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再び要塞へ

ユクリシスさんからの連絡を待つこと数日、王立図書館で符の補充をしていたところにアラックさんがやって来た。


「あ、ツチオ君。やっぱりここにいましたか」

「あれ、アラックさん。どうしました、連絡はまだ来ていませんよ」

「オスニール様が要塞へ移動するので、それをお知らせに。ツチオ君にも、出来れば一緒に動いてほしいんですけど...」

「騎士団召集の算段がついたんですね」

「ええ、最低限の人員を残して今回の作戦に参加するんですよ。既に移動を始めているので、来週には全隊要塞に集結します。何でも、他国からも援軍が来るそうですよ」

「それはまた、豪華な顔ぶれですね。分かりました、出発は?」

「明日の日の出と同時に。というわけで、準備はしておいてくださいね」

「了解です、一緒に移動するのはオスニールさんと護衛の方なんですか?」

「そうなりますね、ツチオ君を抜いて3人です」

「アラックさんは、王都に留まるんですか?」

「はい、さすがに王都の防備を疎かには出来ませんしね。私たちも行きたいのは山々なんですけど...」

「各々の役割を、キチンとこなしましょう」

「そうですね。それでは」


夏季休暇は残り3週ちょい。要塞まで移動するのに、大体1週間と考えると・・・学院に戻ることも考えると、要塞には1週くらいかな。


「よし、とりあえず使用した分の符は全部補充したな。影さん、枚数確認出来てる?・・・よし、合ってるな。そんじゃ、後は新作を考えようか」


土柱と火蜂だけじゃ決め手に欠けるし、墜落は切り札すぎるしな...。溜めも長いし、使用魔力も馬鹿にならん。もっと使い勝手が良くて、殺傷力が高い呪符を考えないと。ハロさんタイプの呪符は、どっちかってーと支援系だし。罠は強力だけど、どこまで行っても罠だかんな。敵が引っかかってくれないと意味がない。


「うーん・・・使い勝手の面から考えたら、使用魔力は少なめ。火蜂みたいに使い捨てだと、作り直すのも面倒だから何度でも使用できるもの。まだ高級紙ってあったっけ?」


影さんが、体の中からロール状の紙を取り出す。マナ草というのは中々使い勝手が良いらしく、魔力回復薬以外にも呪符用の紙としても使える。結構な魔力を許容し、紙そのものの耐久力も高いため、値は張るもののかなり使える紙なのだ。ダンゼ島でもらった金で、まとまった量を買っておいたのだけど・・・影さんが持ってたのか。


「まだ結構残ってたなー。ん、ありがと。さて、とりあえず書いてみますか」


影さんに適当な大きさに切り取ってもらい、俺は下書きのためのペンを取る。何度でも使用できるってのは、高級紙を使えば解決出来る。問題は殺傷力のほうだな。多少魔力は多くなってもいいから、殺傷力を伸ばそう。そうと決まれば、早速暖めていた案を出してみましょうか!あー、でも。新しく作るのって結構苦労するんだよな・・・蛇を作るのも、数ヶ月はかかったし。元からある奴を、改良する方向でも模索してみようか。



その日は新作を製作するのに熱中してしまい、気が付いたら夕方になってしまっていた。ルウは本を読みながら寝ちゃってたし、ライムはプリシラ流性技を発展編まで読み進めていた。間に実践編を挟んでいる。そんなに厚くない本なのだが、ジックリと読んでいたんだろうな...。


元々王都まで来るのに荷物はまとめていたので、準備をするといっても中身を整理するくらいだ。明日、移動している途中で新作の実験をしないとな...。



そして翌日、日が昇る前に宿を出て集合場所の北門へと向かう。長めに部屋を取っていたんだけど、残っている日にち分のお金を返してもらえて良かった。前払いだと返してもらえないことが多いからな・・・今度からも斑の子犬亭に泊まろう。


「お、こっちだーツチオ。悪いな、朝早くから」

「いえ、こういう早起きは慣れてますんで大丈夫です。これから、要塞へと向かうんですよね?」

「ああ、こいつらは俺の護衛だ。まったく、いらねぇって言ったんだけどな」

「さすがに護衛なしじゃ危ないですよ・・・道中、何が起こるか分からないんですし」

「まあ、そうなんだけどよ...。よし、さっさと出発するぞ!」


オスニールさんたちは馬に、俺はリンに乗って北門を出る。途中の魔獣は無視無視、要塞までの道を急ぐぞ!






 道中はずっと街道を走っていたので、特に語ることはない。強いていえば、リンが俺と長い時間一緒にいれて嬉しそうってことか。魔獣は出ないし賊も出ない、まったくもって平穏な旅路だったな。


「どうだ、あの嬢ちゃんから連絡は来たか?」

「うんともすんとも言いませんね...。まあ、まだ騎士団も集まっていませんし、いいんじゃないでしょうか?」

「まあ、そうなんだかな...。かなり無理を言って準備したんだ、警備の問題もあるしあまり待ってられないぞ」

「というか、よく騎士団を動かせましたね。ユクリシスさんが魔人で、王女なんて保証はどこにもないんですよ」

「・・・ああそうか、ツチオは知らねぇか。魔人と人間の魔力ってのは、少し質が違うんだよ。腕の立つ奴らには、ハッキリと分かるくらいな」


へー・・・だから、ルウたちも気が付いていたのか。全然気が付かなかった...。ユクリシスさんの反応とルウたちの反応、それとあの文から魔人なんだろうなーとは思ってたけど。どこか違いなんてあったかねー。


「まあ、結構近くに寄らなきゃ分からないし、警備兵にゃそこまでの奴はいない。潜入されてもしょうがないわな」

「Bランクの冒険者も気が付いてなかったですけど...」

「これは感覚だから、気が付かなくても無理はない。そういうわけで、嬢ちゃんが魔人ってのは分かってたんだ」

「それじゃ、王女ってのは?」

「既に北方の偵察は、ある程度済ませてある。要塞の周辺のみだけどな。その結果と嬢ちゃんから貰った地図を照合したところ、ピッタリと一致したんだよ。まだ警戒する必要はあるが、こんだけ材料があれば何とか騎士団も動かせる。これでも、大臣ってのはそこそこ権力があるんだぜ」

「問題は、軍の編成のほうですねー...。どこまで当てにしてるんです?」

「そこまではな・・・確認しようがないし。地図のほうは、進みながら確かめりゃいいとしても」

「ですよねー・・・ユクリシスさんのことは、信用しているんですけど。もしかしたら、お兄さんに泳がされてる可能性もありますし」

「この地図や軍の編成が、そもそも嘘って可能性か...。まあ、ここまで来ちまった以上、引き返すわけにはいかないな。乗らないのは惜しすぎるってのもある」

「ユクリシスさんの言うことが本当なら、確かに戦争は終わりますもんね」

「それどころか、和平を結んで交流を持てるかもしれん。・・・人間と魔物の共存か。ツチオはどうだ、テイマーとして」

「そうですね・・・人間にも、善人や悪人はいます。それは、きっと魔物にも当てはまると思うんですよね。ユクリシスさんみたいな人もいれば、彼女のお兄さんみたいな人もいる。それでいいんじゃないでしょうか?」

「そうか・・・ま、そういうのを考えるのは別の奴らの仕事だ。俺たちは、目の前にいる敵を倒すだけだな」

「俺は参加しませんからね。戦争なんて、この前のでお腹一杯です」


人間と魔物の共存ね・・・いきなりは無理だよな。魔獣に恨みを持ってる人からしたら、魔物だって恨みの対象になり得る。まあ、取らぬ狸の皮算用ということわざ通り、今考えても仕方ないことだな。


そんなこんなで、予想通り1週間で要塞へ到着したオスニールさん一行。夜中は交代で見張りにつき、そん中で新作の実験もしておいた。その中で、既存の呪符を改造したりもしてみたんで、実戦で効果のほどを検証してみたい。使い勝手は、実戦の中でしか感じられないからな。連戦とかね。


「そんじゃ、俺たちは中央にいるからな。大分人も入ってきたから、宿屋も結構あるはずだ。さすがにテイマー専用のはないだろうが・・・まあ、そこらへんは勘弁してくれ」

「分かりました。連絡が来たら、中央の建物に行けばいいんですよね」

「ああ、俺の名前ですぐに入れる。そんじゃな」


要塞の入り口で、俺はオスニールさんたちと別れた。さてと、まずはまた宿屋を探そうか。ギルドには・・・面倒だし、聞かなくていいかな。後で北方のこと、色々聞きに行くけど。馬舎が良さげなところに泊まろう。






適当な宿屋をとって、ギルドへ向かう。素材狙いの冒険者たちがごった返すなか、掲示板に要塞周りの地図が張ってあったので、とりあえずそれを見てみる。


「要塞から北にしばらく歩くと・・・大きな森が広がってるのか。昔は道が通っていたらしく、魔獣軍が使った痕跡あり。道に沿っていけば、森を抜けるのは比較的簡単。森の先には、平原が広がっているらしい・・・何というか、曖昧だな」


一応、縮尺は決まっているみたいだな。多分、その森の先に行った人が少ないんだろう。騎士団のほうになら、もっと詳しい地図があるんだろうな。


「出てくる魔獣はっと・・・あまり多くないんだな」

「トレントが群生している森みたい。トレントと共生している魔獣か・・・鳥とか猿とか死霊だって」

「猿はどこにでもいるんだな...」

「・・・」ぷるぷる

「基本的には、全部影さんに食わせちゃうからなー。あ、ライムも食べたいか。そうだな・・・んじゃ、半々?」

「こく」

「影さんもそれでいいみたいだし、倒した魔獣は2人で半々ということで。お金に困っているわけじゃないしな・・・まあ、学院を卒業したら、そうも言ってられないけど」


ライムと影さんの育成は、学院に通っている間に出来るだけ済ましておきたいな。卒業したら何をするか・・・ある程度、決めておかなきゃな。はあ、まさか異世界でも将来について悩むなんて、思ってもみなかったよ。



要塞の北門から、北方の地へと踏み出す。北方とは言っても、そこまで寒くはない。常夏とまではいかないものの、王国は一年を通して温暖な気候だ。まあ、少し肌寒いと感じるくらいだな。俺、基本半袖長ズボンだし。


「全然魔獣の気配がないね」

「まあ、わざわざ人が多いところに近づく魔獣なんて、極少数だろ。それより、森が見えてきたぞ」


要塞の北に位置するトレントの森、遠目から見た感じじゃ全体的に暗くておどろおどろしい。トレントって言ったら、木に擬態して襲って来るんだよな・・・どうやって探知するんだよ。


「ルウ、トレントがどれか分かる自信、あるか?」

「・・・無理かな。においはないだろうし・・・あ、殺気があれば分かると思うよ」

「それじゃ、後手に回っちゃうんだよなー。ライムは?」

「・・・こく」

「お、いけるか。魔力を感知するのか・・・それなら、リンもいけるな」

「ブルゥ」

「影さんは・・・影に潜れば分かるか。まあ、一々潜って確認するのも面倒だし、どうしても分からなかった時だけ頼もうか」


基本は、ライムとリンの魔力感知で問題ないだろう。俺も触れば分かるんだろうけど、気が付いた頃には攻撃されてるな。


「そんじゃ、森に入ろうか。今は昼前、ちょっと早い昼食を取ったし食事は問題なし。結構暗い森だし、あまり遅くなると迷うかもしれない。大事を取って、早めに上がるようにしような。日没前には、森を出るよう」

「ブルルゥ」

「ん、気が付いてなかったら声をかけて」


よし、前から北方の魔獣には興味があった。あまり要塞にはいられないし、短い間に出来るだけ狩ってみよう。


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