見ーちゃったー、見ーちゃった
<side ライム>
夜、久しぶりに魔獣舎から抜け出した私。お父様にバレないよう、隅っこに穴を開けるのには苦労しました。かなり小さいので、これなら到底バレないでしょう。
夜の狩りも1ヶ月ぶり、あまり無理は出来ません。今日は慣らすだけにしようかと思っていると、ふとお父様とお姉様の魔力が近くにあるのに気がつきました。そういえば、お父様とお部屋を見に行かれてから、戻ってこられてませんね...。もう、そこで寝てしまっているのでしょうか...?妙に気になった私は、お父様がいる場所に向かってみました。
そこは、女子寮からほど近い小屋でした。こんなところがあったのですねぇ・・・この中に、お父様とお姉様がいるみたいですねぇ。一体、何をしているのでしょうか?
外側から周ってみると、窓から明かりが漏れていました。カーテンが開いているようですね・・・中の様子が気になります。いけないことですけど、少し覗いてみましょう。
頭をちょっと伸ばして、カーテンの隙間から小屋を伺ってみると・・・そこでは、信じがたい光景が広がっていました。
裸でお父様にまたがり、だらしない顔で腰を振っているお姉様。それを、満更でもなさそうな顔で受け入れているお父様。お姉様がお父様に抱きつき、唇を重ねて...。
私が見れたのは、そこまででした。気が付いたら、地面に蹲っています。・・・お姉様は魔人となりました。ずっとお父様に付き従い、心身を捧げてお守りしていました。だから、あれは当然の権利です。邪魔をしてはいけないのです。それなのに・・・私の胸には、ドロドロとしたドス黒い何かが渦巻いているのでしょう。お姉様の顔を思い浮かべて、地面を殴り続けているのでしょう...。そんなこと思っては駄目なのに・・・体が勝手に動いて、自分では制御出来ません。でも、頭の中でお姉様が殴られるたび、胸に渦巻く思いが軽くなっていきます。それでも、なくなることはありませんが...。ああ、お姉様ぁ・・・とても美しく、清楚でいて妖艶。非常に・・・非常に嫉ましいです。お父様の寵愛を一身に受け、体中でお父様を感じて...。私にはしてくれないのに、子どものようにしか扱ってくれなのに...!
それから、お父様たちが眠るまで、私はずっと地面を殴り続けていました。我に返った時には、地面は穴だらけになっていました。・・・あれ、私、どうしてたのでしょうか...?狩りに行こうとして、それで...。ああ、お父様とお姉様の情事を目撃してしまったのでした。別に気にすることでもありませんよね、だってお姉様はずっと我慢していたのですから。ですが・・・もうあの光景は、二度と見たくないです。次見てしまったら、自分を抑える自信がありません。私だって、人化したら同じことをしてもらうのです。自分を棚上げにしてはいけません、お姉様を嫉妬するのはお門違いです。人化するまで、何とか我慢しなければ...。
翌朝、外から流れてくる小鳥のさえずりに目を覚ます。あれ・・・俺、個人寮をルウと見に来て...。えっと、それで...。
裸でベッドに寝ていた俺、隣には布団に包まって誰かがスヤスヤと寝息を立てている。恐る恐る中を覗くと、一糸まとわぬ姿のルウが丸まって寝ていた。・・・ああ、これが朝チュンってやつか。ん、段々思い出してきた。・・・ううう、もうお婿にいけない...。
ったく、スヤスヤ寝やがって・・・全然寝かせてくれなかったのになー。こんにゃろ...。
昨晩の恨みも込めて、頬を突っつく。プニプニとした感触。うっわ、モッチモチやん。クセになるなぁ。・・・胸もこんな感じなんかね。
こっそりとルウの胸に触れてみる。こ、これは!?・・・全てを吸い込むような柔らかさ、そして指を押し返してくる弾力。これが女性の神秘か・・・確かに筆舌しがたい感触だな。やわらけー。
「・・・いつまで触ってるの、ツチオ」
「あ、おはよう、ルウ」
「ホント、スケベなんだから...」
「ルウに言われたかないよ・・・いきなり襲ってきて」
「しょうがないでしょう、ずっと我慢してたんだから...」
「はあ・・・水浴びしようか」
「その前に」
またもや、俺を押し倒すルウ。えっと、これってもしかして...。
「今日から何日か休みなんでしょう?もう1回、ね?」
「やっぱり!校長に詳しいことを聞かないといけないの!また後で、な!」
「ダーメ」
正面から俺に抱きついてくるルウ。おおお、当たってる!何か柔らかくて固いのが当たってる!
「当ててるのよ。授業になったら、またご無沙汰になっちゃうんでしょ?それなら、今のうちに私が満足するまでシようね」
「お、落ち着け、ルウ!素数を数えるんだ!」
「私だって、本当に嫌ならシないよ?ツチオ、私とヤるのは嫌い...?」
くっ・・・その上目使いは反則だってーの!
「はあ、嫌いなわけないだろ。いっぱいルウを感じられて、気持ちいいし」
「私も。それじゃ、いただきまーす」
「それとこれとは話があーーー!!!???」
結局昼過ぎまで、俺はルウに搾り取られた。それでも満足していないようで、今晩も寝かせないよ!といい笑顔でルウは宣言してたね...。はあ、嬉しい悲鳴が上がるわ。つうか、何でいっつもルウが上なんですか!?男としてのプライドがズタボロだよ!今日は、俺も頑張ってみようかな...。
しっかりと体を洗ってから、校長室へと向かう。その間、ルウはライムたちと遊んでいるそうだ。昨晩のことを、自慢でもしているんじゃないか?
「失礼しまーす...」
「うん、どうしたんだいツチオ坊。今日は休みのはずだよ」
「昨日の話を、もう少し詳しく聞きたくて」
「昨日の話ってーと・・・報酬のことか。あ、座りな」
校長室のソファーに座る。対面に移動した校長が、話を続ける。
「別に詳しく話すことなんかないと思うがね...」
「えっと、その話の前に。その報酬って、勇者の教育に関するもので、戦争のものではないんですか?」
「ああ、そうだよ。私たちは王国直轄の学院として戦争に行ったんだから、見舞金くらいは出るけど報酬とまではいかないねぇ」
「へー、先生たちも大変ですね...」
「その分、色々援助してもらってるんだ。差し引きはトントンって感じさね。それで、何が聞きたいんだい?」
「王都に行くのは何時なのか、あと報酬に関して1つ聞きたいことが」
前者はついで、本題は後者のほうだ。
「ツチオ坊、しばらく授業がないだろ?私とサシャもそうだし、出来るだけ早めがいいだろうから...。明後日に、出発するのが妥当かね」
「うえー、やっと帰って来れたのにまた王都に行くんですか...。そんなら、学院に帰る前にすれば良かったのに」
「レギットたちがいたからね。まずはそっちが優先さ」
ああ、そういやそうだったな。しっかし、またもや王都か。あまり観光もしてないし、ちょっとくらいなら見て回れるかも。リュカたちに、お土産でも買ってこうか。
「そんで、報酬で聞きたいことってのは?」
「ああ、そうでした。報酬は金って言われてましたけど、別のものには出来ませんか?」
「何だい、金はいらないってのか?」
「いらないってわけじゃないですけど、別に今は困ってませんし。それなら他のものをもらえないかなって」
別に金でもいいっちゃいいんだけど・・・聞いておくにこしたことはないよね。
「そうさね・・・ほしいものによるかな。何がほしいんだい?」
「えっと、新しい呪符、珍しいのや強い魔獣とか、あと情報とかですかね...。ほら、国が管理している図書館があるんでしょう?」
「ああ、王立図書館ね。というか呪符に魔獣って・・・まあ、予想はしてたけど」
「呪符の模様って、ほとんどが個人で考えたものなんですよー。まあ、イメージの都合上、どうしてもそうなっちゃうんですけど...。それでも、どういうものか見せてもらえば、参考になると思うんですよ!」
「へー・・・魔獣は?」
「いや、王国ならどこにどういう魔獣が生息しているのか、地図くらい作ってると思うんですよね。そこらへんの情報を知りたいです!あ、場所が分かれば自分でテイムしに行きますよ。他人が捕まえたのじゃ、意味ないですから」
「情報ってのは?」
「召喚についてです。ほら、召喚士って魔獣を召喚して契約するんでしょう?どういうのか知りたいなーって」
正直、金より新しい従魔が欲しい。戦争じゃ、テイムなんてしている余裕がなかったからな。今回は、魔術支援が出来る奴がほしいかな・・・特に治癒魔術。怪我はすぐに治せたほうがいいしね。
「欲張りだねー・・・まあ、若いうちはそんくらいが丁度いいか」
「ですよね!それで、どれかに変えられるでしょうか?」
「図書館にゃ入館料さえ払えば、誰でも入れるから問題ないとして・・・魔獣の生息情報は、冒険者ギルドでも見れるんじゃないか?そういう情報は、冒険者にとっても重要だし。国有地への立ち入り許可なら、もらえんこともないだろうな」
「へえー、ってことはほとんどいけるってことですね」
「呪符ばっかりは、どうにも出来ないけどね。そもそもあまり使われないし、使い手がいるかどうかも分からない。もしいたとしても、自分の技術をそう簡単に渡すとは思えないよ」
「そうですか・・・まあ、呪符より魔獣のほうが優先ですよ」
召喚には、あまり期待していないな。あまり知らないんだが、召喚ってのは呼び出した魔獣を魔術によって縛って言うことを聞かせるのだと。そんな一方的な関係、俺には向かないだろう。ちゃんと戦って屈服させたほうが、まだ魔獣も納得して従ってくれる・・・と思う。少なくとも、今まではそうだった。
「何にせよ、まだ何がもらえるかは分からないんだ。もしかしたら、ツチオが気に入るものかもしれないしね。そうでなければ、その時担当の人に聞けばいい」
「ですね。それじゃ、失礼しました」
「ああ、ちょっと待って。これとこれを持っていきな」
校長が拳大の真っ黒い石を投げてくる。半透明で中には黒紫色の靄が詰まってるな...。何か、結構な魔力を感じるんだけど...。
「・・・何すか、これ」
「昔、とある場所から取ってきたんだよ。闇の魔力が詰まった魔石だ。私は使わないけど、ツチオなら従魔相手に何かしら使えるんじゃないかと思ってね。色々迷惑をかけた礼だ、受け取ってくれ」
「それじゃ、ありがたく受け取っておきます。・・・まあ、今のところあげる従魔はいませんね...。すっごく闇っぽいですし」
「まあ、そういう系の魔獣をテイムしたら、上げてみてくれ」
「それでは、失礼します」
一旦ルウたちの様子を見てから、図書館に行こうかね。・・・この魔石、どうしようかなぁ...。まあ、とりあえずポケットに入れとくか・
「・・・リン、どういう状況なんだ?」
「ブルル...」
すでに日が傾いている夕方、魔獣舎の前、俺はリンと一緒に木の下で座って、目の前で起きているルウとライムの激戦を見ていた。二人とも、一歩も引かずに殴り合っている。
「はああぁぁぁーーー!!!」
「・・・・・・・・・!!!」
殴って、斬って、蹴って、突いて、払って、薙いで。拳と拳、爪と爪がぶつかるたびに、火花が散り魔力が辺りにまき散る。あっれー、何かライムに鬼気迫るものを感じるぞ。こうなんというか・・・殺気的な?
「はあ!!!」
「・・・!?」
突然振られた尻尾を、ライムは腕でガードを固めて正面から受け止める。吹き飛ばされるものの、空中で体勢を整えて地面を削りながら着地する。迫ってくるルウの拳をかわし、懐に入り込んで腕を背負い、そのまま投げ飛ばした。おお、一本背負いだ。やるな、ライム。
「すごいなー、二人とも。鍛錬にしては、少し激しい気もするけど」
「ブルルゥ」
「ん?・・・ああ、ほらおいで」
リンが頭をクイクイ動かす。俺が足を前に伸ばすと、膝の上に長い頭を乗せて、腹に擦り寄ってくる。まったく、いつもこうやって甘えてくればいいのに...。
「ああ、そうだ。ほら、これ見てくれよ。校長にもらったんだ。結構な魔力が篭ってるだろ」
「・・・ブルゥ」
リンに魔石を見せると、嫌そうに顔を背ける。ああー、やっぱり嫌だよな...。どっからどう見ても、闇っぽいし。
「どうしようかね、これ。ルウとライムも、あまり好かないだろうし...。とりあえず、壊さないように安全な場所に...」
そう言いながら、手の中で魔石を弄んでいると・・・ツルッと手がすべり、魔石が落ちる。スローモーションで落ちていく魔石。そして、そのまま夕日で傾いている俺の影へと落下し、砕け散った。中からどんよりとした黒い靄が出てきて、地面へと吸い込まれていく。
「・・・うわあああああああああ!!!!!!!」
「ツチオ!?何、敵!?」
「・・・!?」ぷるぷる!?
「ブ、ブルル!」
魔石が落ちたところを触ってみるが、俺の影があるだけでそこはただの地面。まだ地面の中にあるかもと掘ってみるが、土と石があるだけだった。・・・ああ、終わった。思わず、Orzの体勢になる。
「ツチオ、どうしたの!?何があったの!?」
「・・・魔石壊した、望むは天界大戦争...」
「・・・?」ぷる?
「ブルル、ブルルルゥ...」
「慰める必要なんかないんだよ、リン。ただ、俺が屑で間抜けな滓野郎なだけなんだから、ははははは...」
乾いた笑いが口から漏れる。ああ、もうホントやだ。何でいっつもこうなんだ...。
「つ、ツチオ?大丈夫?」
「ああ、ルウ。うん、大丈夫だよ、というか、俺なんてルウに心配される価値なんてないんだよ...。頭も要領も悪いし、運動神経だって微妙。やらなきゃいけないって分かってるのに、自分が好きなことばかりやって...。親に生かしてもらってるのに、ろくに言うことも聞かないで好き放題。そういえば、母さんと父さんどうしてるんだろうなー...。俺、向こうじゃどういう扱いになってるんだろうなー...。親孝行もしないで、この世界に来ちゃって。はあ、本当に恩知らずだよ・・・老後とか大丈夫かな...。
つうか、本当に俺って何なんだろう...。俺って、何で生きてるんだろう・・・俺が生きてる意味って何なんだろう...。俺なんかいなくても、別にこの世は成り立ってるんだし。はあ、もう駄目だ馬鹿だ阿呆だカスだクズだ鬱だ...」
「・・・!?」ぷるぷる!?
「ブルル!?」
ああー・・・やばい、鬱スイッチが入った。もう何もやる気が起きないわ・・・寝よう。
「・・・帰る」
「え?帰るの?じゃあ、送って...」
「いいよ、もう寝るから。お休み」
「こ、こく」
「ブル...」
はあ・・・明日、校長に謝っておこう。ルウたちにもか...。
時々、無性に鬱っぽくなることってありますよね。自分が何の為に生きているのか、分からなくなったり。