テイム、あの人が、教師だったのかー!
二日目はサバイバルの授業だった。遭難したときや野営しなければならないときに、必要な知識を学ぶみたいだ。これはかなり勉強になる、真面目に取り組もう。
授業が終ったら、また図書館に行って調べもの。今日は魔手について、詳しく調べてみようと思う。魔法の本に少しだけ載ってたけど、あれくらいは俺が予想してた範囲内だ。もっと詳しく載ってる本はないものか...。司書さんに聞いてみよう。
「すいませーん、魔手ってスキルが載ってる本ってありませんか?」
「魔手、ですか?この前教えた、魔法の本に書いてあるはずですけど」
「もっと詳しく載ってるのがいいんですけど...。ないですかね?」
「ちょっと待っててください。調べてきます」
眼鏡をかけた線の細い男性が、受付の奥に行く。魔法の本に載ってるってことは、何か関係あるんだろうけど...。載ってるかな。
「この本なら、この前のより詳しく載ってますよ」
「ありがとうございます、読んでみますね」
食堂みたいな長机に座って、魔手について書いてあるページを開く。最初はこの前見たのと同じだったが、しばらくページをめくっていると知らないことが出てきた。中々興味深い内容だ。これがあれば、俺も少しは戦えるかもしれない...。この後でルウと一緒に試してみよう。
「この本、ありがとうございましたー」
「どうですか、参考になりました?」
「はい、知らないこともあって、色々勉強になりました」
「それはよかったです、勉強頑張ってください」
図書館を後にした俺は、まっすぐルウのところに向かった。魔獣舎からルウを出して、さっき本に載っていたことを試してみる。おっとその前に、
「ルウ、これからちょっと身体が怠くなるかもしれないけど、我慢してくれるか?」
「グル?グルル」
よし、ルウの許可ももらえたし、早速試してみよう!
「ふう...。大分慣れてきたし、そろそろ寮に戻るか。ルウ、大丈夫か?」
「・・・グ...」
地面にべったりと寝そべっているルウ。かなりお疲れみたいだ。まあ、俺のせいなんだけどな...。俺の魔力をあげたら、元気になるかな?やってみようか。・・・魔力って、どうやったら移せるんだろう?俺、まだやったことないよ。身体を流れてるんだろうけど...。魔手で調べてみよう。
胸に手を当て、俺の中の魔力を確認。・・・あった。ルウと比べるとかなり少ないけど、へそのちょっと下辺りに溜っている。丹田だな。
えいや!と気合いを入れて、溜っている物を動かす。最初は中々動かないので、ほぐすように小刻みに揺らし、動くようになってきたら身体の中を回していく。ある程度の速さがつくと、勝手に身体の中を回りだした。
「おお、何か元気が出てきた!身体がポカポカする!」
これが魔力か!ちゃんと回りだしただけで、こんなに元気になるなんて...。座禅とか気功も、あながち効果があるのかもな。
「それじゃ、魔力を送ってみるか」
ルウの背中に手を当て、自分の魔力を手に集中させて、外に押し出すようにイメージする。すると、
「う!?」
「グル?グルル!」
身体から一気に力が抜け、思わず膝をついてしまう。対して、ルウは少し元気になったみたいだ。
「これはけっこうキツいな...。何もしたくねぇ...」
「グルル?」
orzの体勢でぐったりしている俺を、ルウが不思議そうに見る。早くしないと、晩ご飯に遅れちまう。ルウを魔獣舎に戻して、とりあえず部屋に戻る。
「ただいまー...」
「お帰りー、遅かったねーって、どうしたの!?顔色悪いよ!」
部屋に戻ってきた俺を見たリュカは、読んでいた教科書を放り投げて、俺に駆け寄ってくる。そんなにひどいのか...。
「ちょっと魔力を使ったら、こんな風になっちまったんだ。俺、魔力少ないし」
「そうだったんだ...。魔力を使い過ぎると倒れちゃうから、気をつけてね。しばらく休めば、楽になると思うから」
「ああ、そうしとくよ。悪いな、心配かけて」
その日は晩ご飯を取らないで、身体を拭いて寝た。風呂はなくてもいいけど、シャワーくらいは欲しいな...。
そして翌日、ついにテイムの授業を受ける。リュカは数学の授業だ。書いてあった教室に行くと、『全員原っぱに集合するように』と黒板に文字が。またかよ!
原っぱに行くと、検査のときの女の人が立っていた。あの人、テイマーだったのか...。
「集まったみたいですね。それでは、授業を始めます。私はサシャです、これからよろしく」
相変わらず無愛想な人だな。ラング先生みたいに暑苦しすぎるのもなんだが、ここまでそっけないと気まずい。
「テイマーになるためには、まず使役する魔獣が必要です。既に使役している人もいますが、今日は魔獣を使役することから始めましょう。全員、武器は持ってますね?」
持ってこいって書かれてたからな。この前武術の授業で使ったやつを、そのまま借りてきた。
「それではついてきてください。絶対に離れてはいけませんよ」
先生につれられて、学院の裏門から外に出る。裏門の外は街道に続いている。そのまましばらく街道に沿って歩いて、森の前に到着した。
「ここで魔獣をテイムしてもらいます。定期的に間引いているので、あなたたちの手に余るような魔獣はいないはずです。万一のこともあるので、数人で行動したほうがいいですよ。既に使役している人は、行かなくてもかまいません」
さて、どうしようか。俺はルウを使役しているけど、反則で懐かせたようなもんだ。ここで普通のテイムの方法を学んだほうが、良さそうだな。
「テイムをするには、魔獣を弱らせてから魔力を流し込むことです。いくら弱いとはいえ、そんな魔獣でも油断をすれば危険。最後まで気を抜かないよう、気をつけてください」
それじゃ、授業開始だ。どんな魔獣がいるのか、楽しみだなぁ。
一人で森の中を歩いていく。誰かと一緒に行きたかったんだが、俺が動き出した時には既に組が出来上がっていた。俺だけボッチ・・・寂しくなんかないやい。
ガサガサと草むらが揺れる。さあ、どんな奴が出てくるんだ!?
ピョンとそいつは、俺の前に飛び出してきた。光を反射する水色の身体。月のように丸く空のように澄んでいる青いボディ。モンスターの定番中の定番、そいつの正体は!!!
「・・・」ぷるぷるぷる
「スライムきた!」
すごい、スライムだ!ルウが懐いてくれたときくらい興奮する!ドラ◯エみたいにきもくなくて、むしろ可愛い。よくスライムが胸の感触と似てるって言うけど、どうなんだろ...。
「・・・」ぷるぷる!
「考え事をしてる場合じゃないな。今はこいつをどうにかしないと」
剣を抜こうとすると、スライムが飛びかかってきた!そのまま俺の足に取り付き、とんとんと身体をぶつけてくるスライム。・・・やだ、この子可愛い。必死で俺を攻撃してるところにきゅんと来た!こいつをテイムするぞ!
とりあえず、弱らせなきゃな。身体の真ん中に核みたいな物があるから、斬ったりしたら殺しちゃうかもしれない。鞘をつけたまま殴るか。
「そいや!」
「・・・」ぽーん
俺が下から鞘をスイングすると、まともにぶつかって飛んでいくスライム。そのままぴくりとも動かない。・・・あれ、やりすぎた?
そろそろと近づいていって、剣先でちょんちょんとつつく。わずかにピクピクと震えるから、まだ死んではないだろう。今のうちに、テイムしちゃおう。
スライムに触れて、魔力を流し込む。出しすぎないように、注意しながらな。
すっと一瞬で、体全体に魔力が行き渡る。えっと、この後はどうすればいいんだ?聞いてないぞ。
とりあえず手を離してみると、もぞもぞとみかん型に戻るなんだ、やる気か?こうなったら、少し体積が減っちゃうけど少し切り取るか。そう思いながら、剣を抜こうとすると、
「・・・!」すりすり
俺にすり寄ってくるスライム。さっきみたいにぶつかってくるのではなく、猫みたな感じだ。これは、テイムが成功したってことなのかな?
「お前は俺の魔獣だぞ。いいな?」
「・・・」ぷるぷる
このプルプルは、肯定ってことでいいんだよな。スライムを抱きかかえて、俺の視線に合わせる。この位のサイズなら、寮に持ち込めるかも。寮母さんに聞いてみよう。
「名前を決めなきゃな。えーっと・・・スライムだから、ライムだ。お前の名前はライム」
「・・・!」ぷるぷる!
いいみたいだ。ルウと比べると、思考が単純で分かりやすい。まだそんなに頭が良くないのかな。
「もうテイム出来たし、戻っていいよな。下ろすぞ」
地面にライムを下ろして、来た道を戻っていく。俺の後を、ぴょんぴょん跳ねてついてくるライム。お互いの距離はどんどん離れていく...。俺が持って歩いたほうがいいな。
「おら、おいで。もっと素早く移動出来ないのかよ」
俺の胸に飛び込んでくるライム。こう、液体みたく身体を変化させて、するするっと動いて欲しいもんだよ。スライムって何が出来るんだろう?帰ったら、また図書館で調べてみるか。
俺が一番早く終ったみたいで、森の入り口にはサシャ先生しかいなかった。
「あなたが一番ですか。・・・スライムをテイムしてきたんですか?」
「そうですけど...。スライムはダメなんですか?」
「いえ、そういうわけではないのですか...。あなたらしい魔獣だなと」
「俺らしい?」
「自分で調べてください」
何だよ。俺らしいって。この人のことだろうから、どうせロクなことじゃないとは思うけど...。
「というか、テイマーだったんですね。言ってくれれば良かったのに」
「言う必要がありますか?どうせすぐに分かりますのに」
「そりゃそうですけど...」
はあ、やっぱりこの人は苦手だ。ライムをプニって癒されよう。
しばらくライムをいじってると、続々とみんなが戻ってきた。芋虫や動く草とか、色んな魔獣がいるが、スライムは誰も連れて来ていない。やっぱ雑魚いのか?
「全員、テイムすることは出来ましたか?・・・問題ないみたいですね。今日の授業はこれで終了です。次の授業までに、ある程度魔獣と触れ合っておくように」
もう終わりか。まあ、テイムしたての魔獣じゃ、勝手も分からないだろうしな。ある程度スキンシップをしないと。
「フン!くだらん授業だ、平民なんぞに合わせるなんてな!」
「「「そうだそうだ!!」」」
豚とその取り巻きが、やんややんやと騒ぎ立てる。あいつ、13歳にもなって譲歩することが出来ないのかよ...。
「この学院では、入学前の身分は関係ありません。それくらい知っているでしょう?ここに来たってことは、それを承知の上でのことのはず」
「そんなものは知らん!全員、俺の言うことを聞いてればいいんだ!」
「それはあなたの知識不足ですね。嫌なら退学してください」
「・・・ッチ!」
舌打ちをして引き下がる豚。この学院を卒業したってことは、それだけでけっこうなキャリアになるらしい。キャリア組の登竜門ってか。
「では、学院に戻ります。死にたくなければついてきてください」
サシャ先生も少しイラついてるな。言葉が尖ってきてる。まったく、みんな黙って授業を受けれないのかよ...。
「ルウ、こいつが今日から仲間になるぞ。ライムっていうんだ、仲良くしてくれ」
「・・・」ぷるぷる...
「グルル...」
ちょ、なんで唸ってるんだよ。ライムが怖がってるだろ。
「まだ二体しかいないんだ、喧嘩はやめてくれ。ルウは先輩でお姉さんだろ?色々教えてあげてくれ」
「グル...。グルル!」
お姉さんってのがきいたようで、ルウの敵意が消えた。ライムは守りたい!って気持ちになるもんなー。
「んじゃ、俺は図書館に行ってくるよ。また後でな」
「グル!」
「・・・!」プルプル!
魔獣舎を後にし、図書館に向かう。スライムがどんな魔獣なのか、調べよう!
ツチオが去った魔獣舎にて
ルウ「グル!グルル!」
ライム「・・・!」ぷるぷる!ぷるるるん!
ルウ「グル...。グルルル」
ライム「・・・」プルプル
ルウ「グルゥ...。ガウ!」
ライム「・・・!」プルン!
二匹は何か、主張し合っているのであった...。