一体、何が起こったのか
本日2つ目です!
魔物と相対する俺。先手は譲ってくれるという言葉通り、笑いながら俺を見ている。特に構えている様子はないが、そんなものは必要もないのかもしれない。そんだけ、相手の力量は高い。魔力的にも、経験的にも。
そんな相手と戦って、時間を稼がなければいけない。ルウたちは多くの敵と戦闘中のため、俺が戦闘中と分かっていてもすぐには応援に来れないだろう。倒すことなんて考えられない、どうにか持ちこたえないと。
符を構えながら、どうやって戦うか脳内で組み立ててていく。・・・こりゃ、大技も使わなきゃいけないな。効くかどうか分からないけど。
「おい、来ないのか?俺からやんぞ」
「作戦を立ててたんだよ、そんくらい分かるだろ」
「いや、作戦なんか立てたことない。そういうのは、他の奴らの仕事だ」
他にも魔物がいるのか...。それに、今ので魔物が徒党を組んで戦っていると分かった。そんなに頭がいいのなら、勇者が襲ってきたら撤退するかも。一安心かな?
「そんじゃ」
両手一杯に持った符を投げる。横へ広がって投げられた符は、途中で燃え上がり火蜂となって全方向から魔物へと襲い掛かる。だが、あいつはかわそうとも防御をしようともしない。小さな爆発がいくつも巻き起こり、それらが合わさって大きな爆発となり相手を覆うが、こんなんで倒せるなんて露ほどにも思っちゃいない。すぐに次の手に移る。
「ボンビー?何でこの大陸にいるんだ?」
爆炎の中から、無傷の魔物が出てくる。既に投げられていた符は、悪魔の足元に着地。真下から土柱が魔物の顔を狙う。
だが、横からの魔物が殴りつけると、アッサリへし折られてしまう。一応、硬化魔術はかかけといたんだけど、全く効果がないようだ。
休むことなく、符を投げ続ける。柱や槍が魔物目掛けて飛び出ていくが、どれも魔物に全て砕かれている。そうしているうちに、魔物の周りには幾本もの柱が乱立。途中で折れているものもばかりだけどね。
「おいおい、こんなん効かねぇぞ。そっちが来ないんなら、こっちからだ!」
地面を蹴り飛び出す魔物。かなりの速さで突っ込んでくるが、何とか目で追うことは出来る。近づかれたら勝ち目はない、とりあえす離れないと!
自分の足元に符を投げ、柱を魔物の反対側へと出す。その上に乗り俺も移動、魔物と距離を取った。
「チョロチョロ面倒くさい!」
追撃しようと力を溜める魔物、その頭上には俺が乗った柱がある。そこへ符を投げると、上から細めの槍が魔物へと降りかかる。
「しゃらくせえ!」
そのまま腕をクロスさせ、突っ込んでくる魔物。上から降りかかる槍も、全部魔物によって砕かれている。くっそ、そう上手くはいかないか!
符で壁を重ね、俺の前に展開。特に俺の前にはしっかりと張っておく。
魔物が壁に衝突すると、バキバキバキィ!と見る見るうちに砕かれていき、すぐに俺の目の前へと至る。符をばら撒き上に投げて、横っ飛びに回避。チラッと見えた魔物は、腕を振るうところで...。
その瞬間、俺のわき腹に強烈な痛みが走る。ゴロゴロと転がっていき、今度はちゃんと魔物と距離を取る。
「っち、掠っただけか...」
左わき腹を触ってみると、表面の皮が肉ごと削げていた。さっきはかなり痛かったのだが、今はぼんやりと痛みがあるくらいだ。こんだけで済んで良かったと考えるべきか...。
今、見ないほうがいいだろう。直視しないようにしながら、符を取り出す。まだまだこれから、手札は残っている。
「いい反応すんじゃねぇか。相手がちゃんと逃げてくれねぇと、狩りは面白くねぇ」
「狩られる側の立場になって考えろよ、迷惑だろうが。殺すならサクッと殺せ」
「そんなら、抵抗しないで殺されてくれるか?」
「ヤダね。殺されてたまるか」
柱じゃ壊されるか避けられるかだ。別の符術に変えよう。
魔物が動き出す前に、俺は符を投擲。今度は大分前に着地して、柱が飛び出していく。
「効かねぇって分かんねぇのか!?」
サッと横に動いて、柱を殴ろうとする。が、ぐにゃりと柱が曲がり魔物の腕をかわす。そして、柱の先端が蛇の頭のように変形し、魔物の胴へと噛み付いた。
「っち!」
蛇の頭を砕く魔物。一応ダメージは通ったみたいで、肌から少し出血している。どうやら、魔物の血も赤いらしい。
あの蛇の頭を砕いても無駄、本体である符が無事で地面と接触しているなら、いくらでも再生できる。
さらに数を増やそう。追加で地面に符を投げ、合計8体の蛇を出現させた。
地面を隆起させて柱を生成させる符術の応用だ。形を蛇に変え自律行動できるようにするため、特製の符でなければ使えない符術だから、おいそれと使える符じゃないのだが・・・そんなことも言ってられない。自律行動が出来るといっても、そこまで複雑な行動が出来るわけじゃないけどね。出せる数は最大8体、どうしてもイメージに引っ張られちてしまう。そう、イメージはヤマタノオロチだ。完全にイメージ負けしているが、そこはしょうがない。
8体の岩蛇が魔物へと襲い掛かる。周囲から囲むように、タイミングを合わせて避ける隙間を与えない。
迫り来る蛇を壊していく魔物。だが、俺が長時間かけて書き上げた蛇は、そんくらいじゃ引きはしない。壊された蛇ごと複数の蛇たちが締め上げ、その中にいる魔物に噛みついていく。ドゴゴゴゴ!!!と顔をとぐろの中へ突っ込む。その結果、自分の体の中に頭を突っ込んでいる蛇たちという、ちょっと変わったオブジェが出来た。これで倒せた・・・わけないか。でも、蛇たちのおかげで仕込みの時間は作れた。これで無理なら・・・もうどうしようもないな。皆はまだか・・・くそ、何でこんなに魔獣が多いんだよ!あの集団詠唱魔術で、魔獣たちがこっちに逃げ込んできてるのか!?
「ガアアア!!!」
蛇の体が爆発し砕け散る。呪符は無事だけど、再生には時間がかかるな...。
魔物も無傷ではない、体は噛み傷だらけ。多分、見えてないけど体内も多少は怪我している。
「いいぞ、今の蛇は中々だった!もっとあるんだろ、見せてくれよ!」
魔物の目はギラギラと輝き、その顔には狂喜の笑顔が浮かんでいる。戦闘狂かよ・・・やめてほしいな。
「ほら、どうした!こっちからいくぞ!」
「させねぇよ!」
再生しかけの蛇に無理矢理動いてもらい、魔物を拘束。僅かに魔物の動きが止まる。よし、ここで!
「閉じろ、岩壁!」
魔物の足元には、わき腹を犠牲に置いてきた呪符が散乱している。あれほど蛇が暴れまわったのにも関わらず、まったく動いていない。それは、あの状態で符術の発動準備が出来ているからだ。
俺の掛け声とともに、地面から巨大な岩塊がいくつもせり上がり、魔物を岩の中に閉じ込める。動ける蛇たちに、魔物を閉じ込めている岩に巻きついてもらい、その上からいくつもの呪符を貼り付けていく。
俺が今のところ出来る、最大の足止め技。巨大な岩壁で敵を閉じ込め、呪符で封印を施す。今回は蛇にも協力してもらったけど。ルウが壊すのに、10分以上かかった代物だ。その間に、何とか来てほしいんだけど...。この際ルウたちじゃなくてもいい、先生たちなら大丈夫だろうし。だけど、ルウたちと同じく敵が多くてさすがに来れないかな...。くそ、このままじゃ確実殺られる。残っている手札は・・・切り札を残しているけど、これは正直不可能だ。俺が肉弾戦を出来れば...。
手札はない、魔力も結構消費しちゃってるし、わき腹の痛みと出血が酷い。逃げるか?・・・でも、きっと追いかけてくるだろうな。ここで待ってても仕方ないし、こっちからルウたちのところに行って、そこで迎え撃つことにするか。こいつと戦うよりは、魔獣の中に突っ込むほうが幾分マシだ。そうと決まれば、さっさと蛇の呪符を回収、応急処置をしてから...。
そう考えながら蛇たちの呪符に近づこうとしたその時、封印した岩塊の中からドゴン!という音が聞こえてきた。・・・そう簡単に壊されるものじゃないとは思うけど、早く去ったほうがいい。蛇の呪符は後回しだ。回収しなければいけないとはいえ、これだけ目立っているんだから、どこにあるか分からないってことにはならないだろうし。
再び聞こえてくるドゴン!という、岩を殴るかのような音。まだ中にいる間に、さっさとこの場を立ち去ろう。
岩塊から目を離さないように、ジリジリと後ずさりしていく。走り出すのは十分に離れてから、何が起こるか分かったもんじゃない。
岩塊から10mほど離れたところで、岩塊の隙間から黒い光が漏れ出てくる。符がビリビリと振動し、突然ボウッ!と燃え上がる。
次の瞬間、内側から岩塊が爆裂。天に黒い光が立ち上り、その中から魔物がゆっくりとした足取りで出てきた。
「ったく、無駄に丈夫なもん作りやがって。結構な魔力を使っちまったよ」
「くそ・・・マジな化け物だな」
「おいおい、酷え言い草だな。そら、行くぜ!」
俺に向かって突っ込んでくる魔物。慌てて何重にも壁を作るが、全て破られ胸を殴り飛ばされる。
「ん、何か手ごたえが硬いな・・・殺せるくらいの威力だったのに」
「げはっごほっごほっ!はあはあ・・・危ねぇ」
懐に符をいくつか入れてて良かった・・・緩衝材になってくれたのか。
骨折してるかは分からないけど、かなり痛いところを見ると何かしらの怪我を負っているのは間違いない。
今吹き飛んだおかげで、魔物と距離を取れた。けど、今の俺じゃ走れないし、走って逃げたとしてもすぐに追いつかれる。どうする、一応最後の手段は残してあるけど...。今使ったとしても避けられると思う。絶対に生き残ると決めた以上、こんなところで諦めるわけにはいかないんだが。このままじゃ、確実に死ぬ。さあどうする、避けられるの覚悟で使っちまうか?
「おら、ボーとしてる暇あんのか!?」
「っ!」
やっば、戦闘中に考え事とかなにやってんだ、俺!?
いつの間にか、魔物は俺の目の前にまで接近しており、既に脚を引き蹴りの構え。このままじゃ・・・腹を貫かれる。相手の狙いを逸らすことは出来ない、自分が動かないと...!
自分の勘を信じ、思いっきり右に飛ぶ。耳元を矢が通り過ぎたような音が聞こえ、左腕が上に弾かれる。それと同時に走る激痛、蹴りが命中したのか...!?
「うっぐううう...」
「・・・いや、お前本当にすごいよ。攻撃を避けることに関しちゃ、中々の腕前だ。まあ、そんだけじゃ俺を倒せないぜ」
「っつう・・・だ、だろうな。そんくらい、分かってるよ」
「ふーん...」
俺の首を掴み、片手で持ち上げる魔物。くっそ、どうする・・・この距離で使ったら、俺も巻き込まれる。切り札を切れる距離にはあるけれど、多分使ったらすぐにバレるだろう。その瞬間、俺は殺される。どのくらいでバレるか分からないし、どの程度の効果があるのかも分からない。そんな不確かなものに、自分の命を賭けたくはない。でも・・・他に切れる手札もないんだ。やらなきゃ殺られる、そんならやるしかない。
そうして、1話前の冒頭に戻る。
ハッと意識が覚醒する。気道を塞がれていた肺が酸素を求め、細かく呼吸を繰り返す。今のが走馬灯ってやつか?ずいぶんと、最近の記憶だけなんだな...。
「・・・おい、さっきから待ってりゃあグッタリしやがってよぉ...。もしかして、もう何も出来ないんじゃねぇだろうな?」
「はあはあはあ...」
「っち、興が冷めた。もういい。お前、死んじゃえよ」
さらに首に力を込めようとする魔物。そいつの腕を、何とか右手を動かして掴む。
痛みは感じる。だけど、戦闘中のためかずいぶんと鈍い。左腕は動かないけど、脚は動かすことが出来る。骨や内臓も動くだけなら、まだまだ問題ない範囲だ。
俺の切り札。効くかどうか分からないけど、やるしかない。ルウたちがもうすぐ来てくれるはずだ・・・それまで、絶対に耐え切らないと...!
ツチオもそこそこ強いですね。まあ、彼は護身を重視した戦い方なので、今回は相性が悪いです。強敵は従魔担当ですし。