まさかの遭遇
ミスって早めに投稿してしまいました、削除はしません。ちょっと早くなっただけなので。
ルウとライムを入り口まで見送ってから、俺は城内の散策に繰り出した。警備兵が張り付いている場所には、近づいてもいけないんだったな。別に捕まりたいわけじゃないし、それは厳守しよう。あまりリンを待たせても可哀想だし、1~2時間くらいで済まそうか。
長い廊下を歩いていく。途中、何人かの人とすれ違うが、チラ見されただけで特に何を聞かれるわけでもなかった。まあ、見た目人畜無害な青年だし、怪しい人間だと思われるわけがないんだ。ルウたちもいないし、特に注目を与える人じゃない!
とりあえず、王城の中で見れる所は全て見切った。王城は各大臣の執務室やら、まあ機密的に重要な場所が詰まっているようで、入れる場所は少なかった。
王城から出た俺は、王城の周りに広がる庭に出た。各局は、この庭にそれぞれの建物に分かれているらしい。まあ、王城ってのは王族の家でもあるらしいし、そこまで行政機構を入れられないんだろう。実際、日本で言う役所的なものは、平民街にあるしな。最も人口が多いのは平民だし、貴族が平民街に行くのは簡単だからだろう。
王城区内にあるのは、魔術局・騎士団などなど。まあ、他のところにはあまり興味がないし、魔術局を覗いたら平民街にでも向かおうか。
庭を横切って、魔術局の建物を探す。特徴的建物らしいので、すぐに見つかると思うけど...。お、あれかな。2階建ての大きな建物で、大きな塔が頭出ている。三角屋根に丸い筒がくっついている。いかにも悪い魔法使いが住んでいる!って感じだな。入れるかな...。
中に入ってみると、1つだけある受付に気だるそうな女性が肩肘をついて赤髪をいじくっていた。緋色のローブを着た人たちが、数人行き来しているが中は閑散としている。
とりあえず中に入ろうかと足を踏み入れた時、突然爆発音が響き渡り、建物が衝撃で揺れる。慌てて外に出てみると、二階に穴が開き、そこからもうもうと黒煙が上がっている。辺りには大人の拳大のレンガが散らばっており、爆発の激しさが伺える。
「あ、そこの君、大丈夫?レンガの欠片、当たってない?」
「いや、大丈夫ですけど・・・驚かないんですね」
「毎日のことだかんねー。初めはビックリしたけど、今じゃ全然」
受付で気だるそうにしていた女性が、入り口にまで出てくる。毎日って・・・まあ、テンプレだけれど。よく爆発を起こす研究者。
「建物は平気なんですか?」
「自動修復の魔術がかかってるから、こんくらいならすぐに直るよ。ほら」
受付嬢さんが指差したレンガは、逆再生のように浮き上がって元の場所に戻る。自動修復か、便利だなー。
「そんで、御用事はなんですか?見ない顔だけど」
「え、ええっと・・・見学希望者です!」
「見学ぅ?何それ、冗談?ハっ!?もしかして、技術を盗みにきた間者!?」
「いやいや、違いますよ!ほら、王立学院の学生証!オスニールさんに呼ばれて来てたんですよ!」
何だこの人、発想が飛躍しすぎだぞ!?こんな人初めて見たわ!
「何だ、軍部大臣のお客さんか。学生証も本物だし・・・でも、見学って何をするの?あまり見せられないよ、一応軍事機密だし」
「そうですか・・・見れる所って、どんな場所があるんですか?」
「うーん、廊下とか・・・あ、実験場ならいけるかも!見ただけで真似出来るものでもないし、学院の生徒なら問題ないでしょ」
お、実験場か。それは確かに面白そうだ。というか、廊下ってなんなのよ。実験場がなきゃ、ほぼ0じゃんか。
「じゃ、ついてきて。案内したげる」
「いや、受付を空にしちゃいけないでしょう。誰が来るか分からないんですし」
「いいのよ、どうせ来る人なんて限られてるし。それに、私は受付嬢じゃないの。暇だったから、用事の受付嬢の代わりをしてたのよ。誰も来なかったけど」
そう言って、椅子にかけていた緋色のローブを羽織る。やっぱり、あれが宮廷魔術士の証なんかな。
「ほら、ついてきなさい」
「そんじゃ、お言葉に甘えて」
この人はどんな魔術を研究しているんだろうなー・・・やっぱり攻撃魔術なんかね。そうだ、後で符術を研究している人がいないか、聞いてみようかな。
赤髪の女性は、魔術局の裏手へと歩いていく。そこには、更地が広がっていた。周りの庭はきれいに刈り揃えられた芝生が植えられているのだが、ここは茶っこい土がむき出しになっている。
突如、更地に大きな炎の竜巻が発生する。空気を焼き、かなり離れているはずの俺にも熱が届いている。
そのまま渦巻いていた竜巻だが、しばらくするとグニュングニュンと歪みだし、形が崩れて爆発した。
火の玉が降りかかってくるので、土の壁で防ごうと符を投げようと構えた時、目の前に水の壁が形成され俺達を守る。詠唱速っ!?無詠唱と大して変わりないぞ!
「まったく、相変わらず過激ね・・・少しは周りのことを考えなさいよ」
「あ、あれって集団詠唱魔術なんですか?かなり範囲が大きかったですけど」
更地を覆うほどだったから・・・直径で10m以上はあるんじゃないか?
「いや、あれは普通の魔術よ。あんなの、集団詠唱なわけないじゃない」
「え、マジで?」
「当たり前よ。魔術の効率化を研究している奴らでしょうね」
「それは、どういう研究なんです?」
「・・・まあ、言ってもいいか。無詠唱魔術において、重視されるのはイメージよ。個人によってそれは変わってくるのだけれど、彼らは誰でも平均的な威力を出せるイメージを研究しているの」
「へー、そんなのがあるんですか」
「まあ、私たち宮廷魔術士と一般兵士を比べるてもしょうがないけど・・・一からイメージを作るよりは、元になるものがあったほうが断然習得は早いわ。詠唱まではいかなくても、魔力消費も減らせるし」
「なるほど」
お金になりそうな研究だな。イメージをどうやって伝えるかだけど・・・確かそういう魔術があるって、黒髪女勇者が言ってたな。それで転移したんだし。
「しっかし、すごいですねー・・・あんだけの魔術を個人で放つなんて」
「まあ、宮廷魔術士だしね。減らした魔力の分だけ、範囲・威力を上乗せできるもの。あんぐらい出来なきゃ、研究している意味がないのよ」
厳しい世界だな・・・あのレベルで出来て当然か。
「何だ、呪符女じゃないか」
前の方から声がかかる。見ると、赤い宝石がついた杖をもった茶髪男が、こちらに歩いてきた。・・・今何と、呪符女ですと!?
「研究はしなくてもいいのか、大分滞ってるんだろ?ああ、予算が下りないから出来ないのか!」
「・・・うっさいわね。関係ないでしょ」
「いいや、お前みたいな落ちこぼれが宮廷魔術士なんて、名に泥を塗るようなもんだ。どうせ符術なんて誰も使わないんだ、研究する必要なんか「符術の研究をしてるんですか!?」ない...」
「え、ええ。まあ、あまり使われないから予算も少ない、窓際の部門だけど...」
何てこったい!呪符は、金のない奴にとっちゃあ理想的な呪具だぞ!マイナーだからって馬鹿に出来るものじゃないね!
「何で使われないんですか!?」
「威力的な面で見たら、杖のほうが圧倒的に効果が高いのよ。呪符の利点なんて、詠唱を省略出来ることくらいだけじゃない。無詠唱魔術や詠唱省略魔術が使える人なら、その利点も潰されちゃうのよ」
あー、そうか...。俺の魔術は、陰陽師の式神をイメージとしているからな。実際にアニメやら漫画やらを見ているから、ハッキリとイメージ出来るのであって、この世界の人はそうじゃない。というか、この世界に元からある符術ってどんな感じなんだ?
「こらガキ、お前に呪符女の研究なんか、関係ないだろ。部外者はどっかに行け」
「部外者じゃないですよ!俺、符術を使ってますもの。クズ扱いは看過できません」
ポカンと目をまん丸にする呪符女さん。そのまま俺の腕を掴んでくる。
「ホント!?あんた、符術使いなの!?嘘だったら許さないわよ!」
「本当ですよー!しっかし、宮廷魔術士に符術を使う人がいるなんて、驚きですよー」
「・・・いっよっしゃーーー!!!」
俺の手を取り、グルグルと振り回す呪符女さん。え、何なん?そんなに符術使いに会いたかったの?
「学院生に符術使いがいるって分かれば、予算も絶対に下りるわ!研究も続けられる!」
「は、はあ。それは良かったですね」
「あなたのおかげよー!あなたが魔術局に来てくれてなきゃ、このまま研究は凍結されてたわ!ありがとー!」
「いやー、どういたしましてー!」
あ、何だが楽しくなってきたな。俺も腰をすえて、呪符女さんをぶん回す。呪符女さんの足を浮くと、さらに回転は加速していく。ルウに乗って飛ぶと、空中で回転したりキッツい機動をすることがあるからな・・・魔術で軽減されているとはいえ、キツいものはキツい。半規管が強化されてるよ。
「おいおい、まだそいつが確かに符術使いだって確証はねぇだろ。それに符術使いだとしても、ある程度の実力がないと駄目だろう」
「何よ、面倒なやつね。そんじゃあ、どんくらいの実力があればいいっていうのよ」
「そうだな・・・お前ら符術使い2人で、俺と模擬戦して倒せるくらいじゃないか?片方は宮廷魔術士なんだから、不可能じゃねぇだろ」
何だこいつ、面倒臭い...。別に模擬戦する必要なんてないだろ・・・ないよね?
「えっと、模擬戦する必要あります?」
「・・・確かに、ないと言い切ることは出来ないわ。基本のきの字も出来ないんじゃ、大した価値はないもの。あなたがどれほどの実力を持っているのかが、問題になってくるわね...」
俺の役目、かなり重要じゃねぇかよ...。困るなー、比較対象がないから実力が分からないんだよね。
「どうする?呪符女の研究を再開させるなら、そこのガキに模擬戦をするよう頼み込まなきゃいけないな」
「・・・同じ符術使いとして頼むわ。見ず知らずの私のためだけど、一緒に戦って」
むう・・・俺としても、符術の研究が凍結されるのは困る。昼までには時間もあるし・・・まあ、実力の確認をするちょうど良い機会かな。ちょっと手伝いするくらいなら、特に目を付けられることもないだろうし。
「分かりました、やってやりましょう」
「ありがと。もういける?」
「いつでも」
「よし。こっちの準備はいいわよ、ここでやるの?」
「ああ、この実験場の中だけだぞ。合図は・・・おい、お前ら!模擬戦の審判をしてくれ!」
ちょうど実験場に来た魔術士さんたちに、審判をお願いする。そうして、俺と呪符女さんと嫌な奴が相対した。
「あの嫌な奴、攻撃魔術を研究しているんですよね?」
「ええ。悔しいけど、魔術士としての実力はかなり高いわ」
「あなたより?」
「あんな奴に、負けてたまるもんですか!符術使いの意地を見せてやりましょう」
「はい。・・・俺の名前はツチオです」
「私はハロリーン。いまさらだけど、よろしく。お互い、何が出来るかは全然しらないから、戦いながら合わせていくしかないわね」
「そうするしかないですね・・・あいつ、典型的な魔術士ですか?後衛で魔術をバンバン放つ」
「そうよ。あ、私は中距離よ。符術だから、あまり遠いと届かないのは分かってるわよね」
「了解してます。ちなみに、俺は近・中距離なので。背中に当てないでくださいよ」
「そんなこと、するわけないじゃない...。簡単に説明するわよ、私の符術は支援を主体においているわ。得意なのは罠と能力上昇、ツチオは?」
「攻撃系しかないっすね・・・援護はお任せします。俺はあいつに魔術を放たせないよう、邪魔し続けるので」
「おい、もういけるか!?」
「いつでもいけるわよ!」
宮廷魔術士と模擬戦か・・・滅多に出来ることじゃないし、符術発展のためにも頑張りましょうか。
王女か勇者フラグだと思った?残念、符術でした!