王都へ行くよ!
影さんが現れた翌日、俺たちと校長とサシャ先生は勇者教育の報酬を受け取るため、王都へと出発した。まったく、送ってくれればわざわざ行く必要もないのに...。直接受け取ることに意味があるとか、意味が分からん。そりゃ、王都観光はしてみたかったけど、別に今じゃなくてもいいしな。夏季休暇とかね。精霊さんが会いに来いって言いそうだけどな...。
「先生は王都に行ったことはありますか?」
「勿論ですよ。まあ、王城とたくさんの店があったということしか、覚えていませんが」
「ツチオは王立図書館に行きたいんだったね。ウチの図書館と、そうさして変わらないよ?」
「いいんですよ、もしかしたら有益な情報があるかもしれませんし。入館料って、どのくらいなんですか?」
「さあ、いくらだったかね・・・随分と昔のことだから、すっかり忘れちまったよ」
校長が忘れるなんて・・・何十年前なんだよ!?
「失敬だね・・・どうでもいいことを忘れなきゃ、他のことを覚えられないだろう」
そんなことを話ながら、俺たちは道を急ぐ。人数が少ないので、わざわざ馬車は使わない。1日に進む距離も増えるので、時間短縮にもなるしね。俺はリンに、校長は馬に、サシャ先生はガルムに乗っていた。1体で進める距離は短いけど、少しずつ交代させれば馬にも負けないらしい。ライムは俺と一緒にリンに乗り、ルウは飛んだり走ったりしている。影さんは言わずもがな、俺の影になっているよ。名前を決めないといけないんだが・・・中々良い名前が思いつかない。やっぱり、ちゃんとした名前を付けてあげたいからな。しばらくは影さんってことで。
王都への道中、昼間はガルムたちもいるからか、魔獣や賊が襲ってくることはなかった。だが、夜になると先生はガルムたちを影の中に戻してしまうので、たまに己の実力を過信した魔獣とか賊が夜襲をかけてくる。まあ、当然の如く撃退され、影さんのご飯となるわけだ。この数日で分かったことなのだが、影さんが吸う生命ってのは、どうやら自分を強くするためにも必要らしい。こんだけは吸っておかないと駄目って量はあるらしいが、限界はないみたい。本来は、吸える時に吸えるだけ吸うって感じなんだろうけど・・・影さんの場合、俺と食事で最低量は必ず賄える。なので、魔獣たちから吸った分は全て成長に回せるってわけだ。こりゃ、進化するのも時間の問題だろう。
そして、4日後の夕方、俺達は王都へと到着した。王都の近くまで来て野宿は嫌だしな、4日目はかなり急いだね。
「何とか、日が落ちる前に王都に着きましたね。宿はどうするんです?」
「今日と明日は王城に泊めてもらえるそうだよ。明後日からは、宿屋を取らなきゃいけないが...」
「報酬の件は午前中で済むでしょう。午後は自由行動、明後日の朝に発ちましょう」
「私はそれでいいよ。元々、その予定で考えていたし」
「俺も問題ないです。とりあえず、図書館に行ければいいですから」
ここは王都の入り口だが、既に王城も目に入っている。王城と呼ぶのに相応しい、立派なお城だな。まあ、もう入る機会もないだろうし、一回くらい行ってみてもいいかな。王族には会いたくないけれどね。
王都は3つの壁に囲まれている。外側から第一・第二・第三の壁と呼ばれている。第一と第二の間には平民街が、第二と第三の間には貴族街が、第三の壁の中に王城がある。平民街の中、第一の壁際にはスラムが広がっているらしいが、俺が立ち寄る場所じゃないよな。
壁を越えるには、身分証を提示する必要がある。第二の壁を越えるのはそこまで厳しくないそうだが、第三の壁は相当厳しいらしい。
「身分証を出せ!」
俺達も、ただ今第三の壁の門に着いたところだ。校長と先生は教員証を、俺は学生証を警備兵に渡す。普段はほとんど使わないから、ずっと机の引き出しで埃をかぶっていたんだよな...。失くしてなくてよかった。
「どれどれ・・・失礼致しました!まさかマクスウェル様だとは...」
「ああ、いいよいいよ。この2人は私の連れだ、通してくれるね」
「もちろんです!どうぞ、お通りください!」
ビシッと敬礼している兵士さんたちを横目に、俺たちは王城の敷地内へと入った。中は広い庭園のようになっており、城の周りには様々な建物が建っている。はー、すごいなー...。
「お待ちしておりました、マクスウェル様方」
キョロキョロと周りを見渡していると、眼鏡をかけた細身な男性が話しかけてきた。何か、幸薄そうな感じの人だな...。
「アラックじゃないか。少し痩せたね」
「お久しぶりです。知り合いのほうがいいだろうということで私が」
「ってことは、オスニールが報酬を渡すのかい?」
「そうですね、勇者様は今のところ、騎士団に所属しているので」
「そうか。ああ、こいつは私の教え子のアラックだ。今は、騎士団の副参謀だったかな」
「初めまして。王国第ニ騎士団副参謀のアラックです」
「サシャです。学院ではテイムについて教えています」
「ミカドです。学院生です。後ろにいるのは、俺の従魔です」
ルウたちが会釈をする。それを見たアラックさんは、
「ご丁寧に。ミカドさんも、テイマーなのですか?」
「はい、まだまだ未熟な身ですが」
「いえいえ、勇者様の相手を為されるほどなのですから、一人前以上じゃないですか。それで、その仮面は?」
「昔、顔に怪我を負ってしまって・・・・申し訳ないのですが、このままでよろしいでしょうか?」
「ええ、勿論です。大分暗くなってきましたし、とりあえず中に入りましょう。宿泊場所に案内します。近くに魔獣を置ける場所がありますので、従魔はそこに置いてください。まあ、ユニコーンくらいでしょうが」
ルウはほぼ人だし、ライムも人型だ。うう、ごめんよリン、一応聞いてみるけど...。
「ルウとライムは...」
「つ・・・ミカドと同じ部屋に泊まるよ」
「こく」
「・・・ブル」
「帰りは一緒に寝ような...」
騎獣舎なる所にリンをつないでから、宿泊場所なる建物に向かう。
「ここは局員が寝泊りする場所です。徹夜することも多いので。ここに住んでいる人もいるんですよ、全員独身ですけど」
「どうせ、アラックもここに住んでるんだろう?今、付き合ってる女はいるのか?」
「いませんよ・・・最近は、色々忙しいですし」
「第二騎士団は、王都の防衛が任務だろ。別に何をするわけでもないじゃないか」
「書類は溜まっていく一方なんですよ・・・副参謀なんかに、なるんじゃなかった」
「いいじゃないか、出世道をまっしぐらだし」
「このままじゃ、出世する前に潰れちゃいますよ...」
校長とアラックさんが、色々と話している。校長の教え子か・・・やっぱり、すごい人なんだろうな。
「先生先生、騎士団っていくつくらいあるんですか?役割って違うんですか?」
「知らなかったんですか?騎士団は十個あって、第一は強力な魔獣を討伐する団、今は勇者の護衛ですけどね。第ニは王都の防衛・治安を守り、第三・四は王国南部、第五・六は北部、第七・八は東部、第九・十は西部を担当していますね」
「はー、結構手広くやってるんですねぇ」
「その他にも、魔術局に所属する宮廷魔術士とかもいますね...。テイマーの局も作ってほしいものです」
「そうですね...」
局員宿舎内の部屋に案内される。校長と先生、俺とルウたちがそれぞれ1部屋ずつ割り当てられた。ちゃんとベッドがいくつかあるので、ルウたちとは別々に寝れそうだ。
「食事は1階にある食堂で出来ますので。無料ではないですけど...」
「あ、従魔の食事はどうすればいいのでしょうか?食堂じゃ売ってないでしょうし」
「食堂の方に伝えていただければ、特殊なものでなければ用意できると思います。それでは、長旅お疲れ様でした」
そう言って、アラックさんは去っていった。そんじゃ、とりあえず晩ご飯を食べましょうか。
翌日、ルウが夜にベッドに侵入しようとしたとき、ライムと影さんがタッグを組んで守ってくれてたので、グッスリと寝ることが出来た。夜は影さんの独壇場、ライムも目で周りを見ているわけではないから、暗闇はデメリットになり得ない。圧倒的な不利でありながらも、見事俺の貞操を守りきってくれた、いや、もう奪われちゃったんだけどね。最近はずっと影さんに生命力を与えているので、ルウと夜に色々とヤれる元気がないのだ。余裕が出てきたら、ちゃんと相手をしてあげないとね。
局員宿舎の食堂は、中々のボリュームにそこそこの味、そして何より安かった。社員食堂といった感じだね。
「朝食を終えたら、すぐに報酬を受け取りにいくよ」
「オスニールさんですか?」
「たしか、軍部大臣でしたね。校長の教え子でしょう」
「ああ、キサトと同期だったかな。よく現場に出たいとぼやいているよ」
はー、キサトの同期。ムキムキで壮年の男性なんだろうな...。
「というか、今更ですけどキサトさんが教え子って、校長先生お幾つなんですか」
「女に歳を聞くもんじゃないよ」
「えー・・・先生、知らないんですか?」
「別に気にするほどのことでもないですし。エルフなら、数百年生きても不思議じゃありません」
うーん・・・どうにもエルフには見えないんだがな。教えてもいいことなら、そのうち教えてくれくれるだろうし、こっちから踏み込む必要はないか。
朝食を終えた俺たちは、迎えにきたアラックさんと共に入城する。ルウたちも連れて行っていいらしく、騎獣舎で待たせる必要はないそうだ。リンは・・・まあ、さすがに馬を城に入れるわけにはいかないので、またもや1人騎獣舎で待機だ。さっさと用意を終わらせて、迎えに行ってやらないと。朝食をあげにいったとき、とても寂しそうな目で一言、気にしないでと言ったのには胸が詰まる思いだったよ...。ううう、可哀想なリン。あとでいっぱい可愛がってやろう!
「さあ、アラックさん!案内してください!」
「は、はあ・・・こちらです」
「こら、ミカド。あまりアラックを困らせるんじゃないよ」
「影に入れないのは、やはり不便ですね」
アラックさんの後についていく。大きな広間から階段を上がり、長い廊下を歩いてどこかの扉の前に到着した。壁には、軍部大臣執務室と書いてあるプレートが張られている。
「アラックです、マクスウェル様方をお連れしました」
「おお、やっと来たか!入ってくれ!」
扉の奥から、よく通る低い声が聞こえてくる。校長から中に入っていき、俺が入ってからアラックさんが扉を閉める。執務室の中には、窓を背に執務机があり、壁際には書類の入った棚が並んでいる。飾りっ気がなく、執務に必要なものしか置いていない。
「先生、お久しぶりで。キサトから話は聞いていますよ。そこの坊主が、噂のツチオか」
「え、ミカドさんじゃないんですか?」
「ああ、勇者の前では、仮面をつけてミカドって名乗ってるんだよ。何故かは知らんが」
「それじゃ、顔の怪我っていうのは...」
「すいません、嘘です。まあ、顔を見られたくないっていうのは事実ですけど」
この人たちなら、見せても問題ないかな。さすがに似たような顔立ちってだけで、異世界出身だとは思わないだろうし。校長たちも、気づいていないからね。
「仮面を外したほうがいいですか?勇者様とかに見られたくないだけなので」
「ああ、そうしてもらえると助かる」
仮面を外すと、俺の顔に視線が集まるのが分かるな。
「・・・別に隠すような顔じゃねぇな」
「そうですね、ちょっと勇者様に似ていますが」
「おいおい、それは勇者様に失礼だろうよ」
「それはツチオさんに失礼ですよ...」
まあ、あのイケ面と比べられちゃあ、立つ瀬もないわな。
「そんじゃ、報酬の話をしようか。王国から、勇者様への授業の対価として、いくらかの報酬金が出ている。受け取ってくれ」
執務机の上に、3つの小袋を出すオスニールさん。多分、お金が入ってるんだろうな。とりあえず、校長が3つ全部受け取り、懐にしまう。
「確かに。これで終わりかい?」
「そうです。まあ、折角ここまで来たすから、話を聞いてくださいよ」
「んじゃ、付き合ってやろうじゃないか。サシャたちはどうする、もう王都に行くのかい?」
「私はそうしようと思ってますが...」
「俺はちょっと城内を見てみたいんですけど・・・大丈夫ですか?」
「まあ、大丈夫だろう。誰かに尋ねられたら、オスニールに呼ばれたって言っとけ」
「あまり奥に行ってはいけませんよ。兵士が張り付いて警備しているところには、近づかないでください」
「了解です。ちょっと見たら、俺も王都に向かいますよ」
早くリンのとこに行かなきゃだけど・・・城内も見てみたいんだ...!ルウたちには先にリンのとこに戻ってもらうか。