地下遺跡
鉄の檻改め魔術エレベーターが、光る輪の中をゆっくりと地下へと降りていく。遺跡の隠し部屋にあったこれは、どんな所に繋がっているんだろう。古代文明の遺産、こんなふうに隠してるんだから、公には出来ないんだろうけど...。まあ、今は隠れてたけど昔は普通に使われてたって可能性もあるし、見ないことには断言は出来ないな。
しばらくして、どこかの小部屋へと降り立つ。床には魔法陣があるので、まだまだ下があるのだろう。扉を開けて部屋へ足を踏み入れると、上の隠し部屋と同じように四隅に明かりが灯る。
俺たちの目の前には、何やら鋼色のSFチックなこの世界には似ても似つかない扉が。どこにもノブはなく、横に引くための凹みも存在しない。
「押しても全然動かない・・・影さん、隙間からは?駄目か...」
「うーん・・・ビクともしないや。壊してみる?」
「いや、とりあえずもう1つ降りてみよう。もしかしたら、開いている扉があるかもだしね。どこも開いてなかったら、上に戻って壁をぶっ壊そう」
「ブルル?」
「ここは地下だから、上が崩れてきたら逃げ場がない。生き埋めになるのは勘弁だしな。力技で壊すのは止めよう」
檻へと戻って扉を閉める。どうやって上下を選ぶのか分からなかったが、下りてくれたので良しとしよう。
地下2階も、地下1階と同じような部屋に下りた。四隅に明かり、目の前にSFっぽい扉。押したり引いたりしてもたものの、案の定開かない。まだ下の階はあるみたいだし、そっちに賭けてみるかな。
どうやらこの地下は3階で打ち止めらしい。床に魔法陣がないからな。ここも上と同じような部屋だったが、1つだけ大きな違いがあった。扉が外側から壊されていたのだ。壁ごと抉れて、後ろのほうに転がっている。
「この扉を壊したの、誰だろう...。かなり頑丈なはずなのに」
「古代の遺跡だし、魔獣がいたとしても死んでるだろ・・・どうする?行きたくないなら無理強いするつもりはないけど」
「・・・!」ぷるぷる!
「ブルゥ」
「そうだよ、ツチオが行きたいところが私たちの行きたいところ。私たちのことは気にしないで」
「そんなことは言ってもな...。何か変な気配はあるか?」
「特には感じないよ。何か変な臭いはするけど・・・魔獣のものじゃないと思う」
「・・・そんじゃ、ちょっと見てくるかな。こんないかにも魔術具がありそうな場所、探らないのはもったいなさすぎる。でも、いつでも逃げられるよう、この部屋までのルートは覚えとかないとね」
とりあえず、壁に目印でもつけながら歩こう。マッピングは・・・影さんが覚えといてくれるか、ありがたい。そっちは全部任せちゃおう。
地下3階は、そこそこ広い廊下に多くの扉がつけられていて、何やら研究所のような空気を漂わせている。たまに廊下が壊れていたり血痕があったりと、戦闘の後が見える。うーん・・・もしここが研究所だったなら、技術を狙って何者かに襲われたとか?何にしろ、血を見るような研究をしていた所なんだ。十分に警戒しておくべきだろう。
廊下にある扉は、今まで見たところ全て開いていた。さっきのエレベーター室のように無理矢理ではなく、ちゃんと収まるべき場所に収まっている。正しい手段で開かれたのだろうな。
地下にあった部屋には、何かよく分からない機械や何て書いてあるか分からない書類などが大量に置かれていた。なかにはガラス張りの実験室のようなところや、頑丈な金属で囲まれた部屋、カプセルが並び中に変な生物の死体が入っている部屋...。分からないことだらけだが、絶対に堅気の研究所ではないと思う。
「ツチオ、これも持って帰る?」
「ああ、影さんの容量も増えたし、かなりの量を持ち運べるらしいからね。書類はかさ張らないから、他にもいろいろ持って帰れるよ」
「・・・」ぷるぷる
「ブルル!」
「そっちにも部屋があったのか。影さん、俺はここの部屋を調べるから、ライムたちについていって見てくれ。しまえそうなら、勝手にしまっちゃっていいよ」
進化した影さんは、さらに行動範囲が広がったらしい。まあ、ここはそんなに離れてないみたい問題ないな。危なそうなものを自分の中にはしまわないだろうし、影さんに一任しちゃっても大丈夫だろう。
そうやって、部屋を巡っている途中、廊下を歩いている時にどこからか「カシャン、カシャン」と、金属が地面につくような音がどこからか聞こえてくる。ルウたちを止めてその音の出所を探していると、段々音が大きくなっているのが分かる。こっちに近づいてきてるのか・・・とりあえず、手近な部屋に隠れよう。
すぐ側にあった部屋に隠れ、入り口から廊下の様子を伺う。やがて、T字路の左側から蜘蛛っぽい機械が現れた。・・・古代文明ってのはSFだったんだなー。進歩した科学は、魔法と見分けがつかないとはよく言ったものだね。こっちは、進化した魔法は科学と見分けがつかん。
平たい胴体から、6本の脚が伸びている。先からは顔が飛び出ていて、レンズっぽい単眼がキョロキョロと辺りを見渡しているな...。
大きさは廊下の8割を塞ぐほど、中々の大きさだ。腹の下には銃器を抱えており、恐らくそれが武器なのだろう。何で銃がここにあるんだ、いやあんなメカがあるんだから銃器くらいあってもおかしくないか。むしろ、もっと高度な物があっても不思議じゃない。
機械虫は、俺たちのいるT字路の下側へは見向きもせず、そのまま右側へと通り過ぎていった。ふう・・・危なかった。あんな訳分からなさそうな奴、相手にするのは怖すぎる。あれが騎士団が相手にした魔獣なのか?よく倒せたねぇ...。
「あれが騎士が倒したって魔獣?結構魔力を持ってたけど...」
「・・・」ぷるぷる
「うん、出来れば戦いたくないね。でも、どうしても戦わなきゃいけない時は・・・脚と目を潰そうか」
「ここの充満している臭い、あいつの体から出ているのと同じだ・・・でも、これって絶対魔獣のじゃないのに...」
「多分、あいつは魔獣じゃないんだろう。ここを守るために作られた・・・まあ、ゴーレムみたいな感じかな?」
魔力を燃料にしている機械ってことは、多分ゴーレムなんだろう。そんなら、どっかに核を持っているのかな。いや、よくは知らないんだけどね。岩蛇や雀蜂、あれもゴーレムの一種といっていいのか?魔力で動いてるし符という核もある、今度詳しく調べてみるか。
「上のは騎士が倒したみたいだけど・・・あれと同型だったのかな。くそ、ちゃんと聞いておけばよかった...」
「まあ、索敵能力はあまり高くないみたいだし、音で近づいてくるのも分かる。すぐ隠れれば大丈夫だよ」
「そうみたいだけど・・・あいつのセンサーが何を捉えるのか、把握したいな」
考えられるものは、視覚・魔力・熱・音かな。まあ、こんな静かな中で気づかないんだし、視覚だけなのかも。それか、どれも精度が悪いだけか。確認しようがないけど、部屋に隠れてれば、見つからないみたいだしね。
「あれ以外にもいるはずだ、気をつけて探索しようか」
「うん、ここの臭いと似ているけど強さが違う。近づいてきたら、音が聞こえる前に分かるはず」
「・・・!」ぷる!
「ブル」
「おっし、臭いと音と魔力で分かるんなら大丈夫だね。行こうか」
しっかし、あういう奴等がいるんなら、どっかに武器保管庫とかあるんじゃないだろうか?・・・ちょっと、探してみるかな。ここには2週間いる予定だし、最悪ここで何泊かしようかな。地下2階や1階なら安全だろうしね。生徒が消えたと騒ぎにはなるだろうから、出来れば今日の夜中には上に戻りたいけど。
それからしばらく地下3階を数時間歩き回った結果、武器保管庫を見つけることは出来なかった。途中、何度が機械虫と遭遇したが毎回隠れてやり過ごし、1度も戦闘は行わなかったね。多分、戦闘が起こったらすぐさま機械虫が集まってくるんだろうな。
「影さん、もう他に回ってない所はないんだよな?四隅は確認済みだね。そんで、ここはエレベーター室の真逆、地下3階の最奥だ。ってことは、ここが地下3階の中心ってことになる。途中にもいくつかエレベーター室っぽいとこや、階段っぽいものもあったけど・・・どれも使えそうにないんだよね...」
エレベーターは壊されていて魔法陣がズタズタになっており、階段は崩れていた。だから、上へと戻れるのは乗ってきたエレベーターだけ。真逆の方向だ。もしこの部屋に何かあったら・・・逃げるのは、相当難しい。
「影さん、ここからエレベーター室の最短通路は分かってる?よし、それなら大丈夫だね」
扉の外から、部屋の中をこっそりと覗く。ここから見えるのは・・・大きなカプセルとその中に充満している液体、そしてそこに浮いている人影だな。両脇には多くのディスプレイがあり、その下には何らかの台が。右手には扉があり、今は開いている。ここからじゃ中は見えない・・・左手には何にもない。ただ壁があるだけだ。しっかし、随分と大きな部屋だこと。地下のくせに、天井も滅茶苦茶高いし。何のための部屋なんだろうね...。
「周囲に魔獣は?」
「臭いと音はないよ」
「こく」
「ブル」
「よし、感知出来る範囲にはいないなら問題ない。まずは入ってみようか」
大部屋の中へと入っていく。入り口から見えたカプセルは、近くに行くとかなりの大きさだと分かる。何というか・・・よくアニメや漫画に出てる、被験体を入れておくものみたいな感じ?周りのディスプレイには、意味不明な図形や文字が羅列しているし...。
カプセルの中に入っていたのは、四肢のない女性だった。死んだように眠っている美人さん、耳はなくセンサーらしき角っぽいのがついている。肌は生気がなく真っ白で、腕や脚には何故か切れ込みが入っていた。本当に死んでいるかのようだな。髪も肌とそろって透明感のある銀髪、肩にかかるくらいの長さでフワフワと水中に浮いている。体には、何か紋様が描かれた布が巻きつけられていて、体の様子を見ることは出来ない。首や腹など、体中に刺さっているコードが痛ヶしいな...。
欠損している四肢は、どうやら怪我とかではないらしい。二の腕の半分辺りから、機械の部品が覗いている。下半身は、太ももの付け根辺りからだ。
「この人、何だろう...。腕と脚がないし」
「カプセルの中にいるしね。うーん、こっちのことは見えてないみたいだな」
ディスプレイの下にあった台には、キーボードらしきものたパソコンのモニターらしきものが置いてある。この画面に映ってる内容を、上のディスプレイに映すんだなー。
「影さん、ちょっと向こうの部屋を見てきて。危なそうだったら、すぐに戻ってきてね」
影さんが開いているドアへと入る。さて、どうしようか・・・このモニターをつけてみるかな。
まあ、どこのボタンを押したらつくかどうかなんて、分からないんだけどね...。適当に押すのも怖いし。地球のだったら、コンピュータの電源をつけないといけないんだけど...。お、これがそうじゃないかな?どこの世界でも、パソコンの仕組みってのは変わらないな。
ブゥンと、いきなり全てのモニターが白く発光する。カプセルの中にボコボコと泡が上がり、中の人が1回大きくビクン!と震える。え、いきなり全部つくの!?1つじゃないの!?
『総合研究室内に魔力反応、合計5個・・・波長確認。人間1人、魔人1体、魔物2体、その他1体。魔力接続から従魔であることを確認。敵対意思は確認されず』
突然部屋に響く無機質な音声、何やらスキャンか何かをされたみたいだ。というか、その他ってなんだよ!敵対意思まで確認できるとか便利だな!
『最終命令、試験型機械人間第2966号の廃棄。所有権は空白、拾得者へと移行。・・・迎撃機能作動、ランク最大。目的、侵入者の排除。迎撃機能作動、ランク最大。』
耳障りな警報が鳴り出し、何にもないと思っていた左側の壁が割れていき白煙が垂れ流れる。よく見たら、ギザギザの線が入ってるな。というか、何でいきなりランクが最大なんだ!色んなことがありすぎて、頭がパンクしそうだね!
「っ!ツチオ、あの魔獣が沢山こっちに寄ってきてる!」
「くそ、ルウたちはそっちから出てくる奴を警戒!俺が入り口を塞ぐ!」
入り口に呪符を囲むように配置し、一気に魔力を注ぐ。地面から岩塊が競り上がって、入り口を完全に密閉した。これを使うのはあの魔物以来だな・・・今回はあん時より小さいから、その分魔力も圧縮されている。そう簡単には破られないだろう。
そうしている間に、壁が完全に開き中から膨大な魔力があふれ出す。こりゃ・・・ヤバげだな。駆竜以上の魔力だぞ...。
「GAAAAAAAAAA!!!」
その魔力の主が咆えると、白煙が吹き飛びその姿を俺たちに晒す。巨大な獅子の頭と前脚、巨大な山羊の胴体で背中には頭がついていて、後ろは大蛇がくっついていて頭が尻尾のようにうねっている。3種の魔獣の融合体、この部屋が無駄に広かったのはこいつを暴れさせるようにするためだったのか。
『実験体第2107号、戦闘開始』
古代の遺跡の地下で眠っていたのは、「ありえないもの」の代名詞、キマイラだった。
多脚ロボはロマンです。虫とかも格好いいですよね。名前は忘れましたけど、そういう虫が大量に出てくるSF映画がありました。また観たいです。