんと殴ってるのに、全然効いてない!」

「・・・!」ぷる!


地面に叩きつけた後、獅子の顔に連撃を叩き込んでいたルウ。それなのに、ダメージが入っていない?獅子は苦しんでるから、ちゃんとダメージは通っているはず。それなのに、全然効いていないとはどういうことだ?

ライムもそれに同意している。蛇の体を見てみると、ライムが傷をつけた体が煙を上げながら再生していた。


「こいつ、時間が経つと回復するみたいだぞ!一気に倒すしかない!」

『第2966号の所有権は空白。第2966号の所有権は空白』

「それは・・・ちょっと厳しっ!?」


今まで殴られっぱなしだった獅子が、殴られながらも腕を振るってくる。腕で防御するルウだったが、獅子の爪は相当鋭いらしい。鱗を切り裂き、血が流れている。

吹き飛ばされ下がりつつ着地するルウ。距離が離れたのをいいことに、獅子が蛇のように息を吸う。ヤバい、ブレスが来る。蛇の毒霧みたいに、ライムに吸収させることが出来ない!


獅子の口から、真っ赤な炎が勢いよく吹き出る。ルウは、腕を交差させて腰を落とし耐え切る構え。ルウの耐火性はかなり高いが、さすがにただの炎ではないだろう。直撃は避けたいところだ。


ルウを数体の蛇が囲み、炎を防ぐ壁となる。中はきっと高熱だろう・・・あまり長引かせるわけにはいかない、さっさとあの口を閉じさせないと!

獅子の頭上と真下に符を投げ込む。上下から土柱が突き上がり、獅子の顎と鼻っ面に直撃した。大したダメージはなさそうだが、口内をブレスで傷つくのを恐れてか、ブレスを止める獅子。その隙に蛇たちがとぐろを解き、ルウが俺の元へと後退してきた。


「はあ、はあ・・・ごめん、ツチオ」


いくら火に強いルウといっても、あそこまで熱いのは身体的に厳しいみたいだ。顔は火照り息が荒く、体中から汗が噴出している。

ルウの体に1枚の符を貼り付ける。ハロさんの符を真似た、体力回復促進の符だ。俺は回復魔術は専門外なので、こういう効果の符はあまり作らない。こんな符を使うより、俺が魔力を操ったほうが効率がいいしね。この符には冷却効果も付加されているので、こんな場合には役に立つ。まあ、簡単に言っちまえば冷えピタみたいなものだ。


『第2966号の所有権は空白。第2966号の所有権は空白』

「あ、気持ちいい...」

「そんで、ほら」


符から水を出し、ルウに飲ませる。魔術で作った水はあまり飲むのに適していないんだけど・・・今回はしょうがない。脱水症状は怖いしね。


俺がルウに応急処置を施している間、蛇たちが獅子の気を引いている。体を砕かれつつも、果敢に獅子へと噛み付く蛇。悪いが、もう少し頑張ってくれ...。


「もう大丈夫、行くね」

「ああ、無理はするな。厳しかったら、すぐに言えよ」

『第2966号の所有権は空白。第2966号の所有権は空白』


ルウが床を蹴り、獅子の頭に蹴りを見舞う。ライムは蛇相手に危なっかしい戦い方をしているし、リンは山羊と突進を交えて互角の魔術戦を繰り広げている。だが、魔力量の差は明らか。山羊には障壁があるから、今のところダメージは与えられていない。くそ、このまま消耗戦をやってちゃこっちが削りきられる。一度に強力なダメージを与えなければいけない・・・こいつ相手に効くとしたら、ルウのブレスくらいだろう。でも、さっきの火炎でルウの体力はかなり消耗している。魔力的にはいけるだろうが・・・その後、戦闘はさすがに厳しいだろう。このままってわけにもいかないし、どうすりゃいいんだ...。


『第2966号の所有権は空白。第2966号の所有権は空白』

「だー!もうさっきからうっさいな!もう、あんたが今誰の物ではないのは分かった...」


いや、待て。何で、さっきからずっとこんなのが流れてるんだ?こんなの、流す意味はないだろう。もしかしてこの人、意識があるんじゃないか?第2966号ってのは、多分この人だろうし...。ってことは、所有権を明確にしてほしいのかね。確か、所有権は取得者に移行とか言ってたよな...。


「皆、少し時間を稼いで!ライム、もうちょっと落ち着いて戦えよ!おい、もし俺がその人を取得したら、俺の物になるのか!?」

『はい、第2966号は拾得した人物の所有物となります』

「その人は、戦うことは出来るのか?この何だっけ・・・2107号を倒すことは出来るか!?」

『いいえ、第2966号はまだ未完成。第2966号は汎用戦闘兵器として開発されました。状況に応じて、腕部と脚部を換装する設計となっています。腕部は試作品が数個完成し保管されていますが、脚部は未だに開発されていません。脚部がなければ、戦闘能力が著しく低下します』


っち、使えねぇな・・・でも、とりあえず今は何でも使わなきゃ勝てないか。


「その腕部ってのは、どこに置いてあるんだ?」

『隣の保管室です。ですが、中には数体の索敵機が数体、待機状態で保管されています』


あの機械虫がいるってことか・・・おい、確かあそこって影さんに確認させてたよな?戦闘が始まってからずっと出て来ないのは、そいつらにやられて・・・いや、それならすぐに察知できるはず。


「脚、脚か...」


ふと、今も戦闘中のルウたちが目に入る。爪を潜り抜けブレスをかわすルウ、蛇の牙に掠りながらも斬り続けるライム、山羊と魔術を撃ち合っているリン。そして、彼女らへの攻撃の盾となったり、自ら攻撃したりしている蛇たち。・・・あれ、使えるかもしれない。


「おい、その脚の形状というのは何でもいいのか?」

『脚として使えるものであれば、第2966号が自動で自分の体へ合うように変化させます。素材は金属製、それも第2966号の骨格と同じものでなければなりません。索敵機の機体や、それらに付随している銃器類がそれに当たります』

「その金属製なら、基本的にどんな形状でも問題ないわけだな!肉体は大丈夫なのか!?」

『はい。体は魔物研究から作られた、特殊な進化細胞で作られていますので、自動で進化、適応します』


これならいける。でも、そのためには、外で押さえている索敵機を倒さなければならない。倒せるのか?・・・このままじゃ、さすがに勝ち目がない。やるしかないか。


「影さん」


俺が一声呼ぶと、すぐさま影さんが足元に現れる。あっちにある物を回収し続けてたのか。どうやら明かりがないらしく、機械虫たちが影さんを捉えられないのをいいことに、一方的に倒したようだ。


「回収は全部終わってる?まだか、なら向こうにある物を全部持ってきてくれ。容量は大丈夫?おし、平気なら頼んだ」


再び影さんが保管室へ戻る。よし、いっちょ気合入れていくか。正直、俺の魔力が持つかギリギリってところだろう。ルウたちが頑張ってるんだ、俺だって体を張らないと。


「今、外にはどれくらいの数の索敵機がいる」

『恐らく12機、今稼動している機体が全て集まってきています』

「12機・・・何とかなるかな」


空中に重符を円形に配置、それを2組俺の目の前に作る。さて・・・やろうか。


「まずは右側の火。火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じ、水は木を生じ、木は火を生ず」


順繰りに符と符が線で繋がり、空中に赤色の五芒星とそれに外接する円が描かれる。ふう・・・早く次に移らないと。


「次に左の木。木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じ、水は木を生ず」


今度は緑色の五芒星と円が描かれる。そんじゃ、やっちまいましょう。


「茂れる樹木を糧として、盛れ輝け弐重星火!」


緑五芒星が吸い込まれると、赤五芒星がドクンと脈動し赤く輝きだす。チリッと火花が散ったかと思うと、魔力がみるみる高まり星が燃え上がった。


半分以上の魔力を1つの符術につぎ込みんだせいか、一瞬めまいが俺を襲う。まだ・・・大丈夫、問題ない。意識はしっかりしているし、気持ち悪くもないからいける!


「喰らいやがれ、火は金に剋つ!」


五芒星が火の重符へと吸い込まれ、そのまま入り口へと放たれる。符は溜め込んだ魔力のためか、少し焦げているもののまだまだ耐えている。星2つなら、高級紙の符でも何とか使える。これで、あの索敵機どもを吹き飛ばすぜ!


入り口に置いた符を手元へ呼び戻すと、岩も地面へと砕け落ちる。腹に抱えている銃で岩を壊そうとしていたらしく、索敵機たちは入り口を囲んで群がっていた。その中に符が飛び込んだのを確認する前に、目の前に土の壁を作って身を屈め耳を塞いだ。


次の瞬間、部屋中に大爆音が轟き、壁を回りこんで熱風が吹き荒れる。続いて、壁に何かがガンガンぶつかった。何々、何がぶつかってんの!?索敵機!?


あまりの爆発の激しさに、キマイラまでもが呆然としている。これをキマイラにぶつけたほうが良かったかな・・・いや、それだと皆が巻き込まれちゃうから却下かな。まあ、これでどんくらい爆発するのかは分かったし、タイミング合わせて下がってもらえれば大丈夫だろう。


壁に何かがぶつかる音も止んだので、立ち上がって入り口のほうを見る。どうやら壁まで爆破してしまったらしく、入り口は大穴と化している。その周りに、表面の装甲が焦げたり溶けたりしている索敵機どもが転がっていた。全機、真上から爆炎を食らったため、その場に陥没している。それだけ激しい爆発だったんだな...。壁にぶつかってたのは、入り口付近の破片か。見た感じ、粉砕している機体はないからね。脚が曲がってたり、単眼がぶっ壊れてたりしているやつはいるけど。


突然粟立つ背筋、反射的に符を盾にすると、山羊が放ってきた光弾と衝突して燃え散った。今の攻撃で、キマイラにマークされてしまったようだ。獅子と蛇はブレスの構えだ。

だが、獅子の顎をルウが殴り上げ口を閉じさせ、蛇の口に膜状に変形したライムが張り付いて、毒霧を吸い取っていく。最初に吸い取った霧が、ようやく抜けそうだと思った瞬間これだよ・・・またもや紫に染まるライムの体。またしばらくはハイになるんだろうな。


俺へと魔術を撃ち続ける山羊だったが、突進してくるリンは無視できないからか、まずはそっちを倒すことにしたみたい。リンの魔力も、既に半分を下回っている。キマイラ自体とルウたちの技量はそこまで開いてないが、多量の魔力と再生能力に消耗戦を強いられている。このままじゃ、俺らが押し切られるのも時間の問題か。


「影さん、そっちは終わってるね。廊下に散らばってる機械虫たちを、全部ここへ運んできてくれ!あと、高級紙をちょうだい!」


俺へ紙ロールを投げて、入り口近くにいる機械虫を呑みこんでいく影さん。使える物は全部使う、2966号の脚を作ってやろうじゃないか。


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