ユクリシスさんからの連絡、そして戦争の終わり
骸骨戦士の頭蓋の中に、雀蜂が魔力を注いですぐに離れる。内部から爆発し、頭蓋骨が木っ端微塵に砕け散った。骸骨戦士を倒すには、頭を潰すのが最も確実な方法だ。そのため、雀蜂の攻撃は非常に有効といえる。他の骸骨戦士たちも、雀蜂のよってどんどん爆破されていく。
「臭い臭い臭いー!!!」
「・・・」ぶるぶる
前の方では、ルウが炎の鎖を振り回し屍人を焼き切っている。あんまり近づくと、鼻が利かなくなるからだそうだ。まあ、臭いから近づきたくないってのもあるんだろうがな。周りの木も切られているため、ルウの通ったところはまるで台風の通りみちのようだな。ライムは普通に斬ったり殴ったりしているのだが、魔術で肌を保護しているみたいだ。腕を振るって血肉を飛ばすその姿は、恐ろしくも美しい戦乙女のようだ。まあ、普通に人から見たら怖いだけなんだろうけど。
要塞について数日、騎士団は集結し外国からの援軍も到着したが、いまだにユクリシスさんからの連絡はない。そろそろ学院に戻らないと、新学期に間に合わないんだが...。この森で狩りもしたいんだけど・・・出来れば、明日明後日には来て欲しいな。あ、外国からの援軍はまたレギットさんたちだった。第1騎士団ってのは、精鋭揃いだからかあまり仕事はないらしい。いざという時に、動けないと困るからね。「校長にもよろしく言っといてくれ」と、レギットさんたちから色々とみやげ物を渡された。何で俺に持たせるんだよ・・・妖精領製の杖とか洞窟国製の装飾品とか何か高級そうな酒とか、渡されても困るんですけど!いや、ちゃんと渡すけどね!
今日も道沿いに森の中を進んでいたのだが・・・またもや魔獣たちが囲もうとしてきた。屍人に骸骨戦士に・・・トレントもいるみたいだな。数が少ないから、影さんとリンで十分みたいだね。
俺の方にやって来ていた幽霊を、符を投げまくって倒していく。どうやら、普通の符でもダメージが通るらしい。土柱を突き出し、それをかわして隙が出来たら投げ符で止めを刺す。紙耐久の幽霊だ、防御されなければ一発だよ。
「ここ、トレントの森なんだよな。死霊系のほうが多くないか?」
「でも、出る時はいっぱい出るよ。魔獣にも色々あるし」
「・・・」ずるずる
「お、そっちにもトレントがいたのか。影さん、ライムがトレントを持ってきてくれたよ」
両手にトレントを持って、わざわざ俺のところまで引きずってきたライム。こっちに戻ってきた影さんの体に、トレントを叩きつける。ズブズブと呑みこまれていくので、ダメージは入ってないだろうけど...。まあ、戦闘後だったから少し気が立っていたのだろう。注意しなくても、ライムなら分かっているはずだ。
「ここなら魔獣も強いと思ったんだが・・・死霊系が多くて、あまり影さんにとって良い狩場じゃないな」
「ブルルルゥ」
「だな、トレントが出てくれりゃいいんだが・・・はあ、またか」
影さんの死霊ソナーに、複数の反応が引っかかる。まあ、今回は少ないほうだな。死霊系の魔獣というのは、どこからか湧き出しているような感じ。あれだ、ゲームとかでモンスターが突然虚空から出現するみたいな。
「・・・」ぷるぷる
「それと同時に、トレントたちも行動を開始か...。まったく、示しを合わせて動きやがって。ルウ、どうだ?」
「うーん、特に臭いはしないね」
「屍人は除外か。そんでこの速さ・・・幽霊は結構足が遅いから、こりゃ骸骨戦士かな」
「それじゃ、私たちはトレントの相手をしてくるね」
「おう、行ってらっしゃい」
ルウたちがトレントたちの中へと突っ込んでいき、この場には俺とリンだけが残された。影さんもトレントのほうに行ったのか、少しでも成長したいんだろうな。
「さてと、骸骨戦士も結構な数いるな・・・雀蜂さん、お願い」
符が空中で燃え上がり、火の雀蜂となる。まだ作ったばかりなのだが、この森で大活躍だな。ひらけた場所じゃないと、岩蛇は使い辛いんだよね...。
木々の間をすり抜けて、骸骨たちへと迫っていく。俺もリンに乗って、骸骨たちの中へと突っ込んでいった。リンは骸骨を蹴り飛ばし踏みつけ、俺は重い火蜂で吹き飛ばしていく。距離が近いから、重い火蜂でも当てることが出来る。骸骨たちは各々武具を持っているのだが、盾の上からでもダメージを与えられるのが重い火蜂のいいところだ。
「・・・ブルルゥ!」
「え?うわっと!?」
真横から矢が飛んできたので、慌てて壁を張って防御する。危っぶな・・・リンの警告がなけりゃ、頭に突き刺さってたぞ。矢の飛んできた方を見ると、弓を装備した骸骨が再び弦を引き絞っている。
軽い火蜂を複数飛ばして、弓持ちの骸骨を吹っ飛ばす。1体辺りは小さくとも、数が多くなれば重い蜂にも負けない。蜂が到達する前に矢を放ってたみたいだけど・・・1体が身を挺して守ってくれてたんだな。感謝です。
「骸骨たちは・・・よし、全滅したな。ルウたちの方は終わったかな」
骸骨たちを倒し終わったので、ルウたちのほうへ向かおうとしたのだが...。俺たちとルウたちの間には、俺が見ても分かるほどトレントたちが蠢いている。おいおい、ルウたちの攻撃を抜けてきたのか?向こうのトレント、思ってたより数が多かったのか...。
「ブルル、ブルルル!」
「囲まれそう?そんなにトレントがいたのか?」
「・・・ブル」
「いなかったってことは・・・俺たちが戦っている間に、来たってことか。くそ、してやられたな」
この分だと、恐らくルウたちのほうも囲まれかけているだろう。周りを見渡しても・・・もう隠れる気はないようだ。多くのトレントたちが、ジリジリと迫ってきている。そうこうしているうちに囲まれちまったな...。
「こっちは俺とリン、本気で突進すれば何とかルウたちと合流できそうか?」
「ブルルゥ...」
「厳しいよな、向こうだって囲まれてるんだし。まあ、向こうは大丈夫だろうが...。一斉突撃かな」
「ブル」
両手一杯に符を取り出し一気に空中にばら撒くと、一斉に点火して火蜂となる。空に現れた蜂の大群、暗い森の中を煌々と照らす。
「さっすがに・・・この数を出すのは厳しいな。軽い火蜂にすりゃ良かったかも...。まあ、出したからには使わないともったいないし・・・フルファイア!」
蜂たちが散開してトレントたちへと突撃し、俺らを囲むように爆炎の花が咲く。直撃して燃え上がりのたうちまわるトレントたちへ、まだ残っていた火蜂たちが追撃。あっという間に囲みは瓦解した。
「あっちゃー・・・ちょっとやりすぎた?」
「・・・ブルル」
燃えるトレントたちが暴れ、周囲の木々へと飛び火。火の海ってほどじゃないけど・・・まあ、ここは結構湿気てるし大丈夫だよね!
「とりあえず、ここにいたら危なそうだしルウたちの応援に行こうか」
「ブルゥ?」
「だ、大丈夫だよ、きっと。生木だから」
「ブル...」
リンのジト目が痛い...。しょうがないじゃん、囲まれてたんだし。ほら、さっさとルウと合流するぞ!向こうの様子も知りたいし!
燃えているトレントたちを避けて、ルウたちのほうへと向かう。少し進んだところで、こっちへと来ているルウたちとバッタリ遭遇した。
「・・・!」ぷるぷる!
「おっとっと。どうした、ライム?」
「・・・・・・・!」ぷるぷる、ぷるるるん!
「爆音?ああ、それは俺がやったんだよ。だから大丈夫、まあ火蜂の符はかなり使っちゃったけど」
「それならいいんだけど・・・それにしても、あのトレントたちは何だったんだろうね」
「狙ってたんだろうな。見た目に反して、頭の良い魔獣だこと。あ、影さん向こうはどうだった?まだ結構生き残ってたんだ・・・へー、変なのがいたの。もしかしたら、上位種だったり亜種だったりしたのかもね」
いくら頭が良くても、あの数が統率の取れた行動を取るのは難しい。きっと頭になる魔獣がいたんだろうなー。
「まあ、そんな魔獣なら生きてるだろうな。結構ダメージを負っていたんだ・・・そこだけ火蜂が集中してたんだ。結構狙ってるんだな...」
今回の襲撃で、影さんは結構な数のトレントを呑んだはず。大量の火蜂を投入したかいがあったな。
「結構符を使っちゃったし、今日はもう帰ろうか。影さん、もう行けるね。移動しながら吸収してね」
帰ったら補充しないとな・・・丁寧に書かないと、紙とインクが無駄になるかんね。まあ、影さんも手伝ってくれるから前よりは楽だよ。そんじゃ、さっさと帰りましょうか。
その日の晩、夕食を済ませた俺が火蜂の符を書いている最中、隣で紙を切っていた影さんが体からユクリシスさんからもらった長距離連絡用の魔術具を取り出し俺に渡してきた。お、ようやく連絡が来たか。魔術具を受け取った俺は、とりあえず耳に当ててみる。精霊さんの枝は、こうすりゃ勝手に繋がるんだけど...。
『もしもし』
『お久しぶりです、ユクリシスさん』
『・・・私が隠して出した文は?』
『わたしはまものだ、ですよね』
『その通りですわ、疑って悪く思わないでほしいのですわ』
『気にしてませんよ。それで、そちらの準備は整ったんですか?』
『ええ、万全の体勢ですわ。明日、作戦を開始する予定ですのよ。そちらは?』
『こっちも準備は出来ていますよ。ユクリシスさんの連絡待ちでした』
『そうでしたの、お待たせしてしまい申し訳ないですわ。それではあの大臣さんに、明朝から作戦を開始するよう、伝えていただけません?』
『了解です。・・・その、本当に成功するんですか?』
『あら、まだ疑ってますの?私を信じられません?』
『いや、信用していますよ、一応。でも、反乱って失敗することのほうが多いですし...』
『そうですわね。この世で生きている限り、絶対などと断言出来るのは一握りの人のみですわ。いつだって運命というのは、偶然の上に成り立っているのですもの。それを恐れては、成功するものも成功しませんわよ。私たちに出来ることは、失敗の可能性を可能な限り低くすることだけですわ。全ての手を尽くして尚失敗するのなら、それは偶然という名の天命かも知れませんわね...』
『俺はあなたに、そっちの大陸を案内してもらわないといけないんです。命あって物種です、たとえ失敗したとしても死んじゃ駄目ですからね』
『もちろん、そのつもりですわ。ツチオには、帝国の良い所をたくさん見せるつもりですもの。観光計画だって考えてますのよ、無駄にするわけにはいきませんわ』
『いや、それは後回しにしましょうよ。反乱起こすんですよ、反乱!』
『優秀な部下のおかげで、ぶっちゃけ暇ですわ。こんなことなら、もう少し王都で遊んでいればよかったですわよ...』
えー・・・反乱って、そんなお気楽ムードで成功するもんなのか?何だか心配になってきたぞ。
『だ、大丈夫なんですか?ちゃんと穴がないか、確認したんですか!?』
『大丈夫ですって・・・そろそろ魔力が切れそうですわ。反乱が成功したら、またお話しましょう』
『え、ちょ、ユクリシスさん!?ホントに大丈夫なんですかー!!!』
俺の叫びも虚しく、既に通信は切れていた。だ、大丈夫なんだろうな...。優秀な部下がいるらしいけど・・・まあ、俺が心配してどうにかなる問題じゃないんだけど。とりあえず、オスニールさんに伝えておこう。もしかしたらこの要塞も戦場になるかもだし、明日には学院に帰ろうか...。
<side ユクリシス>
ツチオとの通信が切れた魔術具を、胸ポケットにしまう。ぶっちゃけ暇・・・まあ、間違ってはいませんわね。もう全ての準備を終えて、後は作戦開始の合図を出すだけですもの。
「お嬢様、まだ魔力は残っておりますが...」
「いいんですのよ、あまり話していると覚悟が鈍りそうですし」
ツチオと話していると、どうしても緊張が解けてしまう。過度な緊張は足かせとなるが、適度な緊張は状態を最高なものへと押し上げてくれる。これくらいがちょうど良いのですわ。
「・・・今まで、色々と迷惑をかけましたわね、ウォー」
「そうですね、昔からお嬢様はやんちゃでした。初めて反乱を起こすと聞いたときは、ついに非行に走ってしまうのかと思ったものです。確か、90年ほど前でしたか」
「相変わらず、覚えなくてもいいことばかり覚えているんですのね...。それでいて、必要なことは忘れないから始末におえませんわ」
「お嬢様にお仕えする執事として、これくらい出来て当然です。私には、お嬢様の成長を記録する義務がありますので」
「そ、そんなものいつからつけてますの!」
「もちろん、産まれたその日からです」
まったく・・・この執事は。有能ですけど、それ以上に嫌な奴ですの...。
「はあ、それは追々問い詰めるとして...。そちらの準備はどうなっていますの?」
「お嬢様が申し上げたとおり、優秀な部下のおかげで全て完了しています。一声かけていただければ、すぐさま行動に移せます」
「よろしい、日の出とともに開始しますわ。兄上には、正面から正々堂々決闘を申し込みますの」
「・・・お嬢様、1つよろしいでしょうか?」
「何ですの?」
ウォーがそんなことを言うなんて、珍しいですわね。いつもならズケズケと言ってくるのに。
「お嬢様が向こうで知り合ったという、そのツチオという小僧。本当に信用出来るのですか?王国と結託して、お嬢様を謀っているという可能性は...」
「ああ、それなら何の心配もいりませんわ。ちゃんと看破の魔術をかけていますもの。真意が別にあるならば、それに引っかかっているはずですわ。隠蔽の魔術を使っている気配はありませんでしたし。それに...」
「それに?」
「ツチオは、魔物を愛している男ですわよ。魔人ならともかく、スライムやユニコーンなどの魔物をちゃんとした一個人として見て、その上愛しているのですわ。あの人間の国でです」
「それは・・・傍からみたら、変態ですね」
「ええ、変態です。それゆえに、私は彼を信用していますのよ」
普通なら誰もが冗談ととる言葉。だが、魔物の立場で物事を考えられる彼は信じてくれた。彼に会えなければ・・・この反乱は、後数十年は先送りになっていましたわね。向こうの大陸侵略に本腰を入れている今が、最も王の守りが手薄になる時。この期を逃すわけにはいきませんの。
「ザクリオン帝国第一王女付き執事、人狼族のウォーロドニス!」
「はっ!」
椅子から立ち上がった私の足元に、ウォーが跪く。ここは帝都王城内の私の自室、どんなに堅牢な城でも、内側からなら攻略するのは容易いのですわ。
「帝王の玉座、取りますわよ」
「すべては主の御意思のままに」
さあ、兄上。玉座と命を賭けて、存分に戦おうではありませんか!
とある年のとある夏のこと、大陸4国の連合軍が魔獣軍を強襲。各国の第1騎士団、異世界からの勇者を投入した大規模作戦は、連合軍側の勝利に終わった。魔獣軍は大陸から撤退し、長年占領され続けていた北方地帯を解放するに至った。
その際、オスニール軍部大臣は周囲の反対を押し切り、大陸に残された多くの魔獣を捕虜に取ることを決定。捕虜に対して、殺害や乱暴の禁止を徹底した。
その後、魔獣軍から使者が来訪。歴史上、初めてとなる魔物との交渉が行われた。そして、その場でザクリオン帝国の存在を発表。魔獣はこの大陸に存在する生物の呼び名となり、向こうの大陸の民たちは魔物と呼ばれることになった。使者との交渉により捕虜に関しては、ザクリオン帝国の資源と交換することが決められ、ザクリオン帝国と連合国との間で和平が結ばれた。長い間続いていた人魔間の戦争に終止符が打たれたのだった。