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爆誕!

本日3つめ、ラストです!

 切り札とまあ大層な呼び名だが、実は魔手だ。拷問した時みたいな、魔力を一箇所に集中させて内部から壊す技。やっぱり使い慣れている技こそ、切り札と呼ぶのにふさわしいんだと思う。あくまで、俺の意見だけど。

当然、魔物相手にこんなことをやるのは初めてだ。相手の体が、どこまで魔力の集中に耐えられるのか。あいつは人型だけど、魔力経路はどのようになっているのか。そもそも、魔手で魔物の魔力を操作できるのか。色々と問題はある。が、そんなことやってみれば分かる話だ。今考えなければいけないのは、いかにして生き残るか。結果は後からついてくる。


俺が魔物の腕を掴むと、その腕を見て動きを止める。よし、あいつに俺を止める気はない。これに賭けるか。

魔手で魔力を操る時、1番魔力を集めやすいところは魔手で触れているところだ。腕を掴んで頭に魔力を集めることも出来るんだけど、効率が悪いので今回は腕にする。


すぐに魔物の魔力の流れを調べる。・・・よし、腕や脚が少し違うけど人間に近い。これなら、サッと操作できるはずだ。


「おいおい、何かやんなら早くしてくれよ。俺は、さっさと強い奴を探しにいかないといけぇんだ。あまり時間を取らすなよ」

「10秒もかかんないよ、そら!」

「10秒で何がぁ...!?」


魔物の全魔力を一気に、俺を持ち上げている魔物の腕に集中させる。肉体への負担を全開、今までやったことなどない速度で魔力を集める。

魔物の腕がみるみるうちに膨れ上がり、慌てて俺を手放すもとき既に遅し。限界まで膨れた魔物の腕は、ボン!と大きな音を立てて弾けとんだ。辺りに肉片と血液が散乱する。よっし、ちゃんと効いてくれた!


「があああああああ!!!」


左腕を押さえて、悲鳴を上げながらのたうちまわる魔物。思った以上に効いているぞ、さらにダメ押ししておこう。


符を投げて岩槍を飛ばす。が、うずくまった魔物が腕を一振りすると、俺の目の前に黒い閃光が照らし、そのまま符ごと消し飛ばす。爆発が発生し、破片は壁で防いだものの爆風で吹き飛ぶ俺。


「ははははは、痛ぇなぁおい!腕を吹き飛ばされたのは十数年ぶりだぞおい!やってくれるじゃねぇ!とんでもねぇもん、隠し持っていたな!」


そう言いながら、吹き飛んだ左腕を振って状態を確認しつつ、魔物が立ち上がる。おいおい、全然堪えている様子がないぞ。さっきより狂喜の笑みが深くなっているだけだ...!


「何か魔力も減ってるし、妙な技を使う人間だ。殺すのが惜しくなってきたな」

「・・・平気そうだな」

「これでも、そこそこ辛いんだぜ。まあ、今までずいぶんと楽しませてもらった。そろそろお遊びもおしまい、おわりにしようや」


魔物の指先に、真っ黒い球が現れる。まるでいくつもの夜を集めて固めたような、そんなドス黒い色だ。あいつにとっちゃ大したことない魔術でも、俺を殺すのには十分すぎるだろう。


落とすか!?恐らく避けられるだろうけど、落とさなければ死ぬだけだ!もしかしたら、当たるかもしれないだろ!


だが、遊びをやめた魔物は容赦がない。片手を持ち上げるだけで、地面から黒い手がいくつも生え、俺をきつく拘束する。折れている左腕まで一緒くたにされ痛い上に、猿轡まで噛まされる。


「さすがに腕を吹き飛ばされてまで、遊んでいる余裕はないんでね。悪いが、さっさと殺させてもらう」


魔物の指先の黒球が光り、俺の顔目掛けて一筋の光線が発射される。俺の視界一杯に広がる黒い光。・・・駄目だ、どうやってもこれを切り抜ける方法が思いつかない。単に俺の実力不足、今までルウたちに戦いを任せてきたツケが回ってきたんだろう。腹を括って目を瞑る。

最後まで諦めずに戦った、出来うる手は全て打った。その上での敗北、その上での死。全く恐怖を感じないのは、この結果に自分が納得しているからか。

・・・でもまあ、後悔がないのかと聞かれれば嘘になるかな。人化したルウたちを見たかったし、死ぬならルウたちに看取られて死にたかったし。・・・ああ。やっぱりルウたちがいないと、寂しいな。


そう思った俺の頬を、温かい風が撫でた。






ふわっとした浮遊感が俺を襲う。天からのお迎えが来たのかなーと思っていたのだが・・・どうやら誰かに持たれているみたいだ。背中と膝裏だから、もしかしてお姫様抱っこ?


恐る恐る目を開くと、1人の女性が俺を覗き込んでいる。炎のようにたなびく流麗な赤髪、側頭からルビーのような角が1対生えている。鋭い目にすらっとした鼻、美しいの一言に尽きる、見る者全てを魅了してしまいそうだ。だが、そんな美貌の女性が何故か今にも泣きそうで、目一杯に涙を溜めている。


どうやら肩越しに見える翼で飛んでいるみたいだ。スーッと地面へ降りて、そこらへんに転がっていた岩に俺を寄りかからせた。左腕に触れられて、思わず顔をしかめる。


座り込んだことで、ようやく俺を抱きかかえていた彼女の姿を見ることが出来た。

赤い鱗の胸当てをつけていて、その下には真っ白なワイシャツを着ている。下に紅白のフリルスカート。そこから伸びる脚は・・・竜のものだった。


太もも半分辺りから、燦然と赤く輝く鱗が現れている。足はまさしく竜のようで、鋭利な爪と足首から出ている棘が凶悪だ。腕も似たような感じで、肘ちょい後ろ辺りから竜の腕となっている。太ももの半分は人間とおなじような皮膚なので、竜の鱗とスカートの間の肌、絶対領域もどきがまぶしいです。

恐らく魔物、あいつと同じく魔人の類だろう。俺を助けてくれる赤いメスの竜の魔物なんて、1人しか思いつかない。


「・・・ルウだよな?」

「ツチオ...」

「ずいぶんと姿が変わったな・・・そういえば、あの魔物はどうしたんだ?」

「殴って吹っ飛ばしたけど、またすぐ戻ってくると思う」

「そうか。ありがとな、ルウ」

「そ、そんな...。ツチオにこんな怪我させちゃって、私、私ぃ...」


ずっと我慢していたのか、ルウの涙が零れ落ちていく。


「従魔なのに、主をこんなに戦わせて、こんなに傷つけられて...。ツチオを守れなきゃ、私には何の意味もないのに...!」

「お、落ち着けって、ルウ。ほら」


まだ動く右手で、泣いているルウの頭を撫でてやる。真っ赤な瞳が俺を見る。


「ルウがいなきゃ、俺は死んでたんだよ。ずっと助けを待ってて、死ぬ間際でようやくルウが来てくれたんだ。感謝してもしきれない、意味ないなんて言うなよ」

「ツチオぉ...」


ルウと俺の姿が重なろうとしたその時、空からルウが吹っ飛ばしたらしい魔物が落下してくる。名残惜しそうに俺を見ていたルウだったが、さすがに無視することは出来なかったみたいだ。


「ツチオはここで待ってて、すぐに倒して戻ってくるから」

「・・・無理はするなよ」

「分かってるよ、行ってくるね」


そう言って、ルウは魔物に向かって飛んでいった。ここで待ってろとは言われたが、黙ってじっとしているのもなんだ。さっきまでは当たらないだろうから手札に入れてなかったけど、ルウがいればなんとかなるかも...。とりあえず、符を用意しておこう。






<side ルウ>

 私が目の前に来ると、そいつは狂喜に満ちた笑顔で話かくてくる。


「あいつはお前の仲間だったのか!?道理で強いはずだぜ。ちょうどあいつに飽きてたんだ、楽しませてくれよ!」


・・・こんな奴に、ツチオは傷つけられたのか?こんな奴と、ツチオは1人で戦っていたのか?


「・・・私の仲間?」

「あいつ、お前の奴隷なんだろ?あそこまで奴隷を育てるなんて、あんたも中々物好きだな!」


ツチオが私の奴隷?・・・ああ、そういうのもいいかもしれない。でも、今言うべきじゃなかった。そんなことを言われて無視を貫けるほど、私はやさしくない。やさしくなるのは、ツチオと一緒にいるときだけだ。


私は今、腸が煮えくり返るほどの怒りを感じている、1つは敵に、もう1つは私にだ。こんな変態にツチオを傷つけられたことへの怒り、こんな変態とツチオを戦わせてしまった私への怒り。どちらも激しく燃え上がり、お互いの熱で相手を高め合っていく。


「ほら、どうした!?やろうぜ!」

「・・・ああ、そうだな。やろうか」


両腕に魔力を送ると、手首から先の鱗が白熱し真っ白な光りを放つ。今にも飛び出しそうな脚を無理矢理押さえ、じっと力を溜める。


「おら、いくぜぇ!」


魔物が殴りかかってくる。左腕はツチオが身を挺して潰してくれた、攻撃は右腕一本に絞られている。ただ力に任せただけの攻撃なら、脅威に値しない。左手を沿えて、魔物の拳を払う。蹴りで追撃してくるが、そのくらいは予想済みだ。横へ動いてかわしつつ、尻尾で魔物を吹き飛ばす。


「っち、さすがだな!こいつはどうだ!」


大したダメージは与えられなかったようで、腕を一振りして黒い閃光を幾本か放ってくる。速度・貫通重視の魔術、威力もそこそこありそうだ。こちらも腕を一振りすると、私が放った熱波によって全ての閃光が掻き消える。驚いている魔物に向かって、今度はこちらから飛び出していく。


一瞬で距離を詰めて、勢いを乗せた膝蹴りを見舞う。これは脚で防がれてしまうが、それは予想済み。くるりと一回転し相手の背後に着地、脚を払って倒れこむ背中に左拳を叩き込む。またもや吹き飛ぶ魔物、少しは効いたようで背中を手で押さえている。


「・・・本当にすげぇな、お前。片腕がないとはいえ、ここまで追い込まれたのは初めてだぜ」

「最初で最後だ、お前はここで死んでもらう」

「はっ、そうはいかねぇな。一番の状態で、お前と戦いたかったぜ!」


そう言い放つと、私目掛けて大量の黒弾を飛ばし、自分は一気に後退する魔物。


「くそっ、逃がすか!」


両手を合わせて、手のひらを魔物に向ける。魔力を高めて、一気に解放する。

放たれる熱線、消し飛んでいく黒弾。地面を抉りつつ魔物に命中し、大爆発を起こす。モウモウと立ち込める爆煙が晴れた先には、右腕を丸焦げにしながらも、熱線を受け止めきった魔物が立っていた。


「はあはあ...。くっそ、バ火力な攻撃しやがって...。魔力を使い果たしちまったじゃねぇか」


そう言いながらも、障壁を消す魔物。その足取りはしっかりとしていて、私のブレスを正面から受け止めた者とは思えない。魔力は残り少くないけど、あいつを逃がすわけにはいかない。追撃するかどうか迷っていると、魔物の足元にあった岩が脚へと巻きついた。


「なっ!?」


その岩は蛇の姿をとり、続々と魔物へと巻きついていく。私のブレスで左腕も無力化され、為す術もなく拘束されていく魔物。


「ナイスだ、ルウ!こっちも準備は出来てるぞ!」


後ろからツチオが声をかけてくる。あれはツチオの符術?でも、あの魔物を倒しきれるだけのものってあったっけ...?


「ずっと前から仕込んでたけど、絶対に避けられるから使わなかった符術。とくと喰らいやがれ!」


上空から強い魔力が発せられる。見ると、4枚の符に囲まれて1枚の符が白く輝き高速で回転している。その下には、符が要所に置かれた五芒星が現れていた。星の中心の真上に、囲まれた符が鎮座している。


「破魔の星九字、墜落ちよ!」


より強く符が輝き、尾を引いて撃ち出された。五芒星の中心を通ると一気に加速、目にも止まらぬ速度で直下の魔物を撃ち抜く。

ドゴォォォン!と地震のような衝撃が走り、土ぼこりが舞い上がる。煙が晴れるとそこには、体を真っ二つに貫かれた魔物がいた。


「・・・ちっくしょ...。こんなの、聞いてねぇぞ...」


それが魔物の最後の言葉となった。黒い霧のようになって、霧散する魔物。その場には、大きな陥没だけが残された。


しばらく呆けていると、後ろでドサっという音が聞こえた。ツチオが倒れている。慌てて駆け寄って脈を確認・・・よかった、ちゃんと生きてる。魔力の使いすぎで倒れたのか。


「ううう、気持ち悪い...」

「起きてるの?」

「ん、気絶できれば痛くないのに...。ああー、わき腹とか左腕とか、色々痛いし気持ち悪い...」


そんなツチオを、私は先ほどのように持ち上げる、戦闘は・・・既に決着はついているみたいで、動ける人たちで追撃に移っている。ライムとリンはどうしてるんだろう、ツチオが死にそうだったってのに、もう...。


「あ、ルウ。戻る前に符を回収させて。蛇のと墜落」

「消耗品じゃないの?」

「あの2つは特別なの、すっごく高級な素材を使ってるんだから。どれも破れたりしなくて良かった...」


ツチオの怪我は酷いけど、命に別状はなさそうだ。・・・もう二度と、ツチオをこんな目に合わせはしない。


最初に人化するのはルウでした、ここは譲れませんね!

戦争、(比較的)安全な後衛、勇者頼みの作戦。王道っちゃ王道です。普通は主人公が助けにいくんでしょうけど・・・ヒロインが助けに来るって、いいですよね。

他の従魔たちも、ちゃんと人化していく予定です。引き続きよろしくおねがいします!


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