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賊との戦い

爆風で丸焦げになった数人の賊が、洞窟から吹き飛んでくる。その後から、全身が炎に包まれた人間が、おぼつかない足取りで出てきて、入り口で倒れた。勇者たちは・・・顔色が真っ白いが、しっかりと相手を見据えている。ここまでは大丈夫そう、賊たちが出てくるぞ。


賊たちの死体を乗り越え、賊たちが洞窟から飛び出し、正面で待っていた騎士たちと衝突。続々と賊たちが出てきて、騎士たちを囲もうとしている。そこにルウが突撃、囲いの一部を殴り崩し、多くの賊と相対する。その影から、ライムが賊の中へと飛び込んで、爪を振り回して暴れまわっている。リンは、走り回りつつ魔術を乱射、時折賊を蹴り殺している。普段は魔術での攻撃を主体としているけど、物理攻撃もそこそこ出来るんだよなー...。リンの能力を活かしきれてない、テイマーとしてそれはどうなんだろうな...。


「先生、いっきますよー!」

「遅れないでくださいね、前は私が務めます!」


昨日一昨日の夜に、先生たちと話しながらひたすら呪符を書き続けたので、残量を気にする必要はない。俺の剣の腕じゃ先生についていけないので、呪符での支援に徹することにする。もっと種類があれば、支援の幅も広がるんだが...。要研究だな。今のままじゃ、ルウたちの足まで引っ張ってしまうだろうし。


先生が剣を抜き、近くにいた賊が武器を持っている手を斬り飛ばし、返す刀で喉元を切り裂く。数人の賊が迫るが、俺の投げた符が体に直撃。メキメキメキッと嫌な音を立てながら、吹き飛ばされる。


金髪たちは騎士と協力し、上手く立ち回っている。賊を斬ったり殴ったりする度に、涙を流しながら大声を上げ、襲い掛かってくる賊と切り結んでいる。

茶髪も必死に詠唱を行い、魔術をガンガン放っている。金髪たちが細かい傷を負うけれど、黒髪女が片っ端からそれを癒す。あっちは問題なさそうだ、目の前のことに集中しよう。


どうやら、賊たちは俺と先生が最弱だと判断したみたいで、大勢で俺たちを囲もうとする。ルウたちが助太刀しようと駆け寄るが、囲みに入っていない賊たちがそれを阻む。


「ガルムは出せないんですか?」

「ここまで寄られてしまうと無理です...。そんなに広くないので、機動力も潰されてしまいますし...」

「なら、俺達だけでやるしかないっすね。まずは、正面を切り開きましょう!」


周囲に呪符をばら撒き、正面以外を囲むように壁を発生させる。さらに、先生に風脚をかけ速度を強化。賊たちが壁を破ろうと呪符を殴りつづけるが、どんどん符を継ぎ足していき壁の補強し続ける。

唯一壁がないところから賊たちが入ってくるが、それを先生が捌く、捌く、捌く。強化された速度を活かし、素早く動き回り敵に狙いをつけさせない。

そんな攻防が数分続いたのだろうか、俺にとっては数十分にも感じられたが。足止めしていた賊たちを倒し、ルウたちが横から突入してきた。リンが突進で集団に穴を開け、その中にルウが突撃。ライムは、壁を壊そうとする賊たちを背後から屠っていた。


ルウたちの襲来で賊たちは総崩れ、散り散りになって逃げ出そうとするが、外には勇者と騎士たちが待ち受けている。既に人数は10人に満たないので、ここからは捕縛することにする。破れかぶれで突撃した賊たちが、盾で殴られタマを蹴られ、地面へと叩き伏せられていく。あっという間に、賊たちは縄でグルグル巻きにされて、地面へと転がされた。


「ふう、無事終わりましたね。皆さん、怪我はないですか?」

「我々は大丈夫です。ですが、勇者様方が...」


中規模の盗賊団を大きな怪我人なく制圧できたのに、勇者たちの顔は晴れない。武器を取り落とし、病的なまでに白い顔で自分の手を見ながら震えている。茶髪はまたもや嘔吐し、黒髪男は頭を抱えて蹲っている。ふむ・・・これなら大丈夫かな。


「・・・勇者様方、気分はいかがですか?」

「良いわけないじゃないですか...。考えるまでもないでしょう...!?」


黒髪女が気丈にも俺を睨む。芯の強い娘だな・・・まあ、回復役だから直接人を殺しているわけじゃないか...。


「そうですね。考えるまでもなく、嫌な気持ちでしょう。魔獣は問題なく殺せているみたいですが...」

「魔獣だって、好きで殺しているわけじゃないんすよ!?今でも、骨が砕ける感触が手に残ってるんすよ!?」

「・・・これなら合格かな」

「「「「・・・え?」」」」


ふう、想像通り事が進んでよかった。狙い通り、殺すことへの嫌悪感をより強く植えつけられたし。ここでミスったら、勇者が狂人になるかもしれなかったからな...。


「え、え?どういうことなんですか?」

「合格って、なんなんすか!?」

「ちゃんと説明してよ!」

「・・・口に出てましたか...。ちょ、ちょっと待ってください!今、先生たちと相談してきますから!」


言ってもいいのかな?秘密にしろとは言われてないけど、お国の事情も関わってくるしな...。


ひとまず勇者たちから離れ、先生たちに意見を仰ぐ。


「どうしましょう?言っちゃいます?」

「国の事情に、勇者様を巻き込むわけにはいかんだろう」

「ですけど、このまま秘密にしておいたら、国への不信感だけが残ります。誰かが合格なんて言わなければ...」

「す、すいません。俺としては、絶対に勇者様方に伝えておきたかったことなので...」

「・・・別に構わないのではないか?勇者様方の成長に必要なんだろう?」

「そうですね。成長と言うより、これからのためにって感じですけど」

「それなら、訓練の過程で言わなければならなかったと説明もつく。禁止されているわけでもないし、言ってもいいだろう」

「それでは、お言葉に甘えて」


勇者たちの元に戻る。これを伝えれば、訓練は終了したも同然だ。


「説明してもらえますか?」

「ええ。勇者様、私はあなた方に生き物を殺すことへの罪悪・嫌悪感を、あえて与えるためここへ足を運んだんです。もっと簡単に言えば、殺しに慣れて欲しくないといった感じでしょうか?」

「え?でも、それじゃあ魔物を殺せないって...」

「いくら魔物が人型でも、本質は人間と大きく異なります。人間が殺せないからって、魔物が殺せないと決まったわけではありません」

「今までと、言ってる事が全く違うじゃないですか!」

「はい、先生にもそうしてもらうよう頼みました。魔獣や賊と戦ってもらったのも、先ほど言ったとおり、殺しに嫌悪感を抱いてもらうためです」

「どうしてまた、そんな面倒なことを。こんなことしなくても...」

「自分たちは、殺しを楽しんだりしないですか?」

「え、ええ」


まあ、普通はそうだよな。でも、勇者たちは普通じゃない。


「この訓練をしないで戦場に向かって、勇者様は戦争に耐えられたでしょうか?」

「それは...」


全員、一様に黙り込んでしまう。戦争は人を変える、人間は過酷な環境に適応しようとするからな。


「私の見立てでは、俺と模擬戦をする以前の状態で戦争に参加した勇者様方は、十中八九精神を壊します。廃人となって殺戮機械となるか、殺し合いを楽しむようになるか...。どんなふうになるかは、さっぱりですけどね」

「・・・」

「俺が勇者様方に伝えたいことは、1つだけ。絶対に、殺しを楽しんではいけません。もし楽しんだなら、その瞬間にあなたたちは魔物と同じです。殺しに慣れてはいけません、罪悪感や嫌悪感を抱いているくらいがちょうどいいんです」

「・・・」

「勇者様が向かう戦場は、多くの生命が失われる場所です。私たちは屍を踏み越え、前に進まねばなりません。これからさらに過酷な戦いが待っているでしょうが、先に亡くなった方々のためにも、そのままの勇者様でいてください」

「・・・肝に銘じておきます」

「感謝します。数々のご無礼、誠に申し訳ありません」

「いえ、ミカドさんのおかげで大切なことに気が付きました。こちらこそ、ありがとうございます」

「俺は、絶対に戦争には慣れないっすよ!」

「というか、慣れたくても慣れないわよ」

「そうですね。ミカドさん、本当にありがとうございます」


勇者たちが、口々にお礼を言ってくる。ふう、これでとりあえずは大丈夫だろう。釘は刺した、後は本人次第だな。


「お疲れでしょうし、宿舎に戻って少し休んでから帰りましょう」


宿舎に戻る勇者たちを騎士が追うのを見ながら、俺と先生は少し後ろからついていく。


「今回はお疲れ様でした、ほとんどあなたに任せっぱなしでしたね」

「歳が近いほうが、分かるものもありますから。ここを見つけたのは、先生じゃないですか」

「・・・私はまだ20代ですよ」

「俺はまだ10代です」

「はあ、まったく...。それにしても、あなたの口から殺しに慣れるなと言う言葉が出るとは、驚きですね。すっかり慣れきってるでしょうに」

「経験者は語るんです。殺しに慣れると、大切なものが失われますから」


まあ、元から罪悪感はないんだけど。それを抜いても、日本にいた時の俺と今の俺は違う気がする。


「・・・あなたはそれでいいんですか?あなたにとっても、大切なものなんでしょう」

「・・・まあ、今の俺とって大切なものといえば、ルウたちですから。皆のためなら、こんくらいの犠牲は安いもんですよ」

「そうですか...。殺しを、楽しんではいませんね?」

「もちろんです、戦わないことに越したことはありませんし」


魔獣や賊を殺したところで、後には素材しか残らないしな。


「もう教えることはありませんし、明日には勇者様は帰るでしょうね」

「そうですねー。そういや、先生模擬戦してないじゃないですか!」

「そういえば、そうでしたね。あなたに全部取られてしまいました」

「はあー...。最初から、先生がやっときゃよかったんじゃないんですか?別に俺、いなくても良かったんじゃ...」

「まあ、結果良ければ全て良しです。おいてかれてしまいますよ、急ぎましょう」

「あ、待ってくださいよー!」


何にせよ、これで勇者たちとの関係も終了だろう。見バレもしなかったし、実戦で呪符を使うことも出来た。他にも色々考えてるし、帰ったら忙しくなりそうだ。






 魔力を回復させた黒髪女の転送魔術で学院へと戻り、すぐに解散となった。これで訓練は終了なので、明日の朝にでも王都へと戻るそうだ。そこで騎士相手に技量を磨いてから、北の要塞へと向かうのだと。是非とも頑張っていただきたい。


ルウたちを魔獣舎に送ってから寮に戻ると、リュカにどこに行ってたのか問い詰められた。ここ数日授業に出ていなかったから、心配してくれてたのだろう。さすがに本当のことは言えないので、授業をサボって遠出していたと誤魔化した。それが大変ご立腹らしく、トリスたちと一緒に夕飯を食べているときも、全然口を聞いてくれなかった。


『そーゆーわけで、勇者たちと数日一緒に過ごしたわけだよ』

『へー、勇者ねー...』


その夜、リュカが寝たのを確認してから精霊さんと念話で話す。ここ1週間ほど話していなかったので、勇者との出来事を一気に話す形となった。


『しっかし、殺しに慣れるなとは、口だけは一丁前だねー』

『実力も付いてきてるよ』

『ツチオ自身はそんなに強くないでしょ』

『・・・まあ、そうだが』


それなー...。呪符を書いたり使ったりするのに、特にスキルは影響しないから、そればっかりは魔力量が問題になってくるんだよな。符やインクには、自分の魔力を込めるんだし。かなり使っているから結構増えてるけど、まだまだ人並みといったところだ。強いイメージをもって、色々工夫してみないと。


『あーあ、いいなー。私もそっちに行って、色々見てみたいのに...』

『なら、来ればいいじゃない』

『簡単に言うけど、すごく難しいことなんだからね。色々やってみてるから、そのうち結果が出ると思うけど...』

『へー、島を出れるのか?本体はあの大樹なのに、どうやって?』

『それを今挑戦してるのよ!絶対あんたんとこに行ってやるから、首を長くして待ってなさい!』

『え、それは無理だわ、物理的に』

『比喩に決まってんでしょ、こんの馬鹿ツチオ!』


そう言ってぶっち切られる念話。あー、精霊さんをからかうのは楽しいわ。うっし、元気出てきた。明日から、呪符の作成頑張ろう!


「ここが変だよ、勇者召喚」その3 簡単に人を殺す


うっわー、これもう絶対洗脳されてるわー(棒)

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