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美味しくいただかれました

「騎士団別に、それぞれの団長別に分かれろ!」

「冒険者たちは、キサト団長の指揮下に入ってください!」

「怪我した奴は無理するな!下がって回復に努めろ!」


騎士団長たちが指示を飛ばし、決めておいた通りの編成を取る。先生たちは冒険者たちと一緒に動いているようで、キサトさんの側に集まっている。とりあえず、俺もそっちに行っとこうか。


「ツチオ殿、無事ですかな!?」

「魔力に余裕はないですが、怪我はないですね。リン、さっきの結構すごかったけど、いけるのか?」

「・・・ブル」

「そうか。ならこのままいかせるが、無理だと思ったらすぐに引かせるぞ。いいな」

「ブルゥ」

「ルウとライムは?」

「私はまだまだ余裕、ほとんど殴って倒してたし」

「こくこく。・・・」ぷるぷる


ライムもいけるようだ。・・・そうだな。


「俺がいたら、どうしても魔術に頼りがちだ。俺はリンから降りて戦おう」

「ブル...」

「俺がいなけりゃ、強化魔術だけ使って前で戦えるだろ」

「決まりましたかね?前線で戦うのなら、儂と一緒に来てくだされ」

「え、私たちは前線で戦わないけど?」


・・・ん?どういうことだ?


「前に出ないの?」

「こく」

「ブル」

「うん、ツチオを守らなきゃ。また魔物が来るかもしれない」

「いやいやいや。そんなこと言ってたら、戦争やってらんないじゃん!後衛だし大丈夫だって!」

「・・・そんなこと言って、この前襲われたばかりでしょう。また襲われたらどうするの」


うっ、それを言われると何も言い返せない・・・いや、あの魔物があそこまで来た理由が分かれば、ルウも納得してくれるかも。ある程度、予想は出来てる。


「いや、もう魔物は来ないと思うな。予想だけど、あの魔物は集団詠唱魔術をまた放たせないため、魔術士部隊を潰しに来たんだと思う。まあ、あんな性格だったから、上手くいかなかったけど...。それに、この要塞にはそこまで多くの魔物がいないと思う。総指揮を取っていた頭は、勇者たちが倒したん、だろうし」

「それじゃ、指揮は誰が取っているの?」

「さあ?各々の判断で動いているのか、はたまた副司令的な魔物でもいるのか...。まあ何にしろ、後衛に魔物を回す余裕はないだろ。増援もまだみたいだし」


レギットさん曰く、だけどね。まあ、強者の勘ってのはあながち無視できないものだ。それに、増援が来てるなら篭城する必要はない。数で負けてるから、城に篭って時間を稼ぐんだ。


「・・・分かった、そこまでツチオが言うんなら、前線で戦う。でも、危ないと思ったらすぐに戻ってくるから!」

「ああ、そうしてくれると俺も助かる。・・・心配して、ありがとな」

「当たり前、ツチオのためだもの」


ルウは将来、絶対に良妻になるな、俺の。誰にも譲る気はない、絶対に。


「ははは、仲が良いですな。見ているこっちが、恥ずかしくなってきますぞ」

「すいません、お時間を取らせてしまって。ルウたちは前線に行かせます」

「それでは、儂について来てくだされ」


よし、俺も援護に徹しようか。あまり前に出すぎると、ルウたちに何て言われるか分かったもんじゃない。






 俺は、またもや魔術士の護衛に当てられた。といっても、直接戦う人は十分にいる。前線では騎士さんたちが頑張ってるからなー・・・冒険者は後ろに下がりがちだ。

そういうわけなので、俺は屋上で符を投げまくっている。たまーに魔術が飛んでくるが、常に前に壁を張って防いでいる。


遠くに見える前線では、騎士団たちと冒険者たち混合部隊が、別々の道から要塞の中央に向かっている。要塞の中央には大きな建物があり、多分あそこの最上階に、要塞内のトップが常駐しているんだろう。まあ、今は多くの魔獣が守っているけれど。何であんな目立つところにするんだろう・・・ああ、王都から来たお役人がいるのかもな。


そのまま屋上を走り、時には家と家の間を飛び越え、冒険者たちについていく。屋上に上がってくる魔獣もいるが、大抵は近づかれる前に落としてしまう。


「ウガガガガ!」

「ギャギャギャ!」

「はいはい、どいてどいてー」

「ウゲ!?」

「ギャゴ!?」


ちょうど今、ゴブリンたちが屋上に来たのだが、さっさと符でぶっ飛ばしていく。屋上にまで来るのはゴブリンくらい。オークとかは、ここまで上ってこれないからな。たまに、ハーピーとかリザードマンとか猿っぽいのも来るけど、そこまで強くはない。火蜂で十分対応できるレベルだ。


前線の人たちが中央の建物へと到達しようとした頃、北門近くにいた魔獣たちが逃げ出し始めた。ってことは、中央には何もいないのかな。それとも、逃げ出した後か。一回落とした要塞なんだから、もう一回落とせると考えているのかもね。所々で上がっている火の手は、要塞内にあった物資を燃やしているのか。この後、再び攻めてくるためにかね。


騎士団たちが魔獣たちを追う様子はない。まあ、要塞を取り戻すのが俺らの任務だからな。深追いする必要はない。


恐らくトップが逃げ出したからか、前線の魔獣たちも次々に引いていく。そして、あっという間に要塞内から魔獣が引いていく。早っ、見事な退却っぷりだな...。まあ、こっちが追わないって分かってるからかもだけど。


全ての魔獣が引き、要塞内は静寂に包まれる。そして、大勢の雄たけびが響き渡った。ふぃー・・・やっと終わったかな。いや、まだか。ここを取り返そうとする魔獣たちを撃退して、ようやく一段落か。


「ツチオ、怪我してない!?」

「してないよ・・・ずっと屋根の上にいたしな」

「・・・」ぷるん

「大丈夫だって。それより、皆は怪我してないか?」

「怪我なんて、さすがにしないよ。魔獣相手に」

「こくこく」

「ブルゥ」

「それなら良かった」


どうにも、ルウたち皆自分のことを軽視しがちだからな。自分が傷ついたら、心配する人がいるってことに気づいてほしいよ...。


「よし、要塞は取り戻した!王都から駐在兵が来るまで、およそ2週間ほどだ!それまで、1体たりとも魔獣に要塞の土を踏ませるな!」

『応ッ!!!』


駐在兵が来るまで、俺たちもここに拘束されるのか...。はあ、勉強に置いてかれてないか、心配だな...。






 それから2週間、何度か魔獣たちの襲撃があったものの、何とか駐在兵たちが来るまで要塞を守り通すことが出来た。大きなものは、大体3つくらいだったかな。魔獣の襲撃といっても、初めの1週間に集中しており、後半1週間には数えられるほどしかなかったな。

一番最初の襲撃は、特にヤバかった。多くの魔獣が北からやってきて襲い掛かってきたんだ。エルフさんたちの魔術がなかったら、再び落とされていたかもしれない。ある程度魔術で数を減らし、その後は門から出て迎撃に当たった。まあ、その前にルウがブレスで半数以上は片付けたんだけどね。いや、割れたわ、魔獣の群れがモーゼの十戒並に割れたわ。ブレスは体に響くらしく、その夜しっかりとマッサージを要求されたけど、要塞に比べたら安いもんだよね。

次は割りと少なかったので、リンが雷雨を降らせて全体的にダメージを与えた。あ、雷雨って雷を伴った雨じゃなくて、文字通り雷の雨だよ。かなりの溜めと魔力がいるんだけど、威力と範囲は折り紙つきだ。その日の晩、俺の魔力を目一杯頂戴されたけど。まあ、少し寝れば回復するし問題ない。ダルいってことは、変わらないんだけどねぇ...。

そして、3回目。大きな規模の襲撃といっても、後半に比べてってことだ。前の2つと比べたら数は多いんだが、ほとんどが雑魚。一番強くてBランクってとこだったなー、ライムが暴れ回れるくらいだったもの。いやー、怖かった...。ルウとリンは俺の護衛に徹していたので、ライムが前に出たのだが・・・怖かったな...。魔獣の間を動き回り、通りがかりざまに魔獣の首を裂いていく。そのたびに血が噴き上がり、ライムの体を濡らしていった。別に楽しんでいる節はないからいいんだけど・・・淡々と魔獣を斬っていく姿は、殺人機械を彷彿とさせる動きだったなー...。血まみれのまま、俺に褒めてほしいのか駆け寄ってきたので、ちゃんと抱きしめて持ち上げてクルクルと回してあげた。男には、引いちゃいけない場面があるのだ!ちょっと不満そうだったけど、何でだろうな?


それにしても・・・結局、この魔獣たちの正体は分からなかった。絶対にこの大陸の魔獣とは違うんだろうけど・・・何が違うのかまでは判明していない。その違いが分かればいいんだがな...。というか、何でここまで気にしてるんだろう。魔獣は敵、倒すべき相手でいいじゃないか。・・・まあ、それに納得出来ていないから、ここまで気にしてるんだろう。魔獣に対してそんな思いを抱いたら、ライムやリンにも同じ思いを抱いていることとなる。だから、その思いを否定する材料がほしいんだろう。実際に違いがある分、簡単に諦め辛いから性質が悪い。気になって夜も眠れない、王都からずっとルウに襲われかけてるのもあるけど...。俺が寝ていないのを確認して襲ってくるから、別に構わないんだけどね。そういうところは、ルウらしいよなー。



そして、駐在兵が来たその日のうちに、他国の騎士団は帰っていった。そのうち、王様から直々に礼を言われるそうだ。皆さん、面倒臭そうにしてたけどね...。

先生たちと俺は、王都に一泊してから学院へと帰った。護衛はつかなかったけれど、魔獣には数回しか襲われなかったな。それも、全部先生たちに倒されちゃったしね。まあ、移動中俺はずっとリンの上で寝てるからありがたい。・・・そういや、ルウって学院だとどこで寝泊りするするんだろう...。魔獣舎は牢屋みたいで可哀想だしなー・・・俺の部屋?HAHAHA、何を言っているだいジョージ。冗談はその髪型だけにしてくれよ、こんの鳥の巣アフロサングラス!80年代のDJかよ!(ジョージは架空の人物です。そして、80年代DJ云々はツチオの偏見です)


まあ、ジョージのことは置いといて。マジでルウの部屋どうしよう。後で校長に相談しとくか。さすがに婦女子を、あんな牢には入れとけないしね。


あっという間に、学院へとたどり着いた。約1ヶ月ぶりだな・・・たった1ヶ月って感じだけど。死に掛けたり、ルウが人化したり、要塞を奪還したり。まあ、最後のはやけにアッサリ終わったけどね。・・・そういや、妙に引き際が良かったなぁ。最初は感心してたけど、今思えばどこかおかしい。まあ、兵士の命を大切にするのはいいことだよな。無駄に消費するよりはね。はあ、疑問だけが増えていく...。



正門では多くの生徒たちが、俺達のことを拍手で出迎えた。奇跡的・・・なのかはしらんが、先生たちに死者は出なかった。

馬車から降ると、リュカたちが涙目で俺の胸に飛び込んでくる。周りの視線は生暖かいが、一部の女子生徒のものは熱気を帯びている。おい、そこ!俺が誘い受けってどういうことだ!こら、逆もアリかもとか言うな!ルウたちも、そんな冷め切った視線は止めなさい!


「ツチオ君ー!ずっと心配だったんだよー!!!」

「ヅヂオどの~~~!!!」

「って、何かわき腹が変ですよ!?どうしたんですか、これ!?」

「ああ、ちょっと怪我しちゃってな。ちゃんと治癒されてるから、全然平気だよ。ちょっと肉が削られただけ」

「い、痛そうででありますよ~」

「大丈夫だって、もう治ってるんだし。ほら、校長が呼んでるから離して。後で沢山話すからさ」


渋々離れるリュカたち。さて、何の話かな。


「お、来たね。もう他の先生がたにゃ、話し終わっちまったよ」

「すいません・・・それで、お話ってのは?」

「報酬と休暇についてだね。あんだけ戦わせた後で、いきなり授業は厳しすぎるよ」

「ですよね。おれもちょっとは休めるんですか?」

「もちろんだよ。ゆっくりと羽を伸ばしてくれ。それと、勇者のことで私とサシャ、それとツチオ坊が呼ばれている。礼と報酬をくれるそうだよ」

「・・・王様とご面会?」


それだけは・・・本当にそれだけはやめてくれ...!戦争ならまだいい、ルウたちがいれば何の問題はない。でも、権力相手じゃそうはいかない。関わり合いにならないのが一番だ。


「いや、それは私だけでいい。礼を言うのは、多分大臣とかそこらへんだろう。報酬は・・・まあ、金だろうな」

「はあ・・・細かいことは、後で教えてください。あ、それとルウについて、別の部屋を用意してもらいたいんですけど...」

「ああ、魔人になったんだね。確かに、絵面が良くないな・・・確か、昔どっかの馬鹿貴族が建てっぱなしの個室寮が、放ったらかしになってたはず。ちゃんと掃除はしているらしいし、すぐに使えると思うよ」

「へえー・・・個室寮って何に使ってたんでしょうねー」

「さあ、そんなのどうだっていいだろ。詳しい話は、寮母さんに聞いてくれ」

「了解です」






夜、昼からずっと質問してくるリュカたちをかわし、寮母さんに件の個人寮に案内してもらう。見た目は、小さなロッジだな...。この大きさだと、数部屋しかないんじゃないか?


「ほら、ここが個人寮だよ。ちゃんと掃除はしてあるから、今からでも使える。・・・で、その娘がここに?壊さないでね」

「そんなことしませんよー。寮の裏手にこんなのがあるなんて、知らなかったです。案内、ありがとうございます」

「気にしないで、学生なのに戦争なんかに連れてかれて...。大変だったね、ゆっくり休みなさい」

「あ、ありがとうございます」


おお、寮母さんが妙に優しい。そんじゃ、ありがたく...。


寮母さんの言う通り、中は埃もなくきれいな状態だ。予想通り、大きな寝室とトイレしかないが、家具はどれも質の良いもの。寝室自体もかなり大きく、シングルのベッドなら4~5つ横に並べられるんじゃないかな。さすが貴族、やることが大きい。


ルウを連れて、部屋の中を物色する。さっきはいくつもベッドを置けるといったが、実際には大きなベッドが1つしかない。それと机とか箪笥などの調度品がいくつか、まあルウは使わないし問題ないか。ライムとリンは連れてきてないんだけど・・・明日になったら、見せてあげようかな。


「よかったな、ルウ。かなり立派な建物だぞ、しかも個室」

「うん、本当に良かったよ・・・個室で」


俺は背中をトンと押され、ベッドの上に倒れこんでしまう。そのまま俺へまたがってくるルウ。なぜか顔は上気し、息も少し乱れている。


「えっと・・・ルウ?どうしたんだ、様子が...」

「言ったよね、ツチオ。そういうことは、学院に帰ってからだって」


ネクタイに手をかけシュルリとほどく、襟から汗ばんだ豊かな双丘が覗き、自然と視線がそっちに引き寄せられ・・・って、危ない危ない。流されないようにしないと・・・流されちゃっても、いいのかな?い、いや、俺がキチンとしないと!


「もう、どこ見てるの・・・スケベ」

「え、あ、えっと...」

「ずっと待たせて、誘ってるって知ってるのに・・・すっごく興奮しちゃう」


俺の腕を押さえ、その顔を近づけてきた。戦場では鋭い切れ味を感じさせるその美貌が、俺の前で真っ赤に染め上がり妖艶に微笑んでいる。・・・うっわ、これはヤバい。俺、今絶対首まで真っ赤になってるよ...。


「もういいよね?ここ学院だもんね、ガマンしなくていいんだよね」

「そ、そうだな。そういう約束だし。で、でも俺結構疲れてるし、また今度の機会に...」

「駄目だよ、そんなの...。こんな美味しそうなの、もう辛抱できないよぉ」

「る、ルウ、落ち着け、な?とりあえず、こういう時は円周率をだな...」

「それじゃあ・・・いただきまぁす」


え、ちょ、ルウ?ま、待って...!?あ、あ、あーーーー!!!???




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